オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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死んだような顔をしながら倉庫へ顔だけを出し、四人に声を掛け。

その匂いに顔を顰められて、紫雨とリーフに何かを投げ渡された。

 

転がってきた物を見れば消臭剤……をかなり強めに仕込んだ消耗品。

本来なら獣系の妖の鼻を一時的に潰すための物品。

普通の使い方ではなく、専ら霊能力者が外部で活動する時に使われる緊急道具。

俺が先程作り方を聞けば良かった、と後悔したそれそのもの。

 

(いつの間にこんなもん仕入れてたんだ……?)

 

昨日の時点で使わせて欲しかったと思いつつ、伽月にもそれを一つ渡し。

服を脱ぎ捨て、消臭を完了した状態で普段服へと着替え。

地面に深く埋め終えて、それでから漸く話が始められる。

 

……本来なら温泉とか入ってゆっくり匂い消したいんだがなぁ。

或いは水浴び、行水。

その代替行為として見る、時間効率としてなら悪くはない。

だからこそ今でも売られ、使われているんだと思うが。

 

「……幾分かマシになったの」

 

くん、と鼻を立てて服の袖で顔を隠し。

少しだけ嫌な表情を浮かび上がらせるのは、昨日同行した張本人(しろ)

 

「完全に消えてないのか……?」

 

自分ではどうなのか、鼻が死んでいる気がして分からない。

特に自分の体臭として染み付いてしまったものなら余計に。

……伽月の方から漂う気がするものに関しては、男女差もあるから黙っておくが。

 

「…………白、ちゃんも、少しだけ……消え、ました、ね?」

「吾にも残っておるのか!?」

「気にしなければ大丈夫なくらいだけどね~」

 

若干投げやり、というよりは適当?

確認できるものに関して色々と印を付けたり、メモに纏めたり。

そういった整理的な業務に今日も励んでいた紫雨が顔も上げずに答えを返し。

思わず言葉を返そうとするが押し黙り、ぐぬぬと声を出していた。

 

「……それで、お兄様。 下の方は……?」

 

そして文机の上から目線を此方へ向けた灯花。

 

筆で書き記していたのは、恐らく能力で引き出した神々の特徴とその名前。

今までに出揃っている情報から名前を幾つも浮かび上がらせ。

条件を変えてはまた該当するものを絞り込み。

最終的にほぼ全てが当て嵌まる存在こそ、俺達が立ち向かう相手ということになる。

 

「あー……いや、こう、なんだろうなぁ」

 

オモイカネに関して説明はしていいもんだろうか。

いや、しない理由もないんだが明日正式に通ってしまってからのほうが理解されやすい気もする。

ある程度の情報を伝えるだけに留めておくとするか。

 

「一応下にいる相手と交渉……というか話は成立した。

 ただ、当初の予定から変わりそうってことは謝っておく」

「かわる……ですか?」

「ああ。 それと小刀を一本、浄化しておいてくれるか?」

 

それは構いませんが、と話を促す彼女。

気付けば周囲の目線は俺へと集まっている。

特に同行していた伽月に関しては特に視線の圧が強い。

まあ……そうだよな、自分ひとりだけ置いておかれた訳だし。

 

「端的に言うなら、下にいた神と交渉……交渉?が成立した」

「……上から目線で言われたとかじゃなく?」

「ご主人と交渉……?」

 

おう、紫雨はまあ分かるが。

白はどういう意味を込めた言葉だそれは。

 

「向こうも解放を前提としてくれたお陰で案外すんなり会話は成立したな。

 ただ、解放時の報酬……と言うより、向こうの望みで俺の守護神というか。

 契約先? 相談役、協力者になる方向になりそうだ」

「……あ、それで予定から変わる?」

 

そうだ、と一度頷く。

そして、とばかりに伝えないとか。

 

「で、その神の知り合いか縁のある相手を呼ぶ手段を教えて貰えることになった。

 灯花に噛み合う神々ってのが変わってくるだろうから、考えてくれると助かる」

「……は、はい。」

 

と言ってもなぁ。

攻撃系の逸話……何かを攻め滅ぼしたり、或いは武器を生み出す系列は合わないと思う。

守り、慈しむ。 結局は守護系列か治癒系列、俗に浮かぶ女神やら治癒神辺りいるのか?

 

「まあそれは分かった。 では、明日決行ということで方針は変わらんのじゃな?」

 

意見を取り纏め、白が呟く。

こうした時に最初の仲間という立場はかなり強い。

気付けば取り纏め役としても動けるようになっているのだから。

 

「そうだな。 まぁ地上に戻った際に着替える時間とかくらいは欲しいが」

 

そんな余裕あるのだろうか。

最悪は装備を着たままあの空間に突っ込むことになるんだが。

そうなれば二度と着れなくなるどころか、戦闘時にまで影響しかねない。

身体に染み付く、というのはそれ程に厄介なことであるのは誰もが知るところ。

 

「それは……大丈夫、だと思います。」

「と言うと?」

 

悲壮な決意を固めていれば、小さく手を上げ灯花が答える。

彼女が口を出す、ということはほぼほぼ成立する何かがあるのだろうが。

俺達が見逃しているのか?

 

「さきほどまで、呪符……そして結界の用意を整えておりました。 その上での結論です。」

「ええと……つまり、何だ。 ()()()()()()()()()()()()、ってことか?」

 

今この場面をも見られているのかは分からないが。

今、それを誤魔化す為の方便ということもあるまい。

ならば、何だ?

 

「いえ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という感じ……でしょうか?」

 

灯花が言う分には。

本来なら……と言うか最初から全てを呼び出すことは基礎らしい。

ただ、それをしてしまえばちょっとした穴から其処を付かれる。

だからこそ、神職が研究した手順の一つが分割に依る降臨。

神を権能毎に分割し、それを結界……呪法陣の上にて再度混ぜ合わせて完成させる。

 

本来なら難しい所だが、今回は既に自分に宿った存在を引きずり出す手法。

既に此処にいる、という最も難しい部分を突破しているからこそ。

御母上様からの助言を含めれば何とかなりそうだ、と提言した。

 

「ですから……始めたとしても、少しばかりは猶予はあります。」

「ただ、始めてしまえば止められないのは変わらないんだよな?」

 

はい、と口にし。

それ以上は何も言わずに押し黙る。

 

……まあ。

それで行くしかないんだが。

 

「それで……神の名前は特定できたか?」

 

最も大切な部分を確認し。

はい、と。

繰り返すように、口にした。


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