オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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078/黒灰

 

数秒、或いは数十秒。

悲鳴にも似た、怒声のような。

何かの意味を成したような声が少しずつ小さくなる。

 

「どうなった……んじゃ、これは」

 

白の声が不思議と周囲に響く。

おそらく、放った当人を除いて全員が見上げているものは同じ。

 

神に類する存在が死するまで封印する牢獄。

天地共に降り注ぐ雷撃が内側と外側から焼く裁き。

ただ、俺が気になったのは其処ではない。

 

(……違う、()()()()()()使()()()()()()()()()()()

 

普段と同じように、その呪詩の名前は不思議なノイズに遮られていた。

 

唯、思兼と契約した影響なのか。

始まりの言葉と、付け加えたのだろう終わりの言葉だけは耳に届き。

そして、この世界の理から外れた眼だからこそ映るモノは本質を暴く。

 

「雷が本質じゃないのか……?」

 

外界からはそうとしか見えない。

ただ、あの球体の内側には別の五行の属性が強く働いている。

恐らくそれは、彼女が持つ本来の属性……或いは内側のナニカの持つ属性。

つまり――――表に見えているアレは本質を覆う殻に他ならない。

 

(或いはセーフティ、発動してしまえば当人にも影響があるようなやつ……?)

 

加護を与えられたことで発現した呪言、呪詩ではなく。

彼女が持つだろう固有能力、固有呪法としての在り方。

外つ国の情報を持てていれば、考えの取っ掛かりくらいは作れたのだろうが……。

生憎と外部からの推測、そして何かを知る契約相手から聞き出すくらいしか手段がない。

 

「……おわったん、ですか?」

 

ぱたぱた。

見上げている横へ駆けてくる足音。

 

軽い体重を示すような音、俺が立っていた位置。

そして何よりその声で誰かを特定し、目を向けず。

下がっていろ、とも言えないままに二人で見上げている。

 

「……どうかな、まだ足掻いてるのは確実っぽいが」

 

何しろ、戦闘終了を示す情報(ログ)が流れてこない。

 

肉体を構成していた筈の霊力、穢れ。

或いは階位を増加させる『モノ』も未だに肉体に影響せず。

戦闘中のみ働く筈の常時効果も起動し続け。

けれど、相手も自分達も何も出来ない状態だけが続く。

 

「……あの、雷。 なにかが、違う気がするんです」

 

守護神、という存在に否が応でも親しくなってしまった俺達だからこそ。

見ているそれに対しての違和感が酷いのか。

【禁忌】という属性がそれへの反発を示すのか。

原因も掴めないまま、映し出される状況変化だけが内側の状態を語っている。

 

「その気持は分かるが……リーフ当人に聞くのも難しい、よな?」

 

「……はい。 今、倒れてしまっていて」

 

手当はしたんですけど、と。

悲しそうな、自分が悪いと言いたそうな口調での懺悔。

 

状態異常としての変異ではない。

恐らくは無理をしすぎたことによる肉体への悪影響。

嘗てのゲームの頃では存在しなかった不都合の具現、とでも表すのが正しいかも知れない。

要するに、脳が煮えてしまったことでの気絶に近いナニカなのだろう。

 

(戦闘中に倒れる、ってことは多分無理に行使したんだろ……?

 これをゲームに置き換えるなら、普通じゃ起きないことが進んでる。

 つまり特殊なイベントに巻き込まれてるとかって可能性もあるよな)

 

何が正しいのかが分からない。

ただ、声が確実に小さくなっていくのを聞くだけ。

 

見上げているだけという無駄な時間から離れ、全員が集合して治療を開始し。

そんな中で唯一眠るリーフを不安そうな目で見つめる数人。

そして、何とも言えない顔を浮かべている紫雨の姿。

 

(……どうなってるんだ、思兼)

 

『私にだって分からないことはある……と返すのが正しいのかな?』

 

脳裏で思い浮かべることで繋ぎ。

けれど返ってきたのは一切納得できない、理解できない解答。

は、と間抜けな言葉が漏れてしまい。

一瞬だけ白く思考が塗り潰されたような気がしたのは、気の所為だったのか。

 

(それは、どういう?)

 

『この国の神の持つ繋がり所以ではない。

 もっと別の、けれど似た体系を持つ神々からの力を無意識に統合したのだろうね。

 ただ、宿主の勘……というのかな。 目で見たものは間違っていない筈だ』

 

即ち、リーフが持つ遺失級呪法(レリック)にこそ意識を向けさせる土台。

運命神、霊力の泉と言ったそれぞれに愛されるだけの特性。

本来であれば仲間という概念には当て嵌めることさえ難しい、突出した強さの根幹。

 

(……言ってたな、故郷で色々あったって)

 

他者の状態を無理に見る手段など俺は知らない。

ただ、それを可能とするだけの技術があり。

そして、それを実行するだけの理由があったとするならば。

 

纏め上げれば――――それこそ、何でもないのだろうに。

ただ、仲間として加え入れた少女の根幹に微かに触れただけで。

そして何より、在り方の凝固さえ成っていない相手へ問うには重すぎる事柄。

 

『悩むよりは、この先の変化を見据えて決めるべきなんだろうが』

 

少しずつ、雷球が小さくなるのが見えた。

それは一箇所に固まり、跡形もなく消し去るような仕草にも見えた。

 

『念の為、教えるだけは教えておく』

 

(何を)

 

私達(かみ)()()()()()()殺す方法さ』

 

気軽そうに口にされる言葉。

その表情は、同じように雷球を見上げているから全容は掴めず。

ただ、口元が歪んでいることだけははっきりと理解できた。

 

『忘却、或いは根幹を変質させること。

 真なる意味で、僅かにでも暗闇へと落とし込むこと。

 ただ打倒するだけでは、私達は真なる意味では死ぬことはない』

 

そういう意味では。

楽しそうに。

気軽に、告げられた神託。

 

『アレは、その概念に該当しているように思うよ』

 

微かに、灰のようなものが空へと散った。

 

それが、凝縮した雷球の最小の姿への変化であり。

それを拭い去るように、小雨が天から舞い降りて。

後にはもう、戦いの残滓のみが残されていた。

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