ろっく・ざ・らいふ   作:モモサト

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硬派なのが悪い

 「一匹狼」と聞いて、どんな奴を思い浮かべるだろうか。

 

 人付き合いが悪く群れるのを面倒くさがる奴、自分だけの世界を持っているマイペースな奴、純粋な無頼漢のはぐれ者などなど、きっと色々なことを思い浮かべるだろう。

 

 その上で、言い訳をさせてもらうが、自分は別に根っからの一匹狼ではない。

 

 ただ中学時代、誰誰が気にくわないから無視してやろうぜ、みたいな。胸糞悪い人間関係が気にくわず、誰かを馬鹿にして見下すことを喜ぶような集団心理のようなものに嫌気がさして「あほくさ」っと全部、放り出してやっただけなのだ。

 

 普通ならそんな事は許されず次のイジメの標的にされたりしたのだろうが、幸いなことに恵まれた体格を持っていて、喧嘩だけは人一倍強かった自分は、自然と学校のアンタッチャブル的な位置付けに行き付いてしまった、ただそれだけなのだ。

 

 だから、軽度の人間嫌いの気はあれども、友達と遊ぶことが嫌いな訳でも、気安く俺に近づくなとか思っている訳でもない。

 

 だから秀華高校1年4組の皆さん、フレンドリーに接してくれてもいいんですよ。

 

 ………そんな事を、心の中で思い続けて、はや4時間。

 

 4時間目の数学の授業が始まるまでの間、ただの一人も自分に近づいてきてくれる生徒はいなかった。

 

 何故だ、バンドマンなのに、特におかしなことはしていない筈なのに。

 

 中学3年間の間に身に染みついてしまった「一匹狼」という名の「ボッチ」だった陰のオーラが、「バンドマン」というキャラ付けだけではカバーできずに、人を遠ざけてしまうのだろうか。

 

 数学の先生の話を聞き流しながら、そんな悲しい憶測をボンヤリと考えていた時、はたと気付いてしまった。

 

 ―――そもそも、バンドマンというキャラ付けが間違っていたのではないか、と。

 

 バンドマンと聞いて一般の人が、咄嗟に思い浮かべるのは2種類だろう。

 

 目立ちたがりな陽キャ系のバンドマンと、ストイックな硬派系のバンドマンだ。

 

 そして、自分が、どちら寄りかと消去法で考えれば、硬派(何か怖そう)系だろう。

 

 ―――ここで少し、簡単な連想ゲームと足し算をしてみよう。

 

 硬派なバンドマン=自分の世界観を持っているイメージ=世に迎合しない一匹狼のイメージ。

 

 そこに中学時代一匹狼だった男に、そんな硬派なバンドマンという一匹狼のイメージをプラスしたならば、だ。

 

 「一匹狼+一匹狼=スーパー一匹狼の誕生」という公式が生まれないだろうか。

 

 ―――まさか、そんな馬鹿な、と笑い飛ばそうとして、あながち間違いではないような気がしてきてしまった。

 

 我が身に置き換えて考えてみると、遠巻きに見たくなってしまう側の気持ちが、強く分かってしまったからだ。

 

 だって、何か暗い感じの怖そうなバンドマンとか、「気軽に話し掛けられない奴ランキング」(日本陰キャ協会調べ)なるものがあったら、比較的ニッチな属性にも関わらず、絶対にトップ10前後くらいに入ってきそうな気がしないだろうか。

 

 バンドマンとは、良くも悪くも普通という枠組みから一歩逸脱した存在だ。

 

 そこがカッコイイところなのだが、だからこそ近づき難く感じる気持ちは良く分かる。

 

 少なくとも自分なら、どんな曲を演奏しているのかも知らない、そんな奴がいたら興味は抱いても、絶対に恐れ多くて、近づけない自信がある。

 

 話し掛けても興味無さそうに「何?」とか一言で、そっけなく返されそうだし。

 

 そして、バンドマンであることが自分の一匹狼度レベルに拍車を掛けているかどうかの問題は別にしても―――ほかのクラスメイトから自分は既に一匹狼っぽい奴であるというイメージを持たれている可能性は高いようと思われた。

 

 ……なんなら、既に軽く避けられているような気がする。

 

 自分の前の席の少し気弱そうな男子生徒である斎藤君なんて、授業が終わって休み時間になる度、小動物が逃げ出すように一目散に昔からの知り合いだろうクラスメイトの元に行ってしまい、話し掛ける隙すら与えてくれないし。

 

 ……何か、もう良いかなー、面倒臭いし。

 

 綿密に計画を練った高校デビュー計画(当社比)が失敗しつつあるショックで、軽度の人間嫌いの虫が久方ぶりに騒いで、「どうせ、こちとら元から一匹狼じゃい」と闇落ちしかけたところで、いかん、いかんと首を振る。

 

 自分だけなら、それでもいいが、ひとりと本気でバンドを組もうって約束したのだ。

 

 ……そうだ、誰が好き好んで「一匹狼」と「ぼっち」だけの根暗なバンドに入りたいと思うのか。

 

 そう思ったから、二人で高校デビューをして、少しずつでも自分を変えようと、片道2時間という対価を払って秀華高校に進学したのだ。

 

 最低限、悪目立ちをしない立ち位置を、立ち位置を……何だか、それすら既に危険信号が灯っている気がするが。

 

 相棒が戦っている限りは、自分も戦い続けなければ。

 

 ただ、どうやら少なくとも自分の方は、敗色が濃厚な気配だ。

 

 あれだけバンドマンアピールをしていた、ひとりならば、もしかしたらという一株の期待はあるが、自分の懸念の通りバンドマンアピールが裏目に出てしまっていた場合、作戦を練り直す必要があるかもしれない。

 

 まずは、違うクラスにいる、ひとりの方の現状を確認してみよう。

 

 先生に見つからないようにスマホのロインで、ひとりに「メーデー、メーデー、こちら敗色濃厚、デビュー計画に不備があった可能性あり、そちらの戦況を報告せよ」というメッセージを送る。

 

 5分後、返ってきた返信は一言「もう駄目そうです」という無常なものだった。

 

 ………なら、もう、いいかなぁー。いや駄目だよなぁー。

 

 ―――どうやら自分たちの高校デビュー計画の前途には、憎たらしいくらい順調に暗雲が立ち込めつつあるようである。

 

 

 

 

 

 昼休み、ひとりと自分は合流すると、人気の多い教室を避けて、全く人気のない階段の踊り場に二人で腰を下ろして食事を共にする。

 

 ひとりの方は、朝にあれだけ身に付けていたバンドグッズのほとんどを外していて、どうしたのかと聞くと。

 

 サングラスとネックレスは、先生に校則違反だと怒られたから外し。ヘアバンドやラバーバンドは、誰も話し掛けてくれないのに、身に付け続けることが虚しくなって、一つずつ外していったのだという。

 

 自分も似たような惨状であったため、その虚しい気持ちはよく分かると、負け犬同士、「俺達頑張ったよな」と傷を一通り舐め合った後。何故、こんな結果になってしまったのかという反省点と改善点を一応、考えてみた。

 

 「や、やっぱり、少し硬派なイメージを出したくて、少しマイナーなバンドのグッズを中心に持ってきたから、かも」

 

 「ああ、やっぱり、俺も硬派過ぎるイメージがいけないのかもと思ってたんだよ」

 

 そして二人が出した結論は、「やはりバンドマンとして硬派路線過ぎたからなのだ」というものだった。―――誰からも問題の焦点は、そこじゃないという突っ込みが入らないまま、二人は一応の答えを得て満足する。

 

 そして食事を終えて、億劫だが午後の授業が始まるため、それぞれのクラスに戻る最中、ひとりは不意にニヨニヨと笑うと―――「え、えへへ、でも、これは、これで、将来、私達がMスタに呼ばれた時とか、学生時代は、お昼とか誰も人が来ない場所で二人きりでご飯を食べてました。……クラスに全然、友達いなかったので、ってギャップトークができるね」―――と、そんなことを言った。 

 

 「……ぷっ、あははは、なるほど、その発想は無かったなぁー、なら、この硬派路線も悪くないか」

 

 「うん」

 

 ひとりがニヤニヤと笑いながら頷くのを見て、こんな状況でも自分たちがバンドマンとして成功することが前提の未来を思い描ける、ひとりの強さに一瞬、呆気に取られて、直ぐに尊敬にも似た気持ちを抱くと共に、少し自分が気負い過ぎていたことに気付かされる。

 

 そうだよな、人に合わせて、状況に合わせてキャラを作れるような器用な人間なら―――俺もひとりも「一匹狼」と「ぼっち」なんて、やってやしないないんだ。

 

 器用な人間になりたいと思うけれど、それだけの人間になりたくないから、ロックバンドなんて夢追い人をやっているんだ。

 

 そう思うと、肩に入っていた余計な力がふと抜けたような気がした。

 

 まっ、人なんて、この世界に80億もいるんだ。

 

 そして、俺はともかく、ひとりのギターは本当に上手いのだ。

 

 その腕前を見込んで、バンドに入りたいと言ってくれる人がいるかもしれないし。

 

 他人がどう思おうと、ひとりは良い奴で、俺も一緒にいたくないと完全に拒絶されねばならぬほど悪い奴ではないつもりだ。―――なら、きっと俺達とバンドを組んでくれる奇特な人もいるだろうと、そう思うことができた。

 

 「まっ、今更、ドタバタしても仕方ないし、気楽にいくか」

 

 「う、うん」

 

 表情の強張りが溶けた自然な笑みが久しぶりに出たような気がして、その笑みに釣られるようにひとりも少し穏やかな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 そして教室に戻り、相変わらず一人きりのまま今日の授業と最後のホームルームを終えて、さて、ひとりと一緒に帰ろうかと思ったところだった。

 

 ―――何処か張り詰めていた雰囲気が少し霧散していたのが、良かったのだろうか。

 

 「佐藤君、少しいい?」

 

 やけにキラキラとした雰囲気の少女に話し掛けられたのだった。

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