オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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073/開戦

 

高く、低く。

述べられる祝詞が終わりを告げる間際。

何となく冷静な脳内の片隅、以前の記憶を持つ魂の断片が小さく囁いた。

 

『これ多分、映画とかだったら戦いの前の一(クライマックス)シーンだよな』

 

そんな、自分毎ではなく他人毎としての感想。

だからこそ――――冷静に状況を俯瞰できているのかもしれない。

 

倉庫の側。

ばきり、と空間に響くような砕ける異音と嗤い声。

 

庭の側……目の前。

ふぅ、と落ち着くような一呼吸。

合わせて彼女の内側に宿るような白い布の棚引きと、合わせて二つの気配が増える。

 

(……前提条件は、一応成立)

 

戦いになるかどうか、その分岐点は超えたと判断。

汗で湿り始め、けれど木製故に内側に染み込む武器をもう一度握り直し。

小さく深く、呪言を口内で練っては吐き出す寸前で留めて重ねる。

 

以前に行ったことの焼き直し。

一番最初……そして今までで一番死を覚悟した戦い。

何の準備もなく、白を己の元に下す為に行った『武器』と呼べるものすら無かった原初の争い。

その時と同じく、成功させることを大前提とした――――長時間に及ぶ詠唱。

 

これが成立するのも、成立する猶予が有るのもまた。

前衛として壁となる覚悟を決めてくれた二人がいるからに他ならない。

 

(……立ち位置だけで考えれば、俺も()()()()ことにはなるんだけどな)

 

ただ、それは飽く迄システム上の話。

この世界全てが同様の形で進んでいる……とは到底言えず。

中衛、という立場を未だに保持し続けていられるからの考え方。

同様の知識でも持っていなければ、そもそもが浮かび上がらない考え方。

 

『前衛の間を抜かれさえしなければ大丈夫ではないかな?』

 

くすくす、と響く笑い声。

背後霊と化した少女は口を出すのみでそれ以上の干渉を控え。

此方の考えと同期するように浮かばせる答えは……恐らく、此方の知識も同様に理解されている。

 

にも関わらず。

此方を糾弾、或いは恐れるような……有り得ない知識に関して一切触れることはないのは。

恐らくは彼女(でいいのか未だに悩んでいる)自身も面白がっていることだからなのだろう。

 

知恵の神が持たない知識。

其処から発生する考え方。

自ら達を打倒しようという発想、それに行き着くまでの準備諸々。

 

これらを見る目は――――多分。

俺自身が抱いている、別視点と何ら変わらないからこそ。

面白がり、今こうして此処にいるのだろうと何となくに理解する。

 

(意見は出せよ、そういう契約なんだからな)

 

『ああそうだ、思案は出そう。

 それに引き摺られるか選ぶか、その選択も宿主の自由だからな』

 

クソ野郎、と心の内で吐き捨て。

その言葉に、笑みにも似た口元を歪めるような顔の幻影を見。

それと同時に、()()()()()()()()()()()()()()

 

「!?」

 

顔を覗かせたのは。

どうやって倉庫に……いや、小さい灯花の身体に入っていたのか分からない。

見上げなければその全身を伺うことさえも難しい、木々に並ぶ大きさの巨体。

システム面だけで言えば、一体で複数の配置枠を喰うであろう怪物。

 

()()()()()()()

二足二腕、人としての形を取りつつも。

根本的な何かがズレている、根幹が腐った怪物。

 

「来るぞ……『腐――――』」

 

きひひひひひひひひぃ!

 

ぎょっとした顔をした紫雨からは目線を一度切り。

【劣火の法】……その中でも強めの言霊を練り上げ口にし。

けれどその言葉は相手の奇妙な叫び声……精神自体を犯すような言語に遮られる。

 

(これ、は……混乱、いや精神汚染の類か!?)

 

恐らくは呪いの一種。

正しい意味で神格が持つ能力の一。

不幸を齎す、というそれの拡大解釈。

ただ――――戦闘自体は始まっていると判断して良いのか。

 

咄嗟に耳を塞ぐ/一瞬目の前が暗く落ち込み。

脚を一歩前へ/伝わる振動を以て脳裏を晴らし。

周囲に声を上げる/「全員、前を向け!」

 

幾つかの答えが脳裏に過りながら。

ひょっとすれば俺が動いたことでそう読み取られた可能性を考えながら。

比較的に対処がし易い、けれど危険度が高い行動を取ってくれた事に半々の感情を。

 

その声に真っ先に反応を示したのは白。

一度地面の感覚を確かめながら、その場を蹴って刃を向ける。

 

それに対し対抗しようと、無意識の内に空の腕を持ち上げ。

一瞬の間が空くように、動きがほんの少しだけ鈍ったように俺の目には見えた。

腕の合間を縫うように刃を突き立て。

けれど硬質な何かに弾かれるように僅かな手傷のみを与える。

 

「白、どうだ!?」

 

「硬いにも程がある……主、支援がなければどうしようもないぞ!?」

 

「分かってる、暫くは耐えろ!」

 

視界の後方で動き出すのが見え。

同時に、歪な視界が動き出す。

 

世界に刻まれた記録であろう断片。

そう示されてしまった、行動の結末。

 

1行動目
>>『黒闇天』の『歪な叫び』。全体スタン……一部成功。
>>『朔』の『劣火の法』。干渉成功。『黒闇天』の攻撃力が減少。
>>『白』の『血飛沫月光』。二回命中。【出血】付与判定失敗。
>>『灯花』の行動。『歪な叫び』による行動失敗。
>>『紫雨』の行動。『歪な叫び』による行動失敗。
>>『伽月』の行動。『歪な叫び』による行動失敗。
>>『リーフ』の行動。詠唱開始。
>>行動待機中...

 

半数以上が初手の行動に失敗した、という事実。

舌打ちをして巻き戻せるのなら……そうしたかった。

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