「歩夢せんぱ~い!」
眩しいくらいの笑顔と弾けるような元気で、私を呼ぶ声。
「どうしたの?かすみちゃん」
嬉しそうに私のもとに駆けてくる後輩は、可愛らしくてついつい頭を撫でたくなる。
「先輩のかわいいかすみんがやってきましたよ~っと!」
そんなことを言いながら私の腰に抱き着く。もう、この子はいつもこうなんだから。
「かすみちゃんは可愛いよ」
「えへへぇ…!もう一回言ってくださいよ~!」
上目遣いでお願いする姿は、とても愛らしいと思う。でも…
「うーん……ごめんね、もう一回言っちゃったから無理かな?」
ちょっと意地悪を言ってみる。
「むうっ!なんで一日一回の回数制限なんてあるんですかぁ!?」
こうやって毎回オーバーリアクションでノってきてくれる所も憎めなくて可愛らしい。
「あはは、ごめんね。かすみちゃんは可愛いよ」
また同じように褒めると、彼女は満面の笑みを浮かべる。パァっという効果音が聞こえてきそうな程の笑顔。
こんな風に喜ばれるなら何度だって言ってあげたい。
よしよし、と未だ私の腰に抱きついている可愛い後輩の頭を撫でる。
「えへへ、もっと褒めてください!」
「うん、いいよ」
今度は彼女の頬に手を添えてみる。すべすべとした肌触りの良い感触。思わずずっと触れていたくなってしまう。
「…………」
「…………」
じっと見つめ合う時間が続く。不思議だ。ただ見つめ合っているだけなのに、すごく幸せな気分になる。
このまま時間が止まってしまえば良いのに、と思ってしまう程に。
「……あのぉ、そろそろやめてもらってもいいですか…?ちょっと恥ずかしくなってきたんですけど…」
ふと我に返ると、目の前には顔を真っ赤にした彼女がいた。
恥ずかしさに耐えられなくなったのか、両手で顔を隠しているけど耳まで赤くなってる。
「あっ、ご、ごめんね!」
慌てて手を離す。
「ま、まぁ、かすみんを甘やかす分には許しますけど?」
照れ隠しなのか、腕を組んでツンとしている彼女だけど全然怖くない。むしろ抱きしめたくなってくるくらい。
「そうだよね。かすみちゃんは可愛いもんね」
だから私は素直に伝えることにした。この気持ちを抑える必要は無いんだから。
「ちょ、調子狂いますぅ……。今日の先輩なんか変ですよ?」
「そうかも。でもそれはきっと全部かすみちゃんが悪いんだよ?」
「えぇ!?なんでかすみんのせいですか!?」
「ふふっ、冗談だよ」
「もおぉ!歩夢先輩の意地悪!」
ぷいっと横を向いてしまった彼女に謝ろうと手を伸ばすと、逆に掴まれてしまった。
そしてそのままぐいっと引っ張られる。不意打ちだったせいでバランスを崩してしまった私はされるがままになってしまう。
気づいた時にはもう遅かった。視界いっぱいに広がる彼女の顔。唇に触れる柔らかい感触。突然の出来事に頭が追い付かない。
「これでおあいこです!」
してやったり。
正にそんな悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女は満足げにしているけれど、私はまだ動けずにいる。
「……歩夢先輩?」
反応が無いことを疑問に思ったのか、小首を傾げる仕草すらも可愛らしく見える。
「ねえ、かすみちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「もう1回してくれないかな?」
「えっ……!?」
今度は私が距離を詰めていく番。驚いた表情をする彼女を逃さないように捕まえる。
「あ、あの!せ、せんぱ―――」
何かを言いかけた口を塞いであげる。一瞬強ばった体はすぐに弛緩していく。抵抗は無く、私の服を掴む手が少し震えていることだけが分かった。
どのくらいの時間そうしていただろうか。
やがてゆっくりと離れると、
「歩夢せんぱい、ずるいです…」
なんて言って目を逸らす彼女。その頬は夕焼けよりも赤い。
「かすみちゃん、大好きだよ」
改めて伝える言葉。
「……はい。かすみんも、歩夢先輩のことが好きです」
小さな声で答えてくれる彼女。ああ、本当に幸せだなあと思う。
「でも、いきなりキスするのは反則だと思うの」
「うっ、ごめんなさい……」
しゅんとするかすみちゃん。やっぱりこういう所はまだまだ子供っぽくて可愛いと思う。
「じゃあ、今度の休みの日はデートしよっか」
「ほ、本当ですか!?やったぁ!!」
嬉しそうに飛び跳ねる姿に、自然と笑みがこぼれてしまう。
「楽しみにしてるね」
「はい!」
元気よく返事をした彼女と指を絡める。伝わる温もりが心地よい。
「ところで、どうして急にあんなことしたの?」
「そ、それはですね……」
もじもじしながら視線が泳ぐ彼女。どうやら言いづらい理由があるみたい。でもちゃんと言ってほしいな。
「ねぇ、教えてほしいな」
「うぅ……。分かりましたよぉ。えっと、実は昨日の夜にネットで調べたら『好きな人ともっと仲良くなる方法』って出てきたんですよね。それで、その……」
「うんうん」
「いつかやってみようかなぁって……って、あ~!言わせないでください!恥ずかしくなってきたじゃないですか!」
そう言うと彼女は私の胸に顔を埋めてくる。
「大丈夫。どんなかすみちゃんでも好きだよ」
頭を撫でながら優しく語り掛けると、
「そういうところですよぉ……」
と消え入りそうな声で言う。
「……ほんとは、もっと好きになってほしくて」
胸の中でぽつりと呟かれた言葉を聞いて、愛しさが溢れそうになる。
「そっか」
私はそれだけ返すと、ぎゅっと抱きしめる力を強めた。
「あの、苦しいんですけど……」
「我慢して?」
「むぅ……」
不満げな顔をしながらも、大人しくしている彼女がとても可愛らしい。
すると、またいつもの可愛らしい笑顔の彼女に戻る。
「まぁ、かすみんの可愛さは永久不滅ですから抱きしめたくなる気持ちも分かりますけどねっ!」
「ふふ、そうだね」
私たちは笑い合う。この幸せな時間がいつまでも続けばいいなと思いながら。
かすみちゃん、可愛いねぇ…