天才少女とお節介な運命竜 作:コンペ
「ええ……私もそう思いますよ、それで、少し気になったですがその新しい講師の方は一体どのような研究をされているんでしょうか?」
「研究?ボクもそこまでは知らないな」
「なるほど……そう言えば、ロイゼンタールさんとリアはどの研究室に所属するかは決めていますか?」
なるべく違和感のないように話をそらしながら、私はカップへと口を付けます。少し訝しげにリアが私を見ていますが、やがて気にするのを止めたのか私の話へ乗っかってきました。
「はいはーい、私は今のところ戦闘関連の研究室にいこうかなって思ってるよ?」
「え……キミもしかして格好いいからって理由でそこ選んでないだろうね」
「あり得ますね」
「酷い! 私が選んだ理由は、単に一番分かりやすいからだよ!」
かなり想定外のモノで、正直驚きを隠せませんがそれを圧し殺し話を続けます。ロイゼンタールさんもかなり驚いているようでした。
「つまり……リアは魔導騎士団への所属を望んでいる、という感じですか?」
「あー……それは、違うかな」
「うん?でも……ああ、魔導技巧省所属の研究員ポストを狙ってるのかい?確かに魔物や他種族……後は帝国との戦線の拡大を画策しようとしている今、就職には困らないだろうね」
バカバカしい話でした。少しリアという人間を見誤っていたかと考え直します。
魔物や他種族との戦闘などをどうにかしようと考えるなどバカの所業です。特に、自らの手で戦争を終わらせるなどの選択は特筆して酷い英雄願望。または自己顕示欲。そういったものに突き動かさなければあり得ない選択肢てした。
まあ、その認識はすぐに覆されたのですが。
「あー……言葉が足りなかったなぁ。ごめん、一番分かりやすく稼げるから、だよ」
「……バカ中のバカですね」
それを聞いて、ロイゼンタールさんも恐る恐るといったように声をかけます。
「それは……キミ、冒険者でも目指してるのかい?」
「ぅ……まあ、そう言うこと……かな?」
バカでした。至極全うにバカでした。
喧騒が増してきたこの食堂で話すような内容ではありませんが、今のところ聞き耳をたてられている雰囲気はないのでここで問い詰めることにし、口を開きます。
「リア……貴女はこのリゼントまで来て、何をしようとしているのですか?友人として忠告しますが、止めた方が良いですよ」
「うんうん、フローラの言う通りだよ。冒険者なんて、トップ層を除けば土地の開拓に貢献した過去の栄光にすがっているだけの最悪な職業さ」
「そ、それならフローラとロイゼンタールさんは何を目指してるのさ!」
「私ですか?私は今のところ魔術構築についての専攻を行おうかと……つまり、将来の夢は教授ですかね」
「フローラそれで生まれ平民かい?教授職とかまさに研究研究研究のつまらない職業だよ?」
うんうんと首をふるリアを無視しながら、私は研究についての素晴らしさを語ろうとし、
(――フローラ。
(……ええ、知っていますよ。見ましたから。『アレ』についての研究を進めた先にある、末路は)
ディアちゃんからの忠告。それは水面にポツリと垂らされた水滴のように私の中に波紋を広げ、そして『あの研究』を進めた先にある一つの末路を見た事もあり、熱弁しようと意気込んでいた私は落ち着きを取り戻します。
紅く輝く瞳。莫大とも形容するのも烏滸がましい魔力。本来なら論理と理性に沿って行われる筈の魔術が、単なる言葉と悪意の塊によって行使される、あの瞬間。
手に取るように思い起こされるアレは――紛うことなく、お伽噺で語られる『魔法』。
それを思いだし身震いしていると、やがて回想が終わったのを見越してかディアちゃんが次いで語ります。
(それなら、良い。だが、妾はフローラが万が一にも『最悪』に行き着く事がないようにしておるだけだ……恨まんで欲しい)
(分かっています……人道に反するかも知れませんしね……)
――でも、と、時折思ってしまうのです。かつて見たあの末路。しかし、『アレ』の探求は、それを許容してでも手を伸ばすべき境地ではないかと。
「……フローラ?」
「ああ、すいません。少し偏頭痛がきてまして……ええ、今は落ち着いたので大丈夫ですよ。それで……なぜ教授に、ですか?」
「大丈夫そうならいいんだが……うん、取り敢えず聞きたいのはそこかな。ボクからすると研究三昧の毎日とかとても耐えられたもんじゃないからね」
心配そうなリアに笑顔を向け、そして軽く息を吸います。私が、研究職を求める理由。
「楽しそうだから、ですかね?」
このくらいが無難でしょう。現にリアもロイゼンタールさんも難しそうな顔をしていますが、不思議そうにしているのみです。
「えー?楽しそう?フローラよくあんなのを楽しそうって思えるね……て言うかフローラって構築と分解が凄く苦手だったような――」
「黙って貰えます?」
食いぎみに脅しをかけるとリアは椅子の上で少しピクリと震え、小さな声で『はい……』と呟き黙り始めます。それを見てロイゼンタールさんは苦笑いをしていました。
「まあ人の好みはそれぞれだからね、うん。否定はしないよ……そうそう、次はボクの番かな。ボクは宮廷魔導師を目指しているんだけど――」
「ほう、やはり宮廷魔導師と言えば様々な分野の研究となると思うのですがそのあたりはどうでしょう?」
「えっ……?ボク宮廷魔導師って国防関連の就職だと思ってたんだけど違うの?!」
「研究もありますが……確かに戦争に駆り出されることもしばしばあるとか聞きます」
「あはは!私と同じだね!よし、一緒に冒険者になろうよ!」
「それはいやかな」
「えー、なんでさぁ……」
微笑ましい談笑が続いている、その最中。
「――うわぁぁぁあぁああ!!!」
突然爆発音が鳴り響きました。突発的に起きたそれに、思わず体を傾け魔術の使用も辞さないと体勢を整えながら振り向くと――悲惨な光景が目に入ります。
「……あ、すまない!ああなんで私はこう何度も何度も!!」
「いってぇ……ん?はぁ……また教授っすか?なにやってんですか……」
「いや……ちょっと魔力波動の空間への影響を――って、大丈夫かい?!いや、本当にすまない!
謝って許されることではないと思うが、この通りだ!!」
散らばった木材の破片に、食事。
白衣の男が机や椅子を破壊したど真ん中に座り込んでいました。体勢は見事な土下座です。
一瞬静まり返った食堂は再び――いえ、先ほど以上の喧騒に包まれます。
「いやまたかよ……」
「今度は食堂って……安心出来る場所ないんじゃないかしら?」
「相変わらずバカやってんのね……」
近くのテーブルについた人々の声が聞こえてくる最中、やっと二人の頭が正常に回り出しはじめます。
「あ、ああ……あれが例の……噂には聞いていたが、現場を見たのは初めてだよ」
必死に土下座しているその様相に目を見開いたロイゼンタールさんが思わずといった様子で呟くと、不思議そうにリアが問いかけます。
「ん?なんなのあの人?有名なの?」
「まあ、悪い意味でですが……変人教授陣の一角を張る彼は、確か……」
少し思い出せずにいると、ロイゼンタールさんが続いて言葉を紡ぎました。
「空間干渉魔術の構築分野での第一人者のクロイター教授さ。嘆かわしい事に、アレでね……」
「む……ええ、そうですね」
「へー……凄いのかな?」
リアの言葉に思わず眉を潜ませます。正直なところ、私はディアちゃんがいるお陰で戦闘関連の魔術の知識、使い方は誰にも負けないと自負しますが……研究やそれらに関しては別物です。
少なからず私は教授、准教授、助手関係なしにこの学院の上に立つ者は尊敬しています。
「リア、仮にも教授にそれは失礼ですよ」
「あー……そうだね、言い方が悪かったかも知れない。彼は性格や行動に難はあるが、紛れもなく天才さ」
チラリと目を向けると、そこでは必死に食堂の管理人に謝っている教授の姿があります。激突した椅子や机は既に直っているようでした。
それを不可思議に思ったのかリアがポツリと呟きます。
「……よく見たらなんで机やらなんやらが直ってるの?」
「ああ……元々この学院と、全ての備品は、『魔術式』として定義されていますからね。いくらこの学院が壊れようともその術式が生き残っていればすぐさま元の形に戻せるのですよ」
「いやぁ……うちですら本館だけだったから、大層この学院は金がかかってるんだろうね」
「術式の構築に必要なのは基本第二級国家魔導資格以上を保持した『構築』専門の魔術師ですから……教授となるとそのくらいが普通ですし、その方々が協力したと考えると以外とお金はかかってなさそうですがね」
「ボクはあまり興味無かったから知らなかったが、この学院全体を術式に定義するとは……ここはそこまで上位の魔術師が複数人在籍しているのかい……?」
「そう言うことになりますね」
「なるほど……それなら多少頷ける事も多いし、それが考えとしては妥当だろうね」
ロイゼンタールさんと二人でうんうん納得していると、リアがぽかーんとした顔で質問してきます。
「うーん?つまり……すごいの?」
「うん……凄いな」
どうやらロイゼンタールさんはリアに物を教えるのを諦めたようで適当な言葉で流そうとし始めます。私はため息をつくとリアに向き直りました。
「リアが分かりやすく言うなら、冒険者で言うランク八以上となりますね」
「――それは……凄いね」
「でしょう?」
納得したリアの深みのある顔を見つめていると、突然影がかかります。そして、気が付きました。
同時にロイゼンタールさんとリアが黙ります。それは異様さか、それとも得も知れぬなにかか。それすらも分からぬただ放たれる雰囲気に呑まれる二人を気にせず、私は理解しました。いえ、理解せざるを得ませんでした。
なるほど、つまり私はかなり危険な立場にあると、そう言うわけですか。恨みますよ……ディスアトリ。
そう心の内で呟くと同時、遂に声がかけられます。
「あの……は、
「ええ――
英雄。王国の守護竜。殺竜の一族――なんと呼ぼうともその本質は変わりません。
おどおどとした動作の奥には、躊躇いの無さが。行動の迅速さからは、その力に対する絶対の自信が。
――ジークアルトが、そこににはいたのです。