「それじゃ、今日はここまで。一応チャイムが鳴るまで教室から出るなよ。あと、寄り道するな、とは言わんが問題は起こすなよ」
お昼のチャイムが鳴る時間から10分ほど前、もじゃもじゃ頭の先生がめんどくさそうにしながら教室を去り、終礼が終わった。本当なら説明諸々でチャイムが鳴っても終わらないことの方がほとんどなはずなのだが、あの先生はプリントを読めば終わることはプリント読んでおけ、で終わらせるから時間がかからない。面倒くさそうにしている先生だが、〆るところは〆る先生だ。
「やっと終わったか……」
「他の教室よりも結構早い時間に終わってるけれどね」
「ダラケ先生でよかったね~」
正人、桜、桃花の3人はそれぞれいろんなことを言いながら俺の席に集まってきた。ちなみにダラケ先生とは生徒の間で親しみを込めて呼ばれているあだ名のようなもので、本名は
「それで、正樹たちはいつ終わるんだ?」
「ここ以外の教室は終礼も始まってない場所もあるはずよ。まだ時間かかるんじゃないの?」
一応端末を確認してみるが連絡はない。正樹はもちろん、テューディも連絡をしない可能性のほうが高いが、ウェンディなら早く終わったなら連絡をしてくれるはずだ。それがないということはまだ終礼も終わっていないのだろう。こちらのほうは終わったからそっちが終わったら連絡ほしい、という旨を一応3人に送っておく。
「一応終わったら連絡するようには連絡したから待ってようか」
「でも、みんなでおでかけって久々だね」
「桃花、ご飯食べて適当にフラフラするだけだからな。そんなに期待してもらっても困るよ」
桃花の笑顔に苦笑する。正樹たちとは春休み中に何度か遊びに行っていたのだが、正人たちとは行っていなかった。言われていないだけかもしれないが、正樹たちからも正人たちと遊びに行っていたという話を聞いていなかったから俺たちの誰かと遊びに行くのは久々だったんだろう。
正人たちと話しているとチャイムが鳴った。端末を確認するが、まだ連絡が来ていない。向こうはまだ終わってないんだろうと思い端末をしまおうとすると、大きな音とともに勢いよく扉が開いた。
「しっしょー!不肖一番弟子がお迎えに上がりましたー!」
扉を開けたのは茶髪の小柄な女の子で、意気揚々と言わんばかりに大きく手を振りながら顔を輝かせている。その声を聴いた正人は頭が痛いと言わんばかりに頭を抑えて首を横に振っている。
「ほら、お迎えが来たぞ師匠」
「本当にやめろ」
クラスの大半は何事かと扉の方を向くが、知っている人はいつものことかとすぐに視線を戻す。とはいえさすがに大人数の生徒が通っている学校なだけあって理解できているのは俺たちを除いて2人程度だったが。それでも多い方か。
正人は恥ずかしさで顔を少し赤らめている。からかうように師匠呼びをしてみると恥ずかしそうな声色で否定するが、嫌がっている声色には聞こえない。我ながら嫌らしい笑みが浮かんでいると自覚できる程度には面白いと思っていると、これ以上騒がれるともっとからかわれると思ったのか正人はいまだに賑わいでいる女の子の下にやや早歩きで向かって行った。
「あ!ししょー!お迎えに上がりましいたたたたたた!顔が痛いですししょー!」
正人はそのままとても輝かしい笑顔を浮かべていた女の子の顔を思いっきり握りこんだ。女の子は痛い痛いと騒いでいるが楽しそうにしているのがわかり、正人もそれをわかっているのかさらに握力を強める。
「あ、ししょー。じゃない。どうやって俺のクラスを知った」
「弟子の役目として朝早くに来てししょーのクラスを確認しました!」
「そんな役目捨ててしまえ!」
女の子、
「桜先輩~!ししょーひどいんですよ~!」
正人のアイアンクローから解放された虎兎は桜の腰に抱き着き、桜はそれを苦笑しながら虎兎の頭をなでる。
「正人、いい加減慣れたら?」
「慣れるも何も俺は弟子なんて認めていない」
「そんな~!ご無体ですししょ~!」
正人は不機嫌です、と言わんばかりに鼻を鳴らす。虎兎はそれを聞いて半泣きになりながら正人の腰にしがみついた。正人は虎兎を必死にはがそうとするが虎兎はしがみついたまま放そうとしない。
虎兎が来てから騒がしくなったからか、学校が始まった初日にもかかわらず教室内がにぎやかになってきた。隣席同士で正人たちの方を見て話してたり、正人たちの攻防を肴に笑っている集団、騒いでいるのを無視して友人と帰ろうとしている人と反応は様々である。それを知ってか正人は必死になって虎兎をはがそうとして、しかし最後まで離れずにいた虎兎に呆れたような大きいため息を吐いてはがそうとするのを止めた。
「というか、まだ終礼の時間じゃないのか。なんで来てるんだ」
「グエル先生だったので終礼が早くに終わって即参上しました!」
はがそうとするのを止めたことを、弟子を名乗っていいと判断したのか虎兎は顔を輝かせて返事をした。突っ込むのも面倒になったのか正人は深くため息をはく。
「……そうだ。虎兎、この後は時間ある?」
「時間?はい!ししょーをお迎えに上がった後は特に何も予定は入れてません!」
「私たち修一とウェンディ、テューディ、あと正樹と一緒に遊びに行くのだけど、よかったら一緒に来ない?」
「行きます!行かせてください!」
「おい……!?」
桜の提案に虎兎は目を輝かせて返事をする。正人はそれを咎めようと声を出そうとするが、虎兎の嬉しそうなはしゃぎっぷりを見て言葉を飲み込み、代わりに大きなため息を吐いた。
「桃花もいいでしょ?」
「私はいいけど、ウェンディとテューディに聞かなくてもいいの?」
ここで普通に俺や正樹を入れない辺り男に拒否権はないのだと言外に言われているようで思わず苦笑いする。まぁ今の言外とは言わず、実際今までもそうだったからやっぱりどの世界どの時代でも女の子は強い。
「連絡はしておくけど、大丈夫だと思うぞ。ウェンディは賑やかな方が楽しいと思ってるしテューディも虎兎なら文句も言わないだろうし」
「よかったわね、虎兎」
「わぁい!みなさんとお出かけだー!」
ピョンピョンと体全体で嬉しさを表すかのように跳ね回る虎兎。その様子を見て正人は悩まし気に頭を抱え、桜と桃花は微笑ましそうに笑っている。兄妹でこんなにも表情に差が出るのか、と笑いをこらえるようにクツクツと喉を鳴らして正樹たちに同行人がもう1人増えたことを連絡するのだった。
VP:勝利したときにもらえるからヴィクトリーポイントの略と思われているが、本当はヴァーチャルポイントだということを知っている人は意外と少ないぞ!