天才少女とお節介な運命竜 作:コンペ
「……さて、得てして感情とは魔力の発露に結び付いていると一般の人間は考える。もと感情は形而下的表現とは言えず、つまり現実とは酷く解離した現象を引き起こすと思われている『魔術』とは結びつきもよい。幼ければ幼いほど間違っているかもしれないなど考えず素直に読み込むだろう。私も子供の頃はそうだったからな。
だが、魔力の増減。これが一体なにとどのような関係性で結ばれているのかと言うのは近日の魔術師の一つの議論となっているということは皆も知っているな?もちろん、感情との結びつきも含めてだ。
……まあ、そもそも感情が魔力と結び付くという発想自体、古くから否定されているが」
イライラしながら私は二限目の《魔術歴》の授業を受けていました。
ちなみに一限では、今日が提出日だと教室についてから教えてやったリアから涙目でレポートの写しを頼まれました。
笑顔で断った私は、その二秒後『友人を大切にしろ』とディアに『お説教』され、リアと同じく涙目の笑顔でレポートを差し出しました。リアが外出許可日に近くのカフェで奢ってくれる約束をしてくれました。ちょろい。
ちなみにその後の単元終了時恒例のディスカッションでリアが苦労したのはまた別の話です、ええ。
「──ではアドバンテ、魔力とその増減を促す事柄の関連性について、現在発表されている全ての仮説をその時の情勢と共に言いなさい」
「はい。一つ目はノルア・デイザー著の『魔術暦本』で初めて提示された、強い感情の発露によって魔力の発現が起こるとされる、『感性魔力増減論』です。
この時、我が王国は王権派の力が最盛期と言われており、非常に強く、その影響か英雄譚、それも王族の方々が主人公のものなどが多く刷新されていました。しかし、病弱で力ないと噂されていた王子等の英雄譚が出始めるにつれ、その市政に出回っていた内容との齟齬が目立ち初めます──そして丁度その時、デイザー氏がこの説を発表しました。
ここで物語の整合性の無さや、またデイザー氏が王家お付きの魔術師だったことに目を向けた場合、これは数々の物語の整合性を取るために王族がそのような発表を促したのではないかと考えられます。更に、それら英雄譚の影響で無意識に民衆がそれが正しいと思い込んでいたのではないかと言われており、これが近日ではかなり否定的な意見が目立つ要因でしょう。
二つ目ですが、これはテラキア・アルメディア氏が──」
その話を真面目な顔で真剣に聞き流していると、ふとディアに質問したい疑問が浮かびます。いや、誰でも聞こうと思うかもしれません。何せ、彼女ら竜は存在そのものが別物。私達の知り得ない知識を知っていることは、かつてそれに悪い意味でも良い意味でも助けられたこの私が、身をもって知っているですから。
(……ディア?)
(何だフローラ、妾に何か用か?それにしても、お主から話しかけてくるとは珍しいな)
(御託はいいです。それよりもふと思ったのですが、貴女の知識に魔力とはどこから涌き出るものだとかの内容はありますか?私達人間の間では、様々な仮定が考えられているのですが、いまだ正解に行き着いていないのですよ)
(ふむ……)
こちらを見定めるような目でこちらを見つめる竜の姿が脳裏に浮かびます。悩むと言うことは、知ってると言うこと。だがここまで間が空くとは……それほどまでに重要な物なのでしょうか。……俄然興味が湧いてきました。
(お願いします)
(……あまり言いたくはないが、他ならぬフローラの頼みとあってはな……だが多くは言わん。一つ言うのであれば、今流れている話を聞いておる限り、お主ら人間は魔力の……『魔』の本質を理解しておらんのだろう。そして、そのままでいるならば永遠と理解することは無い)
(……そうですか)
魔、というのは魔力とは別の、なんというか『基』みたいな物。ですが、まさにそうと思われる『魔素』とも毛色が違います。
それがどのように関わっているのか。
確かに、『魔』が『魔力』と言っても過言ではないのですが、イコールで結ばれているかと言われれば違うのです。
そして何故彼女は魔力ではなくわざわざ『魔』と言ったのでしょう。聞きたい事は尽きません。が、恐らくこれ以上はなにも言わないであろう事は理解出来ました。
諦めて授業へと意識を向けます。
「──以上の三つが私の知りうる限りの内容です」
「よろしい、完璧だ。座りなさい。
……さて、このように魔力に対する探求は日々模索され、学会では常にこうした議論に対する終止符が打たれようと日々新たな論文が発表され続けている。ああ、そう言えば近年は帝国の論文に見所があるな……皆も出来れば帝国の公用語くらいは覚えておくといいだろう。
そこでだ。最近学会に発表された論文の中で一際目を引くものがあった。これを皆にも紹介しておこう。あまり歴史との関連はないが……私の専門分野は魔力力学だ。少しくらい語らせて貰おうか。
少々学院の上院まで行ってから知るべき単元も含まれるが、知らずともぼんやりとは理解できるはずだ。題は『根源魔力の変位による角振動数変化の考察』。知っている者はいるか?」
……あれ?と私は首を傾げます。どこか聞き覚えのある題だったのです。
先生がゆっくりと辺りを見渡し、誰も反応しないことに軽く頷き話を続けました。
「著者は『ディア・クローア』。内容を大まかに説明すると、普遍的な魔力の動きは通常ある波の形を取るが、これを根源魔力への干渉により波形の変化を産み出し、またそれが出来るとすればいかなる事柄に転用出来るか、だ。特に魔力波長の固定化まで至れば空想論とされていた遠隔通信の技術も確立されるだろう。誠に素晴らしい事だ。魔術の発展は常に文化と歩みを共にしてきたからな。
クローア氏は旅の魔術師らしいが、これまで数少ないとはいえ目を引く論文を書き連ねている方だ。気になった者は目を通しておくと良いだろう」
へー、と言わんばかりの空気の中、私の時間だけが止まりました。数秒後、ギギギ──と動き出すと脳内へ語りかけます。
(…………ディアちゃん)
(……偽名だからと試しにいくつかの論文を提出するのを許したのは、不味かったかもしれん)
(…………これ、実は偽名で本人がここにいるってバレたらヤバイですよね)
主にディアちゃんに私が殺されるという意味で。
(……いや、心配せずともお主があれの著者だとバレる運命は見えぬ。安心しろ。それにもしバレたならば、そのような時はここで稀にしか見られない非常に強力な魔力磁場がたまたまた発生する様に『運命』が決まっておる)
(……なんてことしてくれてるんですか)
バレても私的には構わない。むしろバレろと言いたいくらいなフローラだったが、突然『その論文、私が書きました!』なんて、そんなことを言っても異常者扱いは目に見えている。
あくまで自然バレなければいけないのだ。そしてこの学院と、自身の生家で地位を手にいれ、ゆくゆくはお金を稼いでかつて全てを投げ捨ててでも突き止めたかった『あるモノ』を今度こそ──と、そこで思考が止まった。
何よりディアがそのようなことは許さないでしょう──そう呟きと心を落ち着かせる。
ただ一つ文句を言いたいのは、出来事と運命を絡み付けるとは、一体どこまでこの竜には底がないのでしょうかということ。
無理矢理、理論的に結びつけるなら魔術構築と変容を繋ぎ合わせ、『ある現象』をトリガーに魔術の発動を行う事ですが……無理です。似ているだけで、それは『運命』という訳の分からない抽象的な物とは欠片も結び付きません。天才たる私でも無理なら誰にも無理でしょう。
ため息を付いて、その後は真面目に自分の書いた論文が説明されていくのを聞いていました。こっぱずかしかったです。