完結編です。
メルカッツ海賊団の投降と帰参の騒ぎも落ち着いたある日。その日の公務を終え、新無憂宮の南苑に帰ったラインハルトは、その少女と言っていい見知らぬ若い侍女に目を留めた。その髪が赤毛だったからかもしれない。いまは亡き親友のような、ルビーを溶かしたような深い赤ではなかったが。
「見かけない侍女だが、あの者は?」
「陛下、メルカッツ提督のご紹介でこちらに勤めることになりました、カーテローゼ・フォン・クロイツェルでございます」
侍女頭の説明に、ラインハルトはああこの娘がそうかと頷いた。
「カーテローゼ、陛下にご挨拶を」
ガチガチに緊張していたカリンは、教えられていた挨拶をすっかり忘れて素で話してしまった。
「カリンよ!
その敬語も何もない発言に、一瞬その場にいた全員が凍りついた。
「え、何かおかしかった? あたし、帝国語はあまり得意じゃないのよね。失礼があったらごめんなさい」
何か変なことを言ったかと慌てるカリンに、ラインハルトは思わずフフっと笑ってしまった。
「いや、気にしないでよい。
(
カリンのラインハルトへの第一印象は、悪いものではなかった。
***
それから何ヶ月か、カリンは帝国の令嬢に求められる礼儀作法を学びつつ、新無憂宮で働いていた。貴族令嬢に求められる言葉遣いはあまり上達しなかったが、皇帝が大目に見ていることもあり、あまり問題にはされていなかった。
ラインハルトは公務の合間にカリンを話し相手として呼ぶことがあった。メルカッツに頼まれていた経緯もあり気にかけてはいたし、同盟の市井の実情を知りたいと思ったこともある。
「ほう、同盟ではそれほど運動競技が盛んなのか」
「フライングボールなんかは特に人気ね…でごさいます。プロの選手達は高給を得て、市民にも人気が高いわ…ですわ」
ラインハルトはおよそ無趣味な人間であり、皇帝になった今も文化的な活動に関心が低かった。しかし同盟と今後も付き合っていく(そしていずれは人類再統一を目指す)ためには、同盟の文化を取り入れる必要もあるだろう。ラインハルトは同盟では市民レベルでスポーツや芸能活動といった帝国では低調な文化活動がはるかに盛んなことをカリンを通じて知って驚き、帝国にも取り入れようと考え始めた。やがて食文化やファッション、音楽といった様々な分野の話を聞いていくことになる。
カリンはカリンでラインハルトとの会話を楽しんだ。ラインハルトは皇帝の地位を傘に着て高圧的に振る舞うことが少ない(政治の場や戦場ではそういう場面もあるが、新無憂宮の南苑ではそうした必要がない)。側仕えの侍従や侍女達に権高に接することもない。それは私生活上の欲求が薄いためではあるが、カリンの目には好ましく映った。それに、同盟というフィルターを通してしか知らなかった帝国の実情を知り、それをよりよく改革しようとしているラインハルトの情熱と使命感には好感を持てた。
***
ある日の夕食のこと。ラインハルトは少し口数が少なく、食が進まない様子だった。後ろに控えていたカリンは、ラインハルトに声をかけた。
「陛下、体調が悪いの…ですか?」
「うむ、少々疲れているのかもしれない。あまり食欲がないのだ」
カリンはつかつかとラインハルトに近づくとさっとその額に手を当て、他の者達が驚く間も無く鋭い声を発した。
「熱があるわ!」
近習のエミール少年が慌てて侍医を呼びに走り、その日の夕食はお開きになった。
その日の夜、寝室で休むラインハルトと、そばで心配そうに見つめるエミール少年のもとにカリンがやってきた。
「これ、お飲みなさいよ」
それは黒と茶色の中間色という不思議な色合いの液体だった。というか毒々しい。ボコボコと泡立ち、湯気を立てている。
「…これは何なのだ?」
「クロイツェル家伝来の疲労回復薬よ」
ラインハルトはそれをためすすがめつして眺めた。医学を志すエミール少年が警告の声を上げようとしたが、カリンはそれを一口飲んでラインハルトに再び差し出した。
「はい、毒味」
「…ありがたくいただくとしよう」
ラインハルトは液体を一息に飲み干した。それは生涯経験したことのない味だった。
「まずい!」
「料理じゃないんだから、薬なんだから、まずくったって当然なのよ」
なぜか偉そうに言ってフフンと鼻を鳴らすカリンに、ラインハルトは何も言えなかった。
「早く寝て、しっかり休みなさいよ」
なぜかお姉さん口調で言い捨てて出ていくカリンに、ラインハルトはなぜか懐しいものを感じていた。
(まるで、あいつみたいだ)
ラインハルトは、亡き親友のことを思い出していた。
(あいつはいつもそうだった。おれよりたった二カ月早く生まれただけなのに。カリンも、おれより年下のくせに、まるで年上ぶって…)
ふと口元が緩んだラインハルトを、エミールが不思議そうに見ていた。
次の日、目覚めたラインハルトは妙に体の調子が良いのを感じた。
***
それからカリンは秘伝の薬湯を何度かラインハルトに飲ませた。ラインハルトは時折感じていた怠さや微熱がすっかり出なくなり、活力に満ちるようになった。その勢いでフェザーンへの大本営移転を命じた。
それぞれが忙しく立ち働く中、ラインハルトはふと荷物を持って歩くカリンのうなじに目をやり…
なんだかムラっとした。
(ん?)
なんだ、今の感覚は?
ラインハルトは頭を振って考えた。自分はカリンのことが気になっているのか?
***
(ううん…)
カリンはイゼルローン要塞の森林公園にいた。
(あたしはイゼルローン要塞に赴任したことがあったかしら?)
違和感を覚えたカリンだったが、頭を振ってそれを忘れた。訓練を終えて休憩に行こうとしたところだった。そこで同僚の婦人兵達に声をかけられた。これから青年下士官のグループと踊りにいくところだという。
「カリン、あんたもいっしょに来ない? あんたに目をつけてる男どもが、大勢いるわよ」
婦人兵のひとりが誘うと、カリンが答える前に、べつの婦人兵が笑い声をあげた。
「だめだめ、誘ってもむだよ。カリンの好みは、黄金色の髪で
「ああ、そうだったわね、よけいなことを言っちゃった」
婦人兵たちは笑いさざめき、カリンを置いていった。
「そんなんじゃないわよ!!」
はっと気が付いたカリンがあたりを見回すと、そこは暗い寝室だった。カリンは自分の叫び声で飛び起きたのだった。
夢だった。
***
「例の侍女と陛下が?」
皇帝と同盟から来た元海賊の侍女がいい感じの雰囲気になってきている。それはヒルダにはやや信じがたい話ではあったが、エミール少年のいうことに間違いはない。
ヒルダは父親と夫に相談した。
「ヒルダや、これはいいご縁かもしれないよ」
マリーンドルフ伯は笑顔になっている。皇帝の側近中の側近にして国務尚書の娘であるヒルダが同盟人(亡命貴族なので純粋な同盟人ではないが、まあそれは置くとして)と結婚したことは同盟において好意的に受け取られていると高等弁務官府から報告が来ている。皇帝その人もそれに続いたとなれば、同盟の感情は大きく親帝国に傾くであろう。それにシンデレラストーリーは古今東西庶民のあこがれるところである。帝国内においても皇帝と皇妃への好意と支持は大きくなるだろう。敵国の娘が、という感情も、亡命貴族出身であることから薄められる。今後の帝国の国政運営にとってプラスであってもマイナスにはなりえない。国務尚書としては実に望ましい話である。
(
ヒルダの夫はひそかに悪い笑顔を浮かべていた。シェーンコップ、いや今やワルター・フォン・マリーンドルフとなった彼とは、自分とカリンの血縁関係については把握している。それが公にされることは未来永劫ありえない。それは、軍務尚書が知れば危険すぎるものであり、マリーンドルフ伯爵家すら危地に陥れる危険を孕む。ワルター自身としても、義父の立場を利用して権勢を振るおうとなどは考えていない。
だが、ワルター個人として、皇帝を隠れた義理の息子として内心ニヤニヤと楽しむことはできる。ヴァンフリート4=2の件でやりこめられたうっぷん晴らしにもなるというものだ。ワルター・フォン・シェーンコップとはそういう悪趣味な男である。
(長生きする理由ができたな)
宇宙で一、二を争う性格の悪い男はそう思った。
***
意外なことに、反対するかと思われた軍務尚書は異を唱えなかった。当人にしてみたら至極当然の話である。オーベルシュタインの理想を言えば、皇妃は外戚となり得る有力な家の出でなく、本人が国政に口を出す性質ではなく、後継ぎを産んでもらえそうな若い健康な女性であればよい。条件を満たしていれば極論どこの馬のホネでもよい。同盟人だろうが海賊上がりだろうが構わない。むしろ、同盟出身で身寄りのない身というのは外戚ゼロ、政治的影響力ゼロということで帝国の下手な貴族などよりよほど望ましい。オーベルシュタインの見るところ、カリンなる侍女は単なる下士官兵上がりの女性にすぎず、政治に口出しするような質ではあるまい。第一級の優良物件と言うべきである。
オーベルシュタインは、カリンの生物学上の父親が、最近国務尚書の娘と結婚し、伯爵家に婿入りした男であることを知らなかった。さすがのオーベルシュタインも、同盟で過去に発生した艶聞の全てまで把握できるほどは腕が長くなかったし、そもそも本人と関係者達の記憶の中にしか存在せず、公式記録にない隠し子に気付けと言う方が無理であろう。
「もし仮にオーベルシュタイン元帥が皇妃カーテローゼとマリーンドルフ伯爵家の女婿との関係を知っていたら、彼は全力で阻止したであろう」
とは、後世のある歴史家の記述である。
***
こうして二人は外堀を埋められ、意図的にカリンの配置はこれまでよりさらにラインハルトに近く、長くなり、二人の関係は急速に進展し、ラインハルトはある日決定的な発言をするに至る。
「カリン、予と結婚してほしい」
カリンは、その言葉を全く予期していないわけではなかったが、やはり実際に聞くと動揺した。結婚。結婚したらこのひととの間に子供を持つことがあるのかもしれない。そうすると自分は親になるのか。自分の親は…。
カリンは、自分の父親がなんの因果か
自分の父親は、
(つまり、あたしが皇妃になれば、あの男に頭を下げさせることができるってことよね…!)
「仕方ないわね、いいわよ」
それが生物学上の父親とかなり似通った悪趣味なものであることに、彼女は気づいていない。カリンの動機にはやや不純なものも含まれてはいたが、ラインハルトを好ましく思っていることは確かだったし、どうもこの理想の国づくりのために
***
ラインハルトとカリンの結婚式は、善は急げとばかりにフェザーンに遷都する前にオーディンで済ませることになった。式に参列するため、アンネローゼが久しぶりに山荘から新無憂宮にやってきた。カリンとしては初めての義姉との顔合わせである。
「初めまして、カーテローゼさん。カリンさん、とお呼びしてよろしいかしら」
(わっ、ものすごく綺麗な人)
カリンはアンネローゼのあまりの美貌に魂消た。ラインハルトも世に二人とない美形だが、アンネローゼはそれに劣らぬ美人である。さらに若くして望まぬ人生を歩んできた陰翳が加わり、女性の異性愛者であるカリンをして呆然とさせるような色気があった。
「カリンさん、弟はあのような人間です。わたしには、お願いすることしかできないのです。どうか、よろしくお願いします」
「あっあの! あたし…わたくしは、兵士上がりでがさつな人間です。あいつ…皇帝陛下のことは、支えてあげたいと思ってるんだけど…ですが、自分がふさわしい人間かどうか、自信がないんです…」
しどろもどろに語るカリンに、アンネローゼは優しく微笑んで語りかけた。
「カリンさん。弟が選んだ人が、あなたでよかった」
アンネローゼは思った。弟ラインハルトが結婚する相手は慈愛に満ちたヒルダだと思っていたが、このカリンという娘もとても素直でラインハルトのことを大事に想ってくれているようだ。同盟人だろうが海賊上がりだろうが、なんの不満があるだろうか。戦争大好きでマイルドサイコパス気味の弟に本心から支えたいと思って嫁いでくれるひと、金の草履を履いて探してもなかなかいるまい。この機を逃してはならない。
アンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵夫人、後ろ盾のない皇帝の寵妃としてドス黒い宮廷闘争を生き延びてきた大人であり、人物選定眼は確かであった。
***
こうしてラインハルトとカリンは結婚した。新無憂宮の黒真珠の間で行われた結婚式と披露宴は全宇宙に生中継され、帝国と同盟に爆発的な祝賀ムードをもたらすとともに、帝国人と同盟人の交際・結婚ブームの起爆剤となった。
薬湯の滋養強壮効果により通常の青年並みの欲を獲得していたラインハルトはカリンと普通に夫婦生活を営み、わりと早期に懐妊が判明した。それがまた次の祝賀ムードを起こし…と、両国間の親和に大きな役割を果たしたとは、後世の歴史家達の共通見解である。また、御成婚にあやかった商売や、婚活ビジネスも活況を呈した。
***
ささやかな、と言ってもカリンがオーディン以外の帝国領土も見てみたいと望み、マリーンドルフ伯以下閣僚達も皇帝最初の国内巡察を兼ねて是非ゆっくりしてきてほしいと半ば強引に送り出した1ヶ月ほどの新婚旅行で、ラインハルトは帝国のいくつかの星域を巡った。旅行といっても動く大本営ブリュンヒルトでの移動で、国内ゆえにオーディンとの通信も容易であり、政治状況も落ち着いていることから大して国政を停滞させる不安はない、ということも後押しした。
ラインハルトは幼年学校を卒業してからこれまで、オーディンと戦場を往復するだけに近い日々を送ってきた。リップシュタット戦役に勝利し帝国宰相に就任してからしばらくはオーディンで政務漬け、ラグナロック戦役でフェザーンを経由してハイネセンに行って帰ってきたら皇帝に即位してまた政務漬け。要するにラインハルトは私的な旅行というものをしたことがない。近い経験としても出陣してイゼルローン要塞やらに赴く途中で補給のため艦隊が立ち寄った惑星に数日上陸したぐらいが関の山で、オーディン以外の惑星に週単位で滞在した経験というとハイネセン、フェザーン、カプチェランカぐらいしかない。濃密な時間という点では、あとは衛星だがヴァンフリート4=2があるだろうか。どれも観光や保養といった単語とは程遠い時間しか過ごしていない。というわけで、初めてといっていい旅行はラインハルトにとって何もかも新鮮で、もの珍しく、それだけに強い印象を残すものとなった。
この後、長い治世においてラインハルトは5年から10年おきほどの頻度で帝国各地を、同盟が併合されてからは新領土にも行幸した。その多くにおいて
「
とは、後世のある歴史家の言葉である。
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歴史上多くの専制国家において、皇帝行幸とは国家に負担をかけ、傾かせる原因となる理由のひとつである。しかしローエングラム朝銀河帝国においてはそれは当てはまらなかった。なぜか。それは行幸がいたって質素なものだったからである。
ラインハルトは言うまでもなく、皇妃カリンも軍人出身であり、華美とは程遠い軍旅を経験してきている(それが当たり前だと思っている)。したがって航行中は完全に将兵と同じ待遇で、同じ食事を摂り、随行する閣僚達も同じくであった。また帝国は完全に安定し、護衛のために大艦隊を動員する必要もなくなっていた。
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とは、別の後世の歴史家の主張である。
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また、行幸にはこれとは別の効果もあった。帝国各地で珍しい文化や産業に触れた皇帝夫妻は素朴にそれを賞し、後には各地に建設された競技場でスポーツ観戦を楽しみ、あるいは勃興し始めた庶民的な音楽のコンサート会場に足を運ぶなどし、皇帝夫妻が評価したそれらが人気を博し、地域起こしにも一役買うという事態が多く起こったのである。
古来から君主に認められた名産品は人気を博し、「御用達」の看板を認められる。ラインハルトは特定のブランドを御用達指定することはなく、同じ種類の商品でも複数賞賛することもあったが、それゆえに門戸が広かったとも言える。各企業は奮って皇帝夫妻の目にとまるべく商品開発に努力し、ニュースで目にしたオーディンなど大消費地の住民はこぞって買い求めた。やがてそれは新領土にも波及した。皇帝夫妻の行幸は、一回あたり帝国のGDPを平均0.05%押し上げる経済効果があったと、帝国政府内部では密かに評価されている。
ラインハルト自身はその死までスポーツや音楽、絵画といった文化、芸術活動を趣味とすることはなかった。しかし同盟において市井の人々がそれを楽しみ、生業とする者たちが多数存在することは理解し、こうした分野において帝国が同盟に遅れをとっていることを認識して発展を促すべく大いに後援した。ゴールデンバウム王朝下では文化とは貴族が楽しむための限定的なものだったが、ラインハルトの治世下で庶民のための文化が数百年の停滞から目覚め始め、やがて同盟からもたらされた様々な文化に刺激されて帝国でも花開いていくことになる。これこそが
またラインハルトとは別に、交代で随行する閣僚達は自分達の責任範囲の現状把握と改善に務めた。工部尚書シルヴァーベルヒは辺境のインフラ不備を目の当たりにしてそこに優先予算を付け、学芸尚書ゼーフェルト博士は高等教育機関の不足を嘆く地方領主からの訴えを受けて大学をいくつか開設することを決めた。このように、ラインハルトとカリンの地方巡察は帝国の発展、オーディンと辺境の格差是正に役だったのである。
***
新婚旅行から帰ったラインハルトは、閣議の終わりに軍務尚書に声をかけた。
「オーベルシュタイン!」
「はっ…」
「予は卿や国務尚書の勧めに従い結婚した。次は卿の番であろう」
ラインハルトは軽口のつもりであったが、軍務尚書は一言も言わず、黙って頭を下げた。
その翌週、オーベルシュタインは皇帝に結婚することを報告した。ラインハルトは驚愕した。帝国軍幹部達はもっと驚愕した。お相手がだれかについて
誰もが予想しえなかったオーベルシュタインが娶った相手は、彼がよく利用している肉屋の未亡人だった。閣僚達も帝国軍最高幹部達も言葉を失ったが、本人は至って平静だった。
「犬が懐いていたのでな」
オーベルシュタインはそう言ったきり、口を閉ざした。
彼を何度か肉屋で見かけたことのあるマリーンドルフ伯爵家の婿は、ひと知れずニヤリと笑った。
***
ラインハルト・フォン・ローエングラムは六十歳まで生き、
パウル・フォン・オーベルシュタインは妻との間に一男をもうけた。その子は成人したのちマリーンドルフ家の子女の一人と結婚した。
ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツは、
ベルンハルト・フォン・シュナイダーもまた帝国軍に復帰し、メルカッツの補佐を勤めた。その引退後は後継者と目され、後に帝国軍大将にまで昇進した。
ダスティ・アッテンボローは、しばらくオーディンでメルカッツに付き合った後に同盟に帰国し、航路保安局に復帰して今度こそ平穏に勤めた。同盟の帝国併合後に退官し、評論家として活躍した。退役時には慰留されたが、猪にこれ以上振り回されるのはこりごりだ、と漏らして謝絶したという。
オリビエ・ポプランは、しばらくオーディンで燻った生活を送り、痴話喧嘩の末に刺されて死んだ。
後編あとがき
というわけで、ラインハルトの結婚のきっかけは赤毛と秘伝の薬湯ということになりましたが、カリンが素直で世話焼きであることは確かであると思います。
オーベルシュタインは犬以外に私生活がほとんど不明なので、結婚も犬絡みになりました。
猪のイゼルローン日記本編あとがきにおいて、メルカッツ達は割を食ったと書きました。ちょっと可哀想かなとも思い直し、埋め合わせの目的もあって書いたのがこの外伝です。カリンの結婚は救済の一環です。
でもポプランは死んでしまいました。ちょっと適当ですが、アクシデントでもないと死なないキャラみたいに原作者に言われてますので、こうやって死なせてみました。
ユリアンについてはこの作品には登場させませんでした。本編の最後でレベロをボロクソに書いた後世の歴史家が実はユリアンであるという没設定も考えましたが、ヤンが歴史家になる夢を叶えたのでユリアンは別の道を進んだと思います。
戦争の時代が終わったので大舞台で力量を発揮する機会を失ったユリアンがどうなったのか。地球に行った後、動くシャーウッドの森に合流しようとしたが果たせず、フラフラしているうちにフェザーンに戻り、そこでルビンスキーが病死してフリーになっていたドミニクに引っかかってドロドロに爛れた生活を送り、最終的に地下組織の幹部になる、という最悪なルートを考えつきましたが、あまり誰も幸せになりそうにないし、らいとすたっふルールにも抵触しそうなので書きません。
出番がないと言えば、レンネンカンプもついに出番がありませんでした。たぶん内定していた高等弁務官職をかっさらわれて憤懣やる方ない思いをしばらくはしていたと思いますが、第二次ラグナロックがないので帝国軍は軍縮され、レンネンカンプは艦隊司令官から離れ装備調達か監察担当の統帥本部次長職にでも転出して、早く元帥になりたいと歯軋りしつつ、それなりに自分に合った仕事に励んだのではないでしょうか。ロイエンタールが国務尚書に転じたら成果次第で総長の目も出てくるので、さらに精勤したものと思います。そんな感じでレンネンカンプはレンネンカンプで原作よりは幸せに暮らしたと考えます。いつ元帥になれたかは皆様のご想像にお任せします。
昔のちょっとしたカキコをきっかけとした猪のイゼルローン日記シリーズ、これほど話が膨らむとは思いませんでした。読んでいただいてありがとうございました。個人的な思いとしては、シトレとビッテンフェルトのやりとりが一番気に入っています。シトレの声は是非内海賢二さんの声を想像して読んでください。