オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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012/倉庫

 

父上に相談したところ。

 

「先ずは手に持って馴染むかを見てからだ。」

 

と。

案内されたのは、厳重に封印されていた家の傍の倉庫だった。

 

「うおお…………!」

 

倉庫の中に積まれていたのは山にも見える武具防具。

一目で見て瘴気の濃度が強い……つまり高位のモノが散見される。

ある意味眼福だ。

……細かい武具の詳細を調べる能力を取っていないことを少しだけ後悔した。

 

「はー……主の父上殿。 これはお主が一人で?」

「いや、この里全てで集めてきたものが殆どだ。」

 

同じように、瘴気の濃度を見て驚いている白。

最早住まう人も、私達くらいだがな、と。

そんな事を呟きながら父上が脚を進める。

 

……昨日からの一日が激動過ぎて、問い掛ける事を忘れていたが。

確かに俺達を除いた住人の姿がまるで存在しない。

出ていったのか――――或いは()()()()()()のか。

何となく半々だろうな、と思ったが口にはしなかった。

 

……しかし、こうなると『婚約者』や『妹分』として存在していたあの子達はどうなるのだろう。

ふと気になったことではあるが、住んでいたのはこの里ではない。

もし出向く機会があれば合流出来る可能性は……まあ、あるか。

思い描くのと同時、浮かんでしまうのは一握の不安。

 

(多分、父上は俺を里の外に出そうとしてる。 ……それ自体は、問題ない。)

 

ただ。

ゲーム版では住人は数少なかったが、それでも生活が何とか回る程度には存在していた筈だ。

母親は主人公を産むのと引き換えに既に月夜に旅立っていた(しんでしまっていた)記憶がある。

恐らく、この世界でも同じなんだろうが。

色々と追い込まれている不安感が、心の中を蝕み。

 

「だから、必要な武具であるならば一つ二つならばお前等に渡すことは問題はない。」

「おお……。」

 

そして、倉庫の中に響く声と声に。

余計なことを考えている余裕はないな、と改めた。

 

「無論、装備できるものに限るがな。

 流石に何も渡さずに幽世に向かえ、とは言えぬ。」

 

あー……つまり、これが初期武具に相当するのか?

ゲームだと気付いたら幾つかの装備を所持していたから、その流れを踏襲している?

まあ何にしろ、貰えるのは有り難い。

 

「それで、朔。」

「はい。」

「先に式に武具を渡す。 何を持たせるつもりだ。」

 

生得武器*1を持っていれば少しは悩んだが。

白の持つのは羽根による飛翔能力。

そして、何を渡すかはある程度相談済み。

 

「父上。 刀か曲剣……それに()()()()()()()()()短剣類はあったりしますか?」

 

装備時に特殊能力を発揮する武具達の中で、割と良く見るタイプであり。

そして使い方を間違えなければ確実に仕事をするのが『副武器として装備できる』武具。

本来の『二刀流』に類する装備制限を無視する能力とは違う、扱い易さを突き詰めた装備。

俺が強請ったのは主武器としての攻撃手段と、盾を捨てる代わりに追撃を可能とする武器。

その二種類。

 

「無論だ。 ……だが、扱えるのか?」

 

片目を少しだけ見開くのが見て取れた。

良く知っていたな、とは聞かれなかった。

或いは式から聞いたのかと思ったのかもしれない。

……ただ、この知識の出処は俺自身も説明が出来ない。

まあ流してしまうのが良い、と思っておこう。

 

「逆だ、父上殿。 吾の場合、両手で持つような重量武器は合わないのでな。」

 

白の言う通り。 彼女自身も良く分かっている(と言うか教え込んだ)。

一撃の威力に特化するならば両手武器を持つ。

武器と盾、武器と武器、剣の両手持ち。

大きく分けてしまえば前衛の戦士に当たる存在はその三通りしかない。

そして斥候型を目指すのならば、一番噛み合うのが二刀流と言うだけの話。

……将来的には筋力も付いてきた辺りで()()()()()()()()して貰おう、と思っているのは黙っておく。

 

「……そうだな。 刀と短刀ならば転がっていたはずだ。」

 

指差した方向は入り口からやや奥に入った辺り。

金属製の武器が幾つも並んでいる棚の端、山のように積まれた鈍く光る金属の数々。

 

「合うものを選んで振ってみるが良い。 ああ、外でな。」

「分かっておる。 ……感謝するぞ。」

 

歩いて向かう白の呉服姿を見送りつつも。

改めて父上の眼をしっかりと見返す。

 

「……俺としては、長柄の武具か弓かで悩んでいます。」

「長柄……刃物の有無は?」

「未だ。 杖のように扱う事も多いでしょうが、それと同じだけ刃物を要する機会もあると思います。」

 

長柄。

歩く際に突き立てるモノであり。

呪法を唱える際に補助するモノであり。

妖を討滅する際に用いるモノでもある。

それだけに、刃物の有無は大事ではあるが必須でもない……というのが俺の今の考え方。

仮に折れた場合を考えれば打撃武具として修練しておいて損はしないだろうし。

 

弓。

高空の敵を撃ち落とす武具であり。

離れたところの敵を穿つ武具であり。

対象の内の臓腑を腐らせる武具でもある。

 

……結局、何処まで行っても武具なのかそうでないのかの違い。

成程な、と呟かれながら。

倉庫の中を彷徨い。

立てかけられた弓と、一本の棒を受け取るように命じられる。

 

「最終的にはお前が選ぶことだ。 好きな様に扱ってみろ。」

 

行くぞ、と倉庫の外へと連れ出される中。

再度、武具の山へと目を向ける。

 

――――ばさり、と。

何処かで、鳥の飛ぶような音が聞こえた気がした。

 

*1
生まれた時から持つ爪などの武器。瘴気深度の上昇に応じて強化されるが武具の方が最終的に強くなる。

主人公の武器は何方がお好みですか。

  • 長柄武器

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