天才少女とお節介な運命竜 作:コンペ
学院生の朝は早いです。それも、かの高名な国立魔術学院リゼントとなれば、それはもう模範となる行動を求められます。大層な意識の高さに面倒臭さが先立ちますが、かくいう私もその一員。
規則正しくいつもの時間に目は覚めます。
「ん……ふあぁ……おはようございます、リア」
「おはよー、フローラ。……ん?いつもしゃんとしてるフローラちゃんが眠そうにしてるぞー?」
現在早朝五時半。この時刻が学院生の基本起床時間です。むしろこの時間でも、時折図書館へ行ってみると自習をしている生徒の姿を見ることが出来たりします。私には朝の自習など必要ないですが。
そして、私が寝不足な理由。それはかの高名なクソ竜にあったりします。ディスアトリ──略してディアちゃんは昨日の夜にコンコンとお説教を垂れてくれやがりました。確かに寝るのが遅いのはいつものことですが。
ですが深夜……いや、朝四時半頃まで頭の中でガンガン大声を出されると本当に寝れたもんじゃないんです。
「……別になんでもないですよ」
「はーん……?」
そしてまさか『竜がうるさくて寝れませんでした』とかハッキリいったらその場で異常者扱いですし。
苦慮しながらどうにか言い訳を考えていると、リアがジリジリとにじみよって来ました。
「──怪しいぞー!フローラちゃんッ!ほれほれー」
「ひゃ!そこは、止めて、下さい!く、ふふ、あは……んっ!」
そして飛びかかってきたリアに私はベッドの上に再び押し倒されます。その柔い手が脇腹やふくらはぎ、お腹など至るところを撫で回し、結果的に私はそれに屈服しました。
「降参です!降参!」
「……んー、しょうがないなぁ」
そしていつの間にか私に馬乗りになっていたリアの重みが私の体からなくなります。ひきつっていた息を整えながらゆっくりと立ち上がると、リアは既に学生服に着替えようとしていました。
こちらを見て悪戯っ子のようににやりと笑う。私はそれに苦笑いで返答します。まったくマイペースなものです。
(……毎朝似たようなやり取りをしておらんか?)
(いいんですよ、私も楽しいですし。迷惑してると分かったらリアも止めてくれますから)
(……まあ、リアという娘と関わっても、これから先確かにお前に害はないが……いや、害、とも言えるかもしれ──)
(なら万事解決です)
『運命』をその名に関する竜。ディスアトリがそう言うのでしたら、これから先、リアといることに不都合は無いのでしょう。何せ彼女の出はただの平民ですから。まあ元々この学院の半数が平民なので貴族とのいざこざのあたりの心配などないでしょうが。
国家の礎となる学院でその比率はおかしい?まあそれもそうでしょうが、ここを出ても貰えるのは実力の保証と確実な生活基盤です。国を回すような知識を得られないので、ここにいる貴族の方々はなかなかな生い立ちを持ってることが多いですね。それも、大貴族などではなく、才能ある貧乏貴族の次男次女などが。
その理由としては、この学院に入るのに必要なのは血筋でも財力でもなんでもないのが原因でしょう。
この学院に必要とされ、求められているのは──純然たる魔術の『実力』です。少なくともこの学院にいる以上稀有な存在ではありますが、学院内では私の評価はどこかの竜によって普通に保たれています。そしてリアは『ちょっと優秀な生徒』止まりです。何か起こるはずもないでしょう。
なにか言いたそうなディアちゃんを無視しして私は洗面所へ向います。寮と言いっても天下のリゼント。そこらの宿なんかよりもよっぽど生活基盤は整っています。
冷たい水を感じながら口をすすぎます。最後に顔を洗い、タオルで拭くと私は洗面所から出ていきました。
外ではリアがバックの中をごそごそと漁りながら私を待っていたようでした。扉が空く音に立ち上がると、手持ち無沙汰なのか片手にノートを持ってバタバタと振り回しています。そして私に何か深刻そうな顔で話しかけてきました。
「フローラは一限同じだっけ?」
「あー、そうだと思いますよ。《発展魔術Ⅱ》の『変化・変容』ですよね」
「そうそう。でさ、魔素結合のよる理力の発生による利便性とその悪影響について……だっけ?のレポートの提出期限っていつまでだったかな?」
「ふふ……」
もじもじと瞳を左右に振りながら私に尋ねる姿になんとなく笑ってしまいました。そしてリアはその反応に顔を赤くして反論します。たいした事でもないでしょうに。
「だ、だってさ、ホルミナ准教授『一度言った事はもう言いません。もしそれに納得がいかない生徒がいるなら……オフィスアワーに私の部屋に来なさい』っていつも言ってるし……ね?お願い!」
「へー?さっき散々いろいろしてくれましたよねー……さて、どうしましょうか?」
「お願い!」
「……んー」
何故私はこんな小さな事で意地悪をしてしまうのでしょう。そう考えた時、多分出てくるのは、これが楽しいから、です。
うん。私はリアと話して、からかいあって、そして遊ぶのが楽しいのです。
にやにやと困った顔でリアを見つめる私。そしてリアの口がゆっくりと開きます。
「えーっと……じゃあ!私が応用分解の内容教えてあげる!フローラ苦手だったよね?!」
「……え?」
私は固まりました。そういえば私の苦手教科は応用魔術の分解、構築の二科目『と言うことになっています』。
(……ほう、いいではないか。『苦手科目』だろう?)
(うっ……別に出来るのに!私全部理解出来てますのに!むしろ応用を独自でやって((うるさい))──止めて下さい!痛いです痛いです痛いです!!)
たまにこの竜、私の頭に酷い痛みを送ってくるんです。だいたい自分の意に沿わない時とか苛ついた時です。
その酷さと言ったら私が学院に偏頭痛の症状あり、と自己申告するほどです。最近は慣れてきて現在も無表情で通せているますが、そのせいで最近私は何か重いものを抱えていないかリアに訪ねられる日々が続いています。
ですがそれは今回、どうやら私の『教えてあげない』という確固たる意思の表明に見えたようでして。
リアがゆっくりと私の手を取ります。
「……ね?」
そして追加攻撃で上目遣いのリア。その琥珀のような瞳と、控えめに見ても可愛らしい容姿に見つめられて私はたじろきます。
「……別に自分ででき──ッ~~!!」
意地を通そうと口を開きますが、それはディアによって止められます。口が動くのに声が出ない。そしてその内容を口にしようとするたびに体中にキシキシとした痛みが走るのです。頭だけじゃないのがコイツの意地の悪いところです。
(ほれほれ、早く『分かりました、お願いします』と言ってしまえ。なんならお姉さまとつければリアも喜ぶかもしれんぞ?)
(この……クソ竜がぁ……いつもの、事ですが、なんてことしてくれるんですかぁ……っ!)
そしてうるうると私を見つめるリアの瞳。だが私にも矜持というものがあるんです。負けるわけにはいきません──
「はあっ、はあっ……い、いいですよ!存分に!教えて貰おうじゃありませんか!」
「ほんとっ?!やったぁー!!」
そしてその数秒後、激痛にあっさり負けた私はリアにそう言い放ちました。