「疲れた…………」
あれから時間が過ぎた夜半。
荷物部屋として使われていた部屋の片隅。
深い深い溜息を交えながら、漸く出来た自分ひとりの時間に浸って横になっている。
(思った以上にやるべきこと残ってたからな……)
寝なければいけない、というのは自分が一番理解している。
ただ、疲労が頂点まで達したためか。
考えなければならないことが多すぎたからか。
瞼を閉じても無駄で、致し方なく眠気がやってくるまで壁に向かって思考を続けていく。
声を掛ければ反応するだろう、俺に宿った神と話すという手法もまああるけれど。
アレに話しかける元気と言うか根気と言うか、そういったモノが根本的に不足してしまっている。
故に、脳裏に浮かべるのは自分視点でのほぼ一日の出来事。
今日起きた出来事。
その後に起こした行動。
自分の中で整理するついでに、何をしたかを思い出していこうと思う。
多分そうすれば眠れるだろう、という淡い期待を込めての思考放棄。
(……まあ、全員振り絞れるものは振り絞ったから似たような状態なんだろーけど)
宙に浮き、そして残滓さえも残らない状態に消え去った”邪神”と定義する存在。
完全に消えたのを数秒確かめると、全員がその場に腰を落として空を見上げているような状態になった。
先に寝かされていて、気絶したままのリーフを灯花が支え。
剣の片方が折れ、もう片方を地面に突き立てたまま片膝で空を見る白。
同じような格好で、けれど周囲と天とを同時に警戒する伽月。
這うように此方に近付く紫雨に、全体を見る自分ともう一つの視点。
その場から動けるようになるまで数分程の時間を必要として。
視界の端で
自ずと、各々がすべきことのために動き出したのを覚えている。
母の元へと駆け出した少女。
倒れたままの少女の元へ駆け出した少女。
折れた剣の予備を取り出し、もう一人と目を見合わせて結界を探りに行った式と少女。
そして、同じように倒れた少女を助け起こそうとした俺。
視界を合わせることもなく。
声を投げ掛けることもなく。
自然と、するべきことを理解して動き。
その結果はつい先程互いが理解した。
隠そうともしない笑みを浮かべている一人。
一安心、とばかりに大きく溜息を吐いた一人。
やれやれ、と呟きつつもいつも通りに喧嘩している一匹。
横になり、胸を上下させ続けながらも僅かに口元を曲げる一人。
壁に背を寄せ、うつらうつらと船を漕いでいた一人。
ほぼ理想的な終りを迎え。
色々な道具や物品回収は恐らく明日を目処に回収し、明後日には出立する。
物品の腐敗の速度も明らかに低下した、という報告があったから出来ることであり。
走り回っていた掃除役の姿もまた、”邪神”が消失したと同時に和らいだ空気からして消えている筈だ。
(まあ、だからって完全に意識を緩めちゃ駄目なんだが)
ある程度は理解しているはずの部隊員達。
ただ、それを骨身に染みてまで理解できているかと言えば個人差が出る。
最初に動いてしまった灯花は兎も角として。
そのフォローに回った形の紫雨に俺は、本来だったら何方かがまた別の動きをしなければいけなかった。
それを理解しているからこその反省。
戦闘中であれば意識を切り替えられるが、それが終わった瞬間に動いてしまったことの僅かな後悔。
(そう言う意味では、何も聞かずに動いてくれて助かったな……)
一度視線を向けられた気はしたけれど、多分優先順位を問い掛けたつもりだったのだろう。
俺の考え方と意思と、後は細々したものを長年で理解しているのは白とリーフ。
だからこそ、
閉じ込められている、という状態を理解しているなら出られるかを確かめるべきだし。
既に交わした約束を建前にするなら、灯花と共に母親を確認しに動くべきだったし。
仲間が倒れているのだから、それを最低限屋根のある場所に移動するべきだった。
その三つが同時に重なり、そして下手に優先順位を付けられる状態でなかったからこそ。
各々がやるべきこと、として三つに分かれてくれたことは不幸中の幸いだった。
(ただなぁ……本来なら俺が決めなきゃならなかったのは事実だし)
ゲーム上だったら、多分時間が僅かに止まって三択を強いられるような状態。
たっぷり選ぶ時間はなくとも、反射的に選ぶような必要性は無かった筈の場面。
ただ、『今の俺』にとっては此方こそが現実で、一枚の世界を介していた頃とはまた別で。
考えれば考えるだけぐるぐると視界が巡り、更に疑問や謎が浮かんでしまう。
何故俺はこんな事になっているのか。
何故嘗ての情報が有効に使えるのか。
何故見知らぬ現象が発生するのか。
単純にゲームの中に転生した、と言うだけならばそれに沿う現象が発生する筈。
その前提自体はランダムイベント、不確定要素という言葉一つで解決できるモノなのか。
今まではそうやって自分を納得させていた面もあったけれど。
落ち着いて考えてしまえばこそ、どんどんと深みと謎に再度呑まれていく。
(考えるだけ無駄、と割り切ってしまうには異常なモノ幾つも見てきたからなぁ……)
ごろりと身体の向きを変える。
壁ではなく天井を見上げ、穴が空いた場所から僅かに月の輝きが差し込んでいる。
幾度か見た、本来ならば有り得ただろう光景。
【禁忌】と名付けられた分類を持つ眼。
見えないはずのモノを見、知らないはずの物事を知る。
世界から外れた場所にいるような錯覚と不安とを常に背負う中。
何故、という疑問は消えることはなく。
――――月だけが、俺をずっと睥睨し続けていた。
*
失われる筈だった禁忌へと手を伸ばし。
消え去るだけだった神とも手を結び。
悪意に満ちた存在を消失させる。
そのどれもが、只人では為せない偉業であると誰が知るのか。
当人さえも理解せず。
同じ感情を抱く相手も存在せず。
只、受け継ぐ権利と■■だけを押し付けられ。
救う力を与えられ。
けれど、手を伸ばすことはもう出来ないナニカがずっと見つめている。
これより四幕。
堕ちた人と。
貶す何かと。
知るはずもなかった知識の一端に触れてしまう続幕。
*
<Chapter3/因果は巡る、幻夢と巫女と>:End
↓
<Chapter4/堕落せし人と、討つべきモノと>