ろっく・ざ・らいふ   作:モモサト

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イントロダクション

 トゥイッターのおススメに表示された、呟きの投稿者の名前を見て、水城ユウカは、どうしようもない胸の高鳴りを覚えた。

 

 ―――佐藤元。

 

 中学時代に同じ学年だっただけで、友達というほど親しい訳ではないが、名前くらいしか知らないというほど疎遠な訳ではない。

 

 少なくとも卒業を前に最後だからと連絡先を交換するくらいには、親交があった相手だった。

 

 とは言え、最初から仲が良かった訳ではない。

 

 一匹狼気質で、人と慣れ合う事を馬鹿らしいと拒絶しているような、人を近づけない鋭い空気を全身から放っていた

 

 ―――高校に入って環境が変わった今だからこそハッキリ分かる、変質的なまでに歪なスクールカーストに根差した交友関係が蔓延っていた―――

 

 中学校の人間関係の中において異質な立ち位置にいたアンタッチャブルこそが彼だった。

 

 彼が誰かと連るんで笑っている姿など、どれだけ思い出しても、柔道部時代の仲間と一緒に居る時くらいしか思い浮かばない。

 

 そんな学校内のコミュニティーにおけるハグレ者で、更には異性だ。

 

 中学2年の時だけ同じクラスだったが、記憶にある限り、その時は一度も話したことは無かった筈だ。

 

 きっと一生関わる事はない―――少なくとも中学時代の間に仲良くなる事など絶対ないだろうと思っていた。そんな、彼に興味を持ったのは、今でもふとした拍子に思い出す、中学最後の文化祭のライブがきっかけだった。

 

 文化祭のライブの大取という、スクールカースト上位勢だけに許されるステージに、一匹狼の彼とボッチの後藤さんの二人だけで上がってきた時は、本気かと正気を疑ったが―――。

 

 その、たった一度のライブで彼等の虜(ファン)にされてしまったのだから、これくらいの文句は許されるだろう。

 

 私にとって、一匹狼とボッチの二人が結成したバンド「ネック」とは、憧れのヒーローのような存在なのだ。

 

 心の、どこかで息苦しい、窮屈だと、ずっと感じていた。

 

 歪なスクールカーストに支配されていた中学校時代の人間関係や空気に、真正面から逆らって、ぶっ壊してくれた。

 

 閉塞感に息がつまりそうだった、人生に風穴を開けてくれた。

 

 ―――そんな、今まで絶対だと思っていたものが、ひっくり返ったような衝撃に、何でか、どうしようもなく感動して、救われたような気がしたのだ。

 

 それは、一時的なものだったのかもしれないけれど、あのライブの時に上がった大歓声と熱狂は確かに本物で、少しだけど確実に学校内の空気を風通しの良いものに変えてくれた。

 

 ―――そんな二人のバンドが、新たにメンバーとしてドラマーを増やし、ライブを目指して活動を始めたというのだ。

 

 きっと一生、二人のファンであると自認する身からしたら、興奮しない方がおかしいだろう。

 

 あのライブの後から顔を合わせば話すようになった仲を利用して、フォロワーになった後、メッセージを送ってみる。

 

 すると、夜になりメッセージに返信が返ってきて、軽くだけど近況報告をし合う事ができた。

 

 ―――何でも、自分のキャラじゃないと承知でトゥイッターを始めたのは、バンドメンバーとして勧誘する事を検討している凄腕のベーシスト・羽良明日香さんと少しでも接点を増やすためであり―――。

 

 ―――曰く、まだ実際に合って実力を確かめてはいないが相当の凄腕だと専らの噂で、明日香さんの両親は、どちらもプロの演奏家であるという、札付きのサラブレットのような人なのだそうだ。

 

 聞いてみると、確かに、どちらも、どこかで聞いたような覚えのある有名なバンドで活躍していたようだ。

 

 【凄いじゃん、頑張りなよ。後、ライブ決まったら行くから教えてよね】

 

 【分かった】

 

 絵文字も顔文字も使わない女子高生の感覚からすると、そっけないメッセージが返ってくるのに、本当に変わらないなーと安心してしまう。

 

 一通りの近況報告も終えて、久しぶりにドキドキするような楽しみができた事に喜びながら―――ふと、頭の中に引っ掛かりを覚える。

 

 ………そういえば、さっきハジメ君が言っていた、凄腕のベーシストの両親が所属していたっていうバンド、何処で聞いたんだっけ?

 

 同い年くらいの人の親が活動していた時のバンドなのだから20~30年前に活躍していたバンドだろう。

 

 そんな一昔前のバンドの名前に、どうして聞き覚えがあったのか、TVの音楽番組で聞いたのだろうか?

 

 いや、そういうのではなく、もっと身近な所で聞いたような気がするのだ。

 

 では、どこだったかと頭を捻るが、どうしても思い出せない。

 

 けれど、何か妙に引っ掛かるものを覚えて、自分で思い出すことは諦めて、部屋を出るとリビングに降り、テレビを見ていたママに聞いてみる。

 

 「ああ、ほら、パパのお兄さんの和彦叔父さん覚えている? 沙織ちゃんのお父さんで、平塚に住んでる―――そうそう、そのお嫁さんが徹子さんって人なんだけど、その弟さんが羽良岳史さん(明日香さんのお父さん)なのよ―――懐かしいわねぇ、ほら、覚えてない、7年前の沙織ちゃんの結婚式の時に歌を披露してくれたの?」

 

 その言葉でうろ覚えに覚えていた記憶が鮮明に蘇る。

 

 沙織ちゃんは、三浦にある父方の大きな実家に正月、親戚一同が集まって過ごす時、いつも私の面倒を見て可愛がってくれた従妹のお姉さんで―――結婚式の時、当時小学生だった私は沙織ちゃんのウェンディングドレスの裾を持ってヴァージンロードを歩いたのだ。

 

 その時、もう一人、私より少し年上の明るい表情が印象的な可愛い女の子と一緒に裾を持って歩いて―――その後、その女の子が、お祝いとして家族で楽器を弾いて歌を披露しているのを見て、凄い上手だなぁーと感心したのを覚えている。

 

 ―――っていうことは、あの時一緒に歩いた女の子が、羽良明日香ちゃんだ。

 

 こんな偶然があるだろうか。

 

 全然、接点がないと嘆いていたハジメ君の事を思い出し、余計なお節介かもしれないけれど………

 

 彼らに魅せられたファンとして、何か少しでも力に成りたくて―――。

 

 ちょっとした偶然に導かれるように―――。

 

 「―――あっ、もしもし、沙織ちゃん? ユウカだけど、うん、久しぶり―――うん、うん、それなんだけど、ちょっと聞きたい事っていうか―――お願いがあるんだけど」

 

 私は、ちょっとだけ憧れの彼らの手助けになれるように、少しだけ暗躍してみる事にするのだった。

 

 

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