オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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056/言霊

 

「…………特定、出来たん、ですか?」

「はい。 ……条件を整理していった結果、ですけど。」

 

再度の疑問に彼女は頷く。

条件面からの特定だから確実かは分からない。

それでも、その全てに該当するのは今得ている条件からは一柱だと。

 

少しばかり疼くような様子で、身体の震えを覚えている様子のリーフ。

神の加護を得ている身とすれば、何かしら感じるものがあるのだろうか。

 

「それで、名前は?」

 

直接的に聞いても良いものか、という意味で問い。

もう一度頷いた上で、何かを書いていた文机の上から持ち出してきたのは折った紙。

その内側に名前を記しているらしい。

 

「こちらに。」

「…………口には出さないのか?」

「いまは。」

 

特に灯花やリーフ姉様の場合は、口に出しては駄目ですと。

……いつの間にリーフまで取り込まれているのかは他所に。

その二人の共通点を考えれば、何となく言いたいことは分からないでもない。

 

「それだけ不味いのか?」

 

言霊、と呼ばれる実在してしまう影響力。

特に神に深く関わる存在である二人が口にしてしまうことで起きる悪影響。

元から俺が恐れていたもので、そしてある程度のリスクを覚悟した上で対応して貰おうとして。

そして其処まで以てしても、当人達の危機感は上回ったという状況のよう。

 

「……たぶん。」

 

直感に過ぎない、何か口に出して説明できるような概念ではない。

普段から接してきた二人だからこそ感じるモノ、に近いのだろう。

 

どう説明してよいのか分からないように首を捻り。

普段よりも更に言葉が途切れ途切れになりつつ、言語になっていないリーフを見て。

何となくにそんな事を理解する。

 

俺も先程の()()との遭遇でどういったものなのかは薄々気付いている。

確かに人とは違うし、経験しなければ口にしにくい感覚だ。

他のモノよりも引き寄せられる、集中してしまう。

存在感が強い……重力が強い、俺が言葉にできるのはそんな程度。

 

「分かった、後で見ておく。 ただ、何をしてくるかは教えてくれよ?」

「それは……はい。」

 

多分に推測は入りますけれど、と前置きし。

それでも灯花が口にした神の持つ権能……から劣化した能力。

 

「……まず、毒や病気。 或いは石化や麻痺。

 そういった、灯花達の身体を蝕む行動は一通り扱うと思います。」

「状態異常系……かの」

「でも、本来よりは弱くなっているはず……です。

 浄化したあの白骨は、そんな能力を……えーっと、上げる? 持ち物の一部みたいです。」

 

ちらり、と彼女が見たのは俺とリーフの持ち得る武器。

つまりは増幅器……杖の一部だった、と見ていいだろう。

ということは何方かと言えば前衛型ではなく後衛型、役割としては俺に近い?

 

「あとは……普通に、武器で攻撃もすると思います。

 回復呪法とかまでは……ちょっと。」

 

要するに普通のボスとしての形状を理解すればいい、と。

変に特化型よりはマシだが、明らかに格上なので安堵しようもない。

 

「なら、事前の準備はどうする。 お前等も意見言ってくれ」

 

得られた情報は少なくとも、得意とする行動は分かった。

ゲームで、ある程度の情報を踏まえた上で初見ボス討伐をするような感覚。

あの時は画面外から、今は実際に体を動かして。

緊張の度合いが遥かに違うが、やる準備としては何も変わらない。

 

意見を聞き。

用意できるものを用意して。

対策を積めるだけ積み。

順当に圧殺――――出来なくとも、潰す。

 

戦場での覚醒など見込めるはずもない、この世界において。

最も重要なのは、この事前での話し合いと準備に他ならない。

 

「まず全員に治療薬は配布しておくべきじゃろうな」

「一応動きを止められるような系列は対策してるけど……ボクだけだしねぇ」

「雌猫が気絶でもすれば一気に崩されるじゃろうしなぁ」

 

最初の白の提案。

それに頷きつつも、道具使いとしての側面を持つ紫雨が答え。

そして混ぜっ返しつつ了承の意を伝える。

 

「私はどのようにするべきでしょうかね……?」

「伽月……ちゃんは、倒れない、でね?」

「成る程、防御を優先すると」

 

今回の場合、最も火力となるのはリーフだろう。

それは灯花を除いた全員が無意識にも理解していること。

 

紫雨も同行経験自体は今回が初だが、二度程本気の呪法を見ているのもあってか。

或いは()()()()()()()()()の意味を親父さんから聞かされているのか。

何の口も出さず、全面的に信用を向けている。

 

だからこそ、前衛が最後に取らなければいけない手法は後衛を庇うこと。

無論そうしてしまえば対応出来る手数が一つ減ることに直結するし。

俺自身もそんな事を認めないが、誰もが薄々分かってはいること。

 

故に、白の蘇生札を切る用意はしているし。

彼女も何も言わずに、それを認めている。

 

「……多分俺は指揮と攻撃の減少、持続回復に付きっ切りになる。

 だからこそ、崩されないように見て貰うのは灯花に任せることになる」

「……はい。」

「幾らか深度が上がったとは言っても限度があるが。

 それでも、俺が知り得る手段は全て伝える。 自分なりに噛み砕いてくれ」

 

地下のオモイカネ。

多分だが、彼(彼女か?)に頼れば死して間も無い人物の蘇生くらいは可能だろう。

ただ、それをしてしまえば多分決定的に何かが崩れる。

 

神からの知恵により、人の身で天命に抗うのか。

神たる身で、人の願いに答え天命を覆すのか。

立場と状況と、それだけの違いではあるが――――多分。

絶対に取ってはいけない最後の手段。

 

ちらちらと映るのは、あの夢での末路の欠片。

背中から……或いは書かれた名前から。

けたけたと嘲るような声さえ聞こえる気がする。

 

黙れ、とは決して言わない。

 

ただ。

お前の操る手繰り糸、全てを斬って終わらせてやる。

そんな悲壮な決意を胸に秘め。

 

持ち込んでいた道具を全て広げて、各員に配るバランスを考えながら。

地下から、じっと見られている気がしていた。


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