オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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011/変化

 

更に半日。

奇妙な圧力を受けたりしながらの探索行で、精神的な疲労が更に増していた頃。

一歩足を踏み込んだ時に感じたのは、今までの感覚を倍加したような寒気だった。

 

「…………ん?」

「どうしたごしゅじ……んん?」

 

鳥肌が肌の内側から浮かび上がるような違和感。

皮膚がもう一枚存在し、そこが逆立つような錯覚。

否定されている、とまでは感じないが……慣れるまでに時間が掛かりそうな感覚。

 

だからこそ、その場で立ち止まり。

それに疑問を抱いた白も同じ辺りまで駆け寄り似たような感覚を受ける。

……妖が否定されている、というわけではないようだ。

 

「なんじゃこれは……瘴気、か?」

「え?」

 

だからこそ。

ぽつり、と零した白の言葉を疑って口にする。

この時点で気付ける程度に濃いのか、と。

 

「リーフ、すまぬが此方へ。 感じたままを教えてくれぬか。」

「…………ぇ、ぁ、はい?」

 

ただ、そんな俺を気にする余裕もないように。

幽世に潜っている時と同様の――――或いはそれ以上に警戒心を強く抱いている。

だからこそ、確証が持てるまでははっきりとした答えは返さず。

俺達の中で最も感覚に優れているリーフへ声を掛けた。

 

とてとて、と数歩だけ離れた場所から此方へと。

最後の一歩で、普段は隠れている眼が大きく開くのが隙間から見え。

きょろきょろと周囲を見ているのが印象的だった。

 

「どうだ?」

「…………そう、ですね。 多分……瘴気が、混じって、ます。」

 

龍脈の力に、瘴気が混じっている?

龍脈の前で幽世が成立している、と考えるのが多分普通。

ただ、それは成り立ち的に()()()()()()

飽く迄幽世の入り口というのは、周囲の力が存在しない場所にこそ作られるのが基本。

……いや、正確に言えば『内部の力が周囲よりも強い』場合にのみ存在出来る、か。

 

普通に考えれば強い力に流され呑まれるから、何方かが目立ち続けるというのは有り得ない。

にも関わらず、式と感覚が鋭い超能力者。

二人が全く同じ言葉を口にしている。

……だと、するとだ。

 

「可能性が二つある。」

「二つ?」

 

小声でボソリと呟いて。

周囲の目線が一気に俺へと向く。

 

「一つは……まあ、此方は考えたくもないが幽世が成立してる。」

「そんなに怖いことなの~?」

「龍脈の……大陸の力より強い何かが内側にいる幽世とか見たくもないわ。」

 

いや、ラスボスとかのイベントボスの一部はそうやって逃走するんだけども。

これが『転移系』に当たる、というのは……まあ良いか。

絶対に逃げられない、という意味合いでは変わらないし。

仕切り直す代わりにその場所に封じられ続ける、という選択肢を取るやつがどれだけいるのか。

 

「それでも実際存在するんじゃろ?」

「あるにはあるが……俺達じゃ一歩踏み込む前に死ぬぞ。」

 

推奨深度50~とかだぞあの辺。

確か元の世界で言うと恐山とか九州の辺りに封印されてるんだっけかな。

ラスボス関係が富士山辺り……だった筈だが多分変動とかしてるだろうし。

 

できれば行きたくねえなぁ、と思いつつ指をピースの形へ。

 

「で、もう一つの可能性……俺としては此方を疑ってるんだが。」

「……はい。」

「廃れた神社を住処にしてる妖がそれなりに強大な場合、だな。」

 

この場合の”強大”とは個体自体の深度を指していない。

種族として強大……つまり知名度が高い高位な妖。

俺達が戦ったことのない存在。

もっと難度の高い幽世に現れる”逸れ”が住み着いているのでは、という事。

 

「……実際、そういったのが暮らして行けるものなのか?」

「こればっかりは種族によるな。 ただ、龍脈を住処にするなら幾らかは無視できる。」

 

瘴気の代わりに力を吸って生き延びる。

その存在理由に矛盾が生じないのなら、暮らす事自体は出来なくはない。

……ただ、内側にいる存在のことを考え。

そして今までの糸のことを考えると、何となくだが妖が存在する理由は異なっている気がする。

 

「矢、通るかなぁ……。」

「お前の矢が通らなければ色々不味いんだが?」

 

先ず紫雨の超能力の値は俺達の中で一番上。

その攻撃が一切通らなければその時点で色々危険。

更に言えば、彼女の握る武器種は色々と特殊だ。

特に大型の妖……古い伝承を持つ存在の内で刀や鈍器を通さない例はそこそこに伝え聞く。

それを打ち払う武器が弓であり矢。

 

つまり、『刃耐性』等で弱体化させられる近接アタッカーとは違い。

『弓弱点』などで寧ろ優位を取れる場合はそこそこ見られるわけだ。

まあその代わりの代償……といえば良いのか。

矢という消耗する道具なんかが必要になるので手数自体は減ってしまったりするが。

 

「ただ、気配を漂わせてる……ってことは其処まで危険な相手ではないと思うんだよな。」

 

こればっかりは俺の勘。

妖気を伏せることをしない、というのは自信の現れかもしれないが。

その分奇襲等の戦術・戦略的に有利な行動を捨てているということにもなる。

まあこのへんは俺の好み、と言ってしまえばそれで終わりなんだけども。

 

「どうじゃろうなぁ。」

「…………無理、なら。 引く、よ?」

「分かってる。」

 

当初の予定通りだし、当然の考え。

相手が隠れるつもりがないのなら、此方は身を隠して移動できる。

そのためのセンサー……と言うほど頼り切りも出来ない。

ただ、確認するには本殿の内側……部屋の中の痕跡を確かめたい。

 

「可能なら妖の討伐まで行きたいけどな……。」

 

そう漏らせば、少しばかり伽月のやる気が満ちた気がした。

もし成功すれば、新たな拠点の一つとして有効活用だって出来る。

態々神職に返してやる必要性もない。

言われれば当然対応はするが……恐らく、対応するにしろ相当遅れるはずだ。

 

「此処からは更にゆっくり行くぞ。 喉とかは今の内に潤しとけ。」

 

全員に告げ、表情の変化を見。

……さて、潜入開始だ。

そんな心持へと、切り替えた。


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