料理の腕前がそんなに万能なわけがない 作:harii0012
その日の
定休日だというのにオーナーシェフの四宮のみならずスーシェフのアベルから若手のリュシやアルベールまでもが店にやって来ており、ある種物々しい空気が流れていた。
「で、準備はいいのか?」
「まぁ、はい。やれることはやってきました」
「はっ! 勝てる見込みがあるって訳か」
「流石に最初から負けると思ってこんなことしませんて」
その渦中の二人だが、どこかさっぱりとした表情をしておりこれから己のプライドを懸けた食戟に挑むようには到底みえない。
しかしそれは手前の牙を相手へ悟られないように隠す行為であり、この軽口の応酬は剣客同士の鞘当てに近いのだろう。どこかそんな光景を羨むような目をしていたアベルだが、ふとこの勝負の結末が予想できない事に気が付いた。
日本人だからと色眼鏡で下に見られた状態でも己の才覚を用いてプルスポール勲章を取り、一流へと至った四宮が負ける事など全く予想が付かない。
ほんの少し前まではフレンチについてはずぶの素人といえる程の知識しかなかった創真が今や
(だが……あの幸平が勝算もなく博打を打つとは思えないんだよな)
四宮が負けるとは思えないが、創真も負けじと食い下がるのは予想が付く。どちらが勝つかは分からないが、どちらに勝って欲しいかと問われるとやはりアベルは四宮だと答えるだろう。
少し前までならそれはオーナーシェフへのある種盲信のようなものだっただろうが、今はそれに加えて未来ある若人が敗北しても糧になるだろうという想いが含まれている事も否めない。
実際のところ本日集まったメンバーの中に純粋に創真の勝利を祈るものは本人を除くと一人だけだ。
それはアルベールであり、最初は恵まれた環境にいる創真に対してある程度のコンプレックスじみたものを覚えていた彼ではあるが、今日を迎えるとどうしても創真に勝ってほしいと願う気持ちが溢れて止まらない事に気が付いた。
四宮の気まぐれがなければスラム街で幼い兄弟たちの面倒をみる生活が今も続いていたかと思うと、計り知れない恩がある。そんな彼だからこそこの想いは四宮に対しての裏切りのようにも感じたが、二人が軽口を叩きあうのをみてそうではないことに気が付いた。
(ああ、そうか。ソーマは四宮さんにとって……)
ふっと脳裏をよぎった言葉を形にはせず、今は食戟に集中するべきだと開始の合図を待つ。
「なら、さっさと始めるか」
「そうですね。ルールは普通の食戟でいいんですよね?」
「ああ。ちょうど3人いることだし問題ねぇだろ」
創真にとっても四宮にとっても大きな意味を持つ戦いが始まった。
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67:さまよえるおもちゃ ID:AlGiOwCnB
配信ってこんな感じなのな
69:さまよえるおもちゃ ID:PgC6FNc1i
やっべめっちゃ酔うんだがこれ
70:さまよえるおもちゃ ID:Qd5M0Jw6Y
一人称オフれば自由に視点移動できることぐらい把握しとけ
71:さまよえるおもちゃ ID:5VP5J3VPB
UIさすがにクソすぎんか?
73:さまよえるおもちゃ ID:gQTiAJy1W
今更すぎんよ
75:さまよえるおもちゃ ID:4hkQYNLJf
初期のスレって配信どころか画像すら送れなかったってマジ?
77:さまよえるおもちゃ ID:3FtUkx54v
なんならアクセス制限すらあったぞ
80:さまよえるおもちゃ ID:M+9Uaekly
なんで最初から過疎ってるスレにそんなの導入したんです??
83:さまよえるおもちゃ ID:EPW7rRZmq
クソ神に聞け定期
84:さまよえるおもちゃ ID:RWxnC6JKe
それでイッチなに作るん?
86:ソーマ ID:3ePW4qyQx
まぁそれは出来てのお楽しみってところで
87:さまよえるおもちゃ ID:Eh6R9UDB5
準備してる食材からするに普通にフレンチ料理か?
89:さまよえるおもちゃ ID:GNJgw4aQm
野菜と魚があることしか分からん
92:さまよえるおもちゃ ID:EzJKrvQaT
メインは多分鰆だろ?
それにビーツとさやいんげんで何作るんだろうな
93:さまよえるおもちゃ ID:4R41IGEbk
四宮は当然フレンチ料理か
95:さまよえるおもちゃ ID:LSlzZS6e1
そりゃそうでしょ
98:さまよえるおもちゃ ID:j3crii0Mt
当たり前のこと書いてんじゃないよ
99:さまよえるおもちゃ ID:wBvXE9DEw
フレンチって寸胴みたいな鍋使うんだな
101:さまよえるおもちゃ ID:B0G4NtqSq
工程がイかれるほど多いから素人には作る敷居高いと思う
103:さまよえるおもちゃ ID:eJCfQMGJ7
家庭料理ならそこまででもないだろ
105:さまよえるおもちゃ ID:yKieHcYBK
ここ一流店なんで一般家庭の話はしてないんですが……
106:さまよえるおもちゃ ID:htfWLzTFs
四宮は肉料理か?
109:さまよえるおもちゃ ID://MRcvdvB
豚肉に……薄力粉と卵とパン粉ってフライにでもするのか?
112:さまよえるおもちゃ ID:YDtcbjPfx
いや、揚げ焼きっぽい
113:さまよえるおもちゃ ID:4DAJUtfPu
なにそれ
115:さまよえるおもちゃ ID:0yVrILyay
多少は調べる努力をしろ
117:さまよえるおもちゃ ID:26oK0uuct
食材が半分ぐらい油に浸かる状態で焼くことな
118:さまよえるおもちゃ ID:+hnJVIL8v
はえー
なんでおもちゃの癖にそんなに料理に詳しいの??
120:さまよえるおもちゃ ID:3ezrY8Qln
オイオイオイオイ
122:さまよえるおもちゃ ID:82SbYof7u
なんだァ? てめェ……
123:さまよえるおもちゃ ID:kkPuEzgxu
独歩、キレた‼
126:さまよえるおもちゃ ID:Q/MzsIF1z
>>118お前も無人島で死にかけたら嫌でも覚えるよ
129:さまよえるおもちゃ ID:bpljA8YEG
実際衣食住満たされてたらそんなに必死こいて情報集めたりはしなかったよな
130:さまよえるおもちゃ ID:aqP593lwU
限界スレとかあったし
なんなら一時期は餓死者が増えて珍しく無人島でも作れる料理のレシピ公開されたしな
133:さまよえるおもちゃ ID:4zDTtKYE1
食材が虫とかのやつね
134:さまよえるおもちゃ ID:MRtdywmOB
キッッッショ
136:さまよえるおもちゃ ID:ObBB5REPK
え、食べたん?
138:さまよえるおもちゃ ID:aqP593lwU
背に腹やからしゃーなし食べたで
140:さまよえるおもちゃ ID:u1akNfeVb
う、うわぁ
141:さまよえるおもちゃ ID:cgddAmQB2
ほらほらおじいちゃん、昔ばなしばっかりしてないで配信みましょうね
142:さまよえるおもちゃ ID:bc4iNGhak
もう完成間近じゃね?
143:さまよえるおもちゃ ID:hDntomY7e
四宮が先に出来そうだな
144:さまよえるおもちゃ ID:PLs2+EDkJ
お手並み拝見といきますか……
146:さまよえるおもちゃ ID:Yy3CqxJMV
>>144 素人は黙っとれ――――――
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創真が海を渡ることで起きた食戟は、どこか余裕がありそうな表情の四宮のサーブによって審査が開始した。
「『イベリコ豚のミルフィーユカツレツ』だ。ご賞味あれ」
そういって差し出された皿の上には、一口大に切り分けられたカツレツの上にトマトコンカッセ*1が盛り付けられており、四宮にしてはとてもシンプルな料理となっていた。
それでも立ち昇る香りだけで、まだ食べていないというのに美味しいという感想すら湧いてくるようだ。
「で、では失礼して」
アベルが溢れてくる唾を飲み込みながら恐る恐るカットしたカツレツにトマトコンカッセを載せて口に運ぶ。
気が付くとそこはカツレツ城の大広間。そこでは王子のイベントと他国の王女であるトマト姫がワルツを踊っていた。二人の動きに魅了されていると、最初は誰もいなかったはずだというのにいつのまにやらオーケストラが勢揃いしており、彼らのダンスの妨げにならないように演奏を行っているではないか。
そして曲調がだんだんと盛り上がりを増すにつれて、ダンスの鋭さもより洗練されたものになり、クライマックスを迎え―――――――
「はっ?!」
というのがアベルの脳裏で思い浮かんだイメージである。
完全な火入れと味付けをされたカツレツにトマトをこうも完璧に合わせることが出来るのは、アベルが知る限り目の前の男しかいなかった。
「これは……正直、想像以上でした」
「お前の想像を超えられたんなら、及第点はあるだろうな」
「じゃあ、私たちも頂きます!」
いつもは厳しい副料理長があそこまで言葉を失うほどに感動しているのを初めてみたリュシはもういいだろうと料理に手を伸ばす。
「んぅ?!」
瞬間先ほどのアベルと同様のイメージが広がり、あまりの完成度に圧倒され腰砕けになってしまったようだ。
「それじゃあ僕も頂きますね」
最後にアルベールが料理を口に含むと……この先は語るまでもないだろう。
そうして四宮の料理を全員が堪能した頃、ようやく創真の料理が完成したようだ。
「さて、幸平。お前がどれだけ成長したか見てやるよ」
「これから負ける人に見てもらってもしょうがないですよね?」
「口だけは減らねぇな」
これまでの四宮ならば創真の煽りに顔を真っ赤にしてキレ散らかしていたはずだが、泰然とした態度に創真はニヤリと笑う。
プルスポール勲章を得た後に停滞していた四宮はそのせいで自信を失い、空虚なプライドだけが残っていた。だが、それを自身が認める事により失った自信を取り戻し実績に足る落ち着きを得たのだろう。
そんな超一流を超えてこそ少年は壁を乗り越えたと認められることができるのだ。
これまで体当たりし続けた壁が果てしないものだからこそ、四宮というある種自身の延長に見える彼を超える事を目指しているのだろう。
それが為されるかどうかは、創真の料理に委ねられている。
「それじゃあ、お召し上がりください」
そういって差し出されたのは、フレンチでは見る事のない蓋付きの椀だった。