北に千歩程。
二本の枯れ落ちる寸前の木々を基点として、入口を中心にして円を描くように東へと。
南、西、そして北へと戻る中。
戦闘が一度も無かった、なんて奇跡が起こり得るわけがない。
死者の姿を真似、肉体を象った――――けれど、まだ低級の存在である
肉体を捨て、魂を真似た生命体と化した霊魂。
武具に宿りし怨念がそれ其の物を動かす物質霊。
そのどれもが定義上”死霊”とされるこの世界においては、生まれてしまう事自体がある種の恥とも言える呪いの数々。
それを産み出す主因自体が人にあるからこそ、人に忌み嫌われる存在達。
そんなどれに対しても、自身の得意とする行動全てが有効ではない。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
荒い呼吸を繰り返し、肌に張り付いた薄傷をじっと見つめる伽月。
先に対応され、対応されることに慣れていないからこそ一手遅れる。
その不協和音を後ろで補助することでなんとか対応する俺達。
「で、どうするんじゃ?」
「普通だったら何かしら目印でもあるとは思うんだが……場所固定で発生する《幽世》じゃないからな」
けれど、彼女当人へは何の助言もすることはなかった。
目的意識を共有し、次の流れを相談し、少しだけ休みを挟んで動き始める。
その合間にも、ああするこうすると少しだけ話し合う互いの連携手段。
そんな中で、一人だけ離れた場所にいるように突き放した形となる少女。
(
恐らく視野が狭くなっていることが理由なのだろうけれど。
全員からちらちらと目線を向けられているのにも恐らく気付いていない。
そして何より、
こうして口にしているのは、彼女の口を軽くするためであり。
自分で考えるだけでなく、仲間に頼る選択肢を見せるためでもある。
『良いのかい?』
(良いも何も無いって言ってんだろ)
最初は笑い。
次第に表情が変わり。
そして今では心配するような言葉を投げ掛けてくる
初手からそんな言葉を投げ掛けてくるのだったら俺も対応を変えたけれど。
芯を曲げるように口にする内容を変えた以上、今対応する言葉は切り捨てるような言葉一択。
恐らくは視ている視点が違うが故発していると思うのだが、それでもこうした対応は遅すぎたと思わなくもないのだ。
(……特に、そう云う機会が全く無かったからな)
彼女が
それを言い出せば白以外は殆どがそう、と言い換えることも出来る。
それでも灯花と伽月を除けば、根本的な部分の噛み合いは確認した上でそれなりに親しく付き合ってきたのだ。
つまりは――――全てを指示する形で統一するか、個人の好みや癖を優先するかという二択。
正直なところで言うならば。
俺が一番好む構築とは既に掛け離れてしまっている。
現状、回避寄りの構築が二枚、中衛としての自分と弓・道具使いに純後衛が二人。
回避を捨てろ、なんてことが言えるわけではないのは重々承知。
けれど、その防御力を以て耐えなければならない攻撃が存在するのもまた事実。
だから、純粋な前衛として立ち回るのならば。
他の役割を持たない伽月だからこそ、重装に近い装備を自在に操る方向性か。
或いは中装程度の防具の扱いに習熟し、霊力という面での防御性能を高めてほしいと思ってしまうが口には出せない。
(『速』一旦置いといて『力』と『体』二本伸ばせ、なんて言えるわけ無いからなー……
知っていてはおかしい情報、知っていてもおかしくない情報。
その選別が未だに可能なくらいに知識として根付いている俺自身も何かがおかしいとは理解しつつ。
それでも常に不安感を抱き続けてしまうのは、生来持った癖なのだろうか。
自分自身に問い掛けたところで答えが返るはずもない回答。
はぁ、と漏れる言葉。
これが血盟を結ぶよりも前であれば、他にも取れた選択肢。
それらの可能性を全て捨てたからこそ今生きていると分かりはするが、他者にばかり求めてしまう自分を叱咤する自分もいる。
「あの、伽月さん……」
「はい、ええ、大丈夫、です」
心配そうに駆け寄る灯花。
本来は止めるべきな行動ではあるが、何処か遠くを見ようとしている伽月はそんな彼女に胡乱な言葉で言葉を返す。
だからか、口に出そうになっていた白は小さく開いた口を再びに仕舞い。
「紫雨、こういう時って行商側だとどうしてんだ?」
「ん~、広さとか仕組みにも依るけど人海戦術か
「……目印、です、か」
大雑把に描かれた紫雨の脳内に存在する地図を転記したものを、残りの三人で見つめながらに相談を交わす。
「そ。 多分今のボク達で気付けてない何かがあるんだと思うよ」
だから最初はあの木を目指していたのだ、と彼女は軽く口にした。
何となく気になり、それについて深く掘り進める。
「そういうもんか?」
「朔君も意見無いの?」
「いや、俺の場合は片っ端から埋める感じだったしな……」
特に道端に出来てしまった場合は通行の邪魔。
霊能力者同士で地図を融通しあい、道を発見してそこを通るか強者が核を潰しに潜るかの二通り。
俺達は大体前者に乗っかっていた形だから一からこの世界で探索する、という経験が不足している。
「ま~、入口があんな草木だらけの場所だったし。
出口もそれに近い形してるかもっと分かりやすい何かがあるとは思うかな?」
どう思う、と繰り返される言葉に曖昧に頷いた。
何とも言えないけれど――――彼女の言葉に従う以外の選択肢は今のところ見当たらない。
その方向で進む以外に道もなく。
「…………そう、しましょう、か」
リーフの賛同に、全員の意見が固まったものだと判断し。
少しだけ遠く……部隊の仲間達へ声を掛けようと改めて見回した。
そんな中。
本来休憩するべき時間帯に、遠くを見ながらふらりと一歩歩もうとした伽月の姿。
その背中に、僅かにだが
何故だろう、と。
深く言及することも、難しい中で。