高校に入学して一目惚れした大崎甘奈という少女。
 彼女は可愛くて、太陽のような笑顔が眩しい、クラスの人気者であった。

 そんな陽キャな大崎甘奈と陰キャな自分。ヒエラルキーの差は激しく諦めていた恋であったが、奇遇にも彼女の双子の姉を通して接点が出来るのであった。

 趣味も気も合う姉と仲良くすれば、想いを寄せる大崎甘奈ともお近づきになれるのはではないか。
 そんな浅はかな考えから交友を深めていったが、何故か彼女は俺が姉の方が好きだと勘違いして応援する立場になっていた。

 勘違いを解けぬまま訪れたクリスマスイブの日。
 俺と大崎姉妹でクリスマスパーティをするその日、俺と大崎甘奈の物語が始まる。

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将を射んと欲してまず馬を射ようとしたら将を射った話

 世間のカップルが最も楽しみにしているであろうクリスマス……の前日であるクリスマスイブの日。その日、俺はというとオシャレな女性用の服屋へと来ていた。

 理由は俺が想いを寄せている大崎甜花という少女に送るプレゼントを決める為である。

 

 しかし、それは建前であった。

 建前というか、勘違いというか……。俺をこの場に連れてきた少女は何故か俺が大崎甜花に想いを寄せていると勘違いをしているのだ。

 そんな勘違いから友人同士でクリスマスパーティをする予定の日の朝に、甜花ちゃんが喜びそうなプレゼントを渡せ、という助言(おせっかい)を受け、こうしてリア充の巣窟へと訪れているのであった。

 

 周りがデートをしている男女ばかりの中、恋人同士ではない男女でいるというのは、多少なりとも認められているのか、それとも意識されていないのか。そんな葛藤を胸に抱きながら、ついでにと隣で大崎甜花へのクリスマスプレゼントを選んでいる彼女を見据える。

 

 

 

 実のところ、俺が好きな人は別にいるのだ。

 

 ……それは誰かって?

 

 

「やっぱり甜花ちゃんにはこっちが似合うかなー、って甘奈的には思うんだけど……どう思う?」

 

 

 そんな質問を投げかける少女ーー俺が本当に好きな人である大崎甘奈を見ながら、俺は彼女との馴れ初めを思い出した。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「あー、暇だ。」

 

 

 独り言を呟きながら、今終えたソリティアの場を崩して項垂れる。GWも終わった5月の半ば、ゲーム部の部室に今日『は』俺1人しかおらず、ひとりぼっちの部室で1人用ゲームをしていたのだ。

 『は』というか『も』が正しいのであるが。

 このゲーム部に入ってから1人用ゲームしかしてない。

 それは何故か。

 

 このゲーム部……もとい『コミュニケーション同好会』は俺が1ヶ月前に立ち上げたばかりのものであり、俺以外の部員がいないからだ。俺が1人きりの同行会を立ち上げた理由は、単純に友達が欲しいからである。

 

 高校入学初っ端のガイダンスで行った自己紹介で「アニメとかゲームが好きです。」って言ったのが原因なのか、友達、と呼べる存在が居ないのだ。

 それどころか、気を利かせた担任に好きなアニメを聞かれて深夜アニメを普通に答えたのが最大の失敗だった。案の定、その後に同じような趣味をあげた人は1人もおらず、若干避けられてる始末である。

 

 というかオタク少なくない?この学校なのかクラス編成が悪いのかは知らないが、この運命に逆恨みしたのは仕方ないことだろう。

 居るだろう!クラスに数人はオタクが!?

 なんで、俺のクラスには美男美女の陽キャしかいないの?

 いや、別にそれ悪いことでは無いが、俺としては同士がいなくて悲しいのだ。

 別に距離が縮まってないだけで、意識してハブられているとか嫌われている、という訳では無い……はずである。だが、理由がなければ関わらないというか進んで話しかけらられるような関係ではないという感じだ。

 今でも思う。なんで陽キャでも知ってるようなジャンプ系列の国民的アニメを答えなかったのか、と。

 

 というわけで、ぼっち状態を打開すべく立ち上げたのがこのゲーム部だ。

 同じクラスに友達が居ないなら、他のクラスから集めれば良いじゃない。そんなマリーアントワネット理論(諸説有)で部活を作ることにした。

 他のクラスの状況は知らないが、いるにはいるはずだ。ゲーム好きの人間が。いるよな?いるって言え。

 

 そうして先生に泣きつき、発足したのがこのコミュニケーション同好会だ。

 流石に人数が足りないため同行会となり、ゲームという単語も排除されてしまったが、体面だけで別に問題起こさなければゲームをするのは大丈夫だと言われている。ゲームできる部活というのはポスターで匂わせれば分かる人には分かるだろう。

 キャッチフレーズは『楽しい遊戯で1日の疲れを癒しませんか?』である。

 

 そしてその文字の周りに皆が知っている有名なボードゲームやトランプを書き、目立たないようにソシャゲのキャラやマイナーなボードゲームを配置。TRPGも混ぜてニッチな層にもアピール。

 

 そんな万全な準備をしていたが、同行会発足1ヶ月経っても部員は現れず、こうして寂しくぼっちな時間を過ごしているのだ。

 そんな俺に出来るのは1人用のゲームくらいだが、それも飽きて来て限界が来てしまった。

 ソリティア、詰め将棋から初まり、1人神経衰弱、1人ブラックジャック、1人オセロと続けたゲームもやり終え、もはや暇潰しが苦痛になってきている。

 

 ソシャゲもちょこちょこやっているが、別に5月なんて大規模なイベントなんてやっていない。周回もマルチタスクで出来るので暇潰しとしては役不足であった。

 

 

「はぁ……。トイレにでも行って来るか。」

 

 

 崩したトランプを山に揃えると、もはや暇潰しのようになったトイレへ行こうと席を立つ。時間を潰す為の行動であるのでトイレに行ってもぶっちゃけ何もすることはない。ただの気分転換である。

 

 そんな暇つぶしの為に部室のドアを開けようとした時のことであった。

 

 コンコンッ、と部室のドアをノックする音が鳴る。

 一瞬の疑問を頭の隅においやり、その音の意味に期待して目を見開く。

 

 コミュニケーション同好会発足から1ヶ月。今までこの部室に訪れる者などいなかった。

 きっと、これは同好会に興味を持った生徒が訪ねて来たのだろう。

 そう考え、ノックの音に対してほぼノータイムでドアを開けた。

 

 

「わっ!ビックリした〜。」

 

 

 そこにいたのは1人の女子生徒だった。

 腰まで伸びた赤みかかった茶髪。発育の良い細くスラッとしたモデル体型の身体。薄らとメイクされたパッチリとしている目に小さな唇。

 ゲーム部の部室に来るには少し派手すぎる姿を見て、思わず彼女の名を呟いた。

 

 

「お、大崎甘奈……?」

 

 

 大崎甘奈、彼女は入学して直ぐに一目惚れした同級生であった。

 同じ中学出身の関係を除きほとんどの人が顔見知り程度な関係。どうにかして友人にでもなれれば仲良くなれるかもしれない。

 

 しかし無理だった。自己紹介のやらかしもそうだが、そもそも生きる世界が違った。

 彼女はオシャレやショッピングが好きなギャル。ゲームとパソコンが趣味な俺とは話が合わない。

 

 じゃあいっそ告白するにはどうしたらいいか考えた。

 

 普通に告白する?ーー無理。陰キャが陽キャにいきなり告白したって玉砕するだけだ。

 

 まず友達になる?ーーこれも無理。それが出来たら苦労してない。

 

 じゃあ誰かに紹介してもらって?ーー当然のように無理。ギャルと友達になる人間が俺と接点を持つはずない。

 

 やっぱ無理だ。2つ目の選択も潰えた。

 

 このままでは同じクラスメイトということしか接点が無く、授業の一環でしか話せないまま1年は過ぎるだろう。

 

 しかしそれは仕方ないことなのだろう。

 良くTwitterで見る『オタクに優しいギャル』なんて存在する訳がないのだ。そんな薄い可能性にかけて突撃するほど馬鹿な性格はしていない。

 

 そうして諦めた結果が今いるゲーム部だった。

 

 ……そう。諦めたのだ。

 同じ話題も無く席も近くなく、住む世界も違う彼女との関係を作ることを。

 

 しかし目の前にいるのは、確かにその大崎甘奈だった。

 

 

「アハハ!なんでフルネーム?んー、えーと、そう!たしか山本君……だよね!同じクラスの?あのアニメとゲームが好きな。」

 

 

 俺の名前を覚えてくれてる!?と喜んだのもつかの間。覚えている=自己紹介でやらかしたから、という方程式によるクリティカルヒットをくらい、心の中で吐血する。

 これほど悲しい覚えられ方があるだろうか、いやない(反語)。

 

 

「あ、あぁ、そうだよ大崎……。大崎は何しにここに?ここはゲーム部だけど?」

「よかったぁ〜。やっぱりここゲームするとこで合ってたんだ。ポスターにはコミュニケーション同好会って書いてたからじゃん。」

「ゲームは体面が良くないからな。あと、俺が作ったばっかりだから人が足りなくて部としては認められてないんだよね。だから表向きはコミュニケーション同好会ってことになってる。」

 

 

 自然と会話出来るくらいには、隔たりは感じない。ただ、陽キャである大崎甘奈がここに来た理由が分からず、内心動揺していた。まぁ、想い人だからという理由もあるだろうが……。

 

 

「そうだったんだ!だから、新入生部活紹介の時にも無かったんだね。」

「そうそう。……でどうした?部室棟の探検とか?」

「そんな訳ないでしょ!?用があるの甘奈じゃなくて……ってあれ?甜花ちゃん?どこー?」

 

 

 辺りをキョロキョロと見渡す大崎を見て、可愛いと思いながらも、てんかちゃん?と新たな登場人物に疑問符を浮かべる。そんな名前の人物はクラス内には居なかったはずなので、別クラスの友人であろうか。

 一瞬、男の友人を頭を過ぎるが、名前の雰囲気とちゃん付けということは女の子の可能性が高いと考える。まさか筋肉が添加された添加ちゃんだったり、天下を統べる天下ちゃんという訳ではあるまい。

 

 

「あー居た居た!甜花ちゃんそんなとこに隠れて……。興味あるって言ったの甜花ちゃんでしょ!?」

「あぅ……。で、でも甜花、知らない人苦手……。」

 

 

 大崎が柱の影から連れてきたのは、大崎にそっくり……ではあるが、少々、いやだいぶ内気そうな少女であった。何となく親近感が沸いてしまうのは気の所為だろうか。

 少女は大崎の身体の後ろに隠れてこちらを観察するように見ており、その様子はまるで犬か猫のようである。

 

 

「ほら、甜花ちゃん!隠れてないでお話しよ?」

「ひぃん……。やっぱり甜花、ギルドに加入するにはまだ経験値足りてないかも……。」

「もー!そんなこと言ってたら友達なんか出来ないよ!?ただでさえ、甜花ちゃん人と話したがらないんだから!」

「「うっ……!」」

 

 

 大崎似の少女へ発した言葉が自身にも刺さり、心にダメージを受ける。

 

 

「あ……いや、今のは甜花ちゃんに対してで山本君の事じゃないから!」

「まぁ、分かってるけど共感してしまうというか……。うん、気にしないで……。」

「ほ、ほら!山本君は部活作ったんだし、凄いよ!」

「ありがとう大崎……。」

 

 

 好きな人からの慰めが、こんなにも辛いとは誰が予想出来ただろうか。同時に彼女を困らせてしまっているのも情けなくなり、ため息がでた。

 これ以上迷惑を掛けられないと心の涙を拭い、本題に入る。

 

 

「それで、甜花……さん?はどういうご要件で?」

「あ、あぅ……。」

 

 

 なんとなく要件は分かる気はするが、そこは本人の口から聞こうと話しかけるが、やはり極度の人見知りなようで中々会話が出来ない。

 どうするか、と考えるが取り敢えず落ち着くか彼女の気持ちが整理されるまで待つしかない。喋れないからとお引き取りを願ったが最後、せっかくの大崎甘奈との関係もお引き取りになってしまう。

 そんな中、思い出したのはせっかく作った部室の設備である。今までは1人であった為、実質俺専用であったが、今こそ活躍して貰うべきだと閃いたのであった。

 

 

 

「あー、取り敢えず入る?ジュースとか出せるけど?」

「……!じゅーす!飲みたい……かも……。」

「もー!甜花ちゃん!」

「ひぃん……!なーちゃん、怒った……。」

「いーよ。大崎も知り合い?みたいだし、話せるまで居てくれると助かるんだけど……。」

「もち!甜花ちゃん1人だと多分お話出来ないだろうしねー。」

「あぅ……なーちゃん、酷い……。」

「ハハハッ。」

 

 

 そんな2人のやり取りに少し笑いながらゲームの合間につまむ用として用意していた飲み物やお菓子を出す。

 ちなみにゲーム部発足間もないが冷蔵庫やエアコン、各種棚やテーブルなどはしっかりと完備してある。色々とタイミングが良かったりしたこともあり、他の部よりも充実しているのは嬉しい限りであった。

 

 

「はい、好きに飲み食いしていいよ。」

「あり、がと!」

「もう甜花ちゃんったら……。」

「じゃあ、取り敢えず自己紹介てもしようか。俺は山本颯真。1人しか居ないゲーム部……もといコミユニケーション同好会の部長ってこと感じかな。」

「1人だけ……?」

 

 

 先程までニコニコしていた大崎甘奈だったが、部に1人しかいないと聞いた時に少し顔を顰めたように見えた。その後はすぐ元のにこやかな表情に戻ったので、もしかしたら俺の気の所為だったかもしれないが……。

 

 

「あぁ、残念ながらね……。なんか気になった?」

「いやいや何でもないよ!あ、山本君は知ってると思うけど、甘奈は大崎甘奈だよー!甘奈は甜花ちゃんと双子の妹やってます!部活は入ってないかな〜。」

「双子!?」

 

 

 似ているとは思ったがまさか双子とは……。しかもしっかりしてそうな大崎甘奈の方が妹ときた。まぁ、双子なんて先に産まれた方が姉になるだけで、性格などは関係ないらしいが……。

 

 

「そう!甜花ちゃんと双子の姉妹だよ〜。はいじゃあ、甜花ちゃんの番ね!」

「え……と、大崎、甜花……です……。なーちゃんのお姉さん、です。にへへ……。」

「こら、甜花ちゃん!ニヤけてないでどうしたいか言わないと!」

「あう……、えーと、甜花、ゲーム好きなんだけど……ゲーム部に興味があって……。何してるのかな……って……。」

 

 

 ふむ。どうやらすぐ入部とかではなく、活動内容に興味があるらしい。と言ってもやる内容などしっかり決めておらず、その日毎にただただ遊んでいるだけである。

 

 

「あー、今は俺1人だから適当に遊んでるだけだけど、ゲームとはお遊びとか、やりたい遊びをやるって感じの部かな。今準備してるのだと、トランプ、UNO、花札とかの一般的なカードゲームとか、あとオセロとかカタンとかのボードゲームもいくつかあるし……TRPGだったり、携帯ゲームも有りだし、ソシャゲでもいいし、持って来ようと思えば据え置きのゲームとかもOK……かな。うるさくするなとは言われてるけど。取り敢えずワイワイ遊べれば何でもヨシって感じの部だけど……?」

 

 

 と、そこまで説明して当の本人を見ると、目をキラキラさせていた。もしかして好感触??

 

 

「あ、あと普通に昼休みも解放してるからここで昼寝とかゲームとしてるよ。」

「!!甜花……入りたい……かも……!」

「おぉ!ホント!?」

 

 

 ……やっと、やっとだ!

 発足して誰も来なかった1ヶ月の寂しさがとうとう無くなるのだと思うと何か目から溢れ出るような感覚さえする。

 まぁ、なんか、ゲームは勿論目的ではあるが、最後に出した昼寝というに単語に釣られたような気がするが……うん!気の所為だな!!!

 

 

「やっと対戦ゲームとか、複数人用ゲーム遊べる……!!」

「えと、山本……君は、今まで何で遊んでたの……?」

「もう1人でオセロとか1人で遊べるボドゲとか……ほらこのトランプもソリティアやってたから置いてた感じだし……。」

「うわ……。」

 

 

 新入部員に早速引かれてしまったような気もするが、そんなことよりも部員が増えたことの方が喜ばしい。

 俺はゴソゴソと棚から書類を取り出すと大崎甜花の前へと渡す。

 

 

「はい、これ。入部届。これ書いてくれれば後で俺が出しとくから。」

「りょー……かい!」

 

 

 目の前で入部届に名前を書く大崎甜花を横目にこれからのことを妄想する。対戦ゲームは勿論、パーティゲームも盛り上がるし、同じソシャゲしてればイベントとかガチャも楽しめるし、複数人用のボードゲームも出来る。

 2人だけなのでやれる幅はそこまでないが、1人と比べてば段違いである。ゲーム、アニメ好きの友人がいなければ尚更だ。

 

 そんな中、大崎甜花と言う少女と仲良くなれれば大崎甘奈との接点も増えそうだ、ということに気付く。

 流石にいきなり頼んでも良い顔をされないと思うが、仲良くなり互いの事を理解出来る関係になれば、協力してくれる可能性もあるだろう。

 

 大崎甘奈に近づく為ではないが、将を射んと欲すればまずは馬を射よ、という言葉もある。姉の部活見学に付いてくる程の姉妹仲だ。その姉が信頼たる人物であれば多少なりとも打ち解けることができるのではないだろうか。

 

 そんなことを考えていると、向かい側に座っていた大崎甘奈がこそこそと俺の隣に座り直すと、俺の耳に手を充てて囁くように質問を投げかけてきた。

 

 

ねぇ、山本君って彼女っている?

「ふぁっ!?」

「ふぇっ!ど、どうかしたの……?」

 

 

 何を聞いて来るかと思ったら、想定外な質問を受け、おかしな反応をしてしまう。これには大崎甜花もびっくりしたようで、恐る恐る俺たちの方へ視線を向ける。……なんか小動物みたいだな。

 

 

「な、なんでもないよ甜花ちゃん!ちょっとこの部活について聞きたいことあったから!」

「そう……?」

「うん!甜花ちゃんは気にしなくていいよ!……でどうなの?

 

 

 大崎甜花が入部届の記入に戻ったところで、再び問いかけて来るが俺はそれどころでは無かった。

 想い人が隣に居ることすら緊張するというのに、身体の距離は数cmしか離れていない。しかもこっそり耳打ちという今流行り?のASMRのような囁き。それに加え、何やらいい匂いがして普段は意識などしない呼吸が荒くなるのを必死に我慢する。

 内容が自身の女性関係についてということで、もうどうにかなりそうなほど、身体が熱くなって行くのを感じる。

 

 

ほら、早く!

い、居ないけど、どうして……?

………………そう。

 

 

 俺に彼女が居ないことを知り、何故か表情が難しいままの大崎甘奈。そのまま何か考えるように元の席へ戻ると、ジッと俺を観察するように見据えてくる。何がどうなっているのかと、頭の中が疑問符ばかりになるが、考えても理由は浮かんで来なかった。

 

 

「はい、書けた……よ!」

「あ、あぁありがと。と、問題ないかな。これからよろしく、えーと甜花さん、でいいかな?」

「うん!いい、よ。山本……君、よろしく、お願いします!」

「……。」

 

 

 入部届を受け取り、正式にゲーム部の部員となった甜花さんの名前を呼ぶ。双子ということで名字が同じな為、名前で呼んで見たが、大丈夫そうで一安心……という訳ではなく、やはり隣で難しい顔をしている大崎甘奈が気になっていた。

 甜花さんの付き添いで来たようなので、部活に無事加入出来たのなら目的は達しているような気もするが、何気になる事でもあったのであろうか。……と色々予想していたが、ボソリと彼女の口が動く。

 

 

「甘奈も……。」

「え?」

「甘奈もゲーム部入る!」

 

 

 突然の入部宣言に俺も甜花さんも一瞬、呆気にとられたように固まってしまうが、その意味を理解すると嬉しさが沸々と湧き出てくる。

 

 

「なーちゃんも、一緒……!やっ、た……!」

「全然大丈夫だけど、突然どうした……?」

 

 

 顔がニヤけないように気をつけながら大崎甘奈へ返答をするが、やはりその理由は分からないままだ。先程の質問の件もあり、そうなった原因が知りたい俺は疑問を投げつけることにする。

 

 と、ここで1つの可能性が思いつく。それは……大崎甘奈が実は俺の事が気になっている、という説だ。

 まずは甜花さんの付き添いで来たと言うのは建前で、単純に俺がゲーム部に所属しているということを何処からか知り、ついでとばかりに付いてきたという予想。何故ならば、高校生にもなって付き添いを頼むなんてことあるだろうか。まさかまさか、そんな事はないだろう。

 次に、先程の質問。気にもしていない男子……しかも友人でも無い男の彼女の有無など、普通は気にしない。つまり、聞いてきたという事は多少なりとも、俺の事が気になっているという事だ。

 最後に、甜花さんが入部すると決まった時の表情。アレは気になっている男子……つまり俺が可愛い姉に惚れてしまわないか、という嫉妬の表情だろう。俺と甜花さんの両方の顔を見ていたから間違いない。

 

 まさかこんなところで恋が叶ってしまうとは……。

 そんな疑いようのない事実に、大崎甘奈の返答が来る前に照れ臭くなり、口元に手を充ててニヤけた口を隠す。不貞腐れたような、理由を話すことに抵抗しているような大崎甘奈を見て、ここで言っちゃうのか!?というドキドキと緊張しながら、彼女の返答を待つ。

 

 

「だって………………。」

 

 

 遂に来るか!と言葉の続きを待つ。きっと、その次の言葉には山本君が〜とか、実は〜とかという続きになるに違いな……!

 

 

 

 

 

「だって可愛い甜花ちゃんが男の子と2人きりなんて心配なんだもん!」

 

 

 …………………………え?

 

 

「甜花ちゃん純粋だから、変なゲームとか遊びとか誘われたら断れずに何でもやっちゃいそうだし!」

 

 

 ………………しないよ?

 

 

「女の子が入部して凄い嬉しそうにしてるし!!」

 

 

 …………嬉しいには嬉しいけど、そういう意味じゃないよ?

 

 

「甜花ちゃんは可愛いから絶対山本君も気になってるし!!!」

 

 

 ……気になっているのは貴女です。

 

 

「だから甘奈もゲーム部に入る!」

 

 

 あー、これは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対2人きりにはさせないからねっ!!」

 

 

 

 

 

 マジで違うやつだ、これ。

 

 

 

 

 

「なーちゃん、恥ずかしいよ……。」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 そんな事があった5月から時は経ち、クリスマスイブの今日までは色々な事があった。

 

 

 ゲーム部で遊び、交友を深めたり。

 

 期末テストの為に3人で勉強会をしたり。

 

 陰キャ2人が甘奈に無理やり海に連れ出されたり。

 

 部室に置くゲーム機を買う為に3人でバイトしたり。

 

 部室でゲーム部合宿をしたり。

 

 文化祭でボードゲームカフェをしてみたり。

 

 甜花と喧嘩した仲直りの為に甘奈に頼ったり。

 

 

 この1年で2人とは仲を深め、今では敬称無しで名前を呼び合うようになるまでは進歩していた。

 しかし、その中で何を勘違いしたのか、甘奈は俺が甜花に恋をしていると思うようになったのである。

 

 確かに事あるごとに甜花の方へ話しかけたりと、アクションを起こすのは甜花の方が多かったように思う。しかし、それは想い人に接するより、ゲームなアニメの話で接しやすい甜花の方が話しかけやすかったからであり、決して甜花に恋している訳では無い。

 まぁ、普段の行いや甜花への態度が幸を制したのか、甘奈からの信頼をそこそこ得られたのは怪我の功名ではあったのだが……。

 

 結局、甘奈は入部した時とは別人のように、今では甜花との恋を応援する立場となってしまっているのだ。

 以前、その事を甘奈に聞いたところ、

 

 

「甜花ちゃんは男っ気がないから、変な男に騙されるより仲を知ってる颯君の方が安心できるし。」

 

 

 などと、答える始末である。

 

 そんな彼女は今目の前で、自分自身が甜花へあげるクリスマスプレゼントを選んでいる最中である。

 片方には最近発売された新しいデザインのデビ太郎のパーカーを持ち、もう片方にはダボダボした感じのトップスを持っている。

 どうやら甘奈的には女の子らしい服が少ないのでオシャレな私服をプレゼントしたいが、甜花が欲しいと言っていたデビ太郎パーカーは確実に嬉しいと分かるので悩んでいるようだ。

 

 

「デビパーカーで良くね?」

「えー!甜花ちゃんとデートした時、可愛い格好見たくないの!?甜花ちゃん、こういう服あんまり持ってないし……。」

「じゃあそっちでいいやんけ。」

「もう!真面目に答えてっ!」

 

 

 可愛い。……と、危ない危ない。本音が口から溢れるところであった。

 正直言うと甜花とデートする予定は今後一切ないので、デビパーカーの方が有用性は高い。だが、そこは今流行りを追いかける陽キャギャル。ゲーム部でゲームを遊ぶことになろうと、可愛いを押したいのだろう。

 

 

「女の子っぽいものならさっき買ったアクセサリーあるじゃん。」

「甜花ちゃんにはオシャレして欲しいんだもん!」

「じゃあ、もう片方俺が買う?」

「おー!いいかも!」

「まぁ、男の俺が付き合ってもない女子に私服なんて送れないから、俺がデビパーカー担当になりそうだけど。」

「えー、いいじゃない別に。甜花ちゃん気にしないよ?」

「絶対ヤダ。そしてその2つならデビパーカーの方が絶対喜ばれるけど。」

「むー!」

 

 またもや可愛い顔をしながら服を見比べて悩み始める甘奈。

 甜花も別に好きでもない男から私服なんて送られたら困惑するだろう。「えっ……颯ちゃん、キモい……。」とか平気で言われる未来が見える見える。アレなんか目から水分が……。

 

 ちなみに、大崎姉妹は明日のクリスマスが誕生日である為、誕生日プレゼントとクリスマスプレゼント両方買わなければいけないのが更に悩みの種となっている。

 大崎姉妹は互いのプレゼントと俺へのプレゼントで3つ用意するらしいが、俺は姉妹へプレゼントを買うので4つ買わなければならない。

 

 夏にバイトを始めたため金額的な余裕はある程度あるものの、同じ時期に出費が重なるのは正直厳しい。そう悩む俺に対し、甘奈は自分へのクリスマスプレゼントは要らないと言うのだ。

 甘奈としては甜花への告白(幻想)の方が大事らしく、「甘奈にお金使うくらいなら甜花ちゃんにお金使ってあげて!」、というなんとも優しいのか俺に全く気がないのかで、心が冷たくなるようなセリフである。

 

 結局、今回も甘奈に本当のことを伝えられないままこうして想い人と想いを伝えない友人へのプレゼント選びをしているというわけだ。

 

 

「じゃあデビパーカーにする!服は一応可愛いのあるし、2人で買ってね?」

「仮に甜花と付き合ったとしても家でゲームになりそうだなぁ……。」

「2人ともインドア過ぎるんだよっ!」

 

 

 やっと2つ目のプレゼントが決まり、レジへ向かいプレゼント用の包装をして貰う甘奈を見届け、俺は店の外のベンチに座って待つことにした。プレゼントを買った袋を覗き、本日買ったものを確認する。

 

 まずは甜花用のゲームソフト。これは無難なものとして甜花が好きなものを買おうと言うことで、最近甜花が欲しいと言っていたゲームソフトを買うことにしたのだ。

 次に甘奈用に化粧品。これは俺が選んだ物ではなく、本日一緒にいた甘奈が、これ欲しい!と言った事でプレゼントとなったものである。サプライズもクソもないが、残るものでも無いし、2人で使うことも出来る、というのが甘奈の意見である。

 最後に残ったのが……、

 

 

「お待たせ!じゃあ颯君があげる甜花ちゃんのクリスマスプレゼント買いに行こう?」

「あー、それなんだけど、もう買ったわ。」

「えっ!いつの間に!?」

「さっき甘奈が甜花のクリスマスプレゼント悩んでる時に席外したじゃん。その時に。」

「嘘!何買ったの!」

「内緒。」

「えー!なんでー!?」

「それも秘密。」

 

 買い物袋の中、並んで入れられたプレゼントの上にそっと置かれている小さな箱。

 これには甘奈が欲しそうにしていたネックレスが入っている。

 

 それは甘奈が甜花へのアクセサリーを買ったお店での出来事である。

 甘奈と二手に別れ、甜花に似合いそうなアクセサリーを探していたのだが、甜花が絶対に付けなさそうなネックレスの売り場で、どれが合うか自身の首にあてて確かめる甘奈の姿があった。これでもない、あれでもないと、首を傾げる甘奈を見て最初はネックレスなど持っていない甜花に何が似合うか悩んでいるのかと、最初はスルーをした。

 しかし、その後も同じ売り場に留まり続け、最終的に取ったものの値段を見て難しい顔をしていた甘奈に声をかけると「何でもない!」と慌てる姿をみせたのだ。そして誤魔化すように隣の棚からネックレスではないアクセサリーを手に取る甘奈を見て、ある推測が頭の中に浮かんだ。

 

 甘奈は甜花へのプレゼントを決めた隣の棚が偶然ネックレスの売り場であり、空いた時間で自分が欲しいネックレスを選んでいたが、値段が高く手が出なかったのでは……という可能性だ。

 甘奈もバイトやお小遣いを貯めてはいるものの、華の女子高生である。しかも俺たち3人で遊ぶ以外にもギャル友と休日遊びに行く活発さもあり、今までも金欠に嘆いていたことを思い出す。

 

 そんな様子からアクセサリーショップにUターンし、甘奈が欲しそうにしていたネックレスを購入したのだが……やはりというかそこそこお値段が高くビックリしてしまったのは仕方ないことだ。

 ……まぁ、実は甜花へのもう1つのプレゼントは既に用意してあり、しかも値段がかからなかったので、その分を甘奈へのプレゼントに回せたのでトントンと思うことにしよう。

 

 

「もう!……じゃあ帰ろっか、ウチで颯君入れたクリスマス兼誕生パーティするって甜花ちゃんには言ってあるから待ってるだろうし。」

「あぁ。まぁ、待ってるってか寝てるかゲームしてる気もするが。」

「あー、甜花ちゃんなら有り得そうだな〜。」

 

 

 大崎家ではクリスマス当日の夜に家族と過ごすクリスマスパーティ兼誕生日会を毎年しているらしい。流石に家族のパーティにはお邪魔出来ないため、その前に3人でのクリスマスパーティもしたいと言うことで、前日であるクリスマスイヴの日に集まろうと予定を立てていた。その際にプレゼント交換もしようという希望があり、それぞれがプレゼントを用意することになっていたのだ。

 ちなみにそのパーティの中、甘奈は何か理由を作り途中で抜けて2人きりにしようとしているらしく、その時に告白をしろと言われているが、そんな予定はない。

 そもそも、甜花はオレが甘奈のことが好きであるという事実を既に知っているーーというか気づかれているので、もし何かあれば話を合わせて貰う予定である。

 

 

「イルミネーション綺麗だねー!」

「……そうだな。」

「やっぱあんまり興味ない?」

「いや、今までこの時期に出掛けるとかなかったからな。こういうのテレビとかでしか見たことないし……綺麗だと思うよ。」

「……そっか。」

「あぁ。」

 

 

 時間も既に夕方を過ぎ、冬であるこの時期は既に外は真っ暗となっていた。店を出たすぐ傍の広場には大きな木もあり、かなり凝ったイルミネーションがされており、クリスマス特有の光景となっている。

 キラキラと輝くイルミネーションを見て嬉しそうな甘奈を見ていて反応に遅れるが、正直に言っても綺麗だと思う。中学でも男友達はいたがクリスマスイベントで出掛けるなんてことはしなかったし、女性関係も皆無であったため、家で食べるご馳走やケーキかプレゼントがクリスマスの楽しみであった。

 それがまさか想い人と一緒にこうしてイルミネーションの中2人で歩く事になるとは思ってもいなかった。これがデートかと言われれば少し違うと思うし、甘奈も恐らく否定するだろう。しかし、周りから見ればこれはきっとデートであるし、この雰囲気をこっそり噛み締める時間であっても良いだろう。

 

 

「ねぇ!写真撮って!」

「はいはい。」

 

 

 1番大きいクリスマスツリーの前に着くなり、写真を希望する甘奈に苦笑いしながら自身のスマホのカメラを起動する。

 大きくポーズを取り両手でピースサインを掲げる甘奈を見て、俺や甜花とは違いやはり陽キャらしいなと思いつつそんな大はしゃぎな彼女を画面内に収めると、何枚か撮影してから甘奈の元へと向かった。

 

 

「こんな感じでいいか?」

「うん!バッチシ!颯君も撮ってあげようか?」

「いや、いいよ。1人で映っても対して嬉しくないし。」

「ふーん……。じゃあ、こうしてあげる!」

 

 

 撮った写真を甘奈へと送るためにスマホを操作していると、突如、身体に軽い衝撃を感じる。何事かと視線を向けると、そこには俺の左腕を両腕で抱き締めながらニヤりと笑みを浮かべる甘奈の姿があった。

 今の季節は冬だが、防寒対策よりオシャレを優先するギャルJKである甘奈は本日もそこまで厚着という訳では無い。しかも先程まで暖房の完備された店内にいた為、甘奈が着ている服の中で1番厚いコートは前で留られておらず、俺の腕には上着越しでもわかるふくよかな双丘が当たってしまっている。

 更に丁度俺の肩辺りに甘奈の顔を乗せて密着しているせいで傍から見れば恋人同士がくっついているようにしか見えないような体勢であった。その近すぎる距離のせいか甘奈から今日1番強い良い匂いを感じ、途端に体温が熱くなるのが分かる。

 

 

「お、おおおお、おま!?」

「アハハ!照れすぎでしょ!!」

「甘奈さん!?」

「いいから、ほら!早くポーズして!」

 

 

 俺の左腕を拘束する力は意外と強く、離れる気配はない。仕方ないと赤い顔のまま甘奈が自撮りモードで向けたスマホへ目を向け、控えめにピースサインを作る。しかし途端になんだか照れくさくなっていまい、明後日の方向を向いた瞬間にシャッターがきられてしまった。

 

 

「あー!颯君変な方向向いてるー!」

「仕方ないだろ……。」

 

 

 漸く離れた甘奈に文句を言われるが、こちらとしてはそれどころでは無かった。抵抗していた分だけ甘奈の身体との密着時間は長かった為、左腕は未だにその温もりが残っている感覚があり、解放された今では外気との温度差がやけに鮮明に感じる。

 恋人という訳でもないのにそんな写真が出来てしまった罪悪感と、甘奈の温もりの名残惜しさで上手く言葉を出せないでいると、珍しく甘奈がムスッとした表情をする。

 

「……いいじゃん、最後なんだし。」

「………………最後って、なんだよ。」

 

 

 俯き加減で少し口を尖らせた甘奈は暫くの間俺の顔を見つめた後、くるりと身体を翻すとそのまま帰路へと歩き始める。

 虫の居所が微妙に悪いような雰囲気の中、その後ろ姿に首を傾げると俺もそのあとについて行くように足を動かすのだった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 暫く2人の間に会話は無かった。イルミネーションもあり賑わっていた駅周辺から外れ、徐々に道を往く人の数は減っていく。

 俺はというと、なんだか甘奈の気持ちが分からず、自分から声をかけることが出来ないでいた。険悪……という感じでは無い、はずだ。怒らせてしまった、というより悲しいような雰囲気を感じる。

 甘奈の足取りは早くもなく、遅くもなく……どちらかと言うと1歩1歩を大切にするように、ただ大崎家へ近づくにつれ、なんだか足取りが重くなっているようにも感じた。

 その後ろを歩く俺も甘奈の隣に足を進める勇気も無く、1,2メートルの間をキープしてその背中を見つめながらかける言葉を必死に探していた。

 

 しかし結局何も思いつかないまま、俺が耐えきれず甘奈へ声をかけることにした瞬間のことだ。

 

 

「あま「ここさ。」っ……!」

 

 

 俺のかけた呼びかけに重なるように発した言葉に思わず脚を止める。

 気づけば甘奈もいつの間にか脚を止めていて、その距離は手を伸ばせば容易に掴める程まで縮まっていた。

 

 

「ここのファミレス、良く甜花ちゃんと来たよね。」

「ん……あ、あぁ。安いし、甜花の好きなジャンク系も結構食べれるし……。」

 

 

 今俺たちがいる場所から道路を挟んだ逆側に営業中のファミレスがあった。勉強したり、学校帰りだったり、冷房目的だったり……などと、週に必ず1回は来ていただろうファミレス。

 何故、今その話題を出したのか。その理由が分からず少し呆然としてファミレスを眺めていたが、ふと甘奈へ視線を戻すといつの間にか歩みを進めていて、慌ててその寂しげな背中を追いかける。

 

 

 しばらく同じような状態が続く。

 先程甘奈へ話掛けようとした内容も忘れてしまい、喉に妙なしこりを感じたまま大崎家との距離だけが縮んでいる。

 

 それと同時に、何故だろうか。

 縮んだ距離に反比例して甘奈との距離が開いていくように感じるのだ。物理的な距離では無い。このまま甘奈がどこかに行ってしまいそうな感覚。彼女の背が何処か小さく見え、遠ざかっていくような錯覚を覚える。

 

 このままでは何か取り返しのつかないことになるーー。確信は無かったが、ここで甘奈を引き止めないと必ず後悔する、そう思った。

 

 

「甘奈、どうしたんだよ。いつもと様子が違うぞ。」

「あはは、何言ってるのさ颯ちゃん。甘奈はいつもの甘奈だよ〜。」

「……。」

 

 

 甘奈の腕を掴み、無理やりにもその歩みを止めさせる。

 平然を取り繕う台詞は感情を隠しきれておらず、それには影を感じるのは気の所為ではないと確信した。

 

 

「親しき仲にも礼儀……というか隠し事はあってもいいけどさ、悩み事とか困った事があったら相談してくれよ。」

「無いよ~そんなの!颯君の気の所為だって。」

「嘘だろ。」

「えっ……。」

 

 

 やっ振り向いた甘奈は、いつも通りの笑顔を作って(・・・)俺の気の所為だと笑う。

 しかし、そんな作り笑いなど、俺にとっては見破るのは容易かった。

 嘘だと即答した俺にやっと目を合わせる甘奈。

 

 

「甜花ほどじゃないけどさ。お前と何ヶ月一緒いたと思ってるんだ。甘奈さ、今日1日俺と目合わせようとしないだろ。」

「!気づいてたんだ……。」

「ゲーマーの観察力と友達が2人しかいない陰キャ舐めんなよ。」

「……アハハ、なにそれっ。」

 

 

 やっと素で笑う甘奈。

 その顔はいつもの元気な大きい笑顔ではなく、俺の渾身の自虐ギャグに対する苦笑であった。それでもいつもの甘奈の笑顔にホッとし、俺も思わず口角か上がってしまった。

 

 

「……颯君ごめん。少し話したいことがあるんだけど、時間くれない?」

 

 

 震えるように声を絞り出した甘奈は、そう言って俺の手を掴んでお願いをするのであった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ほれ。」

「ん、ありがと。」

 

 

 自販機で買った2本のホットココアの片方を甘奈へと手渡し、その隣へ腰を下ろす。俺達はあの後、近くの公園へと来ていた。

 この寒さですっかり冷たくなった両手で温かいーーというよりはもはや熱いと感じる缶を擦るように転がしながら握って手を温める。ジワジワと感じる熱が程よくなってきた所で缶を開けゆっくりと口に含むと、甘いココアがすっかり冷えた身体をほぐすように広がっていく。ふぅ、と脱力するように吐いた息が外気に晒され、先ほどよりも視界を白く染めた。

 

 隣を見ると薄暗い街灯に照らされて、顔を赤く染めた甘奈もリラックスしたかのようにベンチに背を預けていた。心なしか彼女の缶を握る手が震えており、寒さではなく緊張がそうさせているように見える。

 缶の中身が無くなりそうになった頃、ポツりと、言葉が甘奈から零れた。

 

 

「甘奈さ、寂しい……んだよね。」

「寂しい?」

「うん……。」

 

 

 甘奈から出た言葉は、俺が想定していたものとはかけ離れたものであった。

 普段から甜花とは仲が良いのは勿論、友達も少なくない筈である。自惚れでなければ、俺とも気兼ねない関係は築けていた筈だ。

 甘奈が一番関わっているのは当然双子である甜花であり、彼女らがどちらかを嫌いになるということは全く想像できない。むしろ私生活がだらしない甜花をお世話している甘奈は自分から拒否しない限り、寂しいとは無縁のように感じる。

 

 

「だってさ、甜花ちゃんと颯ちゃんが付き合ったら、甘奈邪魔じゃない?」

「……は?」

「甜花ちゃんのお世話とかしたいけど……、いつも甘奈いたら2人っきりになれないでしょ?」

「……。」

「そしたら、彼女のいる男の子となんて2人で出かけれないし……。甜花ちゃんってあんまりお外に出かけないから、颯君とこうやって出掛けるのも最後かなぁ、って思っちゃんたんだよね。」

「……。」

 

 

 甘奈から出てきた言葉に思わず頭を抱えてしまう。俺と甜花の仲を勘違いして応援していたのは前からであったが、ここまで空回りしているとは思っていなかった。

 

 

「ねぇ、聞いてる?」

「はぁ~~~。」

「……ちょっと、甘奈、一応真面目なんだけど?」

 

 

 飽きれてため息を吐いてしまい、甘奈が不機嫌そうに頬を膨らまし睨んでくる。そんな顔も珍しいな、と顔をニヤけさせてしまうと、更に機嫌を悪くしてしまったようだ。

 

 

「何、笑ってるの?」

「ごめんごめん。……あのさ、例えばなんだけど、良い?」

「……何?」

「俺と甘奈がさ……。」

「うん。」

 

 

 次に出す言葉が決心がつかず、少しの間だが沈黙が続いてしまう。しかし、今現在ネガティブになった甘奈を元気づけるには、しっかりと言葉にする必要があると自分を振るい立たせて、口を開く。

 

 

「えーっと、その、仮に付き合ったとして。」

「……うん。」

 

 

 仮の話だ。でもきっと俺の顔は赤くなってるだろう。その恥ずかしさの熱はココアよりも熱く、温まった身体が更に火照るように、バクバクという心臓の音と共に高まっていく。

 

 

「甜花が邪魔になるからって出掛けるの遠慮したりしたらどう思う?」

「甜花ちゃんを邪魔って思ったことなんてないもん……。」

「……なんだよ。即答できるじゃん。」

 

 

 当たり前のように答える甘奈に少し安心したように微笑みかける。分かっていたことだ。あの日、双子の妹に付き添って部活へ加入した甘奈が、その甜花を邪険に扱うことなど在り得ない。その逆もまた然りである。

 

 

「……でも。」

「ん?」

「でも、甜花ちゃんがどう思ってるかって分からないし……。」

「あの甜花が今更俺達に気を遣うなんてしないと思うけどなぁ……。」

「甜花ちゃんのこと馬鹿にしてる?」

「ちげぇって!!」

 

 

 今までの心配が何処に行ったのか、突然素で怒気を帯びる甘奈。そんな無用な心配をしつつも、シスコンである彼女の性格は変わっていないようであった。

 

 

「大丈夫だって!勉強も私生活も部活の時だって甘奈に頼りっきりだった甜花が、今更甘奈との接点変えるなんてできるわけないだろ?」

「……そ…ちゃ…?」

「ん?何?」

「……颯ちゃんは!?」

 

 

 突然、俺の名前をあげる甘奈。一瞬、何の事かと思ったが、甜花の事は安心してもその片割れである俺はどう思っているのか、気になるようであった。

 

 

「俺?俺が甘奈を邪魔になると思うかってこと?」

「……うん。」

 

 

 顔を下げ、小さくボソリと返事をする甘奈。彼女がここまでネガティブになるなんて早々ない。ここまで心配されると、なんだかこっち迄不安になっていくような気持ちさえしてしまう。

 ただ、それは杞憂だ。俺が好きなのは大崎甜花ではなく、大崎甘奈である。彼女から嫌われるまでは、俺から彼女を見放すなんてことは、絶対にあり得ないことだ。

 

 

「ないよ。絶対ない。」

「……。」

「……。」

「……そう!ありがと!」

 

 

 俺の回答に安心したのか、笑顔で顔をあげる甘奈。その笑顔はいつも通りの笑顔へ戻っており、ようやっと彼女の心配事が杞憂であったと分かったようであった。

 

 

「もう大丈夫か?」

「……うん。」

「本当に?」

「………………ちょっとだけ心配……かも。」

「……そうか。」

「……うん。」

 

 

 一度心配になったことは、そう簡単には払拭しない。元々ポジティブな彼女であっても、そういうところは恋に悩まされる普通の少女であるようだ。

 

 

「……目瞑って。」

「……え?どうして?」

「いいから!」

 

 

 不思議そうに聞き返す甘奈を無理やり説き伏せ、目をつぶるように指示をする。

 ここの公園で甘奈の悩みを聞いたのは彼女の為であった。しかし言い辛そうなことを打ち明けてもらった割りに、その悩みを完全に解決することが出来なかったのは俺の役者不足でもある。

 だから、俺も勇気を出す。そう決意して、プレゼントを入れていた袋から小さな箱を1つ取り出し、甘奈の腕を取ってその手の上に置く。

 

 

「あのさ、甘奈は俺と甜花が付き合ったら邪魔になるんじゃないかって心配してたんだよな?」

「……うん。そう、だけど……。これ何?目開けていい?」

「ダメ。」

 

 

 ちゃっかりと彼女の手を取ったまま、深呼吸をして息を整える。なかなか出てこない言葉を絞り出すように、甘奈の手を包むようにその箱を握らせた。

 

 

「これ、フライングだけど、クリスマスプレゼント。……目開けて、見てみて。」

「……これ!」

 

 

 甘奈が欲しそうに見ていたネックレス。それが今自らの手の中にあり、嬉しそうな表情を見せる。

 

 

「これ、いつの間に買ったの?」

「甘奈がデビパーカーと私服で悩んでる時。」

「全然、気づかなったよ……。」

「陰キャのオタクは隠密スキルもあるから。」

「アハハ。またオタクスキル?」

 

 

 甘奈の天真爛漫な笑顔に、俺自身も嬉しくなり、笑顔となる。しばらくそのネックレスを見ていた彼女だったが、急に不思議そうに俺を見ると、致命的な質問を投げかけてきた。

 

 

「でも甜花ちゃんには付き合ってないから私服買わないとか言ってたのに。アクセサリーも同じようなものじゃない?」

「……まぁ、それはだな。」

「それは?」

「まぁ、あれだ。」

「?」

 

 

 ここまで来てしまっては答えるしかない。今、俺の顔は生涯で一番赤くなっているに違いなかった。

 

 

「これ、やる前にだな。……俺と付き合ってくれ。」

「……え?」

「俺は甘奈が好きだ。だから付き合ってくれ。」

 

 

 ポカンと口を開けたまま固まる甘奈。しかし徐々にその顔は赤くなっていき、手を口に当てて遅れて驚いたようだった。

 

 

「颯君って甜花ちゃんのことが好きじゃないの!?」

「いつ言ったよ。全部甘奈の勘違い。」

「訂正してよ!」

「好きな奴から勘違いされてて言えるか!」

「別にいいじゃん!」

 

 

 何故か喧嘩のようになってしまうが、お互い顔は赤いままだ。誰かに見られたら痴話喧嘩だと勘違いされかねない。

 

 

「で、返事は?」

「え、ちょ、ちょっと待って。」

「甘奈が俺と甜花の仲勘違いしてたんだから心配してたんだろ?俺と甘奈が付き合えば、そんな心配する必要ないだろ。」

「え、ほ、ホントに?本当に甘奈の事好きなの?冗談じゃなくて?」

「冗談でそんなこと言えるか。」

 

 

 元気づける為の冗談だと思っていたのか動揺する甘奈。しかしこの告白が本気だと知ってか、その顔は更に赤くなっていっているような気がした。

 

 

「……じゃあ、はい。」

 

 

 甘奈からはい、と差し出されたのは、俺が彼女へと差し出したクリスマスプレゼント。プレゼントを返されるということは告白の返事はNOだと言うことだろう。

 ガツンとハンマーで頭を殴れたような衝撃を錯覚し、眩暈がして倒れそうになる。しかし、気合で耐えた俺の視界で振り返って背中を見せる甘奈から返ってきた言葉は、思っていた言葉とは別の言葉であった。

 

 

「つけて。」

「………………え?」

「……甘奈のこと恋人にしてくれるんでしょ?」

 

 

 そう言って更に長い髪を上げて待機する甘奈。一瞬、その行動が理解できずに、手渡されたネックレスの箱も開封せずに狼狽えていると、もどかしくなったのか、甘奈から再び声がかかる。

 

 

「颯君は恋人にしか、そういうネックレスとか送らないんでしょ?」

「え、まぁ……そう、だな。」

「だから、颯君が甘奈にネックレスつけて、恋人にして。」

 

 

 やっとその意味を理解して、慌ててネックレスの箱を開封する。ただ、落とさないように慎重にすることは忘れない。こんな告白の時にプレゼントを落としたとなれば笑いものだ。

 

 

「……ホントに良いのか?」

「……うん。」

 

 

 その返事を聞き、甘奈を抱きしめるように首に手を回す。その際に首に手が触れてしまったが、肌寒い屋外でもハッキリと分かるほど彼女の体温は暖かく、それは俺自身も同じであることは明白であった。

 首という部位に手を回しているからか、直接肌と肌が触れ合ってしまうのは避けようがない。こんな首に触れるなどいくら親しい仲でもしたことはなく、甘奈が俺を本当に信頼ーー恋人として受け入れてくれているのだとそう思うと、嬉しさが溢れてくるように心が躍るのを感じる。

 

 ネックレスを付け終わり甘奈から離れると、彼女は髪を整えると俺の方へと振り返り、はにかみながら小さく質問を投げかけてきた。

 

 

「どう……かな?」

「……うん、似合ってる。」

「ありがと……。」

 

 

 自分のプレゼントしたアクセサリーを付けてくれて嬉しそうにしている甘奈を見て、言葉では現わせられないほどの幸福感を感じる。

 そんな彼女を見て想いに耽っていると、甘奈がからポツリと衝撃的な発言がされる。

 

 

「甘奈も、颯君、少し良いなって思ってたよ。」

「……マジ?」

「………………嘘。」

「あ、え……そう、嘘か……。」

「ホントは甘奈も颯君の事、男の子として好きって思ってた。」

 

 

 今度は俺がフリーズする番であった。甘奈との仲は悪くはないと思っていたが、恋愛対象として見られていないと思っていたし、まさか相思相愛な状態であるとは思ってもみなかった。

 

 

「甜花ちゃんは勿論好きだからさ。そんな甜花ちゃんが笑顔で遊べる颯君なら安心できると思っていたんだよね。でもそんな颯君見てる内に、甘奈も好きになっちゃって……。アハハ、なんか恥ずかしいね。」

 

 

 甘奈の告白が嬉しく聞き入っていたが、流石に本人も恥ずかしいらしく、笑いながら手で顔を仰ぐように照れ隠しをする。

 

 

「颯君は?」

「俺は……、実は一目惚れ。」

「え、そうなんだ?」

「あぁ。だから甜花がゲーム部入ってこなければ、多分、諦めてた。」

「そっか。……じゃあーー」

 

 

 何か言葉を溜めた甘奈は、手を伸ばして俺の手を握ってきた。その握り方は所謂カップル繋ぎというもので、初めて意識した恋人のような行為であり、少しドキッとする。

 

 

「甘奈も、甜花ちゃんと颯君が付き合うなら今日で颯君と出掛けるの最後だなって諦めてたし……。甜花ちゃんが恋のキューピットかもね。」

「ふふっ、随分サボり癖のあるキューピットだな。」

 

 

 そう、2人で笑いあって、俺達は遂に恋人となったのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後は、2人で手を繋いで大崎家へと向かい、恙なくクリスマスパーティーは開催された。

 

 そこで、驚いたのは甜花の察知能力であった。なんと、俺と甘奈が付き合ったと言う事を直ぐに見抜いたのである。

 甜花は俺が甘奈が好きであると知ってはいたが、甘奈は甜花がそこまで知っていることを知らない。付き合ったことは今日中に報告しようとは決めていたものの、いつ伝えるかは悩んでいたのだが、帰るなり早々甜花が気づき祝福してくれたのだ。

 きっかけは甘奈にプレゼントしたネックレスなのだが、それに気づけたのは双子だからなのか、甜花の能力が実は高いのか。甜花のポテンシャルが気になる俺達であった。

 

 

 

 

 

 なお、クリスマスパーティー中のプレゼント交換だが……。

 

 

「やっ……た!颯ちゃん!ありがと……!!」

「……ねぇ、納得出来ないんだけど!!?」

「あーまぁ、今回は運が悪かったというか、相手が悪かったというか……。」

「ずるいよ颯君!」

 

 

 甜花が貰ったプレゼントは、甘奈がゲームソフトとデビパーカー、俺がゲームソフトととある紙切れ(・・・・・・)である。その中で甜花が一番喜んだのは紙切れであった。

 その理由は……。

 

 

「颯ちゃん、ホントにこの季節限定男子チケットのコード貰っていいの!?」

「ん、あぁ。対象になってるキャラの人権は持ってるし、他に推しとかいないしな。」

「颯ちゃん大好き!」

「ふはは、褒め称えるがいい。」

「ははぁ~。」

「むぅううう!!!!」

 

 

 この後、恋人になって初めてしたデートが彼女のご機嫌取りになったのは言うまでもない。




大崎姉妹誕生日記念


甘奈は推しじゃないのだが、色々シャニマス小説のプロット練る内に何故か描きたくなってしまった……。
最初は連載にしようとしたけど、時間がかかりそうだったので、短編にしました。

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