「4。」
足の向きを左方向へ。
「3。」
指を向け、同時に右手に持つ長柄武器の持つ位置を調整。
「2。」
一歩大きく踏み込み、白よりも先行して動き出す。
それに一歩遅れて動くが、移動距離と身の熟しは俺よりも大きく鋭い。
「1。」
横顔が少しだけ見えて。
言霊を、口から発する。
「0。」
『吾の名に於いて命ず――――外皮は崩れ去る!』
分類:【月】。
呪法名:『削減の法』。
効果:対象の防御値の割合減少。
脳内で処理されるように流れる(或いは、俺の脳が
言霊を用いた呪法と、月光の下で舞う白刃と、溢れる鮮血の結果が映る。
不定称名:子鬼は
『朔』の呪法:削減の法。発動成功。対象の防御値が減少した。
『白』の術技:血飛沫月光。2回命中。
――――戦闘終了。
何が起こったか分からないままに意識を絶たれたその存在は。
次の瞬間には霊力と混ざりあい、姿を消した。
「――――ふぅ。」
目が爛々と輝いていた。
それこそが式の……妖の本性であるかのように。
精気を、血液を啜る本能が目覚めるように。
白は手元と空の月光で、輝いて見えた。
「……よし。」
ただ、重要な一本の糸。
俺との契約であり、信用であり、信頼である。
大事な部分からは決して抜け出さない、という意思を強く感じた。
此方に戻ってくる白は周囲をもう一度見回し、少しだけ気を緩めたように見えた。
「何となく上手く行ったかの。」
「いや、上手く行き過ぎた。 先制も取れたし一撃で首も飛ばしただろ。」
そして、妖を前にして立ち向かえることも再度認識できた。
幽世の中でも、ある程度普通に動けることも分かった。
周囲の、霊力と混ざった瘴気を吸い上げ一息。
自分の中の何かが大きく広がるような、喉元や脚などが作り変えられていくような。
確実な成長性の切っ先を感じながら、霊力が消え去った後の瘴気を吸い上げ。
自身の霊力へと変換――――再度の呪法詠唱用に準備する。
「怪我……というより消耗は?」
「生命力を多少失った程度じゃな。 吾の認識としては然程大したモノではないが。」
そして戦闘処理後の状態確認。
即座に動く必要性もあるだろうが、偶発的な戦闘に備える準備も必要になる。
……だからこそ部隊の人数を増やし、負担を軽減する。
当たり前といえば当たり前で、そして最も効果的な手段だった。
「いや、大事を取る。」
持ち出すことを許された塗り薬の蓋を開ける。
霊力と瘴気を用いて物質化された、霊能力者用の治癒薬。
飲み込むタイプの薬もあるが向こうはやや高価で、そして効果も強い。
肌の何処かに塗れば染み渡り、根本から癒やす薬。
…………一般に出回らないのも当たり前で、そして幽世だからこそ時間短縮に有用だった。
「手を出せ。」
ん、と突き出された手の甲にべったりと塗る。
直ぐに広がり、浸透しながら体内へと溶けていく。
ん、ともう一言。
内側が癒やされる際に発する熱からか、言葉が漏れていた。
傍から見れば五歳児ともう少し年上の少女の一幕。
微笑ましいように見えるかも知れないが、実際には命を懸けたやり取りの最中。
「大丈夫だな?」
「ああ。」
「もう一度言っておく。 少なくとも今日は、消耗したら必ず万全まで癒やすぞ。」
俺の霊力に関しては出来るかどうかは別として。
呪法を必ず唱えられる状態まで戻すのは確定だ。
ゲームで覚えた
その根底は恐らく、
中盤、後半と移行するに連れて道具の効果も上がり価格も上がる。
それに装備も整える為に金銭が吐き出されるが、その分売却価格も高くなる。
最も辛いのは序盤、仲間が少なく金銭的にも少ない時。
立て直すのが極めて難しい時。
だからこそ、探索で最終的に消費が赤字に為ったとしても序盤は注ぎ込む。
これは俺の決めていたことで、信念でもあった。
「……どうした?」
塗った手の表と裏を眺める彼女に声を掛ける。
不可思議なものを見たような、或いは感覚を確かめるような。
「いや、人の技術は進んだのか劣ったのか良く分からなくての。」
「どっちもだろ。」
特に呪法や術技、道具に関する知識は失伝しているものが幾つも有ると言われている。
ゲーム内では『道具を使用しないと覚えられない』能力などとして表現されていた。
……使い勝手の良し悪しはまあ当然あるけど。
それを敵としてでも知っている式は、そういう意味合いでも大きな存在。
「少なくとも、塗るだけで済むんだからそれに関しては進歩してると思うぞ。」
怪我した部位に貼らないと意味がない薬草湿布とかが西洋だと存在してたりするらしいし。
外傷や生命力を癒やす技術は日ノ本が優れている。
その代わり向こうは毒なんかのスリップダメージ、DoT系に優れていると聞く。
最上位
「……そういうことにしておこう。」
「何がだ?」
「気にするな。 童には分からぬよ。」
……余計に気になる、と口にして。
行くぞ、と先導する白に従いながら。
いつかは聞き出してやろう、と決意していた。