料理の腕前がそんなに万能なわけがない   作:harii0012

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お待たせ、待った?


11話 審査員の苦悩

さて、創真がこの食戟の場に出した料理の正体とは。

 

その答えを目の前にして未だ困惑の最中にある三名は蓋を開ける事すら出来ないでいた。

まごついている三人に四宮がしびれを切らす前にと、アベルが覚悟を決めて蓋を開ける。

 

するとそこには丁寧に火が通された鰆の上に彩りとしてのさやいんげん、それに赤いビーツが添えられており、まるで料亭の一品を思わせるすまし汁があった。

 

「なるほど……そういうことか」

 

創真はフランスに来てからというものの観光などには行かずに、一心不乱にフレンチの研究に勤しんだ。それは彼が料理オタクだからということも存分にあったかと思うが、ここで四宮へ再度敗北するわけにはいかないという彼自身初めて覚える焦りに似た感情も理由としてあっただろう。

 

そしてわき目も振らずに研鑽に及んだ結果が今回の料理に表れている。

 

アベルが納得したのはこの料理がフレンチの技法で再構築された椀料理だからだ。

日本人はあまり意識していないが、料亭だったり割烹の日本料理、いわゆる和食において椀料理というものは実はフレンチなどでいうメイン料理に他ならず、それが期待以下であればその時点でかなりの減点が想定されるものである。

 

そんな椀料理を創真は学びたてのフレンチによって再現したのだが、それが四宮に勝てるかどうかはまた別問題ではある。

 

まずは審査員の一人であるアベルが口をつける。

 

「幸平、これの出汁は一体?」

 

「メインはトマトでとりました。あとは鰆のうまみで調整してます」

 

「そうか……この旨味については狙ったのか?」

 

「あー、一応狙ったんですけど思ったほど跳ねなかったですね。正直そこは反省点です」

 

アベルが質問したのは二つ。

本来の椀料理であればすまし汁を使われることがほとんどで、出汁に主張を持たせることはほとんどない。だが、今回創真はあえてそこにトマトを用いた出汁を利用した。

なぜかといえば、それはアベルの二つ目の質問に関連する。

 

当然ながら食材には相性が存在する。

池田菊苗によって発見されたグルタミン酸、池田の弟子である小玉新太郎博士によってイノシン酸、近年になって國中明によりグアニル酸が発見され、それ以外にも旨味成分と呼ばれるそれまで主観的だった美味さを定量化出来るものが見つかった。

 

それらは単体では意味をなさないが料理に追加することにより確実に美味さを向上させるものであった。

 

ただでさえ主観だと思われていた旨さに形を与えたのだが、それに飽き足らずこれらは組み合わせ次第でなんと相乗効果まであるのだ。

 

創真が着目したのは正にその相乗効果。トマトに含まれるグルタミン酸と鰆に含まれるイノシン酸。

その二つを合わせることで旨味が飛躍的に強くなり、料理の下地を大きく支えてくれるのだ。

 

アベルが一通りの質問を終えたところで、アルベールもおずおずと椀に手を伸ばす

 

「それじゃあ、僕も頂きますね」

 

そうして口に食材を運ぶも、何か納得がいかないのか首をひねる。

 

そんな様子に気が付いていないのかリュシも我慢の限界だという表情で勢いよく蓋をあけ、湯気に含まれた匂いを嗅ぐ。

 

たった数種類の食材とは思えないほどの濃密なそれを浴びながら、スプーンを手に取りまずはスープからだと口に含む。

 

最初に訪れるのはトマト、そして鰆やビーツが後から主張してくる……だが、先ほどの四宮の料理に比べるとどうにもレベルが数段異なるように思えてしまったようだ。

 

「美味しいのは、美味しいわ。でも、これならソーマの普段の賄いの方がまだいいように感じるわ」

 

「うん……僕もそう思うよ。ソーマ、これじゃあただのスープにしかなってない。四宮シェフならもっと驚きをこれ以上の完成度と共に一皿で用意するよ」

 

「そうだな。幸平ならもっと高い完成度を目指せたはずだ」

 

審査員である三名からの不評。

 

しかしながら、これまでは創真の想定通りであり予想がつかない賭けに出るのはこれからなのだ。

 

「そうですね。自分もそう思います」

 

あっさりと自分の実力不足を認めた創真にあっけにとられる彼らであったが、すぐに別な感情が湧き出てくる。

最近になってやっと話すようになったリュシは最初から負ける前提で挑んだのかという怒り。

導く立場にあるアベルは何を想定しているのか分からないという不安。

 

そしてこの中で誰よりも四宮の実力に打ちのめされ、誰よりも創真の勝利を願っていたアルベールは創真が企てている事にいち早く気付き、肌を粟立てていた。

 

「ソ、ソーマ……まさかこれで終わりじゃないのかい?!」

 

「おっと、アルベールさんにはバレちゃいましたか」

 

そう嘯きながら、創真は用意していたものを取り出す。

 

「皆さん、よろしければこちらを椀の中で溶かしてみてください」

 

それは、何かが練りこまれた小さな茶色い球体だった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

231:さまよえるおもちゃ ID:19lHEAEtp

なにこの……なに?

 

233:さまよえるおもちゃ ID:iebzYswBh

多分だけど味噌玉じゃね?

 

235:さまよえるおもちゃ ID:MsRpyWc2u

あーね

なにか練りこんでる??

 

238:さまよえるおもちゃ ID:/41R5R9B5

溶かしてからじゃないと分かんないね

 

240:さまよえるおもちゃ ID:1Jdu4gnBZ

自炊しない勢何をいっているか分からない

 

241:さまよえるおもちゃ ID:dj0tvINvv

調べろボケ

 

244:さまよえるおもちゃ ID:t6Abfcu3Z

頭悪いな

 

246:さまよえるおもちゃ ID:81pfcq7mg

今更でしょ

 

247:さまよえるおもちゃ ID:Wk2AkcRK+

まぁ味噌玉は味噌となんか刻んだやつが混ぜ込まれたりしてるやつな

 

249:さまよえるおもちゃ ID:7bsLCVEba

それよりリュシちゃんの百面相可愛くね?

[画像]

 

251:さまよえるおもちゃ ID:xq65mebSF

観戦じゃなくて自家発電してるやつがいますね

 

252:さまよえるおもちゃ ID:uU7ykeyoR

イッチアク禁しろ

 

254:さまよえるおもちゃ ID:LAZN/1gEY

(写真撮りまくってるとか言えない)

 

255:さまよえるおもちゃ ID:2pbYweQFX

まぁワイもローアングルで外の婦人の写真撮ってるし許したってや

 

257:さまよえるおもちゃ ID:pSzXvGURk

>>255 死刑!死刑!

 

260:さまよえるおもちゃ ID:pwgVUPyrh

>>255 なんで自分は許されると思ってんの?

 

263:さまよえるおもちゃ ID:f8d1GLAsD

え、お前らせんのか?

 

264:さまよえるおもちゃ ID:XmbgDqvPu

ヒエッ

 

267:さまよえるおもちゃ ID:mWXOgutmt

ダメだこいつ早くなんとかしないと……

 

268:さまよえるおもちゃ ID:WKEkPfOhP

それでイッチ、これの中身は何なの?

 

271:ソーマ ID:3ePW4qyQx

想像通り味噌玉ではあるよ

練りこんだのは野菜くずを刻んだものだけど、まさかそこまでバレるとは思ってなかった

 

274:さまよえるおもちゃ ID:3Zks7GHnE

いやぁそれほどでもある

 

275:さまよえるおもちゃ ID:l0qYjRBI+

そんな褒めるなよ

 

278:さまよえるおもちゃ ID:dxbVz7s7n

……なにか練りこんでるかぐらい見れば分かる話では??

 

279:さまよえるおもちゃ ID:0BB/v2SKO

イッチに俺らの目節穴だとでも思われてるってこと?!

 

282:さまよえるおもちゃ ID:NMbU2UZ6i

実際そうでしょ

 

284:さまよえるおもちゃ ID:6Bcz5kOlb

それでこの料理は何を狙ったんだ?

 

285:ソーマ ID:3ePW4qyQx

まぁ椀料理をフレンチの技法で再構築してみたんだけど、やっぱりまだ粗が目立つよな

正直完成度ではまだまだ

 

286:さまよえるおもちゃ ID:jE98zsc4B

こいつは何をいっているんだ??

 

287:さまよえるおもちゃ ID:G78gvYg8y

えー、椀料理は日本料理のメイン料理らしいぞ

 

289:さまよえるおもちゃ ID:QsKmlOwP5

調べるの早いな

 

291:ソーマ ID:3ePW4qyQx

それで普通の椀料理だと四宮先輩を上回れるとは思えなかったから、味噌玉を用意したってとこ

 

294:さまよえるおもちゃ ID:sEwkaZuGA

だれか通訳は出来んか?!

 

297:さまよえるおもちゃ ID:nFAbOlryD

多分だけど、フレンチの技法で再現した椀料理だと想定の四宮の料理に及ばず小さくまとまっちゃうから勝つために味噌玉で更なる驚きを用意したって事?

 

298:さまよえるおもちゃ ID:W0JnifArb

なんで分かるんだよ

きっしょ

 

301:さまよえるおもちゃ ID:nFAbOlryD

えぇ……

 

302:さまよえるおもちゃ ID:jocIaTSVs

申し訳ないがこれには同意せざるを得ない

 

303:ソーマ ID:3ePW4qyQx

そうそう、それであってる。

 

304:さまよえるおもちゃ ID:vZ1rUHAMX

つまり勝つために安定捨てて波乱に向かったってこと?

 

305:さまよえるおもちゃ ID:oKSx3IWf3

安定のままだと勝ち目無いらしいし妥当だろ

 

308:さまよえるおもちゃ ID:AlmdQZhCV

とはいえそれでフレンチの技法で椀料理再現してみるかとはならんやろ

 

311:さまよえるおもちゃ ID:OMJRbyzIP

なっとるやろがい!

 

314:さまよえるおもちゃ ID:pPkxA2SpF

イッチの発想がおかしいだけ定期

 

316:さまよえるおもちゃ ID:BfWkUn6pK

それは今更

 

317:さまよえるおもちゃ ID:cfpu+rQ/x

結局創作料理ってことでええんか?

 

320:さまよえるおもちゃ ID:1wLgcufMX

一言でいえばそうなる……のか?

 

322:ソーマ ID:3ePW4qyQx

多分それであってる

 

324:さまよえるおもちゃ ID:dA8QR2vW/

制作者がなんで理解してないんですか??

 

327:さまよえるおもちゃ ID:MuPDlv/F4

料理バカだからでしょ

 

328:さまよえるおもちゃ ID:v7r6vyOf8

ならなおさら分かってないといかんでしょ

 

330:さまよえるおもちゃ ID:mXsNeCuja

それもそうか

 

332:さまよえるおもちゃ ID:Av8tS3vMs

ほんでこれ勝てそうなんか?

 

334:さまよえるおもちゃ ID:K56BrnvKF

ま~だ時間かかりそうですかね~

 

335:さまよえるおもちゃ ID:ARQBDxBmZ

やめやめろ

 

337:さまよえるおもちゃ ID:Yra5f8s/X

正直傍から見てる限りはどっちが勝ってもおかしくないような……

 

339:さまよえるおもちゃ ID:ZHaQXxcIx

まぁ四宮の料理が大分シンプル目で料理の格というよりは料理人の技量を見せつける感じだしな

 

341:さまよえるおもちゃ ID:QG15EPEwr

コジローちゃんまだイキってんの?

 

343:さまよえるおもちゃ ID:i4CxgZxcZ

イキるっていうか堂島曰く当然の驕りってやつでしょ

 

346:さまよえるおもちゃ ID:PZ71WUCD7

このイッチに対して舐めプするってマジかよ

 

347:さまよえるおもちゃ ID:RJobiW4no

そりゃ1年の修業期間があれば四宮のスタンスも変わったかもしれんが、たかが3ヶ月程度なら舐めプしても勝てるって判断しても妥当だろ

 

350:さまよえるおもちゃ ID:vFmW4pKUv

そういわれるとぐうの音もでないが

 

352:さまよえるおもちゃ ID:+cqXTtvRm

ぐう!

 

355:さまよえるおもちゃ ID:EsRJ9kIXE

>>352 黙れ

 

358:さまよえるおもちゃ ID:hrd54TV8B

>>352 極刑に処す

 

361:さまよえるおもちゃ ID:SJbWn5T8G

おっ、そろそろ審査に入るんじゃね?

 

362:さまよえるおもちゃ ID:JE7/OP6Sw

wktk

 

363:さまよえるおもちゃ ID:bf+vP5myl

だから古いって……

 

 

 

―――――――――――――――

 

「これがフレンチ版の『鰆と旬野菜の椀料理』ってところですかね」

 

シンプルな料理名ではあるが、たった三ヶ月やそこらで至れる段階のものではない。

幼少の頃から父親である城一郎と行われてきた研鑽と彼自身の自由な発想によって作られた唯一無二の創作料理である。

 

「なるほど……確かに幸平の料理は斬新だ」

 

そう呟きながらも眉間にしわを寄せるアベル。

今更ながらに審査する側のプレッシャーを背負いながらも冷静に判断しようと吟味しているようだ。

 

「ただ、完成度という点においては四宮シェフがリードしている」

 

「それは僕もそう思います。コジローさんの料理は完璧だった」

 

アルベールは四宮の料理を褒めながらも、心の内では既に勝敗を下している様だ。

 

「それじゃあ投票の方法だが……」

 

四宮から伝えられたそれは、先日の食戟と同じ方法だった。互いの前に皿を用意し、評価する方にコインを入れるというもの。

堂島との一件からしてそれは四宮にとって苦い記憶を想起させるものではあるが、裏を返せば新たな道が見えた瞬間でもある。

そして今回の食戟において彼に負けるつもりなど微塵もなく、その苦さを少しでも勝利で上書きしようという魂胆である。

 

「で、自信はあるのか?」

 

食戟の開始前に投げかけた問いを再度このタイミングで創真に投げかける。

それは創真の料理を見たうえで、なお自身の料理が勝っているという確信があるが故のもの。

 

「まぁ、そこそこですかね」

 

「煮え切らねぇやつだな」

 

創真としてもここで勝っていると言いたかったが、椀料理の再構築に粗があることに加えて、星に一番近いと言われる料理人による渾身の皿の完成度に少し気圧されていた。

 

「さて、そろそろ決まったか?」

 

「はい……」「もちろんです!」「決まりました」

 

そして投票が始まる。

 

「じゃあ先ずは私から」

 

そう告げたリュシが硬貨を置いたのは、四宮の皿だった。

 

「勘違いしないで欲しいんだけど、ソーマの料理が駄目だったってわけじゃなくて、四宮シェフが完璧すぎたのよね。カツレツを揚げる際の温度管理からトマトコンカッセの粗みじん具合まで、正直この料理のどこにケチをつけていいのか私には分からなかった」

 

リュシの言葉通り四宮の『イベリコ豚のミルフィーユカツレツ』はレシピが持つポテンシャルを遺憾なく発揮しており、それは完璧主義者によって建てられた建造物の如く、異様な完成度を誇っていた。

 

「料理人を志した人なら誰でも分かると思うけど、普通レシピ通りに作っても納得なんてできないし自分で考えたレシピなんて形になりはしても、作った料理が完璧なものになることなんてまずないでしょ?」

 

創真から目をそらさないように気を付けながらリュシは語る。

 

「自分でも分かっていると思うけれど、ソーマの料理はその点についてまだ改善点があるわよね」

 

「はい、その通りです」

 

「和食について詳しくないけれど、フレンチの技法で再現するなら下拵えの方法が詰め切れてないのは確かよ。それでも味噌玉にはとっても驚いたわ」

 

たったの三ヶ月でここまで至れることが彼の才能を何よりも示しているが、それで四宮に勝てるとはならない。当然四宮にも類稀なる才覚があることは疑うまでもなく、それを磨き上げた時間は三ヶ月やそこらと比較することもおこがましいだろう。

 

「もしもの話だけれど……完成度を上げるか、さらにもう一つ何か驚かしてくれれば私の考えも変わってたかもね」

 

「ご指導……ありがとうございます」

 

ぐうの音もでない正論だった。最後の言葉も彼には慰めにしか聞こえていないようだ。創真が食戟の前から危惧していたことの全てがリュシの指摘に当てはまっており、これに対して何も反論の余地などなくただただ受け止めざるを得ない状態である。

 

そんな状態で食戟の場に上がったのは時間不足や経験不足といってしまえばそれまでだが、創真はそんな言葉で片付けられるほど素直な男ではない。実際今も準備不足で勝負の場に至った事への後悔をしながらも、次はこんなことにならない為にどうすべきかを思案している様だ。

 

「次。アルベールはどっちだ」

 

そんな創真の様子を察したのか、四宮が急かすようにアルベールへと声を掛ける。

 

「えっと……こっちです」

 

アルベールがコインを置いたのは創真の皿だった。

 

「その、リュシさんの指摘は正しいんでしょうが……それでも僕はソーマの料理に驚きました」

 

そうして彼は自身より才覚に溢れた少年を、まっすぐ見据える。

 

「僕も和食はそこまで勉強できてないんだけど、それでも今回創真がしたことはとんでもなく凄い事だと思う。別体系の料理をフレンチとして再構築するなんて少なくても僕には逆立ちしたって出来ないし、それに君の料理は美味しいだけじゃなくて楽しかった!」

 

アルベールは四宮に救われた後から彼の後を追いかける無謀とも思える日々を過ごしており、ただでさえ遠い頂きにいるというのに先ほどの料理を食してより距離を離されたように感じていた。

 

「コジローさんの料理は当然美味しいし、完成度も抜群だったけど、なんていうかフレンチの歴史をそのまま咀嚼しているような気分になって……上手く伝えられないけど食べる側にも礼儀を求めてくるような圧を感じたんだ」

 

だが、それは彼自身が諦めていない証。

アルベールにはオリジナリティや発想力がない。そう聞くと料理人としてレシピの構築など絶望的なように感じるが、あくまで現段階での話だ。

 

「その点ソーマの料理は堅苦しさは一切なくて、自由な発想でこれが作られたんだって感じたし、味噌玉を見た時にはそれはもうとってもワクワクしたよ!」

 

必要なそれを持っていないのであれば用意すればいい。

だが、答えをただ教えるだけでは当人の為にならないと四宮はアルベールに基礎を積ませていた。

とはいえそろそろ気が付かないかと気を揉んでいたところで、四宮とはまた別の頂きに至る道を何を考えているか分からない後輩が示してくれたようだ。

 

「だから、僕は君の料理を選んだんだ」

 

創真も驚いたアルベールの基礎力にオリジナリティを身につけたのなら……これ以上語るのはまた別の機会としよう。

 

「ありがとう……ございます」

 

さて、今回の食戟だがアルベールの言うように、四宮の料理は完成度こそ高いものの裏を返せばそれは敷居が高いことと同義となる。完璧で完全な美食を完全に理解させようとすれば、食する側にもある程度の教養と繊細な味覚を要求してしまうこととなる。

 

それは美食家や料理人であればある程度のランクに達しており、問題なく理解できるだろうが知識こそあれそれを噛み砕いて理解することが出来なければ真の意味で堪能したとは言えないだろう。

例えるなら絵画や現代アート、オーケストラなどを鑑賞しても眠気を誘われるような人たちと同じような気分だろうか。

 

アルベールはそれを詳しく言語化する語彙こそないものの、感じる事は出来た。

 

ここで審査員の多様さが見えたようだ。

リュシはアルベールよりも料理に対しての理解があり、四宮の料理への敷居の高さなど感じこそしなかった。アルベールはそれを感じ取り美味しくて楽しい創真の料理に惹かれた。

 

では、最後の一人であるアベルはどうだろうか。

 

「……アベル。後はお前だけだ」

 

アルベールの総評を聞き終えた四宮はどこか落ち込んでいるような雰囲気を微かに醸し出しているが、それに気づいているのはアベルのみ。

 

堂島に鼻っ柱を折られたとはいえそれでも食戟でまた票が割れるとは思ってもいなかったが、アルベールの感想はそんな彼の心にかなりの衝撃を与えたようだ。意識すらしていなかったところに直撃を喰らうとどうしても人は落ち込む。それが思ってもみなかった視点からだと尚更だ。

 

そして、自分の投票で勝敗が決まる状況になってしまったアベルはというと……。

 

(胃が痛い……)

 

ストレスによる胃痛を感じていた。

 

「もう少し考えさせてください」

 

四宮の右腕と呼ばれるほどの地位を獲得しているアベルだが、その性根は料理の為なら何でもする料理バカと比べると比較的温和といえるだろう。

だからといって料理に対しては誰よりも熱を持って愛していると自負がある。それは一流になるためなら必要不可欠な要素だ。

そんな彼が悩むほどに今回の料理は拮抗していた。

 

完成度という点においては四宮の『イベリコ豚のミルフィーユカツレツ』に軍配が上がる。

発想力という点においては創真の『フレンチ版 鰆と旬野菜の椀料理』が追随を許さない。

 

彼の脳内ではシノミヤオペラオーとソーマブライアンの2頭によるレースが白熱しており、どちらも引けを取らないのだ。

 

とはいえ時間は有限であるし、それ以前に四宮も創真もこれ以上は待てないほど焦れていた。

 

そして、審判の刻は訪れる。

 

「決めました。私が票を投じるのは――――――――」

 

 




次話は出来てるので明日投稿予定です。
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