オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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ヒロインイベント進めたい……


010/道中

 

その場に留まったのは長くて八半刻くらいだっただろうか。

やや急かすような態度を取り、それに反応して全員が重い体を引き摺るように動き出す。

 

「……しかし、また無理をしたのう」

 

軽食に水を取りながらの無理道中に加えて体調の問題もあり、明らかに進行速度は落ちている。

それでも()()()()()()()は一刻も進めば消え去り、少し離れた小川の付近で再度休息を取ることに成功していた。

 

「無理をしないといけない時だったからな」

 

皮の水筒の中はとうに空で、それを補給するのも必須と言っていい。

ぶくぶくと泡を立てながら中に溜め込まれていく水を眺めつつ、愚痴のように零した白の言葉に乗って対話を重ねる。

 

「街の中がまた荒れていたとか言わぬよな……?」

「いや……ああ、でもある意味街中の問題か」

 

本来だったら自室――――或いは何処かの部屋で相談でもしながら進めるのが最上ではあるのだが。

そんな場所も余裕も無く、他の仲間もそれぞれに休息を行いながら自らの疲労を少しでも抜いている。

だからこそ、伽月に話していたときのように小さな言葉と視線や指先の向きなどを利用して、単純に意思疎通を図っておく。

そうしないと後で面倒といえば面倒になるし。

 

「というと?」

「執行者連中とかち合ってな、多分そん時に目を付けられてる」

 

頭上に人差し指を立て、そのまま畳む。

それだけで上から見られていた、という意図は通じるだろう。

ぱたぱたと苛立ちを隠せないように立てる羽音を耳に挟みつつ、一口二口と水を煽った。

 

「何しとるんじゃいご主人」

「俺は何もしてねーよ……どっちにしろ行かなきゃ空腹で倒れてたかもしれねえだろ」

「それはそうじゃがなぁ」

 

足袋を外して水辺に足を落とすのを横目で見つめる。

はぁ、と吐いた溜息は心地良さからなのか、或いは飲み込んだ感情由来なのか。

深く突っ込めばそれだけ損をすると知っているからこそ、何も言わない。

 

「で?」

「元々の想定通りに進めるしかねーだろ、紫雨の親父さんとの約束もあるし」

「泥棒猫の、なぁ」

 

こうして言葉を飲み込む、というか俺に想像させようとする時は大体何か溜め込んでいる時。

態度に見せてくれるだけまだマシ、とでも思うべきか。

 

「実際問題、直ぐに追いついてくるとは思えんのよな。

 希望的に見るなら少しだけ怪しんで目を飛ばして来た可能性だってあるわけで」

「普段の悪い方悪い方に考える癖はどうしたんじゃ、全く……」

「少しは気楽にさせてくれよ……」

 

多少自棄の成分を含みつつ。

保存食、と言う名の塩漬けの肉を小さく噛み千切る。

本来は湯や汁に放り込むべきもので、それだけでは塩っ辛くて食べられたものではないのだが。

水を口に含みながら僅かに濯ぎ、少しずつ塩分と噛むことでの()()()()()を身体に覚え込ませる。

 

東都に戻ったらそれなりに豪勢な食事にして貰うつもりだが……今満腹にでもなってしまえばそれなりに寝込んでしまうと分かってる。

疲労を抜く、という意味では大事だが……今そんなことをする猶予がないのは全員同じ。

何度も何度も噛みながら、どうしたものかと目線を周囲へ向ける。

 

リーフと紫雨はその辺りに生えている食用の草(こうそう)の類を摘んでは何か話している。

元々は薬師の家系だし、その辺の知識がある二人だから出来ることだろうか。

実際道中で味変えや回復速度向上などなど、細かい部分で世話になっているのは間違いない。

 

伽月は灯花と怜花さんと何やら話をしている。

街中について聞いているのか、若干焦りが見えているのは御愛嬌でも呼ぶべきか。

怜花さんが時折此方に目線を向けられているのは、俺の行動に自らの命が賭けられていると理解してしまっているからなのだろう。

 

(ただまぁ、基本的に俺等を追い越して移動するのは絶対無理だろうから……追いつかれないかどうか、だけなんだよな)

 

先触れはどうしても少しだけ早く出る……とは言え、あの街の状況だと動くにはまだ早い筈。

目で追いかけるより、移動速度と自己防衛にのみ特化した能力者と平行したほうが明らかに確実。

その一人さえも()()()()()顔を見せないのなら、一安心……と言っていいはずなんだが。

それも確実性がないからこそ余計に困る。

 

「気楽に考えておいて、後で後悔するのはご主人じゃろ」

「それもそうだがなー」

「ま、そう考えたくなる気持ちも分からんではないがな」

 

吾であっても同じように考えるだろうし、と。

自分のことは棚に上げ、白もまた自分の水筒から水を煽る。

小さく白い首筋が一度、二度と脈動し。

僅かに口端から一滴、水滴が流れ落ちる。

 

「で?」

「言っただろ、進むしかねえんだよ」

 

最後に仲間にした少女とその母のこともある。

顔を知る人物はほぼいないとは思うが、出来るだけ早く身を隠して貰った方がいいのは当たり前。

誰がどんな理由で知っているのか、その取っ掛かりさえも僅かな可能性で残ってしまっているのだから。

 

「じゃよなぁ」

「しかしどうしたんだよ、そんな文句言い出して」

「吾だけではないからな? 他の皆々も多かれ少なかれ疲れておるのは間違いない」

 

妖という側面もありつつ、同性という側面もある。

そう言う意味で溢れる言葉を拾い上げてくれる式に、苦笑交じりに言葉を投げる。

 

「代表していってくれてんのは助かるよ」

「本当かのう」

 

ほんとほんと。

塩っ辛い口を僅かに開きつつ。

苦笑いを浮かべた俺達主従の少しばかりの休息は、直ぐに終りを迎えることになるのだった。

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