天才少女とお節介な運命竜   作:コンペ

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リアの愚痴とジークアルト

「――最悪だよぉ……」

 

「そうですか」

 

目の前にいるのはだらんと弛緩した様相で机の上に伸びるリア。現在私達は学食にいます。

 

あのあと教授に誠心誠意謝ったり皆から奇異の目で見られたりしましたが、特に問題なく午前を過ごし、昼食。いつも通りの場所で集まった私は、リアから愚痴を聞かされていました。

 

ガヤガヤと喧しい音は、どこか苛立たしくも優しげのあるものであり、一種の安心感を私に与えてくれます。

手元にある紅茶の入ったカップを手に取り一息ついているとリアが擬音が聞こえてきそうな程の勢いで立ち上がり私に泣きつき始めました。

 

「聞いて聞いて!だってさぁ!今回の講義、クスネ教授がいなくて知らない人の話だったんだけど、訳わからなくない?!あ、《魔力性質・Ⅱ》の話ね――なにさ!『えっと……その、私が講義する、あの……魔力の性質と言うことですが……』って、どもり過ぎ!話聞こえない!なにいってるか分からない!」

 

「いえまあ……それでも仮にもリゼントでそれなりの立場を得ているからこその、講師としてそこにいるわけで……」

 

どこかで聞いた口調だなぁと思いながらそれに対して反論していると、突然上から声がかかってきました。ふとあげた眼に映るのは、見知った顔。

 

「――そうそう、ボクもそれ聞いてたんだけどさ……あんまりそういうのは話さない方がいいよ」

 

「ロイゼンタールさんですか……何か引っかかるところでも?」

 

そこにいたのは、まあまあなレベルの貴族の次女と言う立場を捨て、この学院に入ったというなかなか奇抜な経緯を持つ一人の女生徒。短めの金髪と緑の瞳を煌めき、やはり美人とは得だななどと考えさせられます。

そして彼女は少し深刻そうな顔でリアに対して注意しながら木製の椅子、私の隣に座ってきました。

それなりの付き合いのある彼女は、ちょっと借りるね、と言いながら笑みを浮かべます。そしてリアはそれを見て不貞腐れていました。

 

「むぅ……なんでさ」

 

頬を膨らませたリアを微笑ましそうに見遣ると、次の瞬間ロイゼンタールさんは真面目くさって言葉を紡ぎました。

 

「いやね、キミ代わりの講師の家名知らないでしょ?いや、数ヶ月前からいたことにはいたから耳が早い人ならもともと知ってるかもしれないけど……まあ、だから多少知っているボクが言っておこうかな、と。

ほら、キミって抜けてるしね」

 

「リアが抜けてると言うことには同意しますが、そんな悪い噂なんて誰でもするでしょう?それに、魔術技巧省あたりの派閥の貴族だとしても、半ば独立しているこの学院で何か問題が起こり得るとは思いませんし……いえまあ卒業後に悪影響を及ぼすなら考え物ですが」

 

「そうだそうだー……って、私ってそんなに抜けてるかな……?」

 

次いでそれに同意するリア。それを少し眺めてから、ロイゼンタールさんはため息をつきます。軽く疲れが見えるその動作はどうやら相当の理由があるようだと私に悟らせました。

注意してロイゼンタールさんを見つめていると、やがて彼女は話始めます。

 

「いやね……単なる大貴族の三女とかなら、まあボクもここまで言わないさ。でも、彼女の家名――『ジークアルト』は聞いたことくらいはあるだろう?」

 

その名が聞こえた瞬間、私の中で突然暴風が吹き荒れました。

 

魔術学院に、ジークアルトが。

 

その情報だけでドクドクと心臓は高鳴り、冷や汗が流れ出ます。『無視されたぁ……』と半泣きで私にしがみついてくるリアを言葉通りに無視し、そして、決して気付かれ無いよう心の中でソッと呟きました。

 

(ディア、ちゃん……これは……?)

 

そしてすぐさま答えは返ってきます。それは予想と違い、私を安心させ――しかし同時にひどく不安にさせるモノ。

 

(安心せい、お前に敵対的な勢力の人間ではない……それに今回のジークアルトはお前の恐れている者ですらない……まあある意味、脅威とも言えるかもしれんが)

 

(そう、ですか……)

 

まだ『最悪』よりはマシです。あの化け物(・・・・・)には天才たるこの私でもなにも出来ず殺されるしかないでしょうから。

正直この件に関してはディアちゃんに苦言を呈したい事が山ほどあるのですが、今のところ問題が起きていないため放置している議題でもありました。ほっと胸を撫で下ろしていると、ロイゼンタールさんがいつの間にか話を進めていました。

そこでやっと頭へ入るようになった話に耳を傾けます。さすがのリアも、『ジークアルト』と言えば反応せざるを得ないのかいつの間にかしっかりと話に聞き入っているようでした。

……真面目にやれば、リアもこの学院に入ってるだけあってかなり理知的なんです。いつもがちょっとだけダメなだけで。

 

「噂だけどね、どうやらこの学院にある大規模破壊魔術――戦略級の魔術構築陣に関しての交渉に来たらしい」

 

「それは……どういうこと?ジークアルト家はこれ以上の戦力を手に入れて戦争でも始めようって言ってるの?いくらジークアルトって言っても限度が……」

 

「いや、どうやら王家――と言うより王権派とのいざこざがあったらしくて……それに同時に最近、王国宮廷魔導師長が変わっただろう?

それがそっちの派閥の下級貴族からの輩出らしくて……王権派の権力の拡大を抑える一つの策だとか、なんとかね」

 

「んん……この学院に来たってことは、この学院での王権派の増長を抑える役目とかもあるんじゃないの?」

 

「なるほど……それは思い付かなかったな……でも、そもそも貴族の絶対数が少ないこの学院にこれ以上の圧力をかける必要があるのかってのもあるけど……」

 

「それは、ほら――今この学院に(・・・・・・)ジークアルト家(・・・・・・・)の人いないしね(・・・・・・・)

 

「ああ……それもそうか。そもそもこの学院に一年でもジークアルトの人が通っていない期間なんて()()()()なかったからね(・・・・・・・)。てっきり毎回そうなるように子供を産んでいるのかと思っていたくらいだったから……気が付かなかったよ」

 

 

『ジークアルト』。それは正しく英雄の一族。

 

竜殺し。救国の英雄。神に愛された者。竜の寵児。銀竜の申し子。

 

いくつもの二つ名が散見されるその家系は、誰一人例外なく(・・・・・・・)この学院で常にトップの成績を納めてきました。

 

身に秘めた魔力は化け物と称されるほどおかしく。その魔術的センスは幼少の頃からそれなりの魔術師が悩む問題を軽々と解くと言われ。

 

そして、そう。何を隠そうこの私、『フローラ・ジークアルト』。それは、ジークアルト家本家の次女として産まれ、そして――どこかの竜の策略によってジークアルト家始まって以来の『恥さらし』として名前を抹消された者でもあります。

 

そんな私を置いて話は進みます。

 

「来年からはあの有名な『銀』がくるからね、問題はないと思うんだが……」

 

「ん……なんだっけ。齢十二歳にして魔術理論を一つ証明したとかいう神の寵児……とか、そんな噂は聞いたことはあるよ」

 

「まあ、ジークアルトはおかしいからね。一世紀に一人……早いときは五十年に一人のペースでそのくらいは生まれるさ」

 

「それはそう、私もそう思うよ――ね、フローラはどう思う?」

 

そして唐突に私に、善意一色に染まった声がかかります。

 

ああ――しかし、今だけは無邪気な笑顔で私に話を振ってくるリアが、全てを知りながら絶望へと人を突き落とす悪魔に見えました。

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