根の国、或いは根堅洲国。
日本神話上幾度か登場する『冥府』であり、その数少ない登場回数に対してそれなりに重要視される場所でもある。
【幽世の夢の果てで】の中でもその設定は当然に採用され、けれど
「……相変わらずじゃなぁ、この妙な気配は」
先に入っていた白がぽつりと零した言葉が周囲に奇妙に響き渡る。
僅かな風が湿った気配と妙な腐敗臭を鼻に届け、けれどそれは肉体が腐敗した特有の悪臭とは断定できない。
見つめるのは、地面から生えた草種の幾つもが生えながらに腐っている草原の果てか。
「白、分かってるよな?」
「分かっとる分かっとる。 ただ、こうなると少々面倒ではあるが」
『根の国』とは、
ゲームとしての仕様上、この属性がついている場所でしか発生しないイベントが幾つもあったが今は関係ない。
今回重要になるのは、これが付くことによる利点と不利な点の二種類。
(……まあ、バランスは悪くない。 どころか戦闘面では相性がいいくらいだ)
現れる敵全てに『死霊』属性が付与され、通常物理攻撃に対しての耐性と幾つかの状態異常無効化。
代償に『浄化』属性と火系列の呪法、属性に対しての決定的な脆弱化。
五感のうち、聴覚と嗅覚を用いた探索能力や戦闘技法の無効化。
休憩地点の消失、代わりに
通常の
その殆どが日本神話上で語られるモノに則っているから、
――――俺は、どっちかといえば。
知識を身に着けることを好むようになっていたから、明確な記録とかは叩き出せたことがない一般側
「…………此処、です、か」
「ひっ」
後続として続いてきたリーフと灯花の声。
前者は大分慣れているからか、ある程度平常で。
後者は覚悟していたとしても、其の実不安定で。
更に続いてきた、肩を貸した状態の
「紫雨、それじゃあ頼む」
「分かった~」
そんな二人から目を離し。
特に変化もなく……普段通りの態度を保っていた少女に声を掛ける。
慣れている、というのは恐らく言葉通り。
此処でこれかぁ、とか小さく愚痴っていた程度で済ませている辺りはやはり流石だと思う。
何かに祈るように目を瞑り、そして開く。
その間中、周囲を目視で監視していたが特段妖の姿は見えない。
ゲームだったら移動時に接敵判定が出ていたが、この世界では当然妖だって動くし襲う。
至極当然の警戒を、当たり前に出来るようになったのはいつの頃だったか。
「終わった、取り敢えずここからどうする?」
「どうするも何も無いんだよな……」
情報無しでの突破経験は少なからずある。
本筋を進めていく上で必ずその経験は仲間達全員が持っておくべきものだったから。
その上で、改めて認識したのは
純粋な狩り――――
長期間の戦い、どれだけ長引く探索であっても一定の戦力を保持できるようにし続けるのとではまた尖らせる方向性が変わってくる。
「取り敢えず北から潰そう。 何か目に付くモノがあったら教えてくれ」
(夕暮れ、ならまだそこまで殺意は高くない――――が油断するのも不味いしな)
いつもどおりの隊列を整えながら、周囲の仲間が各々の形で肯定の意を示しながら。
頭上の、太陽が見えないけれども橙色に染まる空を見上げて僅かに考える。
こうした開放型の場合の僅かな親切心の一つとして、空の色合いで現れる敵の大凡の強さが推察出来る点がある。
妖の時間帯である夜闇に近付くにつれ、現れる妖の強さは見た目に比例せず強化され。
人の時間帯である昼間に近付くにつれ、現れる妖の強さは見た目に比例せず弱体する。
その合間である夕方/朝方の場合は……まあ、大体見た目次第といったところか。
ただ、それに組み合わさり『根の国』の属性……『死霊』としての再生能力を持ち合わせているのは特筆点。
まあ、リーフの呪法で焼けば燃えるから深く考えなくても良いんだが。
「ああ……そうだ、伽月」
「はい?」
他の面々はそれなりに経験があるか、特攻を持った攻撃手段を持つ。
ただ、彼女だけは経験があるかどうか正直言って分からない。
……気配を消そうが、相手は確実に狙ってくることだし。
「経験があるかは分からんが、この《幽世》はお前にとって不利な部分しかない。
こっちも警戒はするが、お前もそれだけは理解しておいてくれ」
「は、はぁ……?」
あー……まあ、口で言うだけじゃ分からんよな。
多分一度でも戦闘すれば分かって貰えるとは思うが――――。
「ご主人」
そんな思考を、先行する白の言葉が遮った。
「何体だ?」
「二体、白骨じゃな」
「丁度いい時に丁度いいのが……」
白骨。
人間の白骨死体のようなモノを象った、操り人形のような妖。
本体はその骨其の物ではなく、体内か頭上にいる魂のような部分か黒髪のような操り糸。
「伽月、片方は任せる。 経験すれば分かる筈だ」
残りの一体を先に潰し、後から伽月の担当している一体を潰す。
分かりました、という言葉を残し。
先手を取ろうと、彼女はその場で気配を薄く塗り潰した。
かたかた、と。
歩く白骨が、俺達の方を向いたような気がしたのは。
そんな行動を取った、直後だった。