ろっく・ざ・らいふ   作:モモサト

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喜多さんはロックンローラー

 「身分違いの恋」というものがある。

 

 どこぞの貴族の御令嬢やお姫様と、何でもない一般人が結ばれる、古典作品の中でもベーシックな題材となる、とても浪漫に溢れた話だ。

 

 現代社会においては、自由恋愛が認められており、身分制度なんてものはないため、当時のような身分差による禁断の恋などは存在しない。

 

 しかし、「身分違いの恋の物語」という題材が、時代遅れの過去の遺物になったかというと決してそんな事はない。

 

 手の届かない星のように天上で輝く、アイドルと一般人のラブロマンス。

 

 もっと身近な所では、クラスの高嶺の華と、モブの陰キャ少年の恋。

 

 そして見方によっては、「オタクに優しいギャル」を題材にした漫画なんかも身分違いの恋の形の亜種の一つと言えるだろう。

 

 つまり、何が言いたいかと言うとだ。

 

 貴族だ、武士だ、平民だ、なんて身分制度はないと言われる現代社会においても、暗黙の内に「個人のステータス」に根差した男女の身分階級を分ける色眼鏡が、歴然と存在しているということだ。

 

 「佐藤君、少しいい」

 

 そういう意味において、帰り支度をしていた自分に話し掛けてきた、キラキラとした雰囲気の少女は、明らかに自分とは生きている世界が違うように思えた。

 

 最初からお近づきになろうという考えすらも浮かばない、自然とクラス内の中心人物にでもなっていそうな華のある、垢抜けた少女にいきなり声を掛けられて、困惑とかするより先に、まず警戒してしまう。

 

 「…何?」

 

 「朝から、ずっと気になっていたんだけど、佐藤君の持っている、それってギター?」

 

 「そうだけど…」

 

 「弾ける?」

 

 「…まぁ、よっぽど難しい曲じゃなければ……」

 

 何処か鬼気迫るではないが、追い詰められた様子で、問い掛けてくる少女に「えっ、何、怖いんだけど」と思いながら答えていく。

 

 そして自分の返答の何が琴線に触れたのかは知らないが、少女は何やら覚悟を決めたような表情を浮かべると。

 

 「お願い、私にギターを教えてください」

 

 「……へ?」

 

 勢いよく頭を下げながら、そんなことを言うのだった。

 

 

 

 

 いきなりの急展開に困惑しながら、詳しく話を聞いてみると。

 

 キラキラ少女こと喜多さん曰く、ずっと憧れていた先輩が所属していたバンドが解散してしまい、喪失感を覚えていた頃。

 

 その憧れの先輩が、新しいバンドを結成しようとギター・ボーカルを募集しているのを見て、思わずギターも弾けないのに「弾けます」と言って、新バンドのメンバーに加入してしまったのだという。

 

 そして、嘘から出た言葉を誠にするために、ギターを購入して自分なりに独学で必死に練習をしているのだが、全然上手くならず、そうしている間に一月後に新バンドの一発目のライブを決行することが決まってしまい、「もう、どうすれば良いのぉおーって感じなの」だそうた。

 

 なんなら、喜劇の話の種にでもなりそうな、喜多さんの事情を聞いて、いろいろと思う事はあったが最終的に浮かんだ感想は一つ「……行動力、えげつねぇーな」だった。

 

 ギターを弾けないのに、弾けると言ってバンドの新メンバーになるのもそうだが、そのままライブに出ようと悪戦苦闘している少女に、呆れる以上に感心してしまう。

 

 自分もギター・ボーカルとして練習を始めて何だかんだ3年近くなるが、この前の文化祭ライブの成功で多少の自信を得て、ようやく胸を張ってバンドメンバーを募集しても良いレベルに達したと思えるようになった身からすると。―――そうした小さいステップを全て飛び越えて、いきなりバンドに加入しようと突き進んでいく彼女の姿は、本当に同じヒト科の生物なのか疑わしいレベルだった。

 

 「……なんて言うかロックな生き方してんね、喜多さん」

 

 自分には真似したくても真似できない、ロックな生き様に、きっとこういう前に踏み出すことを戸惑わない人間が、バンドマンとして成功していくんだろうなと心底思う。

 

 「あははは、うん、自分でも馬鹿なことをしているなっていうのは分かっているんだけど、やっぱり、どうしても憧れちゃって」

 

 「ああ、さっき言ってた先輩に?」

 

 喜多さんは、自分の羨望入り混じる生暖かい視線の意味を勘違いした様子で、恥ずかしそうに苦笑しながら答えてくれるのに、バンドに入った理由を思い出して問いを重ねる。

 

 「うん、それもあるけど、やっぱりバンドそのものに対してもかな。……初めて先輩の路上ライブを見た時、先輩の見た目に惹かれたのもあるけど、それと一緒に普通じゃない道を進んでいるのが羨ましいなと思って……」

 

 喜多さんは、その時の憧れを思い出すように、何処か遠くをみるような目をしながら、自分の中にある言葉を探すように話を続ける。

 

 「何て言うか、私って自分で言うのもなんだけど、何でもそこそこできる方なんだけど……それだけっていうか、本当に普通で……十分、毎日は楽しいし、特別何か強い不満がある訳じゃないんだけど……何か私の人生こんなものなのかな、何か味気ないなってボンヤリ思ってて、だからバンドっていうのが何か凄く特別なものに思えたの」

 

 そう恥ずかしそうに語る喜多さんの言葉に、「ああ、分かるなー」っと深く共感してしまう。

 

 普通じゃない何かに憧れて、それに手を伸ばせない。

 

 どう手を伸ばしていいのかも分からないまま、我武者羅に手を伸ばす。

 

 その気持ちが、今は良く分かる。

 

 なにせ、それは今、自分たちが誰よりも強く感じている、もどかしさだからだ。

 

 それは、自分たちが、ボーカルとギターだけの仮バンドで、何なら文化祭で一度ライブをした事があるだけのバンドマン(笑)だからこそ一際強く、結成されたバンドに強い憧れと近づき難さを感じてしまうのかもしれない。

 

 実際に現在進行形で、どうやってバンドメンバーを集めればいいのか、どうやってバンドマンとして本格的な活動をしていけばいいのか、暗中模索の最中であり。

 

 インターネット等で募集方法について幾らでも知恵を借りて、方法を調べることはできても、そんな知識だけを頼りに未知の世界に道標もなく踏み入っていくことは、自分たち二人組には大冒険で―――そんな、成功が約束されている訳でもない世界に飛び込んで、自分の夢とか、プライドを賭けて、身一つ、歌一つで戦っている人たちを尊敬すると共に遠い存在のように感じてしまうのだ。

 

 「ほら、バンドの仲間って第二の家族って感じがするじゃない、普通の友達や恋人より、ずっと密な関係っていうか。私ってこれまで部活とかやってこなかったから、そういう皆で一緒に何かやるみたいなのに、ずっと憧れてて」

 

 ……うん、うん

 

 夢を語るように口調が熱くなっていく喜多さんの言葉に、微笑ましさと共感を覚えながら無言で頷いて同意する。

 

 「それでね、先輩にしっかりとバンドメンバーの一員だって認めてもらって……私は先輩の娘になりたいの」

 

 ……うん、うん?

 

 「そう、普通の先輩後輩より、恋人より、もっと密に」

 

 ………………本当に喜多さんは、ロックしてるなぁー。

 

 何やらうっとりした様子で虚空に視線を向ける喜多さんに対して、一日に二度も、こんな感想を抱くことになるとはと戦慄を覚えると共に、こいつは本物の「ロックンローラー」だと認めねばならないだろう。

 

 「……まぁ、話は分かったよ」

 

 とりあえず、ロックレベルが足りていない自分には、その言葉に上手い返しの言葉を思いつかなかったので、それには触れずに話を本題に引き戻すことにする。

 

 「そういうことなら、同じ駆け出しバンドマンとして力になるよ」

 

 共にバンドという物に憧れて、未知の世界に飛び込もうとしている同士として、ここで「俺には関係ない」なんて突き放すのは、あまりにも義侠心に欠けているというものだろう。

 

 ……どうしても、なりふり構わず、我武者羅に頑張っている奴は、自分の相棒を思い出して嫌いになれないのだ。

 

 「本当に、いいの!?」

 

 「ああ」

 

 「ありがとう、佐藤君」

 

 感激したように表情を輝かせながら確認してくる喜多さんに今、お礼を言われてもなぁと苦笑する。

 

 ……こちらとしても、まったく下心がない訳ではないのだ。

 

 喜多さんが一カ月後に行うライブは、下北沢のライブハウスで行うそうだ。

 

 そして、学外のライブハウスで活動するようなバンドならば、ほかのバンドマンの知り合いも多いだろう。

 

 そうなれば、その人脈の伝手でバンドを組みたいと思っているフリーのベースやドラムを紹介してもらえるかもしれない。

 

 そういう駄目で元々、成功したらラッキーくらいの打算(期待)を働かせる位は許してほしい。

 

 ……それに、幾ら獲らぬ狸の何とやらを期待してとしても、実際のところはだ。

 

 「……けど、ここはハッキリ言わせて貰うけど……喜多さんが今、どれくらいギターを弾けるレベルなのか知らないけど―――正直、一月じゃ、お客さんに上手いって言って貰えるようなレベルになることは、まず無理だと思う―――それでもやる?」

 

 「……うん、お願い―――このまま、何もせず逃げ出すなんて、そんな無責任な事だけはしたくないの」

 

 ………それでこそ、俺が認めたロックンローラーだ。

 

 それならば、こちらも本気で答えよう。

 

 「分かった、それなら、うちのギタリストと一緒に教えるって形でいいかな。うちのは、同級生の女の子なんだけど本当に凄いギタリストで、教えるのも上手いんだ……実際に、俺のギターの師匠だし」

 

 「もちろん、こっちからお願いしたいくらい」

 

 喜多さんは、満面の笑みで頷くことで話は決まった。

 

 ―――という訳で、すまん、ヒト、俺も頑張るから、お前も頑張ってくれ。

 

 目をグルグルと回しながら私が「えっ、あっ、わ、私が、知らない人に教えるの」と絶望の内に沈むだろう相棒に心の中で、謝罪する。

 

 まぁ、ある意味で当初の高校デビュー計画の当初の目的だったバンドマンアピールすることによる、バンドマンとしての人脈を広げる作戦が当たった形なので、ひとりも人見知りは発揮しても、本当の意味で嫌がりはしないだろう……多分、だと良いなぁ。

 

 「それじゃあ、教えるのは明日からでいいか?」

 

 「私は、今日からでも良いよ」

 

 「あー、やる気があるのは大変、結構なんだけど、こっちも教えるのに少し準備がいるんだよ」

 

 ……主に、ひとりの心(メンタル)の準備なのだけれど。

 

 「そっか、残念、まぁ、でも私も今日は自分のギターを持ってきてないし、それじゃあ明日からよろしくね」

 

 「あ、ああ、よろしく」

 

 目をキラキラと輝かせながら、やる気に満ち溢れている喜多さんの陽の輝きに気圧されながら答える。

 

 「そうだ、佐藤君、連絡できるようにロインも交換しときましょう」

 

 「あっ、はい」

 

 その勢いに押されるがままに、スマホをポケットから取り出した所で、ロインにメッセージが届いていることに気が付いた。

 

 ―――――モト君、何か用事?

 

 ―――――モト君の教室まで行くね。

 

 ひとりから教室にまで迎えに来ない自分に、どうしたのかを尋ねるメッセージのようだった。

 

 ああ、しまった、ひとりに、喜多さんに捕まってしまっていた事を説明するのは忘れていた。

 

 すっかり話し込んでしまって、相棒に待ちぼうけを喰らわせてしまったことに申し訳なさを覚えた瞬間、不意に視線を感じた。

 

 人気のなくなった教室の出入口の方を向くと、教室のドアを少しだけ開けて、そこからしゃがんだ状態で顔だけ出したひとりの顔がジッと此方を見詰めていた。

 

 ……きっと、都市伝説の「メリーさんの人形」が本当にいたら、こういう表情を浮かべているんだろうなぁ。

 

 寂しそうに、恨めしそうに、私を捨てないでと鬱々とした表情をしている、妹分兼相棒に捨てる訳無いだろうと呆れながら手招きをしてやると、表情をパァァーッと輝かせた。

 

 しかし、知らない人がいる事に警戒して近づかない猫のように、行くべきか、行かざるべきか葛藤するような難しい表情に変わり、しゃがんだ状態のまま動かない。

 

 「……えっと、佐藤君の知り合い」

 

 そんな、いきなり視線を教室の入口の方に向けたかと思えば、何やら通じ合ったように無言のまま身振り、手振りだけでコミュニケーションを交わす自分たちを、喜多さんが興味深そうに尋ねてくる。

 

 「ああ、うん、さっき話した、うちのギタリストだよ」

 

 「ああ」

 

 その返事を聞いて納得したように喜多さんは、改めてひとりの方を向き直る。

 

 ひとりが、喜多さんの明らかに自分たちとは住んでいる世界が違う人種の陽のオーラを向けられたのを感じたのか、ビクリと震え、追い詰められた表情を浮かべたが、直ぐに何か自分を奮い立たせるような表情を浮かべると、喜多さんが何か言うより先に震える口を力強く開く。

 

 「モ!! バ!! ギ!!」

 

 「突然のヒューマンビートボックス!?」

 

 ……きっと何か言おうとしたけど、口が上手く回らなかったんだろうなぁ。

 

 「え、えっと、ブーツカ、パーツカ、ツカツカパーツカ」

 

 あまりの羞恥心に顔を真っ赤にしていく、ひとりのノリに合わせようとするかのように、喜多さんがヒューマンビートボックスで返していく。

 

 そのことも居たたまれなかったのだろう。

 

 「ご、ごめんなさぁぁぁーい」

 

 ひとりは、何か自分がフォローを入れる暇もなく、半泣きになるとドップラーを響かせながら逃げ出してしまった。

 

 「あっ、ごめんなさい、私、何かしちゃったかしら」

 

 「ああ、大丈夫、気にしないで、ちょっと人見知りで緊張しちゃっただけだから」

 

 「そうなの?」

 

 「うん、でも、ちょっと追い掛けるから、これで帰るわ」

 

 ギターを背負って逃げ出したひとりを追い掛けるべく立ち上がる。

 

 「あ、うん、分かった。……じゃあね、佐藤君。……ギタリストの子も凄く可愛くて、面白そうな子だったし、明日からの練習、楽しみにしてるね」

 

 そう本気で思っているだろう事が分かる、朗らかな笑みを浮かべる喜多さんに……。

 

 やっぱり、喜多さんは本物の「ロックンローラー」だと確信するのだった。




ということで、ロックンローラー喜多さん誕生回でした。

原作改変と言いつつ、この展開を感想の中で予想されているだろう方が、ちらほらいらっしゃって。

少し悔しいと思いつつ、それ以上に先の展開が予想できる程度には、自分の文章は崩壊していないのだと安堵してしまう。

そんな複雑な気持ちでした。

できれば、結束バンドの第一回目のライブに向けて、ここから原作にはない形の盛り上がりを組み込んでいけたらなと思うのですが、難航中なので次の投稿も少し遅れてしまうかもです。

ありがたくもロック・ザ・ライフを読んでくださっている皆さまには、気長に次の話を待ってもらえると嬉しいです。

よろしくお願いします。
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