オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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045/地下

 

かつん、かつん。

 

石で出来た階段は所々に苔が生え、足下が不安定になりつつ。

地面の下、という立地上もあり涼しさというよりは寒さの方が先に立つ。

 

手元の明かりのみが唯一の頼りではあるが……。

恐ろしさを感じる場所としては、寧ろ頭上の方が余程だとも感じるくらい。

 

「……しっかし、案外問題なく行けたのう」

「何でだったんでしょうかね?」

 

あれ程警戒していた怨霊だったが、昼間だからか或いは伽月だからか。

あの部屋の中に長時間踏み込んでいても、特に影響を受けず。

『気配干渉』を使用し俺達を塗り潰しながらに三人で進んでも同様。

ただ、少しだけ俺が距離を置こうとした時に反応したのは……そういう事か?

 

「性別……と言うよりは此処を管理してたのが全員男とかじゃないか?」

 

恐らく、此処を知る人数は多すぎず少なすぎない。

受付に出入り出来る人数の半数を超えるとは思うが、全員ではないだろう。

神職の性別比率が狂っている、とかの設定情報は見た覚えもないし。

 

「だから、朔様に大きく反応したと?」

「かもな。

 ただ、そうなるとこの地下に俺が踏み込んで良いものかってのも出てくるんだよな」

 

強く固められた周囲の土。

階段の一段一段は浅く、けれど段が多く壁に沿って螺旋状に降りている。

恐らく中央が開いているのは……足下に転がっている縄と、吊るされた寝台が理由だろう。

 

「そんなこと言ってもの。 ご主人の方がいい、と言ったのはあ奴じゃし」

「ん、まぁ……そうなんだよな」

 

当初、紫雨が二人とともに踏み込む予定として纏まりそうだった。

ただ、彼女自身が『物品以外を見つけた時を考えたらね~』と拒否。

結局俺達三人でやってくることになったわけだが。

 

「まあ、何事もなく終わらせるのが一番だ……床に降りるぞ」

 

普段ならば最前線に立つ白は、俺の後ろに回っていた。

理由は割と単純で、明かりを最前線と最後尾で二つ抱えていたかったから。

呪法での明かりと道具の明かり、二種類を抱えたのは多分変な癖からか。

まあ実際、幽世の中での『魔法無効領域』などを考えればこれは理に適っているんだが。

 

「ああ」

「はい」

 

そんな二人の声を聞きながら、運びやすいように敷き詰められたように見える石畳へ降りる。

……地下だというのに、これほどまでに弄られた空間。

明らかに短期間で仕上げたようなものではない、というのは共通認識化出来たと思う。

 

「うわ……」

 

呪法での明かりを浮かせながら周囲を見回す。

各々が似たような思いを浮かべたのは、変化した顔色ですぐに分かった。

 

「何というんじゃったかの、こういうのは」

「座敷牢……かね」

 

白の疑問に答えつつ、どうにも近付く気になれず。

その場で仕切りの奥を見透かす。

 

木で出来た柵、小さく開く扉に外からの鍵。

部屋の隅には汚れ切った布が纏められ、携帯型の便器のようなものがその対角上に置かれている。

よくよく見れば、布の上に転がっているのは何かで色が変わった骨だろうか。

 

そんな現場が通路の両端にそれぞれ三つずつ、北と南で計十二。

通路の最奥には更に扉があるが、俺の眼には何やら酷い気配が見え隠れしているように思えた。

 

「あれ、骨……ですよね?」

「そうだな……何のためにこんな場所を作り上げたんだか」

 

俺だけが知る情報を胸に秘めたまま。

そして、神職という存在の内側で何が研究されているのか。

それを認めたのは誰なのか。

知ってしまうほどに沼に堕ちる錯覚を感じつつも、足を踏み込まないという選択肢はなく。

見えている先、取り敢えず北側の扉の先へと進もうと足を進める。

 

(……こっからは俺の持ってる情報もほぼ無い。 間違ってしまえばそれまでだ。)

 

改めて、もう一度決意を固めながら。

取っ手に手を掛け、二人に頷きながらに大きく引っ張り扉を開ける。

 

「う゛っ゛!?」

 

――――途端に溢れるように流れてくる、異臭。

いや、これは()()と呼ぶべきか。

 

目に刺さり、鼻に刺さり。

慌てて両目を閉じ、片腕で鼻を塞ぎながら扉を閉め。

ばたん、と響く大きな音。

 

けれど、体に染み付いたような気さえしてしまう腐臭は周囲を漂い続けているよう。

げほごほ、と繰り返す咳は俺だけでなく。

二人も同じように咳を繰り返し、異物が目に入ったかのように涙がずっと止まらない。

 

「な、なんじゃぁこれは!」

「臭い……じゃなくて痛いんですけど……」

「うえ、頭痛してきた……」

 

閉じたからこそ口を開いてはっきり話せる。

そうでもなければ口の中まで侵されるような恐怖を感じてしまったかもしれない。

ただ、問題は其処ではない。

 

「何で未だに匂いが残ってんだ……!?」

 

他の場所……同じように閉じられた倉庫であったりこの座敷牢であったり。

白骨死体が転がっている場所は幾つもあり、同じである筈なのに。

濃厚な……それこそ今も腐り落ち続けているような匂いだった。

 

「こんな事、普通あるんですか?」

「あるわけ無いだろ」

 

……可能性は思い付く。

あの奥にこそ、神が封じられた誰かがいるのではないのか。

そして、それは常世の存在。

生きながらに死に近付き、死に触れつつも生き続ける。

決して楽になれない結果、永遠に死に続けているのでは――――という推測。

 

「どうする、ご主人」

「どうするもこうするも……一度あの奥には行かないとだが、普通じゃ無理だよな」

 

開けただけでああなったんだ、踏み込めば五感が死に続ける。

となれば、顔を覆うガスマスクのようなものを探す必要があるわけだ。

だったら、こういう事態に備えた何かがあるはず。

 

「先に南を探すぞ。 北が保管庫なら、南が研究室だと思うしな」

 

現段階で開放できなくとも、こうなりゃ北側の奥くらいは確かめたい。

……夜になるまでに片付けよう。

 

うぇ、と吐き気を催しながらなので。

少しばかり、格好がつかないけれど。


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