オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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009/『白』

 

(ましろ)……白か。」

 

ぽつりと、自分の名前を呟く飛縁魔――――白。

同時に身体の中、というよりは身体を構築する重要な何かが消え去る感覚。

名付けを行ったことで、自身の魂魄との結合が発生したからだ。

一体や二体程度なら兎も角、三体以上ともなれば多大な影響が起こり得る。

具体的には、()()()()()()()()

 

(……大したことないように思うが、これも罠なんだよなぁ。)

 

急に襲い来る吐き気と震え。

眠り、魂魄が安定するまで眠らなければこの症状は解消しないだろう。

けれど、弱さは見せないように脚を踏ん張り続ける。

 

「……気に入ったか?」

「ああ……吾には余程合うだろうよ。 感謝するぞ、()()()。」

 

黄色い目を細める白。

そうしていると何処か爬虫類のような感覚さえ覚える美少女、と言った趣。

まあ妖である以上は似たようなものだが。

 

「……一応聞くが、名前が合ってたって言うと?」

「単純じゃよ。 ()()()()()()()()()()()というのは吾に取っても好ましい。

 それに――――見る限り、ご主人も瘴気に蝕まれ始めたばかりじゃろ?」

 

()()()()()()()()()()

少なくともゲームでは、言霊という概念が採用されていた通りに意味を持つ。

 

そして、俺が彼女の名前を借りて付けた名前。

「白」という名前にどんな意味合いが付与されるのか。

 

始まり。無垢。可能性。

どれを取っても、「全てを一度無かったことにし」初めから作り直すという意味を持つ。

つまり――――『本来持っていた種族の特徴さえ白に塗り潰す』。

背中の羽根での飛翔は特徴というよりも存在そのものだろうから消せないにしても、それ以外の部分。

つまり、これからの画一的な成長に使用される筈だったポイントも任意に振り直せる事になる。

 

全く想定していなかったが、これはこれでかなり有用だろう。*1

……そんな融通が効かないから、初めから強い特徴を持つ式に乗り換える構築が提唱されていたのだし。

 

「改めて名乗っておく。 (はじめ)だ。」

 

朔日。始まりの日。

新月という意味合いも併せ持つ、幾つかの意味を重ねた名前(ダブルミーニング)

月齢に応じて能力値が変動する可能性を持つ妖に対し、最も有利で不利な名前。

 

「……人ならではの名じゃなぁ。」

「そうか?」

 

呆れがちな表情を浮かべているのが分かる。

まぁ、こんな名前を妖に付ければ大変なことになってしまうのは身体の知識からも分かる。

強化・変化することさえある式に対し、何もない「新月」なんて名付けてしまえば。

能力値が最低で固定される代わり、スキルを入れ替え割り振って対応することにでもなっていただろう。

……それはそれで面白そうだな。 ゲームの頃だったら面倒ではあるけど楽しそうだったかもしれない。

 

「まあ良い。 ……それでご主人。 吾をどのように用いるつもりなのだ?

 求めるのならば、夜の世話もしよう。

 或いは暗殺も、他者の隷属も。

 或いは、小さな王にだってしてやれるかもしれぬ。」

 

()()()()()()()、と。

そう、契約を済ませた上で問い掛ける。

 

それは、初めの試しに近いものかもしれない。

人の意思を持つほどの知能を持つ妖であるから、それを以て判断するつもりだったのかもしれない。

 

力では調伏された。

では、知恵は?

志は?

その魂の在り方は?

 

それらを確かめ、折り合いをつける――――好む好まざるを問わないと言っても。

自身の意志と、強制されて。

今後の態度には変異が出るだろう。

 

「……そうだな。 先ず、大前提になることなんだが。」

「ああ。」

 

だからこそ、当たり前の返事を。

 

()()()()()()()()()。 俺だけでなく、お前自身の魂を穢すぞ。」

 

飛縁魔としての、それが在り方なのかもしれないが。

元々は九尾の狐や傾国の美女に類する種族名という繋がりもあり。

男子を堕落させる事が染み付いて、剥がしきれていないのかもしれないが。

 

「俺は、お前に聞かれるまでもなく――――自分の望みを果たすだけだ。」

 

夜になるまでで、少し考えていたことだ。

そして、簡単に決めたこと。

 

何故この世界にいるのか。

何故こんな状態になっているのか。

その調査、可能であれば肉体の返還。

それが出来なければ平穏な生活を。

その為に……妖の「王」に関わることだって厭わない。

……十二分以上に。

お前に聞かれるまでもなく強欲だよ。 「俺」は。

 

「…………。」

 

ぽかん、とした表情を浮かべた直後。

くすくすと、面白いものを見たような表情を浮かべた彼女。

 

「そうか。」

「ああ、そうだ。」

「…………それでこそ、吾が主に相応しい。」

 

一歩、二歩。

歩み寄る彼女が手を伸ばし。

その手を取って。

 

月明かりの降り注ぐ晩。

俺と、彼女は。

互いの意思を、初めて知った。

*1
主人公は式の外見から名前を付けるタイプなので名付けの能力変更は然程気にしていなかったりする。


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