オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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ちょっとだけ短め。


051/対応

 

顎が下、頭が上。

通常時……と呼んで良いのかわからないが、普通に安置している状態。

白墨の上にぽつん、とそれだけが置かれた光景。

 

何も知らない誰かが見れば、寧ろ呪術でも執り行っているように見えるかもしれない。

そんな状況下で、陣を消さないように足の位置を確認しながら眺める。

 

「……骨、だよな」

「ほね、ですね。」

 

ごく当たり前のことを繰り返す。

何の変哲もないモノになった、というその事実自体が異様な状況。

全てが浄化された、とそのまま受け取って良いのか。

 

(少なくとも、俺の目には呪い効果は映ってないんだよな……。)

 

実際には『素材』分類……武具や道具になる前の状態の物体。

それ以上でもそれ以下でもない物体へと変質した、誰かの遺骨。

ただ。

 

「あの……なんていうか、嫌な感覚は消えたな」

 

目でも見た通り。

宙に掻き消えた、龍脈に呑まれたように重苦しい雰囲気も消えている。

周囲の資料に残るドス黒い内容さえなければ、神社として名乗っても不思議ではない。

何処か清浄とさえ感じる透き通った感覚。

 

「じょうかせいこう、と思って良いんでしょうか……?」

「こういう変化した例を知らないからはっきりとは言い切れないんだが……」

 

先ず間違いないと思う、と頷く。

ただ何かが起こってしまう可能性を含め、もう暫くはこの場で様子を見ようと提案し。

二人で頷き合って、部屋の片隅……壁を背に腰掛け、白骨を眺める奇妙な光景が完成する。

 

(……精々四半刻、ってとこだな。 念の為に明日までこの場で浄化は継続するとして。)

 

これで相手に打撃を与えると同時、此方も不利になるであろう要素を一つ潰せたと判断する。

その上で。

更に手を尽くして、相手の取れる手札を押し潰してしまいたい。

 

”高難易度向け任意目標(クエスト)”を攻略する上で。

最も必要になるのは臆病さだと、俺は経験上判断していたから。

 

「灯花」

「はい?」

 

今日にするか明日にするか。

少しだけ悩んでいたが、こうして無事に済んだ(と判断する)以上。

相手方、神の側にも影響が起きていると考えて良い筈だ。

 

つまり、何をしようと向こう側には既に気付かれている。

どの程度かまでは予想は付かないにしろ。

相手の――――”神”に関係する物品の浄化の直後に行うなら。

少しでも目眩ましになるかもしれない。

 

「行う時間帯は任せるが、可能なら今日中……それも午前中くらいまでだな。

 神の名前の確定を進めてくれるか」

「え。」

 

その言葉は、本当に良いのかという意味での確認だと思う。

アレだけグダグダと考え続けていたのに、此処で決定してしまって良いのか。

……大体俺のせいだというのは分かっているので、謝罪の言葉が先に立つ。

 

「……いや、まあ。 条件が曖昧過ぎて俺も迷ってはいたんだが」

 

何処が切掛なのか、と言われるとちょっと分からない。

ただ最初の頃は足止めと喰らい続けているような感覚を受けていて。

気付けばその状態が反転していた、という当たり前の変化。

その相手が神である、とかいう例外を除けば普通に詰められる盤面だったという事なのか。

余りに足踏みし過ぎたな、と説明も出来ずに及び腰だったのは間違いないので反省。

 

「名前が特定できてる方が結界構築上も間違いないんだよな?」

「それは……はい。 『何』を指定するかどうかでも条件が変わるみたい……なので。」

 

お母様から習ったことなので自分では良く分かってないんですけど、と。

少しずつ差す日差しが増していく中で、顔を下に向けながらに呟く。

 

「そういうもんだろ。 俺も全てが分かってるとは死んでも言えないし」

「…………あるていどは、知ってそうですけど。 お兄様なら。」

 

常識的なことはそこそこすっぽ抜けてるぞ、と笑って言えれば良いのだが。

それが冗談にならないので口に出す事なく、胸の内に留めておく。

 

「そうでもないさ。 それで……呪符とかの完成度はどんなもんなんだ?」

 

そして話の方向性を少しだけ捻じ曲げ。

聞いても当然のような、疑問に思われにくい内容を確認すれば。

彼女はそれに素直に反応して口を開く。

 

……更に申し訳無さが増した。

 

「きのう、三人が集めてくれた内容を多少取り纏めた……と言ったくらいです。

 主にリーフさんが担当してくれて。」

「ああ……」

 

だよな、とまでは言わない。

リーフも薬関係で資料を纏める以上、色々な情報を整理することには長けている。

最も慣れているのは俺達の中では紫雨になるんだが、今回の場合は不適当。

それを行うにしろ、最も基礎になる知識が欠けている。

 

「そういや、リーフに対して何か感じるものはあるのか?」

 

ふとそんな事を口にする。

何故そんな事を聞いたのか、と聞かれれば俺も分からない。

ただ、感覚で分かるものなのか――――と。

そんな疑問を抱いたからなのかもしれない。

 

或いは。

自然とずっと、彼女と組ませて活動させ続けていたからなのか。

 

「……リーフさんに、ついてですか?」

「そう」

 

実際、灯花とリーフの内側の存在も真逆だ。

入れ替えを行ったから、という結論有りきではあるが。

宿る相手に対して(神なりの)好意と悪意。

感じるものも何か変化があったのか、と思って聞いてみれば。

 

「……そう、です、ね。」

 

ちょっとだけ悩むような仕草をし。

少しだけ緊張を抱えながら、次の言葉を待っていれば。

 

「……とうかも、リーフさんくらいにはなりたいなぁ、って。」

 

がくり、と。

足場を外されたような、緊張感のない言葉に姿勢を崩し。

それを見て、くすくすと彼女に笑われてしまった。


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