ろっく・ざ・らいふ   作:モモサト

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スターリーへ0(喜多さん視点)

 ……普通じゃない。

 

 何かワクワクして、胸が躍るような、特別な〝何か〟に憧れた。

 

 そうして、普通じゃない世界に飛び込んで分かったことは————私は特別でも何でもない、〝普通の人間〟なのだという事実だった。

 

 

 

 「い、イェェェェーイ、ウェルカーム」

 

 いつものジャージ姿の上に、星型のサングラスと「フィンランド親善大使」と書かれたタスキを掛けた後藤さんが、「パン」と手に持ったクラッカーを鳴らしながら出迎えてくれた。

 

 「…よかった、後藤さんも楽しみにしてくれてたのね」

 

 「……あっ、はい……それじゃあ、部屋まで案内するので、どうぞ」

 

 少しばかり、何ともし難い空気が一瞬流れたりしたが、私のお泊り用の荷物の入ったバックを一つ持ってくれた後藤さんの後に続き、和風の一軒家の2階の一室に案内される。

 

 そして案内された部屋を見た瞬間、思わず絶句してしまう。

 

 ……後藤さんって、ミニマリスト(身の回りの物を最小限に抑える志向の人)なのかしらと咄嗟に、そんな事を思ってしまうくらい。

 

 案内された後藤さんの部屋は、ごく普通の和室の一部屋ではあったが、部屋はとても広々としていて、私だったら必要最低限と思える物も置いていないようだった。

 

 けれど、問題の大筋はそこではない。

 

 そんな、生活感のない殺風景な部屋を彩るように、部屋の四方に貼られたお札に、四隅に置かれた盛り塩の存在感が、果てしなく不穏で……。

 

 人が住んでいるか疑わしい生活感の希薄な部屋に、そんな魔除けの呪術が幾重にも張り巡らされている光景は、どう贔屓目に見ても呪われた部屋そのもののようだった。

 

 ……えっ、何コレ、何かのドッキリなのかしら?さっきも何か少しテンションがおかしかったし、私のリアクション待ちなの?それなら、この頃、マンネリ化気味のイソスタの投稿用に写真とか撮らせてもらっても……

 

 「……あっ、それじゃあ飲み物とってくるので、楽にしててください」

 

 「お願い待って、後藤さん!!」

 

 「?…あっ、モト君なら、少し遅れてくるみたいです」

 

 「そうだけど、そういうことじゃないのよ」

 

 呪いの部屋の存在に何も疑問を感じていない様子で、私を一人残して部屋を後にしようとする後藤さんを必死に引き留める。

 

 この部屋に張り巡らされているお札は何なのかと尋ねると、後藤さんが「あっ」と何かに気付いた様子で答えにくそうに「え、え、え、えーと、あの」と言葉を濁す。

 

 すると、横から唐突に現れた、後藤さんの妹だというふたりちゃんが、この前、後藤さんと佐藤君の二人が幽霊に憑りつかれたから、魔除けのために貼っているのだと説明してくれた。

 

 「あわわわわ、ち、ちがっと」とパニックになっているの後藤さんを横目に見ながら、今からでも強化合宿の開催場所を私の家か、佐藤君の家に変更すべきかと本気で悩んだ———その時、「どうしたんだ?」っと、佐藤君がケーキの入った箱を片手に遅れてやってきてくれた。

 

 そうして事の次第を把握すると、「あぁぁぁぁー」と恥ずかしそうに顔を手で覆った後、高校デビュー計画のリハーサルを後藤さんの御両親に見られて、誤解されただけなのだと説明してくれて、ようやく安心できた。

 

 「……そっか、パーティーみたいな飾り付けはしなくて良いとはアドバイスしたけど、お札を剥がしとくってのは盲点だったなー」

 

 「だ、だね、当たり前になり過ぎて、忘れてたね」

 

 そんなことを、今更ながら納得したように反省する私の二人の先生は、薄々気付いてはいたが、かなりズレているようだった。

 

 

 

 ――――そんな、なかなかに衝撃的なイベントから始まった強化合宿だったが、始まってみれば、せっかくの連休中にも関わらずお邪魔してしまっている私を、後藤さんの御家族総出で盛大に温かく迎えてくれた事もあり、充実したものになった。

 

 いつもと違う環境の中での練習は、少し新鮮な気持ちで臨むことができて、自分でも驚くほどよく集中することができた。

 

 きっと集中力が途切れてしまった練習の合間に、ふたりちゃんと一緒に遊んだり、ジミヘンの散歩に行かせてもらったり、私が持ってきた映画を皆で見たりと、一人で練習していたならば精神的に追い詰められて、我武者羅にやるしかなかった所を、メリハリを付けて望めた事も良かったのだろう。

 

 夜は、後藤さんの部屋に布団を敷いて二人きりで、寝るまでの間、いろいろな事を話した。

 

 もっぱら私が自分の事を話す事が多かったけれど、後藤さんの事もいろいろと知る事ができた。

 

 ……その中で私の趣味でもあるイソスタの話題になった時、私のイソスタのページを見せながら、「後藤さんはイソスタはやってないの」と尋ねたら。

 

 何故か、後藤さんは胸を押さえて苦悶しながら布団の上でノタウチ回り、「わ、わたしが八景のツチノコですぅー」と良く分からない事を言い出した。

 

 いつもなら、こんな風にバグってしまった後藤さんの対処は、佐藤君が手慣れた様子で引き受けてくれるのだけれど、私しかいないので「後藤さん、後藤さん、しっかりして」と何とか現実に引き戻して事情を聞いてみると。

 

 死んだ目をした後藤さんは「…と、友達と自撮り写真を撮ったことない女子高生とか、わ、私くらいしかいないんじゃないかと思いまして」と、そんな返事が返してきた。

 

 何と答えていいのか分からず―――佐藤君と一緒に写真を撮ったりしなかったのと聞いたら―――家族が何かの記念に撮ってくれる写真とは別に、二人で写真を撮ろうという発想になった事が無かったのだという。

 

 ……考えてみれば不思議な二人だ。

 

 男女の兄妹同然の幼馴染とか、もっとこう良くも悪くも何かあるだろうと思うのだけれど、この二人が一緒に並んだ時のほのぼの感は何なのだろう。

 

 次の話題は、このバンドを組んでいる幼馴染の関係についてねと決めながら……とりあえず「後藤さん、それなら一緒に写真を撮りましょう」と、後藤さんの布団の隣に入れて貰ってパシャリと一枚撮るのだった。

 

 

 

 ……そして、夜の女子トークで後藤さんに聞き込みをし、練習の合間にそれとなく佐藤君に探りを入れてみて分かった事は、とりあえず二人の関係は「相棒」であるらしい、という事だった。

 

 後藤さんは、その関係性について話してくれた時、その「相棒」という表現の響きを気に入っているみたいで、少し恥ずかしそうにエヘエヘと笑っていたし―――佐藤君の方は、恥ずかしいのか、いつも以上にぶっきらぼうに、そう応えてくれた。

 

 二人共人付き合いが苦手で、天然の所があるという共通点はあるし、二人でバンドを組んでいるのだから、その関係が「相棒」だと言われれば、そんなものかと思わなくもないけれど―――見た目的には、正反対な印象を受ける二人が互いを「相棒」と呼び合っている姿は、傍目から見て違和感が大きかった。

 

 まぁ、当人同士がそれで納得しているのなら、それは、それでいいのだけど。

 

 それより問題なのは、それ以上の関係に発展する可能性があるのかどうかだ。―――具体的には、二人きりの時とか、もっと甘い雰囲気になったりしないのかろか、そこら辺が気になって、気になって、仕方ないのが女子高生というものだろう。

 

 だから、二人きりの時とか、どんな感じなのかと水を向けてみたのだが……。

 

 二人から返ってきたのは「別に、普通に」という非常に淡泊なものだった。

 

 それなら、その普通の感じを見せて欲しいとお願いすると、二人は困った様子で顔を見合わせ、「……あー、それなら、いつもしてる、バンドの練習をしている所で良い?」と聞いてきた。

 

 そういえば、これまで練習している時は、当然ながら私のギターの練習がメインで、後藤さんの演奏を聞かせてもらった事こそ何度もあるが、二人のバンドマンとしての方向性や実力は見せて貰ったことは無かった。

 

 少しばかり、私が求めているものとは違うような気はしたが、見た目的には正反対ながら「相棒」と呼び合う二人が、どんな演奏をするのか凄く興味があった。

 

 「いいの、お願い」

 

 だから、私が本当に楽しみだとお願いすると、二人は少し気恥ずかしそうに、やりにくそうに準備をすると―――「それじゃあ」と一言前置いて、二人はタイミングを取るように視線を合わせた。

 

 

 ……その瞬間、二人の間に流れる空気がガラリと変わった。

 

 

 披露してくれるのは、私が今度ライブでやる曲だ。

 

 後藤さんのエレキギターがイントロを奏で始め―――この一月で嫌と言うほど聞き込んだ曲である筈なのに、まるで初めて聞く曲であるかのような衝撃を受けた。

 

 それは、これまで何度も聞かせて貰った後藤さんの演奏とは全く違ったからだろう。

 

 まるでギターの音色が、生きているかのような躍動感に満ち溢れていて、そのギターの音色に心臓を鷲掴みにされたように一瞬で、その音の世界観の中に惹き込まれてしまう。

 

 そして、その輪郭だけだった世界観に形を与えるように佐藤君が歌い始める。

 

 マイクなど使っていないにも関わらず、圧倒的な声量で歌われる声の力強さに、ビリビリと体の奥底から震えが走って。

 

 ……同じ歌い手として、ただただ圧倒された。

 

 特別声が高い訳でも、低い訳でもないにも関わらず、どこか声の奥に物々しく、荒々しい、何かが潜んでいるような―――。

 

 聞く者に緊張を強いるような圧力と厚みのある歌声は―――佐藤君の歌声を一度でも聞いたことがある人間ならば、知らない場所で、知らない曲として流れてきたとしても、彼の歌だと一瞬で分かるほどに、彼だけの歌の形のようなものを既に持っていて―――。

 

 その声の圧力を、歌の迫力に変えて、歌に込められた感情を表現できる、センスと。

 

 声の厚みを、歌詞の厚みに変えて、歌の世界観に奥行きをつくれる、フィーリングに。

 

 プロになる歌手というのは、こういう人間なのだろうと、思い知らされた気がした。

 

 そして、その声が、後藤さんの「歌うようなギター」の音色に乗って、重なると。

 

 まるで、それが完成系であるかのように一つの音楽として完結しているように思えて。

 

 ……その瞬間、学校のクラスでは教室の隅で静かに本でも読んでいる事が多い二人が、スーパースターかのように輝いて見えた。

 

 ……ああ、この二人は本当に「特別な相棒」なのだと。

 

 その、たった二人だけのバンドの演奏に、ただただ圧倒されながら、そう思った。

 

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