からんからんと骨が散る。
辺りに生え誇っていた枯れたような草木の殆どが散り吹き飛び。
ぐしゃり、と乾いた硬質な音が響くまでに掛かった時間は行動にして
「っ゛ぁ…………はぁ…………っ」
頭部――――髑髏を踏み砕くと同時。
荒い息を、久しぶりに呼吸を行ったかのような勢いで吐き出し吸い込み。
ぽたりぽたりと全身から汗が吹き出し地を染めて。
慌てながらに灯花が彼女に治癒の呪法を唱え、肉体の負担を緩和しようと抗っている。
「ご主人……」
「仕方ないだろ、こればっかりは経験しねえと分からない事なんだし」
じっとりとした視線に対して此方も向き直り。
そういうもの、という認識を別の視点から持っていた俺。
そもそもの立ち位置として、近付くことは無いから理解し得なかったリーフ。
そんな俺達二人に対し、白は若干自信満々に胸を張りつつ自分なら大丈夫だ、と言い張っていたのは嘗ての話。
……まあ、当然のように伽月と同じく地獄を見た、というのは言うまでもない事か。
「…………やっぱり、前衛だと、厳しい、ですか、ね?」
「白とか伽月みたいな方向性だと強みを潰される、って意味ではな」
純粋な防御型……重装備を身に着け、全ての攻撃を受け切るタイプの前衛なら特段問題はない。
普段していることと特殊なタイプと、寧ろ武具に
それに対し……気配を消す、相手の死角に入ることを普段の行動の根底に組み込んでいる二人はその分相性が悪い。
まあ、白の場合は
「とは言え――――」
ただ単純に痛い目を見て貰うために単独で戦闘して貰った訳じゃない。
ああいった魂を見てくる妖であっても視られないようにする能力は、ゲームの頃だったら上位派生として存在していた筈だ。
……所有者の存在を見聞きしたことがないからこそ、この世界での取得者数は一切不明ではあるのだが。
「んー?」
「ああ、いや何でもない」
呟こうとした言葉尻を拾って、放った矢弾を回収していた紫雨が此方へ目線を向ける。
それに対して首を振りつつ、考え過ぎる自分を戒めながらに戦闘して貰った理由を口にするか少しだけ悩む。
上位派生を取るまでは我慢して貰うか、或いは慣れて貰う必要性が絶対にある。
だからこそ、それが特段強く指摘せずに一戦を行ってもらった理由で。
そして、今吐きそうになりながら体調を整えている少女に負わせた負担だった。
「伽月、分かったか?」
白に周囲の警戒をして貰えるように手の合図。
言葉を飲み込み、じっとりした目線はそのままに軽く浮いて周囲を見回し始める。
そんな光景を面白がりながらに見る一柱のことは、努めて無視した。
「私を……視られていた……?」
「お前を、というよりお前を形作る
三魂七魄、と呼ばれる概念がある。
本来は日ノ本其の物ではなく、大陸より伝わったモノであるという話ではあるが。
少なくとも、俺が知る限りではこの世界では霊能力者としての根幹を司る大元の知識。
呪力を外部に産み出すための根幹として汲み出す大元。
呪力を体内で用いるための根幹として用いる根源。
呪力を『存在する為』の根幹として定める設定。
父上から
当たり前のことを当たり前のこととして知らない少女達の為に、金より貴重な時間を浪費する。
「肉体側……魄は隠せても、魂側は見咎められてたから駄目だったってことだ。
『死霊』は肉体じゃなく、その大元を食らう妖だからな」
故に、此奴等に殺された場合――より正確に言うなら『根の国』などの特異属性の《幽世》で死んだ場合――蘇生は異常なまでの難易度を要求する。
事実上
「……だから、此処まで、時間、が?」
少しずつ呼吸は浅くなり、平常の状態へと落ち着いていく。
けれど、その根本……彼女の今までの『自信』という概念に触れ、罅が入った。
俺も、白も、リーフも、紫雨も。
全員が一度は経験したことのある、罅を受けた。
「気配が隠せないなら、お前は
他の――――同程度の深度の、普通の能力者よりも劣るってことをまずは認めろ」
唯でさえ彼女は好運不運何方にも多大に振れている。
対人としては格上を喰う才能を持っている反面、対妖としては幾らかの応用で補っている部分があるのも間違いない。
本来であればそれなりの時間を掛けて知っていく当然のこと。
けれど……何となくの勘として。
そんな猶予は、奇運の影響もあって俺達に殆ど残っていないと思っている。
「…………」
彼女は、何も口にしない。
ただ、かたかたと鞘を持つ手が震えているだけ。
「其の上で、どうしたいのかを考えろ」
考えて、考えて、考える。
感覚的に、自分が求める能力を問うのでも良い。
理論的に、周囲が求める能力を伺うのでも良い。
彼女は、先ず……『考える』事から始めなければならない。
頭上を見上げる。
白が手の挙動で妖の姿は見当たらない、と告げている。
「もう少し北に……でいいよな?」
「そうだねぇ、まず後千歩くらいは進んで……円を描く感じで行こっか」
歩いた歩数感覚で、ある程度大雑把な地図を描いている紫雨に問い。
動く為の目安となる
地面に目を伏せ、悩む少女。
それに気を使う、伺うようにしていたのは、幼い少女のみだった。
――――自らが、経験していないことだからこそ。