天才少女とお節介な運命竜   作:コンペ

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ララミアの感傷

(ふ、ふふ……相変わらずだったな、フローラちゃん……)

 

 ララミアは、心の中で久し振りにフローラに会えた嬉しさを発散しながら歩いていた。その足取りに彼女の心の中の感情を垣間見る事の出来る程のブレはなく、まさに完璧に己を押さえ込んでいると言っても良いだろう。

 

 昔と変わらず、敬語と態度の中に混じるつっけんどんな様子を思い浮かべながら、ララミアは己の部屋へと足を速める。

 

 昔からあんな娘だった。周りに気を止めず、己が思うままに振る舞って、そしてその才能の無さ故に追放された。

 

 正直、ジークアルトの人間でフローラを好んでいるのはララミアだけだっただろう。なにせ形容するなら、『齢5才程から反抗期』なのだ。そしてあの様子を見るにまだ治っていない。そう、まるで──心がずっと子供のまま成長していないように。

 だが、ララミアはそんなフローラが大好きだった。しがらみに阻まれ、いつもしたいこと、やりたいこと、言いたいことを封じてきた己と比較し、あそこまで自由気ままに振る舞えるフローラに憧れすら抱いていた。

 

 なにより、ララミアはフローラに『才能がない』なんて欠片も思っていない。だが、そのことは誰にも伝えていなかった。

 

 単なる予感だからだ。ただ、フローラはふとしたところで自分の先を行っていたから、というだけ。

 本の理解であったり、初級魔術の構築速度であったり──そういった違和感程度の物。一番年が近いため、しばらく魔術の練習を共にしたララミア以外は誰も気がつけないであろう才能の片鱗。

 

(……うん、フローラちゃんには……可能性があった……今でも、ある……)

 

 しかしそれは開花することなく終わってしまった。知らないうちにララミアはフローラから離れていた。いくら本家でも『出来損ない』のフローラに、自分が近付くことを両親が嫌ったのだろう。

 知らないうちにフローラはジークアルトの名を失っていた。流石にいてもたってもいられず、まだ殺されないだけ温情だ、と両親に伝えられたときはどうにかして会わなければと動いたがそれは両親と本家から止められた。

 

 そのときのララミアには両親の抑制は振り切れたが、本家は無理だった。

 

 ──だが、今なら。ジークアルトが学院にいないのはどうなのか、という理由で1()()()教授職を得ることが許された今なら、フローラの真価が知れる。

 そして、それ如何によってはジークアルトの名を取り戻すことが許される筈だ。だって、『才能がない』という理由で子供を追放する家なのだから。

 そして、なによりもララミアの心を動かすのは──、

 

(……出来ればジークアルトの名を取り戻したフローラちゃんと……もう一度対等に話してみたい……な)

 

 ──そういう、子供の頃の感傷に等しい思いだけだった。


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