オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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暫くはこんな感じで不定期更新になると思います。
疲労が……疲労がっ……!


058/誓い

 

ゆらりゆらりと灯りが揺れる。

 

「さて」

 

暗闇――――本来は安全性確保のために閉ざすつもりもなかった倉庫の内側。

万が一の為にも内側から破壊できる用意を整え、扉を一度閉ざした上で準備する。

儀式の関係上、周囲から切り離された空間が必要で。

同時に、真っ暗闇……少なくとも陽光を浴びない場所で行う必要があったから。

 

「それで?」

「やるべきこと自体は単純だ。 少なくとも、俺が知る限りでは」

 

持ち込んでいた、若干獣特有の匂いが漂う蝋燭。

それらが人数分、円を描くように等間隔に並び。

それらを前に各人が座り、ただそれを見つめる。

 

いや、正確に言えば。

蝋燭の隣に置かれた、神聖な儀式には似付かわしくない古びた盃を見ていた。

 

縁が欠け、本来は正しく漆で整えられていたであろう部分も所々が剥げた中古品。

瘴気箱の中から発見された物品。

ゲーム版(ぜんせちしき)で言ってしまうなら、『この儀式』を起こす為の素材の入手法の一つ。

 

もう一つの入手法が正当方法、つまりは店などで買い求めることを考えれば。

誰かが使ったのかも分からない、これを使うのは少しだけ気が引けるのだが……。

 

(実際、他に手段がないっていうか……高いんだよなぁ。)

 

親父さんが気を張って用意する、と言い出した時に遠慮しようとしたのはこれが大きい。

幾ら霊能力者とは言え――――。

普通に購入しようとすれば……稼ぎにも依るが俺達の探索十数回分で足りるかどうか。

それだけの価値を見出し、そしてそれだけの保証がされる理由は他でもなく。

()()()()()()()()()()()()()()()()からに他ならない。

 

『血盟の杯』。

システム的に保証された――――言い換えてしまうなら世界の理として敷かれた設定の一部。

霊能力者達の持つ特異性をそれぞれに掛け合わせることで理自体を歪める、という設定上。

それ相応の出力に耐えられる物品が必要になる、と言うだけの話。

ただ……本来なら最低人数の問題で引っ掛かっていた。

 

(いや、完全に頭からすっぽ抜けてた。 ちょっと前までは覚えてたのにな。)

 

儀式が実行できるかはその意志を持って杯を持つことで判別ができる。

無理だった場合は道具が手から滑り落ち、上手く持つことさえ出来なくなるという雑な仕様。

それを思い出したのが準備をしようとしたその時で。

あっ、と声を漏らしそうになったが無事に握れたことで逆に設定を深く思い出すことが出来た。

 

(都合が良すぎる……ああいや、そうでもないか? 特に、この世界だと)

 

恐らくだが、俺が思っている以上にこの世界における『血の濃さ』は重要視されている。

最低人数がゲームシステム上定義されていたのは、そう処理してしまうのが簡単だからであり。

現実世界としての『今』であれば、設定のほうが強く働いているのだと思われる。

 

そもそも『七人』と言うのは、その数字が持つ強い意味の他にもう一つ。

『世界に影響を与えられる最低人数で、世界が許容出来る最大限界』という理由が存在する。

血盟の最低人数が七人以上、最大人数が十人以下というのもそれが理由。

 

つまり。

その問題を解決出来た……出来てしまったのも、また灯花によるもの。

隠しキャラとして扱われているのは伊達ではなく、その血脈もまた言葉だけのものではない。

一人で二人分……或いはそれ以上に干渉する力を秘めているらしい。

全ての能力を身につけられる素養も、ひょっとすれば其処からの副産物に過ぎないのかも。

 

「全員の血を杯に垂らして、右回りで回していってくれ」

 

まあ、結局は――――実行できているというのが全て、というだけで。

 

どうしたんだ、という複数の目線と。

またなにやら考え込んでいるな、という冷めた目線が一つを浴びつつ。

動かないでいた俺も、ゆっくりと動き出す。

 

各人が持った刃物……武具なのか小刀なのか、或いは鋭利なモノなのか。

それぞれ握るものは違っていても、自身の身体を傷付けることくらいは可能なそれらを見。

こうだ、とばかりに指先に刃を滑らせ。

冷たさの後にやってくる、微かな……もう慣れてしまった痛みを前に、杯に鮮血を滴らせる。

 

微かな傷程度ならば治癒出来る、というのもあってこの程度はもう各員慣れたものかも知れない。

誰一人として……いや、一人を除いてか。

それぞれが目の前に行えば、何の変哲もなかった杯が鈍く光を放ち始める。

 

右隣の(その場所を譲ろうとしなかった)白に杯を渡し。

回ってきたリーフからのものを受け取り。

同じように、計六回。

少しずつ光量を増す物品を他人事のような目で眺めながら、回り切るのを確認する。

 

「……儀式だから、仕方ない、ん、でしょう、けど」

「ちょっと、抵抗感ありますね……?」

 

まあ、気持ちは分かる。

 

目の前の、血液のみが溜まったそれを見ての二人の呟きに内心で同意する。

例えば……『吸血鬼』のようなメリット/デメリットのある能力でも取っていたら。

一日に最低一度はこんなものを取るのが必須になっていたと考えると怖すぎる。

 

「後はそれを飲めば良い……筈」

 

ただ、能力に変化を与える以上。

何かしらの異変が身体に起こるのは間違いない。

実際にどういった状態になるのかはよく分かってはいないが……。

一部バッドエンドというか、ヒロインのルート次第では()()()()()()()()()()があった筈。

恐らくは深度不足……後は前提条件の不足の上で強引に推し進めるとそうなるんだとは思うが。

 

(それを知った上でやるのもちょっと勇気いるよな。)

 

まあ、言い出した張本人である俺がやらない訳にも行かない。

一度全員の顔を見回し。

誰から行くか、と伺っているような様子を踏まえた上で――――小さく息を吸い。

 

「始めるぞ」

 

それだけを口にして。

他者の、仲間の血液を口に含み。

 

鉄臭いような、微かに甘いような気がする液体を……嚥下した。

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