オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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029/驚愕

 

「おどろくのももう疲れました……。」

 

もぐもぐ、と口を動かしながらに語る三人。

 

「いや、俺らからするとその基準が分からないんだが」

「…………です」

 

灯花が顔を出して漸く現状がどんな形なのかに目をやって。

茹で顔を浮かべ、咄嗟に距離を取って顔を伏せたリーフ。

俺も呼吸を整えたあとで苦笑を浮かべたが、「何してるんですか?」の一言で全部無駄。

変な空気の中で三人が漸く同じ部屋に集まり、質問が矢継ぎ早に飛んだ。

 

曰く。

 

『かみを打ち払うってどうするんですか?』

『いま準備していることと、灯花がやれることとは?』

『その食べ物、傷んでいないんですか!?』

 

全て気になる……と言うのは間違いない。

ただ、正確に言うなら最も驚愕を含んでいたのは食料に関して。

 

『……どういうことだ?』

()()()()()()()()()()()……いえ。 食べられるんですか?』

 

思わず口にして、それに関する説明に二人で顔を見合わせた。

 

食べられるって言ったよな?

…………言いました、ね。

そんな意思を伝え合い。

 

『当たり前じゃないのか?』

 

と。

返せば混乱した様子を浮かべて悩み始めたので。

ちょっと悩みつつ、取り敢えず俺の分から一枚渡して干し肉を齧らせた。

これも結構お高いやつなんだが半ばヤケになってるのが見て取れ。

勿体無い、と思いつつ少しばかり待って。

 

そうしてもぐもぐ齧り、今に至る。

 

「腐敗するってのは聞いた。 ただ、()()――――って言ったよな?」

「いいました。」

 

つまり、本来ならば状態が悪化している。

風化・腐敗していて当然だと理解して言っているだろうし、それを疑っていない。

今までの経験上そうなっているだろうから、と諦めの気分も混じっていたのやも。

ただ、今の現実はそんなことはないと否定する。

きちんと食べられる食料の山々。

 

「どうなってんだ……?」

「……さあ?」

 

とうかにも分かりません、と疑問だらけの顔。

ただ……その上で。

これで食事には困りませんね、と口にした。

 

それで良い、と判断しての言葉なのかもしれないが。

俺とリーフはそれで納得出来るほど、真っ直ぐに生きてこられたわけじゃない。

 

「どう思う?」

「…………条件、でしょう、か?」

「何に引っ掛かって何に引っ掛からなかったか、だよな。」

 

俺とリーフの共通点。

と言うよりは先程の会話を交えた上での、お互いの抱えているものを分かった上での会話。

 

俺はもう一つの(メタ)視点から。

リーフは内側の(りかいしている)相手から知っている。

 

神々は強大で、権能の内側ではどうしようもないけれど。

それぞれが持つ許容幅を超えてしまえば。

普通でない手段を取るのならば、立ち向かう事は出来る。

 

例えその末路がどうなるとしても、その権利だけは。

知識を持つ者達なら、その手の内側に鈍く輝き続ける。

 

「えっと、あの?」

 

一人置いていかれている灯花に説明するより、先にある程度の共有を進める。

方向性だけでも掴んだ上で質問する、その形式に自然と切り替えた。

 

「少なくとも俺達と……他の超能力者には違いがある」

「…………深度……能力? ……或いは、なんだろ」

 

恐らく腐敗云々、風化云々は権能自体ではない。

この空間に入り込んだ時点で発動し始める、厭らしい結界に付与されていると考える。

もしそれを権能として持つのならば住まう妖にもそんな特徴が見えてもおかしくない。

 

幽世……そうだな。

冥界、黄泉平坂。

そういった特徴を持つ場所の妖が現れる筈。

 

だから、もっと人それぞれに干渉する何かが権能に当たる。

それを前提として思考を回す。

 

深度的な差……は有り得るかもしれない。

最初に見掛けた鵺とかいう存在。

アレに親しい妖が住まう領域だとするなら、踏み入るのも一苦労な筈。

 

能力的な面ではどうだろうか。

少なくともやってくる上で必要になる龍脈を辿る感覚。

それを俺達の中で持ち合わせる/持ち合わせないの差がある以上。

これを原因と考えるのは少々無理があると思う。

 

「もっと根本的な部分、とかか?」

「…………根本?」

「俺達が特殊な状態で活動してるから……ああ、いやこれも違うな。」

 

自分で言っておいて自分で否定する。

 

これは、最初に浮かんだのが三年間共に過ごしてきた三人だったから。

初期の三人(二人と一匹)が特殊過ぎただけ、とも言える。

他の二人は存在や扱いこそ特殊だが、生まれや能力に特殊性が見えるわけではない。

各人がそれぞれ違う、という意味合いでこそ超能力者は超人ではあるが。

それならば引っ掛かる基準/引っ掛からない基準がまた別物だろうと考えた。

 

「あの。 勝手に話を進めるの、辞めて貰えますでしょうか?」

 

あれやこれや、と互いに言葉を投げつつ思考。

そうしていれば、ぐいぐいと頭を押し込むように話題に割り込んできた。

 

……いや、それ自体は構わないしそういう意図もあってやってる所あるけれど。

俺に頭押し付ける理由にはなってないよな?

 

「……なら、灯花。 お前が知る限りで今までの訪問者の特徴教えてくれ」

 

まあ最後はこうして聞くしか無かったのは間違いないから良いんだが。

俺達のはどうせ仮説だ。

そこから正しい答えに繋げるにはどっちにしろ情報が足りない。

 

「とくちょう……と言われても、難しいんですけど。」

 

この場で話を聞いていたのなら、何を求めてるのかは分かるはず。

逆に言えば、此処でもし求める特徴が挙げられないのだったら。

 

「何でもいい。 逆に言うなら俺達で初めて見たモノとかでも構わん。」

 

俺達だからこそ、結界の対象から外れていて。

俺達だからこそ、権能を無視……乃至は対応出来ている。

何の情報も掴めないことを前提とする無茶を熟す必要性が出る。

 

だから、ほんの少しばかり。

見知らぬ、幸運の持ち主に祈りを捧げそうになり――――首を振った。

 

祈るだけでは何も変わらないと。

別の、以前の俺自身が強く知っていることだったから。

 

「…………そう、ですね。」

 

だから。

唇が、形を変えたその答えは。

 

「とうかと同じくらいの年の人達は、初めて見たかもしれません。」

 

思考を巡らせる、新たな蜘蛛の糸とも感じ取れた。


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