書けたので投稿します。
「───なぁ、ぬらりひょん。アタシと闘わないか?」
雰囲気が変わった、とリクオは気付く。厭戦的だった猴とは逆の言い草に眉を寄せた。
「テメーは誰だ?」
「闘戦勝仏、
まるで別人が乗り移ったかのような口調。
「ご丁寧にどうも。奴良組三代目総大将 奴良 リクオだ」
そう言ってリクオは愛刀を鞘にしまうと猴に背を向ける。その様子に猴が顔を歪める。
「おい、どこに行くんだ!」
「どこってそりゃあ帰るに決まってんだろ。ここにいてもその連中の仲間がまだ近くにいるかもしれねぇだろ?」
顔だけこちらを振り向き、傍らに倒れてる妖怪の死体を見てそう言った。
「アタシと闘えよ」
「おいおい、アンタと闘ってなにになるんだよ?」
はぁ、と溜息を付きながら屋敷に帰ろうとするリクオに猴が飛びついた。
「ただ、アタシが強い
空中で体を回転させ、その遠心力を利用しての踵落とし。それがリクオの頭頂部を
「──────!?」
リクオの姿が左右に真っ二つに割れ、猴の踵落としを放った足が地面の土へと突き刺さる。
───手応えがない、と猴が気付く。
しっかりとリクオの姿を捉えていたはずだ。
「強い
猴の耳から聞こえるのは背後から聞こえるリクオの声。おかしい、攻撃するまで目の前にいたのに。いや、攻撃しても目の前に。いたはずだ。
「なるほど、それがお前の能力か」
犬歯を見せて嬉しそうに楽しそうに嗤う猴にリクオは横顔だけ見せてこう言った。
「ああ、これがオレの───いや、ぬらりひょんの畏"鏡花水月"」
「やはり、お前は闘い甲斐がある、ぬらりひょん!」
素早い動きでリクオへと距離を詰める猴。
だが、その拳をまるで蜃気楼のようなリクオを捉えられない。
「アチョォ!!」
そして猴が突如、背後への回し蹴りを繰り出した。
「───っ!?」
その蹴りも空を蹴るが、その蹴りの数センチ先にいつの間にか回り込んでいたリクオがいたのだ。
「どうだ、やるだろう?」
「コイツは驚いたぜ。オレの畏をこんな短い間に破るとはな」
冷や汗を掻くリクオに猴がニィと笑った。だが、猴はリクオの畏を破ったのではない。
最初のやり取りで背後を取っていたのを覚えていた。また、同じ手を使えば恐らくリクオはまた背後を取るだろうと読んで攻めたのだ。
「なぜ、闘わない?お前は魑魅魍魎の主なんだろう?」
「あのな、魑魅魍魎の主だからって闘いが好きってわけじゃねぇんだよ。それに俺がアンタと闘う理由がねぇ」
リクオは片方の目で猴を見据えた。
「それともなにかい。俺がアンタに勝てば俺の百鬼夜行に加わってくれんのかい?」
「それでアタシと闘ってくれるのなら考えてやる」
その言葉にリクオは暫しの無言。
「いいねぇ。乗ったぜ」
「決まりだなッ!!」
一気に距離を詰める猴に驚くリクオ。すぐさまその顔の目前に拳が飛んでくる。
だが、その拳もまたや蜃気楼のようにリクオの頭部を貫通する。
───"鏡花水月"
それはまるでぬらりひょんを体現するかのような四字熟語。
鏡に映る花ののように姿は其処にあり、水面に浮かぶ月のように掴もうとすればぬらりくらりと消える。
ぬらりくらりと認識を操り、夢幻を体現する妖怪。それが"ぬらりひょん"
「
猴が奇怪に笑いだす。
「思い出したぞ。人間達と闘いすぎてたから忘れていたが思い出した!
立ち上がり嬉々として声をあげる猴にリクオは首を傾げた。
「───覇ッ!!」
猴の気合の言葉と共に猴を中心に人を吹き飛ばす程の突風が周囲に吹き込んだ。
「!!」
リクオは咄嗟に腕を顔の前に持っていき大地を踏みしめて踏ん張った。
「妖怪同士の闘いは畏と畏の奪い合い、まさかアタシが畏にのまれていたとはな」
猴はそう言って猛攻を仕掛ける。だが、それをリクオはぬらりくらりと上手く躱して鞘に鞘に納めている愛刀で一太刀、二太刀と振るう。
だが、それは猴の軽快な動きで安々と避けられてしまう。
二人の闘いはその繰り返しだった。
「なるなぁ!ぬらりひょんッ!!」
「あのな、俺はぬらりひょんだが奴良 リクオっていうちゃんとした名前があるんだよ!」
「なるほど、奴良か!覚えたぞ」
キヒヒと笑いながらリクオと交戦しあう猴。その二人の様子は戯れてるようにも見える。
「そろそろ、アタシは本気を出すか!」
リクオとの戯れに飽きたのか距離を取る猴。リクオもその場で静止した。
「アタシの最大の武器を知ってるか?」
「あん?」
猴の問いかけにリクオは訝しげな応答をする。
「なんだ、知らないのか?」
「あー、ほらあらだろ……確か如意棒とかいうやつ」
「なんだ、知ってるんじゃないか」
「アンタが有名すぎるんだよ。知らねぇほうが少ないだろ」
「キヒヒ!それもそうか!」
そう言ってリクオが猴の姿を見て怪訝な顔をする、
いつの間にか猴の頭上に天使のような
「如意棒の如意は意の如く。アタシの意の如くどこまでも伸びる」
それだけではない。猴の右目が赤く朱く紅く光っているのだ。
(猴の畏か……?)
畏らしきモノを感じるが何か違和感を感じた。
「なるほどな。なら俺も本気を出そうか」
ニヤリ、と嗤うリクオ。愛刀を構えて精神を落ち着かせる。
リクオと猴、魑魅魍魎の主と闘戦勝仏の妖怪。二人がいる周囲の空間にピリピリし始める。
そして数秒後だった。
ほぼ同時に二人がニヤリと嗤い始めたその時だった。
「!」
先に動いたのはリクオだった。大きく踏み込み、地を蹴ろうと来たときだった。
「リクオ様っ!!」
それを遮るようにリクオと猴の間に何人かの存在が割って入ってきた。
その者たちはまるでリクオを庇うように猴と向き合う。
「───!」
さすがに予想外の出来事に猴は面を食らったかのような表情をして硬直した。
「リクオ様、お怪我は!?」
リクオの近くにいた白い着物を着た長髪の少女が心配そうに駆け寄った。
「あ、ああ…大丈夫だ」
さすがにリクオもこれには予想外で呆気にとられている顔をしている。
「奴良!お前の仲間……いや部下か?」
「ああ、俺の百鬼夜行だよ」
リクオは少し自慢げな顔をしながら喋る。
「リクオ様、この小娘は……他のシマの連中ですか?」
法衣を着た黒い長髪の男が警戒をしながらリクオに聞いた。
「いや、コイツは奴良組の客人だ」
「客人?客人ならなぜ、リクオ様と戦っていたのです」
「ただ、少し遊んでいただけだ」
なぁ?と少しバツが悪そうな顔をして猴に問いかけた。いつの間にか猴の頭上にあった光輪も消え、紅く光っていた右目の光も失っていた猴は頷く。
「ああ、もうちょっと楽しみたかったが邪魔が入ったもんだから飽きた」
そう言って猴が地面にあぐらをかいて座りこむ。ムッとした表情をして。
「───端的に言うとじゃな。猴の魂に孫……いや、緋緋神の残り香が残ってしまっておるな。恐らくじゃが長いこと猴の体に何度も憑いておったからじゃろう。それも数え切れないくらいの」
時は数刻飛び、奴良組本家・会議室にて玉藻が猴の様子を見てそう呟いた。
「緋緋神?」
時刻はまだ夜。夜の姿のリクオが訝しげた。
「うむ。緋緋神とは恋と戦の神。ついこの間まで猴は緋緋神の影響を受けていた」
「緋緋神は相性が良い者の体を乗っ取ることができる。その内の一人が猴じゃ」
玉藻の説明にリクオ含め奴良組の者の全員が理解に追いついていない。
「猴の中では孫と呼んでおるらしい」
「おい、もっとわかりやすく説明することはできねぇのか」
ムッとした顔でリクオを睨みつける玉藻にその様子を見てあわあわと同様する猴が説明をする。
「えっとですね。猴の体には二つの人格があって……一つは猴ともう一つは孫っていう外から猴の体を乗っ取っていた者がいたんですけど。ついこの間、その乗っ取っている者が去っていったので本当はもう乗っ取られないはずなんです」
猴の説明になんとか理解はできるリクオ。
「んで、長年乗っ取られまくったからその残り滓が染み付いてるってわけか」
そういう理解に猴と玉藻が頷いた。
なるほどな、と納得するリクオにある幹部の一人が口を開いた。
「そもそも其奴らは一体?」
「あ?ああ、そういやまだ紹介してなかったな。そっちの妖狐がジジイの知り合いらしい玉藻とその連れの猴だ」
「玉藻!?玉藻ってあの玉藻か!?」
「だが、なぜ奴良組に?」
ザワザワと話し声が聞こえてくる。
「んでだ、玉藻の頼みで一月だけ猴をウチで預かることになった」
「「「「「ハァァァ!!?」」」」」
会議室にいるほとんどの者が一斉に驚きの声をあげた。
耳を塞ぎたくなるような大音量だった。
「リクオ様が決定なさったのなら仕方のないことですがこの娘!リクオ様に無礼を働いたのですよ!?」
「だから、少し遊んでいただけじゃねぇか」
「そもそもこの猴という娘、何者なんですか!?」
「そうです。正体がわからない娘を組に置くなど……」
と、部下達から質問や異議が飛んでくる。
「ああ、猴は中国の孫悟空らしいぜ」
「「「「「───なっ!!?」」」」」
さらに殆どの者が息を詰まるような驚きの声をあげた。
「孫悟空って
「そんな奴をどうして組に?」
さらにザワザワと騒ぎ始める会議室にリクオは凛とした顔でこう言った。
「俺が決めたことだ。文句のあるやつはいるか?」
リクオがそう睨む。その言葉で会議室は静寂へと包まれた。
「───決まりだな。それに従って猴には護衛を付けてもらう。先程みたいに中国の妖怪共に襲われる可能性があるからな」
「中国の妖怪共がなぜ彼女を?」
「───それについては儂が話すとしよう」
そう言って玉藻が身を乗り出してきた。そして最初にリクオと説明した時と同じ内容で。
「───本来ならば力を失っておるはずなのじゃがそうではなかったらしいな。ぬらりひょんのところに預ける理由がもう一つあるんじゃ」
「もう一つ?」
初耳のことにリクオも耳を疑った。
「どうやら猴はこの現代の生き方を知らぬ子じゃ。人であり妖であるリクオの側に置いて置くことで猴にも現代の生き方を学べると思っての」
むしろ、そっちが本音じゃ。と付け加えた。
「おい、そんな話聞いてねぇぞ」
とリクオが突っ込む。だが、玉藻はすまんすまんと言いながら悪びれる様子もなく謝った。
「まぁ、いい。猴の護衛には毛倡妓と黒にやってもらう。特に毛倡妓には身の回りの世話をしてもらう」
白い着物を着たポニーテールの女性と、黒い法衣を着た編笠を被った長髪の男が戸惑いながら頷いた。
会議が終了し奴良組本家にある大きな枝垂れ桜の一本の木の上にリクオが居座っている。
月夜に浮かぶ満月を見ながら妖銘酒を口に運ふ。
リクオは遠目で屋敷の中にいる猴へと視線を移す。
リクオの目には奇妙な光景が目に入った。
(あの服装……)
部下の毛倡妓に着させられているのはリクオがよく見ている服装だった。
(
思わず口に運んでいるお酒を止めてしまう。
「おい、毛倡妓!なんで猴にウチの制服を着させてる!」
「いえ、それが……」
「儂がぬらりひょんに頼んだんじゃ。猴にもそういう生活を送りたいだろうしの」
「…………」
呆れたような視線で玉藻の方へと視線を移す。
これは何を言っても無駄だな、と思い諦め再びお酒を口に運びだす。
───同時刻
「き、さま……」
ある館にて黒色のゴシックドレスを着た金髪のツインテールの少女の体が横たわっている。
その少女が目前に立っている女性を睨みつけている。
白い毛皮のコートと毛皮の帽子を着こなす長い髪の女性。
「
血を大量に流しながら横たわる金髪の少女を見てクスッと笑う女性。
「貴女は"バルサゴス座"はご存知ですか?"美青年バルサゴス"はいつも湖に自分を映る
冷たい目で金髪の少女を見下ろす。
「まるで貴女の
女性の持つ杖から火の玉が出現する。その複数の火の玉が浮かび続ける。
「お、まえぇぇぇっ!!」
金髪の女性がピクリと動く。立ち上がろうとした瞬間───。
「!!」
───女性の周囲に配置されていた火の玉が星が廻る。
廻る星が横たわる金髪の少女の体へと降り注ぐ。
複数の星が金髪の少女の体が貫通し、部屋の壁へと吹き飛んだ。
───Prrrrrr…
と部屋中に携帯電話の着信音が鳴り響いていた。
「───はい。たった今、終わりました。はい、魔臓全てを貫きましたから……。新しい依頼ですか」
暫くの質疑応答。事務的な質疑応答を受け答える。
「次の討伐対象は"ぬらりひょんの孫"ですか……。名は奴良 リクオ。わかりました。報酬は……はい。わかりました。引き受けましょう」
プツリ、と電話を着る。暫くの静寂のあと、再び女性は歩き出した。
補足:ぬらりひょんの経歴
玉藻と出会い、玉藻の助言を受けて遠野に。遠野で力を開花し様々な妖怪を引き連れていく。その後、捻目山の牛鬼との戦い、そして桜姫との出会い、羽衣狐との死闘。
その後、桜姫との間に息子、奴良 鯉伴を授かる。
といった感じ。
玉藻とは一度しか会っていない、といった感じですね。