ろっく・ざ・らいふ   作:モモサト

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やっぱり喜多さんはロックンローラー

 ゴールデンウィークの最終日、喜多さんの頑張りに審判が下る日、ひとりと一緒に大丈夫だろうかと、意味もなく二人でウロウロしながらヤキモキしていたのだけれど―――――その日の夜、こちらの心配が杞憂だった事を伝える電話が掛かってきた。

 

 「先輩たちに認めて貰えたの、佐藤君と後藤さんのお蔭よ。……本当にありがとう、明日、学校でチケット渡すから是非、私たちのライブを見に来て」

 

 と、そんなやる気と嬉しさに満ち溢れた報告の声に、ほっこりして「良かったね、楽しみにしている」と返しながら、少しだけ残念に思ってしまう自分がいた。

 

 喜多さんが、憧れの先輩たちと「結束バンド」を組める事は本当に喜ばしいのだけれど、もしダメだったなら喜多さんと一緒にバンドを組む事ができたのではないかと、そう心の何処かで期待していた自分がいたのだ。

 

 自分のような一匹狼と偏見なく接してくれて、何より相棒兼妹分のひとりと何処かフィーリングが合い友達になってくれる女の子など、自分たちにとっては黄金以上に貴重な人材だ。

 

 ……それだけに、本当に残念なのだけれど―――。

 

 「お、おめでとうございます、喜多さん」

 

 「ありがとう後藤さん」

 

 自分の渡した電話で、喜多さんの結束バンド加入を自分の事のように喜んでいる、ひとりを見ていると、そんな考えは無粋以外の何者でもないようだと苦笑する。

 

 ……まずは、師匠兼友人として弟子の目標が叶ったことを祝福しようと、二人の少女の友人関係を微笑ましく見守るのだった。

 

 

 

 そして、迎えた喜多さんの初ライブの日。

 

 

 

 学校の昼休みなどの僅かな時間も自分たちの下に来て練習に励み、放課後は結束バンドのメンバーと音合わせ等の練習に励んでいた、教え子の晴れの舞台だ。

 

 さながら気分は、自分の娘の発表会に向かう父兄の気分だろう。

 

 お世辞にも上手いとは言えないレベルで舞台に立つ少女を心配する気持ちと、それ以上に彼女がステージ上で精一杯の演奏をして楽しそうに躍動してくれる事への期待で一杯だった。

 

 ……なのだけど、いざライブ会場のある下北沢にまで実際に来てみると、急に心配と不安の方が先に立ってくる。

 

 通っている秀華高校からほど近い場所にある下北沢だが訪れるのは、初めてだった。

 

 下北沢と言う場所は、「若者の街」「ファッションの街」「サブカルチャーの街」などと呼ばれる、東京都内の中でも独特のステータスを持っている。

 

 そんな評判も納得できるような、少し尖った独特なオシャレ感の漂う街は、この場所と比べたら神奈川の片隅の出身である、自分たちには僅か敷居が高いように感じられた。

 

 「……うぅぅ、し、下北沢ってオシャレな人ばっかり」

 

 まぁ流石に、自分の背中に隠れるように身を小さくしている妹分ほど萎縮したりしないが、その気持ちが理解できる程度には、独特の感性が集まっている街だった。

 

 「だなぁー」

 

 「だ、だよね……わ、私なんて、芋ジャージだし、くま酷いし、猫背だし、いつも押し入れの中にいるから、きっとかび臭いし……」

 

 「……どっちかって言うと防虫剤の匂いじゃないか?」

 

 「んっ、んっ」

 

 「いて、いて、悪かった、冗談だよ」

 

 緊張を解そうとカラカイ混じりに叩いた軽口に、拗ねたように背中に軽く頭突きしてくる妹分に謝りながら、こういう所は女の子なのだなと思わされる。

 

 「はぁー、でも大丈夫なのかな喜多さん」

 

 何にしても、下北沢の少し尖った雰囲気を実際に肌で感じると、こんな独特な感性が集まったような街で、まだまだ教えなければいけない事が一杯ある少女が受け入れて貰えるのか急に不安になってしまう。

 

 上手い演奏ができなくて凹むくらいならば良い、けれどバンドの事が嫌いになったり、あの華すら感じさせるような明るさが曇ってしまったらと思うと心配で仕方がない。

 

 ……もっと何か力になってあげることができれば良かったのにと、今更ながら、そんな後悔の念が押し寄せるように湧き上がってくる。

 

 「だ、大丈夫、喜多さんは、きっと特別だから」

 

 けれど、そんな自分の不安など一蹴するように、ひとりが珍しく何かを確信しているように、自信を持って断言する。

 

 自分も喜多さんの可能性のようなものに期待を抱いているが、どうやら自分以上にひとりは、喜多さんの可能性を強く信じているようだった。

 

 ―――きっと男故にハブられる事になった、魅惑の秘密に満ちた少女たちのお泊り会で、ひとりにそう確信させる何かがあったのだろう。

 

 一体どんな話をしたのか、何があったのか興味は尽きないのだが……

 

 「何かあったのか?」

 

 「ひ、秘密」

 

 ひとりが、少し悪戯な笑みを浮かべて、そう言うのなら無理に聞き出すのも野暮というものだろう。

 

 自分以外にも秘密を共有できる相手ができた妹分の成長に、嬉しいやら寂しいやら……。

 

 何にしても、自分以上に人のことを良く見ている相棒が、そういうのならば、ただ期待することにしよう。

 

 「……そっか、それじゃあ、楽しみしとこうか」

 

 「う、うん」

 

 喜多さんに貰ったチケットに書かれた地図によると、ライブ会場であるスターリーは、もう直ぐそこの筈だった。

 

 

 

 ライブハウス「スターリー」は地下に会場があり、入り口も地下にある。

 

 ライブハウスなど初めて入るが、入場前から漂うアングラ感に、日常から非日常の世界に片足一歩くらい踏み入れるような緊張感を覚えながら入り口を潜る。

 

 すると、直ぐに受付らしいスタッフに声を掛けられた。そこで、チケットを渡すと、どのバンドを見に来ましたかと聞かれ「結束バンドです」と一言答えると、引き換えにドリンクチケットを渡された。

 

 どうやら、これでドリンクが一つ注文できるらしい。

 

 防音対策のためだろう分厚く重たい扉を抜けた先にあるライブ会場は、間接照明で照らし出されたようなムーディーな雰囲気が漂っていた。

 

 収容キャパは立ち見で200人くらいが限界だろうか?ライブ会場と聞いて漠然と小ホールくらいの大きさを想像していたが、それよりはずっと狭い会場だった。

 

 既にそれなりの数の観客が入っていたこともあり、薄暗く狭いフロアは、何処か圧迫感があり、なかなか新参者には気の休まらない場所だと思ったのだが……。

 

 「……わ、私の家」

 

 夜中など一人で押し入れの中でギターを弾いている、ひとりにとっては、そうでもなかったらしい。

 

 ライブハウスに入る前は、これでもかとビビリ倒していたのに、今はニヨニヨと何処か安心したように笑っているのに、相変わらず変なところで肝が据わっているなと感心してしまう。

 

 そんな、ひとりを見ていると一匹狼の性が騒いで舐められないようにと、無駄に警戒心を張り巡らせていた自分が馬鹿のように思えてしまう。

 

 ……まぁ、そのひとりも、直ぐに会場にいるお客のほとんどが同年代のキラキラした女子高生たちである事に気付き、加えて店員のスタッフさんたちも中々にヤンチャそうな人たちである事が分かった瞬間、心を閉ざして再び自分の背中に隠れてしまったのだけど。

 

 めでたくライブハウスでも、その場の空気に溶け込めない異物となった自分たちは、何とかBARのような子洒落たカウンターで、ドリンクチケットと引き換えにドリンクを貰うと会場の隅で、壁の花となるのだった。

 

 

 ………とはいえ、そこでボーっと時間を持て余していた訳ではない。

 

 

 これから初ライブを行う、喜多さんに何か激励のメッセージを送りたいとは思うのだが、どんなメッセージを送ればいいのか、そもそもメッセージを送っていいのか、二人で頭を悩ましていたのだ。

 

 基本的に人付き合いの経験が乏しい自分たちには、こんな時、どうするのが正解なのか判断がつかず、ああだ、こうだと相談しながら、メッセージを送るか、送るとしたら文面をどうするか考えている間に、もう後、数十分でライブが始まる時間になってしまった。

 

 そこで、ええい、もう勢いで送ってしまえと。

 

 「ライブハウスに着いた。喜多さんのロックンロール、楽しみにしてる」

 

 「こんな私でもライブができたんです。喜多さんなら絶対できます。喜多さんの〝特別〟を見せてください」

 

 その時、候補に上がっていたメッセージを二人で一斉に送る。

 

 喜多さんに変なプレッシャーを掛けてしまわないか、緊張しながらドキドキしていると、直ぐに既読のマークが付き、「任せなさい」というスタンプが返ってきた事に安心する。

 

 直ぐに、こんな返信が返ってくる辺り、本番前に変にナーバスになっている訳ではなさそうだ。

 

 少なくとも初ライブの前の大きな関門は、一つクリアしているようだ。

 

 ……それならば、この一カ月間、無理だと諦めることなく、逃げ出すことなく、我武者羅に先に先にと挑戦し続けた、ロックンローラーの勇士を楽しみにさせて貰おうと、自分は思ったのだけれど……。

 

 「あ、あばばばば、や、やっぱり、喜多さんに変なプレッシャー掛けちゃったかなぁ!?」

 

 いつも多弁な喜多さんのロインの返信がスタンプ一つだったことを深読みした、ひとりがグルグルと意味もなく、その場をうろうろと徘徊し始めるのを宥めながら、何だか自分も不安になってくるのだった。

 

 

 

 ――――そんな期待と不安が入り混じる、喜多さんの所属する「結束バンド」の初ライブが始まる。

 

 

 

 会場のフロアの明かりが絞られ、代わりにステージの明かりが強くなる。

 

 主役たちのための舞台が整えられ、その出演者たちが登場してきた瞬間、目の前の女子高生の集団から小さな歓声の声が上がった。

 

 女子高生の集団に混じってステージの最前列に潜り込むなどできず、その集団から少し離れた最後列からステージを並んで見上げていると、そんな自分たちの姿を確認してくれたらしい、喜多さんがクスリと笑い掛けてくれるのが見えた。

 

 ……どうやら、ガチガチに緊張している訳ではないらしいと安心する。

 

 そして一緒に出てきた会場にいる知り合いに笑顔で手を振る、何処か親しみやすそうな笑顔が眩しい少女がドラム担当で―――淡々とベースのセッティングを行っている、何処か中性的なクールな雰囲気の少女がベース担当らしい。

 

 ……これが喜多さん経由で、話だけは聞いていた結束バンドの先輩たちか。

 

 噂だけで知っていた有名人を目の前にしたような奇妙な感慨を覚えながら思うのは、顔面偏差値のレベルが高いバンドだなと言う事だ。

 

 このキラキラ感があったら、バンドメンバーを集めるのも苦労しないんだろうなと、演奏とかとは関係ないところで、無性に敗北感を覚えてしまう。

 

 ………ああ、きっと、片思いの相手の彼氏を見た時って、こんな気分なんだろうなー。

 

 密かに一緒にバンドを組めたらなと思っていた相手が所属するバンドメンバーを前にして、そんな未練がましい気持ちが蘇ってしまう女々しい自分に苦笑する。

 

 けれど、必死にセッティングを整えて本番に臨もうとしている喜多さんを、何処か心配そうに見守っている結束バンドの先輩たちの姿を見ていると、そうした未練も自然と払拭されていく。

 

 その姿から、バンドメンバーとしての確かな繋がりのようなものがある事を確認できて、少なくとも自分の弟子を安心して任せられる相手ではあるようだったからだ。

 

 まだ技術は拙いけけど、きっと精一杯頑張る彼女を、どうか支えてあげて欲しいと祈るように願う。

 

 「……き、喜多さん、良い表情してるね」

 

 「……だな」

 

 ひとりが安心したように笑ってポツリと漏らすように話し掛けてくるのに、改めて喜多さんの表情を見てみると、何かに挑戦することを楽しむような目の輝きが宿っていることが見て取れて同意する。

 

 こういう演者の表情すらも見て取れる、距離の近さがライブハウスの良さだろう。

 

 何か、やってくれそうな期待を抱かせる、研ぎ澄まされた雰囲気を、喜多さんから感じ取れた。

 

 そしてセッティングが終わったのだろう、喜多さんがバンドメンバーの二人に準備が整ったことを伝えるように視線を向ける。

 

 「お待たせしましたー、結束バンドでーす」

 

 それを、合図にしたようにドラムを担当している少女の明るいMCの声が響き渡り、それを盛り上げるようにドラムとベースの音色が勢いよく奏でられた。

 

 「私達、結束バンドはまだ結成したばかりのガールズバンドです。初ライブなので、少しの失敗はご愛敬ってことで、必死に演奏するので、どうか今日は楽しんでいってください。人気の曲のカバーを3曲演奏するので、多分、皆さんも知っている曲があると思います」

 

 この1月近くの間、その3曲の演奏を完璧にするためだけに費やしたのだから当然、知っている。

 

 一曲目は、少し古いバンドの曲で、強いて言えばメロコアに分類される軽やかでキャッチーなメロディーが人気の曲で、歌詞の内容から春頃にカラオケで歌われる事が多い歌だ。

 

 テンポの速い曲であるため最初の出だしをミスると、そこからメロディーを追い掛けてテンポを修正するのが少し難しい曲でもある。

 

 曲の入りが肝心だぞと、何度も繰り返したアドバイスの内容を心の中で改めて忠告しながら、喜多さんを見詰める。その時、喜多さんと目が合ったような気がした。

 

 「それじゃあ、まずは、さっそく一曲目聞いてください、ニュー・オーシャンの『君に届け』です」

 

 カッカッカッ

 

 ドラムの少女がドラムスティックを叩き合わせる音に合わせて演奏が始まる。

 

 完璧な出だしのタイミングで曲に入った一曲目の演奏は、喜多さんの力量に合わせるように、原曲より少しだけBPMを下げているらしい事に直ぐに気付いた。

 

 僅かにテンポを緩やかにしたことで、生まれた余裕を最大限に活用するように、喜多さんが自分にできる精一杯をギターにぶつけるように一音一音丁寧に、けれど失敗を恐れることなく大胆なストロークで奏でていく。

 

 その、必死に奏でられたギターの音色は、隣にいる相棒が初めて自分に演奏を聞かせてくれた時のような「自分を変えたいのだ」と音に思いを込めて、叫んでいるような激しさが込められているような気がして……。

 

 技術的な話をすれば決して上手ではない筈なのに、その音色を通して誤魔化しのない気持ちを真っ直ぐぶつけられているような迫力があって、その拙い筈のメロディーから耳を離せない。

 

 そして、肉眼で表情すらも確認できる距離感で、自分の持てる情熱と技量の全てを表現しようとしている、その真剣勝負をしているような凛々しい表情と、全身から放たれる空気感に惹き込まれて、応援したくなるような……華があって。

 

 喜多さんらしい、いじらしさが詰まった音色は、「君に届け」という曲の軽やかでキャッチーだけれど、自分の本気の気持ちを誰かに伝えたいと願う、歌の世界観を構築するメロディーラインの空気感によく合っていた。

 

 ……こんなプレイができたのかと一月、練習を見続けてきたけれど、こんな感情を爆発させたような喜多さんの姿をみるのは初めてで。

 

 きっと、ひとりは、こんな感情を爆発させた喜多さんの姿を自分のいない何処かで見たのだろう。

 

 その憶測を確認するようにチラリと隣を確認すると、思った通り、ひとりは喜多さんのプレイに驚くことなく、共感するように、ただ嬉しそうに笑っていた。

 

 ……どうやら、これが彼女の本当の姿らしい。

 

 ……本当に嬉しいやら、寂しいやら、だ。

 

 そんな自分の感傷を置き去りにして曲は進んでいき、どこかバンドとして何かが少しだけテンポやリズムが噛み合っていない僅かな違和感を残したまま、歌い出しのタイミングへと進んでいく。

 

 「夕焼けの校舎、見納めに振り返り、名残惜しいと君は笑った。――退屈だと思った日々も、悪いものじゃなかったと、君が教えてくれたんだ」

 

 歌いだしの第一声の歌声が、気合が空回りするように上ずり震えていたことに、同じギター・ボーカルにとしてヒヤリとしたものを感じたが、その失敗で逆に開き直ったように立て直された必死の歌声が、ライブハウスを突き抜けていくかのように通り、ライブハウス中を震わせた。

 

 「いつも一緒に歩いた帰り道、泣きごと言い合う、二人で決めた秘密の合図も、あの時、君が笑ってくれたから特別になった」

 

 これまでの喜多さんのカラオケで上手く歌うための小手先の歌い方じゃない、ロックバンドのフロントマンとしての高みを目指すような歌い方で、BPMを緩やかにしている分だけ原曲よりのびやかに歌われた、喜多さんの少しハスキーな癖のない綺麗な声が―――自分のために歌われているのかと錯覚してしまうほど、真っすぐに自分の下にまで届いてくる。

 

 「何か一つ願いが叶うなら、積み重ねた今までが嘘じゃないって、笑顔一つで教えてくれる、君のように笑う人になりたいよ」

 

 自分の限界を振り絞るようなギリギリの所で、戦うことを楽しむように喜多さんが小さな笑みを浮かべながら必死に歌う。

 

 その歌う姿に見惚れながら、少しずつ何かが噛み合うように一体感を増していく、3人の演奏の音に埋没することなく邪魔することなく、一つの音楽として届いてくる声に聞きほれてしまう。

 

 ……ああ、良い声だな。

 

 自分の歌声のように癖がなく綺麗に通る歌声は、何処か華があり、思わず一緒に歌を口ずさみたくなるような人を惹き込む魅力があって、性別の違いこそあれど自分が理想として求めていた歌声の声質に近かった。

 

 ……けれど、そんな抜群の歌声も、今は宝の持ち腐れだった。

 

 もともとの歌唱力の高さ故に崩壊していないが、きっと喜多さん自身、こんな歌声を出すのは初めてなのだろう。

 

 歌の端々に自分のポテンシャルを持て余すような不安定さが感じられた。

 

 けれど、そんな不安定さすらも魅力の一つに感じられるのは、喜多さんの中で噛み合っていない歯車が時偶、何かの拍子に噛み合った瞬間、ゾワリと背筋が震えて圧倒されるような輝きの片鱗を感じさせるからだろう。

 

 BPMを下げたが故に、伸びやかに歌われる声の中で、歌の節目の最後に声を伸ばしてビブラートを掛けた時の歌声は―――何処か自分の歌い方に似ていて―――本当に圧倒されるような迫力があった。

 

 「飾ることしかできない弱い私は、君が見せてくれた本当に救われたんだ。いつか本当の気持ちを君に返したいよ」

 

 そんな、自分の中のポテンシャルを持て余して、振り回されている暴れ馬のような喜多さんの演奏と歌を支えて、背中を押すように、ベースとドラムの音が、音の厚みを増していく。

 

 初めてのライブハウスで聞く、ドラムとベースの音は体の中で反響しているように錯覚するくらい力強く聞こえた。

 

 ……特にベースが上手い。

 

 コード進行の基準になるルート音だけでなく、不安定な喜多さんのメロディーラインをカバーするように、自身も補佐的にメロディーラインの音を奏でて、リズム隊としての役割だけでなく、メロディーラインにも音の厚みを足して曲を支えているのだ。

 

 逆にドラムの方は、緩やかなテンポになった分だけアクセントとなる手数を増やしたくなるところを、主役となる歌を引き立たせるために余計な音を足さず、リズムを支えることを第一に、縁の下の力持ちとなることに徹して、全体を考えた引き算で喜多さんの歌とギターの音色を引き立たせている。

 

 喜多さんの歌とギターを軸にするように、ドラムとベースが動いて、一つのバンドとして、サビを直前に音が噛み合い始めていく。

 

 「泣いたって、笑たって、それでも君に伝えたい。ありがとう、君がいてくれてよかった。それだけを届けるために歌う、君に届けと歌う歌」

 

 ――――そして、サビに突入した瞬間。

 

 一段とギアを上げて腹の底から声を張り上げるように必死に歌い、ギターを弾く喜多さんの歌とギターの音色が……

 

 喜多さんの挑戦を支えようとするベースとドラムの音が……

 

 その一瞬、確かに全てが噛み合って、結束バンドというバンドの音楽に自分は魅了されてしまったのだった。

 

 ……初めて喜多さんと出会った時、きっと彼女のように前に踏み出すことを戸惑わない人間が、バンドマンとして成功していくのだろうなと心底、思った。

 

 そして、その通り彼女は、傍目から見たら無茶だと心配してしまうほど我武者羅に前に進み続け、本番の舞台に臨み、そこでしか得られない何かを掴み取って、更に先へと進んで見せた。

 

 ………ああ、あの時思った通り、やっぱり喜多さんはロックンローラーだった。

 

 

 

 ―――――

 ――――――――――

 ―――――――――――――――――

 

 

 

 「も、モト君、私達も早くメンバーを集めてライブしたいね」

 

 「だな」

 

 ライブが終わった帰り道、ライブの興奮が引かないまま、相棒とそんな会話を交わす。

 

 演者の人間と知り合いで、一緒に悪戦苦闘した中だというのもあるのだろうが、短い20分ほどのライブの中に確かなドラマが感じられて、心が震えるのだ。

 

 全体を通して見ればバンドとしてのミスが多く、完成度もまだまだで、不安定で危なっかしい演奏だったけれど、今の自分にできる精一杯をぶつけるような演奏は、その先の可能性に夢を魅せるような可能性に満ち溢れていて……あんな自分たちの限界を振り絞るようなライブをしたいと胸を熱くさせられて、憧れを抱かせる、最高に熱いライブだった。

 

 まぁ、ただ一つ注文をつけるなら。

 

 「……でもMCだけは、ただ滑りだったな」

 

 「だ、だね、私達は気を付けよう」

 

 そんなことを言い合ってクスリと笑い合い、喜多さんに送るライブの感想の文面を考えながら、少し蒸し暑さを感じるようになった夜の下北沢を後にするのだった。




 この後、どうなるんだろうと読者の方が思ってくれる時、だいたい筆者も同じように、この後どうなるんだうと思っている。
 
 また、次の更新は少し遅くなってしまうからしれませんが、やっと原作に突入した「ろっく・ざ・らいふ」の続きを楽しみにしてもらえると嬉しいです。
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