県立マンハッタン高校、日本のほぼ中央に位置し日本海側に面するその高校は古くから日本の経済の中心と、ではなく日本の田舎にあるひとつの都市に過ぎない。そんな県立マンハッタン高校生徒会の話である。
「おや? 副会長珍しいね。いつも重役出勤してくるキミがこんな時間に出勤とは、漸くキミにも副会長の自覚が湧いて来たのかい?」
俺が勢いよくドアを開けると、いつもの調子でそいつはお菓子をほう張りながら文庫本を読んでいた。山村智代、恥ずかしながら俺たちの代の生徒会長である。眉の所にそろえた前髪に、凛々しい眼光、少し色白い肌を持ち、髪は後ろの方で縛られているいわゆるポニーテールと言うやつである。
その容姿と若干芝居がかった言動に少しだけ近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、俺はこの女の正体を知っている。そう、変人生徒会長だった。
「会長!! どうしたもこうしたもないぞ!! これは一体どういうことだ!!」
俺は一枚の紙を取りだした。生徒会新聞と呼ばれる彼女が生徒会長になってから分量が10倍程度に増えた季節の行事や活動をまとめたものとなっているが、俺が問題としているのはそこではない。実録、公園の怪奇現象!! 発光する謎の円盤!! 正しい催眠術の掛け方などのB級ゴシップ記事が大量に敷き詰められており、ほとんどそれ系のオカルト情報誌と化している件についてである。
「やだなぁ、生徒会機関紙なんて誰も読まないから、まずは読んでもらうハードルを下げるためにまずはボクの興味があるような事を載せているに過ぎないよ。ちゃんと顧問の村下先生には許可も取っている」
そう、許可は取っている。俺も副会長なんてものを引き受ける前は生徒会新聞なんて見た経験すらないので、彼女の話も一理ある。一理あるが、許可取った時は1コーナーだったはずだよな。今や生徒会新聞そのものを埋め尽くす分量になっているが!! 俺がそう詰め寄ると、
「キミは軒先を貸して母屋を取られると言うことわざを知っているかい? 初めから機関誌を埋め尽くすような分量なら許可が取れるわけがないじゃないか。最初は少量から徐々に数を増やしていき、最終的には機関誌を乗っ取る。そのための作戦だったのさ」
と、悪びれもなく故意であることを白状した。いや、お前の言っていることは理解できる。いや、別に許したわけではないが、そもそもその許可とやら取ったのは先月の事だよな!! 機関誌乗っ取り計画の進行度が早いんだよ!!
「いや、もう1か月も経っているんだよ。昭和の仮面ライ〇ーで仮面ライ〇ー不在だったらもう4回ほど人類はショッ〇ーに支配されている期間だ。むしろ、遅すぎるくらいだ」
「人類とショッ〇―を比べるんじゃねぇぞ!! それにさらっと俺の心を読んで話をつづけるのを辞めろ!!」
そう、彼女の才能の一つに、類まれなる読心術があり、俺が思っていることを言葉に出す前に感じ取り、それを話した呈で話をつづけるので、心を読んだ本人以外には異次元の会話が展開される。因みに、今年入って来た新入生の中で同じような事をする人間がおり、彼も全く同じような事をするので、会話が飛びまくる異次元の会話が繰り広げられる地獄絵図が発生したが、それは本題ではないので置いておくとしよう。
「おや、失礼した。それで何かな、キミは機関誌に書いてある正しい催眠術の知識に興味をもって、その方法を伝授して欲しい。と言う認識でいいのかな?」
「どうとったら、そんな風な受け取り方するんだ!!」
「おや? 君ぐらいの年頃の男子だったら、意中の女の子に告白を成功させるために、もしくは栄養が乳にだけ行っている頭の悪そうなメス牛のような女の体をノーリスクで抱くために催眠術で好き勝手する妄想に耽った事があると思っていたのか、違うのかい?」
彼女の言っている事は実は正しかった。と言うのも、生徒会新聞が謎のオカルト誌になってしまった事を俺が知った理由が、友人に「おい、この記事本当なのか?」と生徒会新聞を持って来られた事が始まりだったからだ。
正しい催眠術の掛け方と言う響きはその友人のリビドーをかなり刺激するものであったし、それを変人と名高い彼女が言うのだ、彼は一縷の望みをかけて俺に相談してきたのだった。彼には昔からの悪友の幼馴染の少女がおり、成績の関係上高校が分かれてしまったが、家が隣同士で毎日顔を合わすので、ずるずると好意を隠しながら過ごしていた。
が、高校最終学年に入り彼女はどうやらこのマンハッタン市を出て、都会の大学に進学するらしい。その前に彼の恋心に一区切りつけたいと考えていたのだが、彼女からはただの幼馴染としか思われていない可能性がある。少なくとも彼はそう考えていた。
そこに飛びこんで来た悪魔のささやきである。変人と名高い生徒会長ならもしや本当に正しい催眠術とやらを教えてくれるかもしれない。催眠術で彼女の心を捻じ曲げてでも自分の告白を成功させたい。彼の情熱をこの記事は間接的に歪ませてしまっていたのである。
後、クラスメートの一番おっぱい大きい山田さんのおっぱいも揉んでみたいと打ち明けられ、半分切れそうになった。
「なるほど、キミ自身ではなく、キミの友人の話かい? しかし、山田君は止めておきたまえ、彼女裏で体育教師の藤田と裏で付き合っており、そんな事をすれば嫉妬に狂った彼にどんな目にあわされるか分かったものではないからね」
「だから!! 話してもいない事を前提で話するのはやめろって言っているだろう!!」
何やら爆弾発言も飛び出していた気がするが、気にしない事にしよう。
「なんだ、そうか興味がないのか。そうかそうか」
「会長、会長の発言で夢を見て苦しんでいる友人がいるんです。お前の催眠術なんてものはテレビの中とエッチなビデオの中にしかないとズバッと言ってもらってくれませんかね。そうすれば奴もやばい妄想から覚めます」
俺がそう彼女に頼み込むと、そいつはいきなり呼んでいた文庫本を閉じ、こちらに向き直った。俺にとって当たり前の事だったので、特出して言いはしなかったが、先ほどまでの彼女はずっと文庫本を読んでいたのだった。
「クックック、青いね。尻が青いぞ!! 意中の人間を思い通りに出来る催眠術が存在しないとなぜ言い切れる。キミの感性で、キミの常識で信じられないからと言ってそれがないと断言する事はおろかな事だよ。ならば教えよう、催眠術の方法を」
そう言って、彼女は催眠術の掛け方を話し始めた。まずは脳を切開して前頭葉の一部を切り取ります。
「待て待て待て待て」
「なんだい? まだ数秒しか話していないが、もしやキミも私のように読心術に目覚めたのかい? キミもボクのステージに上がってくるとは、ボクの予想を超えたね。副会長」
「俺は催眠術のやり方を聞くとは言ったが、人間を廃人にする方法を聞いたわけじゃないぞ!!」
「いや、人の人格をねじまげて催眠術を成功されるには、脳改造手術でもする必要がある。そう、キミが告白したい彼女をショッ〇ー怪人にしてでもキミの告白を成功させたいと思うのならば、わたしの所に来なさい。そうでないなら、キミには試していない方法があるだろう? キミの友人にはそう伝えておいてくれ」
会長はそう言ってキミには話すことは話したとばかりに文庫本を開き、窓の方を向いてしまった。なぜか彼女は俺に対しては一人称をボクと話し、他の人間には、まぁ別にすべての人間と言えるほど彼女の交友関係を知っているわけではないが、とにかく俺の知っている他の人間には私と言う一人称を使う。
後日談ではあるが、俺に相談してきた友人の告白は成功した。やっぱり頼れるのは自分の気持ちだけだなと、ウキウキ顔で話すそいつの顔をぶん殴ってやりたくなる衝動にかられたが、そこで俺はある事に気づいた。
「生徒会新聞の件、何も解決してねぇ!!!」