オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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014/数ヶ月

 

槍――――というには刃がない、杖を握る。

凡そ今の身長の1.5倍から2倍程。

余り見ない木目をしたそれは、今の歳で握るにはやや手より大きく。

けれど能力に任せることで手から零すことはない。

 

「シッ!」

 

両手で存在しない敵を突く。

()()()()()()()と考え、引き戻すのでなく左上空へと払う。

そのまま振り下ろし、地面に接する直前で止め一息。

三連撃、通常攻撃の組み合わせとしての1つ。

これが能力として得た術技の場合は、()()()()()()()()()()()()()()のだが。

 

「ご主人も大分慣れたのぉ。」

「嫌味か?」

 

眼の前で『血飛沫月光』……対象の臓腑を抉る術技の練習を重ねる白。

右手の次に左手が降りてくる、二連撃の動きに羽根の動きを合わせている。

微かにでも相手が『魅了』されてしまえば必中する程に熟れてきたそれは。

恐らく、『速効性』の方向へと派生し続けているように思う。

 

呪法と違い、術技は使い込めば使い込むほど。

修練を重ねる程に即応性や威力の強化、或いは霊力の低減などなど。

各個人の派生先が開けていく傾向にある。

ある程度そのままでも使用できるし、更に補助的な能力や知識を蓄えることで強化される呪法。

使い込むこと、修練を重ねることで自分好みの広がり方を見せる術技。

分かりやすいその二つで、霊能力者は成り立っている。

 

「何故そう取るのか。」

「そりゃまあ……白の今の動きを見ればそうもなるだろ。」

「それを言い出したら吾は武器の習熟能力が無い状態じゃぞ?」

 

呆れ顔をするな。

……既に、此奴を式として季節が一つ切り替わっていた。

恐らく初めが3月か4月。 今が7月か8月辺りに近い。

 

朝早く、夜も遅い。

明かりを使用できない俺達は、見える限りで互いを仮想の敵として訓練したり。

或いは父上の手が空いている時に変に染み付いた癖を修正したり。

或いは呪法の詠唱時間と動きを合わせるため、二人で話し合ったりと。

それなりに濃密な時間を過ごしていた。

 

「仕方ないだろ、幽世の中に入れたわけでもないんだし。」

「そうじゃなぁ……。 実際試しておきたいが、腕前を磨くのも大事じゃし。」

 

互いに語りながら、竹筒に入れた水を一口。

そして頭からそれを被る。

熱された身体が冷えていく感覚。

微笑ましそうな目で見られながらも、二人で並んで土の上へ腰掛けた。

 

自分で武器を握り、修練を始めて改めて理解したこと。

確かに潜る前に暫くの練習は必須だな、という当たり前の事実。

それを教えてくれたのも、隣の飛縁魔だった。

 

「何より、この訓練してなかったら多分直ぐに死んでた気がするぞ。」

 

白と戦った時、運が良かった要素はもう一つあった。

それは既に此奴が()()()()()()()()こと。

生命力を削り倒した、と思っていたがそれよりも根本的な。

在り方自体を保つ瘴気が薄くなっていたが為に、知性と動作が半分以下になっていた事実。

その状態から解放されたのが今の動き。

 

もし、「飛縁魔だってこの程度」と思いこんでいたら。

最下級……子鬼や餓鬼、地獄虫に人食い花と言った存在にだって対抗できていたか分からない。

それに気付けたからこそ、身体に動きを叩き込んでいた。

 

「あ~……。」

「おい、何だその言い方は。」

 

そうじゃなぁ、と了承するような言い方が引っ掛かる。

俺を見て何で納得みたいな口振りをしたのか言ってみろ。

 

「いやな。 頭に乗っている、とまでは言わんが。

 お主が()()()()()()()()、とは吾も気付いておった。」

「は?」

 

問い詰めようとして……口を抑える。

そうだ、俺自身も此奴から気付かされた。

ただ、指摘しなかったことに関しては問い詰めたい。

 

「何で言わなかった?」

「お主自身が気付いておろう?

 痛くなければ覚えぬ、と言うであろうよ。 幼子は特に。」

 

久しぶりに見る、細い目。

式ではなく妖の――――長くを生きた生命体の目。

 

「無論命を失わせるつもりなど無かった。

 ただ、何も知らぬのならば。

 煽て、下にも置かぬ態度を取り続ければ人はいつか腐り切る。」

 

違うか、と。

男を腐らせる妖は、そんな口調で語り続ける。

 

「吾が主であるならば、そうは落ち着いて欲しくなかった。

 ……助言できる時ならば良い。 だが、そう出来ない時のことを考えればな。」

 

……信用されていなかった?

いや、違うな。

白が言っているのは契約したばかりの頃の話だ。

互いに信用も信頼もない時、それでもこういう形になったのだからと。

敢えて恨まれようとも、そうしようとしていただけだ。

 

「……そうだな。 俺も、お前を見て気付かされた。」

「そうか。 ……目指すものは、変わらないのだな?」

 

目指すもの。

俺の強欲。

いつだか眠りの中で少しだけ語った、俺の夢。

 

「変わらない。」

「ならば良い。 それが続く限りは、吾はお主を支えよう。」

「当たり前だ。 俺が死ぬまでは一緒だ。」

 

そうか。

そうだ。

そんな事を、口にして。

……変な意味で取られないか、心配にはなったが。

 

ただ、空を見上げながら。

少しずつ紅く染まる日中の中。

気付けば、手と手を重ね合っていた。


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