オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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022/封

 

「ここ、です。」

 

二つ並んだ穴の内右側を案内され。

再び穴から頭を覗かせる。

 

部屋の隅に整理された幾つもの荷物袋。

同種同士で並べられた武具防具の数々。

そして札が張られた、明らかに別分けされた箱が一つ。

見る限り、倉庫として用いている部屋のようだった。

 

隣の部屋や外周沿いへの扉はぴったりと閉じたまま。

開くのかどうなのかを後で確かめよう、と思いつつ彼方此方に眼をやっていれば。

どうぞ、と部屋の奥側……穴が空いていない方を手でやり。

自らは綺麗な正座で座り込む。

 

一度白と目を合わせた上で、彼女と向かい合う形で座り。

その隣に白が座る。

 

一心同体、或いは護衛。

傍から見れば式として扱うには相応しくないような扱いをしているわけだが。

特に指摘も気にもならないようで、一呼吸置くのが胸の前後移動で分かった。

 

……そういえば仲間のモノに見慣れていて余り気にしてなかったが。

和服を着るには少し不釣り合いな体型だな。

その、外見年齢と不釣り合いな胸の大きさ的な意味で。

詳しく知る訳では無いが、傍目で見る限りリーフと同じかもう少し大きくなるのか?

 

彼方此方がガリガリなのに其処だけ出ているのは明らかに変。

これも理由があったりするんだろうか、と思うだけ思った。

口にしたら白に殴られそうだから黙っておく。

 

「……さて、今さっき言ったことの続きになるんだが」

「はい。」

 

意味合いの違う視線が二つ向けられたからこそ。

改めて、という形で俺から話を切り出すことにした。

 

目線を其処に向けていても、気にした様子の無い目前の薄着の少女。

全く警戒していない、というその在り方に此方が心配になってくる程で。

そんな視線の先を理解しているから、段々と圧が増している白。

こういう時は変に口に出すより流してしまった方がいい。

 

自分が女性的に魅力的に成長しないから、って思いこんでるのもあるみたいだが。

こういう所は物凄い圧が強いんだよなぁ。

十二分にお前は注目されてるし美人だと思うが、絶対に言ってやらない。

 

「まずは此方から説明する。 何でこんな場所に来たか、ってことをな」

 

当初、実際の所……どう説明するかという問題があった。

 

今回だって、はっきりとした理由や情報……例えば噂話なり組合から情報を買うなり。

信用できる相手からの情報、と言った裏付けが無い状態でやってきている。

そんな本来有り得ない形でも着いてきてくれたのは、偏に『今までの言動』があったから。

近々……というよりももう今回の途中か帰宅後に部隊内の秘密として話す事も考えてる。

方針を立てる上での事前情報、として役に立たないということは先ず無いだろうから。

 

そんな、白以外には誰にも話していない事を全て打ち明けるのはどうかと思ってしまったのだ。

だからこそ、其処だけを一度誤魔化して説明しようと思ったのだが。

 

彼女と眼を合わせてから、そういったことはしないほうが良いのではないか――――と。

そんな直感がずっと囁きかけている。

バカバカしい、と思って切り捨てることは非常に容易く。

ただ、それをしてしまえば信用されなくなるという感覚が背筋を冷やしている。

 

なので。

 

「信じるか信じないかは好きでいいが。 俺には物心付いた頃から妙な知識を持ってる」

 

向こうがどう受け取るか次第に任せ、全部公開することにした。

当然、白が思いっきり首を此方に向け、驚愕の表情を浮かべている。

 

「ご主人……!?」

「多分……誤魔化しとかそういうのは通じない」

 

それを言ってしまって良いのか、という俺のことを思っての忠告。

全ての根底に俺がある以上、此奴にも嘘なんかは出来る限り付きたくない。

だから傍目から見ればバッサリと斬り伏せるような言葉で、以後の言動を封じる。

 

「まあ色んな知識があるんだが……その中の一つが、廃れた神社に住まう人物のことだった」

 

その人物が俺達に有用な役割を果たしてくれるはずで。

だから来た、と。

ごく端的に自分達の都合だけを述べれば、小さく頷くのが分かった。

 

その時点で俺も察する。

恐らく、この灯花と名乗る少女も五感に関わる何らかの能力を備えている。

或いは直感を働かせやすくするものやもしれないが。

嘘や誤魔化し、真実とそうでないものを見分ける力に近い何か……と言った所か。

当然、俺には全く覚えのない能力。

 

「それは……灯花のことですか?」

「そういうことになるんだろうが、色々と食い違ってる所もあるって感じだな」

 

何処が、という部分に関してまで説明はしない。

俺だって出会ってまだ一刻経つかどうかの少女のことを知っている、とも思えないし。

彼女だってどの程度なのか、ということに関してまでは知る由もないだろうから。

 

「今度は此方からいいか?」

「はい。 正直にお話下さった、方ですから。」

 

……やっぱりどうやってかは知らんが、真偽を見分けてるな。

一旦それを横に置いて、その上で聞いておきたかったことを一つ問い掛ける。

 

「……何でこんな場所にずっと留まってるんだ?」

 

神職である以上、龍脈の上に住む権利は持つ。

とは言っても、こんな地獄みたいな場所でずっと暮らす理由が分からない。

ゲームの頃であればそう定められていたから、で済むにしても。

今こうして変化した世界で暮らし続ける必要性があるのか?

 

それに、餓鬼のような身体に似合わない肢体。

色々と矛盾する点が多すぎる。

 

「とうかも、実際に試したことはないのですが……。」

 

極めて軽く。

もう諦めている、と言った口調で。

以前に何度も見たような態度で。

 

「せいじんになるまで。 灯花は、外に出られないらしいのです。」

 

それは――――どういうことだ?

成人になるまで出られない?

誰に命じられて?

 

疑問が顔に浮かんでいたのだろう。

もうすこし詳しく説明しても良いですか、と聞かれて。

当然の如く、頷いて返した。


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