「当たってほしくない想定に限って当たるよなぁ……」
「…………いつもの、こと、ですよ、ね?」
更に半日程進んだ先。
日が暮れる直前頃に見えてきた
空間がねじ曲がったような、歪曲した景色がはっきり見えた時。
小さく溜息を吐きつつも愚痴を零せば、隣に近付いていたリーフがそれを聞き咎める。
「それはそうだけどさぁ」
僅かに視界に入る先、少しだけ先の時間――――
七面倒臭い
ほぼ同程度の経験を積んでいるリーフも額を顰めているのが視界に入るし、細かい情報を持つ仲間達も似たようなもの。
「ええ……ここで開放型?」
「ご主人の運ならいつものことだぞ、雌猫」
「朔君、お祓いしとく?」
「神社に出向いた帰りに何言うとるんじゃお主は」
親父さん等とそれなりに経験と知識がある紫雨も当然文句を言うし、声に反応している白の表情も当然暗い。
対して特段詳しくない残り三人はぽかん、とした表情を浮かべるのみで理解できていないことは明確で。
こういう素人から呑まれて帰ってこないんだろうなぁ、と第三者目線から納得してしまう始末。
「……で、どーすんじゃご主人」
「ほんとそこなんだよな……」
開放型。
酷く単純に説明するなら、普段潜る階層型の《幽世》と似て非なる
特徴が何か、と聞かれれば。
上下に進む代わりに周囲に拡大したタイプの、発生確率1/20くらいで生まれ落ちるランダムダンジョン。
目に見える壁などが無く、基準となる方向を辿る事自体で苦労する仕組みとなった自然を象った幽世。
無論、その確率である以上今までに踏破したことがないわけではない。
今回面倒臭い、としか思えないのは――――。
「
今までは道具で対応していた、出入り口を示す《起点の旗棒》*1を保持していないから。
……というよりは、ゲームの頃は常に持ち運べたけれど。
こうして現実になってみれば、邪魔過ぎて現実的では無さ過ぎるという至極当たり前の理由から。
説明文では確かに最長十尺くらいとは書かれてたけど、純粋にスペースを取るし他に転用も難しいのがなぁ。
10フィート棒みてーに棒としても転用できれば無理してでも持ち運んだってのに。
「一応対策手段が無いわけじゃない、ってのが厄介だよな」
基本的に道具として存在する物質/変異は、能力として取得することも可能ではある。
ただ、今回仮に取得するのならそれは必然的に他に比べて1ポイント分遅れを取ることになる。
たかが1ポイント……と言い切ってしまえる状態であれば良かったのだが。
(
三年、そう三年だ。
明らかに海外の血を引く少女とともに、得られる情報を当たり次第に(疑われない程度に)掘り起こしていた。
けれど、そのどれもが三次情報や四次情報。
一次、或いは確定情報として流れ出る書物などが不自然な程に見当たらない。
俺の知らない変化があるのかもしれない――事実、明らかに異常な
情報こそが全ての基点と成り得る世界だからこそ、その一点は重く。
補う事が出来る貴重品が何一つ見つかっていない今だからこそ、その手を選ぶことを躊躇してきた経緯がある。
「吾……は取らぬほうが良いよな?」
「白は……そうだな、
一点を強く強調するようにしながら、その言葉に同意する。
探索に割り振る配分と戦闘に割り振る配分。
現状
……深度が30代になれば欲しいスキルの取得前提の関係で幾つか浮き始めるかどうか、程度だろうか。
同様にリーフ、伽月も余裕はないだろうな。
方や純呪法使役者、方や純前衛。
今でさえ限度一杯の調整なんだ、純度を落として良いことは何もない。
……となると。
「ボクが取ろうか?」
視線を落としたのは僅かの合間。
そして向けた視線は一人の少女とぶつかり、彼女自身も何となく理解していただろう言葉を零す。
「
「
だから、こうした能力を取得するのは
特に道具を駆使して立ち回る構築である紫雨の場合、所持できる道具の量がそのまま戦闘時の手札になる。
故に、主客転倒じゃないけれど……道具を持ち運ぶことを最優先にして能力で補える部分は補う、という考え方に行き着いてしまう。
地味にこの派生の能力を取得した場合、幾つかある別の能力の前提条件として数えられる部分も評価に値する。
ただ――――序盤取るべきではない、という結論自体は変わらない。
あまり潰しが効かない類の能力であるのは間違いないし、その分だけ彼女に負担を掛けることになる。
だからこそ問い掛け、彼女も悩みながらに首肯した。
「それに、どんな能力だって使い方次第だろ? 戦闘で使えない、って言ったって」
けれど、その顔に嫌々という気配は無かった。
むしろ、任せて欲しいとでも言うように小さく笑い。
「ボクが大事な立ち位置に立つ。 その意味が分からないとは言わせないからね、朔」
頬に手を伸ばして、軽く撫でるように触れてきた。
……妙に熱いような、指先の感触だった。