幼馴染たちといつものほのぼのとした登校も学校に着いたことで終わり、登校中に感じていた眠気も完全に無くなっていた。だからと言って何か特別なことがあるのか、というわけでもないから普通に教室に行こうと俺と正樹が校舎に入ろうとするとウェンディとテューディの2人に止められる。
「ちょっと2人とも、どこに行くの?」
「今からグラウンドだろう」
ウェンディの少し慌てたような言い方とテューディの少し呆れたような言い方、双子の姉妹なのにどこでこんなに差が出てしまったのだろうか。なんて思いながら2人の言葉に首をひねる。
「あれ、なんかあったか?」
「今日クラス分けの発表でしょ。今日グラウンドにクラス表が掲示されるって先週先生が言ってたの忘れたの?」
ウェンディの言葉を聞き、そういやそうだったと思い出した。先週の金曜日が登校日であると同時に、新入生の入学式であり在校生は去年度のクラスに登校することになっていた。そこで今日が学校全体のクラス分けの発表であり、そのクラス表は校庭に張り出されていると説明されたことを思い出し、同時に少し距離のあるグラウンドまで足を運ばないといけないのかと思うと若干テンションが落ちる。
「今からグラウンドか……。ダリィな」
「プリント配布しないの時代錯誤だよな」
なんで校庭に張り出してんの?と思うかもしれないが、俺の学校は各学年に20クラスあるマンモス校であることとそれに伴い生徒の数もバカにならないということもあって労力と紙代と印刷代がとんでもないことになる。それならと大きな紙を数枚印刷して校庭に張り出して置けば諸々の負担も小さくなる、というのが学校の言い分のようだ。
いや、公立なんだから消耗品費と印刷費ぐらい予算取れるだろ。プリントして渡せよ。とは思うが一生徒である俺がそう言ったところで変わることもない。しぶしぶ受け入れるしかないだろう。
始業のチャイムまでまだ時間はあるが、のんびりするには時間がない。そんな微妙な時間だったから少し急ぎ目に3人と一緒に校庭に向かった。校庭には大きな看板が立てられていてそこにクラス表が張り出されている。そこに向かおうとしたが、それなりにいい時間に登校したからかクラス表の前は生徒でごった返していた。
「うわぁ。わかっていたけど、やっぱりすごい人ね」
いくつか分けられているとはいえ、かなりの人数を誇るわが校の生徒が一堂に集まるとどうなるのかを目の当たりにしてウェンディが軽く驚く。逆にテューディはこの中をかき分けていかないといけないのかとうんざりとした表情を浮かべていた。
「正樹、行くか」
「この人ごみの中行くのかよ……」
俺も正樹もテューディと同じ感想なのだが、さすがにこの中をウェンディとテューディの2人を連れていくわけにもいかない。しぶしぶではあるが俺と正樹は荷物を2人に渡してこの人ごみの中をかき分けてクラス表が見える位置まで移動する。途中足を踏まれたり誰かの肘がみぞおちに入ったりと艱難辛苦あったが、何とかクラスを確認できる場所まで移動できた。
「うぉぉ……ギッチギチの満員電車を思い出すな……」
人ごみにもまれてこけそうになるが、何とか名前が読み取れる位置まで移動できた俺は端末で写真を撮る。何枚か写真を撮った後、端末にちゃんと取れているか確認せず、正樹を連れて2人のもとに戻る。
「2人共お疲れ様。大丈夫だった?」
「いや、さすがにキチィわ」
ウェンディが人ごみにもまれて崩れた正樹の制服を正す。この学校の制服はブレザーなのでネクタイとかが崩れると正すのは少し手間なのだ。正樹は大丈夫だと言ってウェンディを押しのけようとするがその間にウェンディは手早く直していた。多分待っていればウェンディはこっちにも来てくれると思うんだけど、あんな新婚さんみたいなことやられてもこっぱずかしいだけなので正樹を犠牲にして自分の身なりは自分で整える。
俺と正樹の身なりが整ったのを見てたテューディは黙ってはいたが視線だけでクラス表を撮った端末を見せろと言っていた。別に怒っているわけでも急かしているわけでもないのだが、表情を表に出さずに吊り上がった目で見てくるから怒っているようにも見えるそれは、分かっている俺でも地味に怖い。その視線を早めに外したかった俺は正樹とウェンディを呼んで撮ったクラス表を確認する。人ごみにもまれながら撮ったせいかブレがあったが、読み取れないほどじゃなかった。
「あったか?」
「ん~。まだ見つけ……お、ウェンディとテューディ発見。ウェンディとテューディは一緒だな」
「あら、本当。正樹も一緒ね。今年もみんな一緒かしら」
「……いや、シュウイチの名前がないな」
正樹とウェンディ、テューディは一緒だったが俺だけ別のクラスだった。今までもこの3人とは別のクラスだったことはあるから特に強く思うことはないが、3人が一緒のクラスで俺だけ別のクラスというのは何気に初めてだった。1年生の時が偶然3人と同じクラスだったこともあって地味に寂しさを覚える。
「んだよ。今回修一は別クラスかよ」
「とか言って、教科書借りれるラッキー、とか思ってんじゃねぇか?」
「んなわけねぇだろ!」
正樹をおちょくりながらも3人とクラスが分かれたことを惜しみながら校舎に入り、2年生の教室がある階層に上がる。今日は学校が昼までで授業がない日なこともあって昼になったらまた集まろうかと約束をし、俺のクラスの教室について3人と別れた。
閉まっていた教室の扉を開けて中に入ると、もうそれなりの時間だったこともあってかそれなりの人数が教室の中にいた。自分の席に座っている生徒もいるが、友達と同じクラスだったのか1つの机に複数人がたむろしているところもあった。せめて正樹が一緒だったらなぁ、と思いながら黒板に張り出されている席を確認し、自分の席に向かう。
自分の席に座り、改めて教室の中を見回す。赤、青、黄、緑等とカラフルな色合いの頭が疎らに動いている。意識を取り戻した当初はこのカラフルさに戸惑っていたが、今ではこれぐらいは慣れたもんだ。時間が経つにつれて人が多くなり、教室内はカラフル行き交うようになった。人の多さをみるにもうすぐ始業開始のチャイムがなるかなぁと分かるぐらいだ。あとは先生が来るぐらいかなぁ、と思っていると、廊下から複数人の慌ただしい足音が聞こえた。改めて時計を見ると予鈴が鳴るかなぁと思うぐらいの時間だった。どこの世界でも新学年早々に遅刻する人はいるんだなぁ、とクツクツと笑いをこらえているとこの教室のドアが大きな音を立てて開いた。
「もう!正人が寝坊したせいでこんなギリギリになったじゃない!」
「間に合ったんだからいいだろ別に……」
「こいつに言うだけ無駄よ、桃花」
慌ただしく教室に入ってきたのは3人だった。薄い桜色の髪の女の子と黒い髪の男の子、黒い髪の女の子の3人だ。薄い桜色の髪の女の子は少し肩で息をして男の子に詰め寄り、同じく肩で息をしているもののそれをどうでもいいかのように受け流す男の子、そして呆れたように深く息を吐く黒い髪の女の子。個性的、というにはこの世界ではありふれたものだが、俺からすれば十分に個性的な子たちだ。そして、その子たちを俺は知っている。
「おはようさんお三方。また正人の寝坊か?」
ひらひらと入り口で固まっている3人に対して手を振る。声をかけられて俺に気が付いた3人の中で薄い桜色の女の子が男の子に指をさした。
「あ!修一!ねぇちょっと聞いてよ!正人ったらまた寝坊したんだよ!今日はクラス分けだから早く出ようって言ったのに!」
薄い桜色の髪の女の子、桃花はいかにも怒ってます!と言わんばかりに頬を膨らませている。指されている本人、正人はと言うと、特に何も気にすることなく何を考えているのかよくわからない表情で黒板を見ている。
「夜遅くまでデッキをいじってたみたいなの。寝たのも夜の3時だとか」
「相変わらずだなぁお前は」
黒髪の女の子、桜の声を荒げないけど粘着質に責めるやり方に苦笑する。結構冷たい感じがする言い方なのだが、当の本人は全く意に介してない。なれたものだと言わんばかりだ。
「こうもお寝坊さんだと妹の桃花も大変そうだな」
「そうなんだよ!正人ったらいっつも寝坊して!起こす身にもなってほしいよ!」
「とのことだけど、そこのところどうお考えになっていますか正人さん」
「興味ない」
「もう!正人のバカ!」
正人の言葉に桃花は怒ったかのように両手で殴りかかる。ただ桃花が非力なせいか効いている様子は全くない。さすがに起こされなかったら遅刻魔となりそうな正人なのにその言葉はどうかと思うのだが、これも家族の在り方の一つだろう。桃花も怒ってはいるが本気ではないから仲のいい家族としか見えない。
「あ、そうだ。今日学校終わってから正樹たちとどっか行くんだけど、正人たちも暇だったらどうだ?ウェンディとテューディもいるけど」
「え?ウェンディとテューディもいるの?行く行く!正人と桜も一緒に行こ!」
「そうね。どうせ家に帰っても特にやることないし、行かせてもらおうかしら」
正人の表情が浮かないが、2人は行く気満々だ。本当に嫌なら来なくても大丈夫なのだが、クラス単位での打ち上げでもないし小学校からの付き合いしかいないから正人なら来るだろう。
「んじゃ正樹たちには俺から連絡入れとくから」
「うん!よろしくね修一!」
席を確認しに黒板に向かっていく2人を尻目に端末を触って正樹に連絡を入れる。正樹ならウェンディとテューディの2人にも連絡を入れておいてくれるだろう。正樹へのメールも終わり、端末をポケットにしまうと正人が少しけだるげに声をかけてきた。
「……集まるのはいいけど、桃花たちが集まったら女子会にならないか?俺とお前と正樹だけだろ、男」
「言っても女の子4人だし、大丈夫だろ。にぎやかになるのはいいことだし」
これ以上女子が増えたら知らんけど、と正人に聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で呟いたつもりだったが、正人には聞こえていたようでこれ見よがしにため息を吐かれた。全員小学校からの付き合いなのに、何をそんなに不安に思っているんだろうか。
・属性
ファンタジア・フォースには炎、水、風、大地、闇、光の6つの属性があるぞ!