ジャーン、ジャーン、ジャーン
心地いい狭苦しさを感じる押し入れの中、哀愁を帯びたギターのメロディーに万感の思いを乗せて、歌い出す。
「幼馴染と一緒に、高校デビューをしようとしたらー、二人で失敗してたー」
ジャン、ジャカ、ジャン、ジャカ
「クラスに友達できなかった」(((1カ月)))
「気付いたら友達のいる」(((幼馴染)))
「そのオマケで友達にしてもらった」(((ダメな私)))
ジャカ、ジャカ、ジャカ、ジャカ
「せめてバンドメンバーだけは、バンドメンバーだけは絶対に集めるんだぁぁぁあー」
ジャン、ジャァァーン
「そんなバンド生活の第一歩が、今日から始まりまーすー」
………作詞・作曲 私 『押し入れより哀と希望を込めて』
と、いけない、いけない。
昨日の喜多さんの初ライブの熱に触発されて、家に帰ってからギターを掻き鳴らし続けていたが―――我ながら熱の籠った演奏は、かなり手応えがあったので急遽、動画撮影を開始し、編集作業まで終わらせた解放感と、今日と言う日への期待感から、思わず糞みたいなオリジナルソングを演奏してしまっていた。
「そんな、つまらないものじゃなくて、ゴールデンウィーク中に更新できなかった、ギターヒーロー用の弾いてみた動画をアップして、っと」
手元のノートパソコンを操作して、売れ選のバンドの曲の弾いてみた動画を暫く更新の滞っていたOH!TUBEにアップする。
………早くコメントが付かないかなぁー
そわそわしながら、いつも温かなコメントをくれる視聴者さんたちの反応を心待ちにしながら―――ふと、一息をついて押し入れの壁に寄り掛かると、この一月の間の出来事が、次々とフラッシュバックするように脳裏に蘇ってきた。
高校生活という新しい環境に適応するだけでも大変だったのに、本当に目まぐるしく様々な事が起こった。
綿密に練った高校デビュー計画は、バンドグッズのチョイスが硬派過ぎたせいか、誰も話し掛けてくれず―――私の方から話し掛ける勇気を持つことができなかったせいで、見事に高校デビューに失敗し。
モト君の方も、ただでさえ気軽に話し掛けられない雰囲気(オーラ)を身に纏っているのに、硬派なバンドマンという近づき難さ増し増しのキャラ付けをしたせいで、誰も近寄ってくれないという事態に直面して、同じく失敗し。
やはり「ネックラーズ」という自虐を込めたバンド名の由来となった呪いの宿命からは逃げられないのかと凹みながらも、「私達なりに努力はしたよね」と傷を舐め合い、励ましあって……。
……正直、モト君も一緒に失敗してくれたことに安心した。
モト君しか友達がいないのは、中学の時から変わらなくて、現状維持のまま、この関係が変わらず続いてくれるのなら———この結果も結果オーライかなと思えた。
だから、「え、えへへ、でも、これは、これで、将来、私達がMスタに呼ばれた時とか、学生時代は、お昼とか誰も人が来ない場所で二人きりでご飯を食べてました。……クラスに全然、友達いなかったので、ってギャップトークができるね」っと思わずそんなことを言ってしまうくらい。
―――この路線も将来の事を考えれば、悪くないと本気で思えた。
それくらいモト君と一緒なら、どこまでだって行ける確信があったからこその言葉だった。
……まぁ、当の相棒であるモト君には、思いっきり笑われてしまったのだけど……。
高校デビュー計画が失敗して少し落ち込んでいたモト君が、屈託なく笑ってくれたのならば、それも結果オーライだろう。
………きっと、これからも、こんな感じで二人で、高校生活を過ごしていくことになるんだろうなぁー。
―――そんな確信にも似た予感は、その日の放課後には裏切られたが―――。
特別、約束などはしていなかったが、暗黙の了解として当たり前のように一緒に帰るつもりでいたモト君が、何時まで経っても迎えに来てくれない事に、何かあったのかとロインでメッセージを送ってみても返信がなく。
モト君の教室にまで様子を見に行ってみると、モト君が明らかに私達とは住んでいる世界が違う、オシャレな可愛い女の子と何処か気心の知れた様子で話していたのだ。
教室の外から僅かにドアを開けて覗き見をしていたため、何を話しているのかは詳しくは聞こえなかったが、ギターがどうこうと話しているのを聞こえてきた。
―――あの時に抱いた絶望感は筆舌に尽くしがたい。
あんなに可愛くて、性格も良さそうな、キラキラした子がギターでバンドもやっているなんて、そんなの私は何一つ勝てる要素がないではないか。
……わ、私のアイデンティティが崩壊してしまうぅぅぅう。
モト君が、私のことを捨てる筈がないと頭では分かってはいるのだけれど。
同じボッチ仲間だと思っていたモト君が一人遠くに行ってしまうのではないかと思えて、捨てられる、置いていかれる、捨てないでぇと、鬱々としていると、不意にモト君が何かに気付いたようにこちらを見た。
モト君は、鬱々としている私に何をしているんだと呆れたような表情を浮かべると、「しょうがない奴だ」と年の離れた兄のように笑って手招きしてくれた。
当然と言うか、やっぱりと言うか、モト君の方はキラキラ少女こと喜多さんと話しているからと言って、何か私に隔意を抱いていた訳ではないと分かりホッとして……。
いつものようにモト君の下に行こうとして、ふと思ってしまったのだ。
結果的にとはいえ、話している最中に割り込んでしまった場合、その相手には何と言えばいいのだ、と?
流石にいつものように無言で、モト君の背中に隠れる訳にはいかないことは分かる。
それに人間関係の構築時の初期というのは、その人が付き合っている相手がどういう人なのかも合わせて値踏みして、相手のクラスカーストの位置付けのようなものを相対関係的に値踏みしていくものだということを、ボッチだからこそ身に染みて分かっている。
つまり、せっかく交友関係を築く事に成功しつつあるモト君の交友関係をド陰キャである私の友人だという色眼鏡で見られることで、ご破算にしてしまう可能性も大いにある訳だ。
ここは、モト君に迷惑を掛けないよう、ド陰キャだという事が分からないよう、明るく挨拶しなければ。
……モト君とバンドを組んでいるギタリストの後藤ひとりです、っと。
眩いばかりの陽キャのオーラを身に纏っている喜多さんの視線が、こちらに向いた瞬間に気圧されるものを感じながらも、モト君のためにも勇気を出して、明るく挨拶するんだと、意を決して口を開き―――。
「モ!! バ!! ギ!!」
「突然のヒューマンビートボックス!?」
そう驚愕に目を見開く喜多さんの表情を思い浮かべ、次いでそんな私を気遣うようにビートを口ずさんでくれた喜多さんを思い出して。
……それに付随して強化合宿のため私の家にお泊りに来た喜多さんの、私の部屋の四方に貼られたお札を見てドン引きした表情や、八景のツチノコとなった私を見た時の何とも言い難い表情など諸々を思い出して………。
「ぅわぁぁぁああー、フラッシュバックがぁぁあー、忘れろ、忘れろ、忘れろ」
思い出したくもない黒歴史の記憶を、その時の居た堪れなさすら鮮明に思い出してしまって絶叫しながら、押し入れの壁に2度、3度と頭を叩きつけて悪夢のような記憶を振り払う。
……そ、そうだ、最初こそモト君のおまけだったが、今は、と、友達って言ってもいいくらいには喜多ちゃんと仲良くなれている、は、筈なのだ、多分、きっと……だといいなぁー。
ギターを弾けないのに弾けると言ってバンドに加入し、そのままライブにでようとしている喜多さんの行動力に圧倒されながらも、私達と同じ夢に向かって頑張っている喜多ちゃんをモト君と一緒に応援することになり―――ギターだと思っていたものが、ギターじゃなかったトラブルがあったりしたが、一緒にギターの練習をしていく中で、確かに距離は縮まって、仲良くなれた筈なのだ。
私の家で、強化合宿をしようと言われた時は、地獄の一週間が始まると思ったが…。
実際に、お泊りをしてみたら、そう悪いものではなかった。
長時間タイマンで一緒にいるのはキツイし、私の部屋には何もないし、退屈させてしまうと心配したのだけれど……。
喜多ちゃんは、そんなこと気にせず色々な事を話し掛けてくれて、何よりギターという共通言語が私達の違いを埋めてくれた。
そして、お泊りの中で、私とは全然違うと思っていた喜多ちゃんも、私と同じようにバンドに憧れて、バンドを通して自分を変えようとしているのだと分かって……陽キャだ、陰キャだ、と何処か憧れの人を見るように見ていた喜多さんが初めて身近に感じられて、私達は友達……ぽいものには成れた筈なのだ。
そして、初ライブを見事に終えた喜多さんに「凄いライブでした」とモト君と一緒に感想を送ったところ、「ありがとう、後藤さんたちのお陰よ」という感謝から始まる、初ライブの興奮などを綴った文面のやり取りに続いて―――。
「今度は後藤さん達の番だね、二人のバンド活動、私、絶対に応援するから―――何か力に成れることがあったら言ってね。二人の作るバンドなら、きっと凄いバンドになるよ」
―――とメッセージをくれた。
―――私たちのことを応援してくれている人がいる。
それだけで、こんなにも胸が熱くなって、力が湧いてくる。
――――――現実の世界は、怖い事ばっかりだけど―――
―――ステージの上で主人公のように輝いていた喜多さんを見た、熱に浮かされているからなのだろうけど―――
………これから私とモト君のバンド活動が本格的にスタートしていくのだと思うと、それ以上にワクワクしてしまうのだ。
その胸の中から湧き上がる衝動のままに、またギターを手に持ち掻き鳴らす。
「……うぇへへへ、武道館、スーパーアリーナーで、高校中退だぁぁぁー」
錆び付いて動いていなかった自分の人生の歯車が、動き出したように感じる瞬間がある。
ギターを構えて姿見で自分を見た時、モト君をバンドに誘った時に感じた。
何かが、軋む音を上げながら、ゆっくりと確かに動き出したような感覚。
その予兆に、興奮が止まらない。
何か、とっても楽しいことが始まっていくのではないか。
その期待を表現したような、活き活きと弾むようなギターの音色が、押し入れの中で踊るように響いていた。
ホップに繋げるに当たりリライトをリライトしました。