オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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018/二択

 

足跡の先。

此処まで来てしまえばもう直ぐだ、と思う心を戒めながら。

俺にだけ見えるらしい、色の変わった壁を横目に回り込む。

ある程度予想していた通りではあるのだが……この壁はどうやら建物を囲むモノではなく。

建物の敷地範囲を定める塀や仕切り、と呼ぶほうが適切に思う。

 

「……うわ」

 

きちんと手入れされていれば価値は数百倍に跳ね上がっただろうに。

紫雨が言葉を漏らすのも納得できる。

 

無惨にも放置されているそれは、塀の頭上……本来張られていただろう瓦は全て落ち。

地面の彼方此方に点在するように撒き散らかされ、微かに残骸が残るのみ。

文字通りに”捨てられた場所”。

こんな場所に住もうとは、普通の人間では考えもしないだろう。

 

(……()()()()()()、ってところが厄介だよなぁ。)

 

この場合の封じられる、というのは二つの意味を持っている。

 

一つは与えられた場所、という意味。

生まれが生まれだけに民衆の中に放つのは不安だったのかもしれないが……。

少なくとも成人になるまではその場所で生活できるように面倒を見られていたはずだ。

その後は拾いに行く場合場合によるが、大抵は身分を隠して客商売に手を付けたりしている。

だからこそ、存在を確認した上で近くの街や宿場町を探そうと思っていた。

 

だがもう一つ、今回の場合は文字通りに『封印』されている、という意味合い。

周囲を妖が漂い、迂闊に出れば喰われる居場所。

食料なども当然無く、自らの危険を考えながら動く必要がある場所。

恐らく、今回の場合は「死んでしまっても構わない」という意思を感じる。

存在する価値観がゲーム版より更に低い……というには何らかの理由が関わっていると思う。

 

(……とは言え、当人がそれを知ってるかが分からんのだが)

 

どうしたものかね、と思いつつに壁沿いを歩いていれば。

 

「……彼処のようだのう」

「みたいだな」

 

白が口にし、そして俺も同じ場所を見ながら口にする。

一箇所崩れ、その破片が坂のように内側へ踏み込みやすいように均されている。

そして足跡はその内側へ向かっている様子。

 

「境内の中に何があるのかね……」

 

誰から行くか、と一度目線をやった上で最初に足を踏み入れる。

ほんの少しだけ悪化する、更に濃くなる張り付く空気。

既に粘度は非常に高く、肌から穴から体内に入ろうとしてはその場で止まる。

……何らかの基準でもあるんだろうか、この奇妙な粘度は。

 

肌感覚がおかしい以外は何もない、と告げて恐る恐るに入る四人。

おお、と口にするのは同じように感覚を理解できる二人。

ただ、残りの二人……伽月と紫雨も何らかの異常は感じるようになったらしい。

 

「…………こんなところに。妖、いるもの……なんです、か?」

「あー……普通なら存在しないはず」

 

境内を初めて見たようで、周囲をキョロキョロと見つめるリーフを他所に。

両手を握っては開き、何やら麻痺でも受けたかのような形で自分を確かめている。

 

「……どう思う~?」

「何でしょうね、この感覚は」

 

普段感じるものではない、と言った具合で。

手足、互いに見合って背中や武具を軽く引いたり飛び跳ねたりと確認中。

ふわりと浮かび上がる服から目線を離してちょっとだけ考え込む。

 

(濃度が上がったことで気付いた、にしては幾つか疑問があるんだよな)

 

はっきり言って、その差で気付けるならどの超能力者も自然と気付けるようになると思う。

 

なら、考えられる理由は二つ。

薄い場所と濃い場所、その両方を感じられる程の場所に踏み込む数が少なすぎるか。

或いはその肉体に影響があるからこそ、どんな相手でも気付ける代償を背負うか。

どっちも否定しづらいから……危険度を考えるなら後者を前提としておこう。

 

俺達全員が何らかの影響を受けている。

但し能力面や超能力面、つまり戦闘に於いて不利になる影響は特になし。

あるとして何らかが張り付いている違和感で感覚が微量に狂うくらいか。

その為だけに何かを仕込むとも考え難いし。

 

「……んんむ」

 

足下の破片を蹴り飛ばす。

からころと転がり、塀と古びた建物沿いに弾かれていく。

その方向に眼をやれば、建物自体も大分古く。

刻まれているだろう呪法術式は勿論、普通に生活さえも難しいというのを再認識できる。

 

「ほれご主人、とっとと行くぞ」

「あー、はいはい」

 

此処からは足跡は何方にも繋がっている。

曲がり角に残った枯れ木の方に進むか、或いは微かに明かりが差し込む方へ向かうか。

何方に行こうとも回るのは同じ。

だから、どっちに進むかを決めるのは唯の二択。

その、筈なのに。

 

足を踏み込もうとしていた四人に白いモノが()()()

頭の上に見えたのは、再び伸びようとする白く細い糸の束。

そちらに向かえば、何かを確定させられると。

一瞬だけ見え、消え。

再び理解する、謎の光景。

 

「此方からだ」

 

自然と進もうとしていた四人へ声を掛ける。

え、と聞こえる声を他所に。

既に此方……暗がりへと足を進め始めた。

 

「…………朔、くん?」

「ちょ、ちょっと待ってよ~!?」

 

無視して向こうに回るのかどうなのか。

恐らく、頭に張り付く手前だからこそ何とかなった。

そもそも何故見え、何故干渉出来るのかが分からないままのあの糸。

 

ただ――――。

 

「チッ」

 

そんな舌打ちのような音が。

この空間に踏み込んで初めて聞こえ。

先程と同じように、空を見上げる。

 

何も見えない雲と天。

天候が移り変わる手前とばかりに、黒く塗られた雲の数々。

それよりも手前で――――何かが、一瞬見えた気がした。

 

見てはいけない何かを。

吐き出す吐息の断片を。

見たくもない、悪意に包まれた嘲笑を。

 

「…………」

 

くるり、と背中を向き直れば。

太陽が差し込むように見えたもう片割れの道の奥。

其処が、ぬるりと黒く塗り潰されるのが見え。

走れ、と声を挙げていた。

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