ろっく・ざ・らいふ   作:モモサト

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ステップ1

 ―――「成果至上主義」とは、悪しきものだ。

 

 健全な組織運営を行う上で、信賞必罰は必要だと理解はするが、成果だけを評価対象にすることには疑念を呈したい。

 

 特にスマホゲームにおいて、限定キャラがランキング上位何位以内に入らないと解放されない期間イベントなどは、その象徴だろう。

 

 せめて、イベントシナリオ完走で限定キャラを解放して欲しいとは、ライトユーザー層に共通する切なる願いだ。

 

 そのことからも分かるように、「成果至上主義」は「悪い文明」であり―――「成果」だけではなく、そこに至る課程も含めて評価することが必要なのだ。

 

 

 ―――そう、だから、決して俺だって、ここまで何もしていない訳ではないのだ、と。

 

 

 そう自己弁護するように考えてみたが………やはり己の本心を誤魔化して正当化する事はできなかった。

 

 そういう事を言って許されるのは、本当に全身全霊を尽くして頑張った人か、成果を出した人だけなのだと―――負け犬の身に堕ちた今になって痛感する。

 

 ―――そう、有り体に言って佐藤元は今、焦っていた。

 

 ここまで、喜多さんや虹夏先輩という心強い協力者を得てバンドメンバーの勧誘を続けてきたが、成果に結びつかずにいた所。

 

 相棒のヒトが、ギターヒーローとして活動を続けてきたて得たコネクションを活用して―――これまで根暗の二人組だけのバンドであった「ネックラーズ」こと「ネック」に、めでたく凄腕ドラマーを正式メンバーとして迎え入れる事に成功したのだ。

 

 メンバー集めに苦戦し続けること1月余り、幾つもの試練を乗り越え―――OH!TUBEのチャンネル登録者数10万人を超える人気と実力を誇る「ドラマー・マコ」を迎え入れられたのだから大金星と言っていいだろう。

 

 Oh!Tuberのマコさんは、グラビアアイドル顔負けの女性らしいスタイルを誇りながら、野球帽にスカジャン(革ジャン)をトレードマークにした「俺っ子キャラ」という、これでもかと属性を増し増しにしたようなキャラクターと―――そこらの男性に負けないくらい多彩な手数重視の荒々しいプレイの中にも、何処か女性らしい気品を感じさせる独特のスタイルが人気のドラマーだ。

 

 実際、マコさんの叩いてみた動画でドラムアレンジを加えた曲は、どの曲も躍動感や推進力を強く感じさせるものが多く―――豪快でありながら何処か繊細で、軽妙でありながら重厚さを漂わせる―――そんな相反した二面性を感じさせるプレイが生み出す、独特のグルーブ感は、プロのドラマーからも賞賛のメッセージを寄せられるほどだ。

 

 そんなドラムを叩く姿、特にドラムを叩く事に集中して没頭している時の彼女は、男らしいカッコ良さと同時に女の色気も感じさせて―――彼女のファンが、マコさんの事を姉御や姐さんと呼び慕うのも分かる、そんな不思議な魅力を持つ人がメンバーに加わったのだ。

 

 ここまで、メンバーの勧誘活動の大半を喜多さんに頼り切りになっていた事を反省していた所に―――相棒のヒトが満塁逆転ホームランを放り込むような成果を叩き出したのだ。

 

 相棒の活躍は、本当に自分の事のように嬉しいのだが……同時に相棒だからこそ、置いていかれたくないという対抗心を抱いてしまう。

 

 なにより妹分が結果を出したのだから、俺も何か結果を出さねばと兄貴分を気取る身としては―――小さな男の見栄だと自覚しつつも―――奮起せざるを得ない。

 

 ………そんな訳で、基本的に他人に興味がなく、根っからの一匹狼気質で他人と関わろうとしない。素の根暗の自分のまま、バンドメンバーを勧誘しようとしていたのが、そもそも間違いだったのだと深く反省する。

 

 「マコさん」がメンバーに入ってくれたことでスリーピースバンドで活動していく上での最低限の人材は揃った今―――無理にメンバーを勧誘する必要はないのだけれど―――まだ最後の勧誘対象として狙っている凄腕だと噂のベーシスト・羽良明日香(はらあすか)さんの勧誘が残っている以上、やれることはやるべきだろう。

 

 ―――そんな、東京近郊で本気で上を目指すバンドマンたちが挙って狙う、高嶺の華のベーシストを、何の実績もない自分たちが勧誘しようなどと思い上がりも甚だしいと承知してはいるのだが……。

 

 ―――マコさんの加入で、「ネック」の楽器隊のポテンシャルが跳ね上がったのを肌で感じて―――

 

 自分が、埋め合わせで担当しているような急増ベーシスト程度の腕前じゃ、二人のレベルに付いていけないことに強い焦燥感を感じると共に―――

 

 ここまで凄い面子が揃えられたのだから、あともう少し頑張って最後の足りないピースを埋められたら―――「一体、どこまで行けるのだろう」―――と欲が出てきてしまったのだ。

 

 これまでは、自分たち何かと一緒にバンドを組んでくれるなら、どんな人でも大歓迎だと思っていたのだけれど……

 

 喜多さんや先輩たちに力を貸して貰ってメンバー勧誘をしていく中で、ヒトが成果を出したのを目の前で見せられて―――

 

 最初は、正直、記念受験のような気持ちで、粉を掛けてみようくらいの軽いノリだったのだが―――

 

 新しく増えた仲間たちのためにも、自分も何かしなければと強く思うに至り―――。

 

 とりあえず、明日香さんと少しでも接点を作るべく、トゥイッターを初めて見る事にした。

 

 

 

 

 

 「あっはっはっはっ、は~、それで始めた事がトゥイッターって、スマホデビューしたばっかりの、お爺ちゃんかっての~」

 

 この手のSNSサービスなど自分には縁のないものだと、一切の興味も向けずに生きてきたため―――クラスの自習時間を利用して、一から喜多さんに「そうそう、これで明日香さんのトゥイッターのフォローできたから」等と、使い方を教授して貰っていた事情を説明すると、前の席の斎藤君の席を占領した佐々木次子ことサッツーに盛大に笑われてしまった。

 

 「仕方ないだろう―――明日香さん、前いたバンドは解散しててフリーだから活動を追い掛けるのも一苦労なんだよ―――臨時のサポートメンバーとして偶にライブに出たりはしているみたいなんだけど―――トゥイッターの告知情報を毎回、喜多さんに教えて貰う訳にもいかないだろう」

 

 「ああ~、確かに、そりゃそうだ」

 

 「別にそれくらい私は全然、構わないんだけど―――でも、理由はどうあれ凄く良い事だと思うわ―――SNSってね、大勢の人と繋がれて、とっても楽しいのよ」

 

 「あっ、はい」

 

 キターンと輝くSNS強者の喜多さんに見詰められて、思いっきり見る専になるつもりだったとは言えずに曖昧に頷くことで誤魔化す。

 

 「とりあえず、明日香さんにメッセージを送るにしても、ちゃんとしたアカウントなんだって思って貰わなきゃいけないし、何か投稿しときましょう」

 

 「ふーん、そういうもんなの?」

 

 「ま~、明らかに捨てアカっぽい、アカウントからメッセが来ても基本は無視するわな~」

 

 「へぇー」

 

 サッツーまで、そういうならば、そういうものなのだろう。

 

 でも、呟くって言ったって一体何を呟けばいいのか、何が楽しくて呟くのか、と哲学的な難問を前にしたように考え込んでいると―――喜多さんとサッツーに、そんなに真剣に考えなくていいと言われてもしまった。

 

 「ありのままを呟きゃ良いんだよ、貸してみ~」

 

 サッツーは自分のスマホを取り上げてパシャリと、唐突に自分と喜多さんのツーショット写真を撮ると、何やら文章を打ち込んで投稿してしまった。

 

 「ちょっと、サッツー、いきなり写真撮らないでよー」

 

 「大丈夫だって、顔から上は映してないから、いや~、でも、いきなり匂わせ写真を投稿するとは、流石は未来のロックスターは違うね~」

 

 「匂わせ? よく分からんけど、あんま変な事はしないでくれよ」

 

 ニヤニヤと笑うサッツーがよく分からない事を言いながら返してくれたスマホを見ると、自分と喜多さんの首から下のツーショット写真と一緒に「クラスの友達に使い方を教えて貰ったので、今日から呟きデビューでっす」という投稿がされていた。

 

 たしかに、ありのままの事実を呟いている。

 

 ―――なるほど、こういうので良いのか。

 

 でも、こんな誰の特にも成らないような情報を発信することに何の意味があるのか。

 

 いや、でも知り合いの近況報告だと思えば、多少は意味があるのか?

 

 あー、アイツも元気にやっているんだなと気軽に確認できるツールだと考えれば、多少は面白味もあるかもしれない。

 

 なるほど、SNSで大勢の不特定多数の人と繋がるツールだと思わず、本当に身近な知り合いにちょっと近況報告をするくらいのつもりで呟けばいいのか、それならば分からんでもない。

 

 そんなこんなで、トゥイッターなるものの活用方法を学び、自分の投稿じゃない初投稿に、喜多さんとサッツーがリプをくれて、言われるがまま相互フォロワーなるものに成るのだった。

 

 ―――そんな明日香さんが週に1回か、2回、思い出したように更新するトゥイッターの中で、告知されるベーシストとしての活動情報を得るためだけに始めたモノが―――思い掛けない方向に事態を動かす事になるとは、この時は思ってもいなかった。

 

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