オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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015/堕ち人

 

「そろそろいいだろう。」

 

そんな言葉を掛けられたのは、秋も終わりを迎えようとしている頃。

冬への準備を更にせねばな、と話をしている時だった。

 

「えっと……父上?」

 

冬の支度として魚や果物などを干したり。

或いは肉の塩漬けであったり、米の残りを確認したり。

山から出られなくなったときを考えて多めの食事の準備を整える中。

唐突に呟かれたその一言に、思わず聞き返す。

 

「お前も背丈は多少伸びたし腕も最低限は身に付けただろう?」

 

……どうなんだ?

特に身長は自分自身だとあんまり気付かない。

前世が165cmと小さめだったので出来れば170は欲しいんだが……。

栄養素の問題とか家系の影響もあるだろうしなぁ。

 

「確認じゃ、父上殿。」

「ああ、聞こう。」

 

一年にも満たない間ではあるが。

白が色々と家事の手伝いを始めたり、二人での連携に更に磨きを掛けたり。

踏み込めないながらにやれることを積み重ねていたから、父上も大分態度が柔らかい。

 

「今言ったのは……()()()()()()()()の許可と思って良いのじゃな?」

「そうだ。」

 

……()()()

ゲーム内で最短に突き詰めたとしてこの許可が出るのは開始から一年後。

必須攻略目標(ミッション)の発令が8歳前後だから、自由に幽世を探索できるのが約二年間。

この間にどれだけ積み重ねられるか。

或いは街へ出向き、仲間候補(ヒロインやゆうじん)達と遭遇できるか。

発生するかしないか不明の不定遭遇(ランダムイベント)を含み、事前準備次第で仲間の選択肢も切り替わる。

特に幼馴染ルートや妹分ルート。 それに良家の姫ルート辺りはかなり辛かった覚えしか無い。

 

「本来はもう少し先を予定していたが、今の朔ならば構うまい。」

「……ええっと、父上。 一応お聞きしても良いですか?」

 

時折修練を見てもらっていた程度で、他に何か見せたわけでもなく。

父上も大体が幽世に潜っていたのか、他で余り見ることもなく。

時折負傷だらけで戻ってきた際に、言われるがままに手伝ったりした程度。

それなのに認められる理由が分からない。

 

……ゲームなら、修練で磨いた術技や霊能力数値の合計で発生するイベントなんだが。

本来なら一年でこの了承を引き出すには、()()()()()()()()()()()()()()()()

許可を貰うために隠れて潜る、という逆転が発生してしまうわけだ。

その為の能力……『隠密』系列を取得もしていないわけで。

 

「何故、今なのですか?」

「潜りたくないわけではないのだな?」

「それは……はい。 勿論、霊能力者ですから。」

 

霊能力者が排他的な扱いをされている、という設定の中で。

最も大きな理由は『何かあれば簡単に殺される』危険を抱いているからだと言われる。

――――放置された幽世から抜け出し、人の中に住まう妖だって存在するのに。

 

そして、正体不明の死因で転がった死体を見た時。

()()()()()()()()()()()、それ自体を疑う程に一部では排他的な熱が上がっているらしい。

……無論、そう扇動するのも人か妖か。

探ること自体が難しい程に。

 

だからこそ、何かあったときに自身の疑いを晴らす為にも。

戦うことを選んだ霊能力者は、ある程度のペースで幽世へ潜り討滅する。

そんな設定が背景にある。

それを知っているからこそ、潜らないという選択肢は俺にはない。

 

「理由……そうだな、端的に言ってしまうのならば。」

「はい。」

「お前が()()()()()、と判断できたからだ。」

 

……血に?

 

「なぁ、父上殿。 ひょっとしてなんじゃが。」

「恐らく推定通りだ。 負傷を背負って戻ってきたのは朔の反応を見たかったのもある。」

 

それは、どういう。

 

「幽世では簡単に血を流す。

 それどころか自身も簡単に負傷する、体の一部を失うことも平気で存在する。

 痛みへの慣れと、血への耐性と忌避。 それらが確認できたからこそ、許可している。」

「血に酔う、というのは考えにくいと思うがなぁ。」

 

……身体の一部を失う。

霊力を以て復元することは出来るが、それも出来ない場合だってある。

それはよく理解している。

 

だが、血の耐性と忌避。

父上の手助けで散々に見たが。

それだけで判断できた、と――――?

 

「……まだ早いとは思うが、納得していないなら伝えておく。」

 

はぁ、と溜め息を吐き。

良いか、と俺達二人に対して改めて語り始めた。

 

「我が一族は『月』の能力に強い親和性を持つ。

 故に、根本的に――――()()()()()()なのだ。」

「……え?」

 

何だその設定。

俺は知らない。

イベントでも無かったし、示唆される内容もまるで無かった。

ただ、今父上が言ったことを考えるならば。

この里の人間が既にいないのは…………?

 

「人の血液に酔う、妖側に堕ちる霊能力者……『堕ち人』が常に絶えなかった。

 その特徴は、今も言った通り。 ()()()()()()()()()()()()人間だ。」

「あー……なんじゃ。 妖の血でも取り入れたか?」

「始祖の頃にあったかも知れぬな。 詳細は分からん。」

 

そういうこともあるだろう、と流す白。

だからこそ長い期間を置いて確認していた、と伝える父上。

 

「ただその反面、成長性は極めて優れている。

 可能ならば幼い頃から鍛錬を積ませる程度にな。」

「だからこそ、今か。」

「そうだ。 私だけならば別だが、今はお前もいるだろう。 式よ。」

 

進む話。

置いていかれてしまう話。

待ってくれ、と言おうとして。

言葉に詰まり、何も言えずに。

 

「故に。 朔よ。」

 

これが始まりの試練だ、と。

普段見たこともない眼光を持ち。

眼帯の下――――今まで見たことがなかったその場所を明かす。

 

()()()()、と四方八方を動く眼球。

眼差しは紅く、白目は黒く。 人のものではないそれを見せ。

 

()()()()()()()()。 お前は、忌避したそのままで進むが良い。」

 

頭へと手を伸ばし。

一度、撫でるように叩かれて。

その間――――混乱したままで、身動きが取れなかった。


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