更に千歩、円を描く。
更に五百歩、円を描く。
更に百歩、円を描く。
進む幅は少しずつ短くなり、けれど円状に回ることを続けているからこそ進むべき道程は飛躍的に増加していく。
少しずつ物資は減っていき、けれど完全に枯渇するでもなく。
進むべき円の体積が増加するにつれ、
「――――シッ!」
少なくとも、俺は正しく定義する言葉を持たない。
(……なんだ、何かに気付いたのか?)
吹き飛ぶ死霊。
たった一体を相手取れば良い、と前衛に告げて行っていた戦闘。
それが気付けば――――目の前の刀を振るう少女が、全ての機先を制して一つの歹を振り砕き。
次いで遅れるように反応したもう一体へと飛び掛かり始めたのは、いつからだったか。
この《幽世》に潜り始めた頃は利点を活かせない、決定的な弱点を負った侍だった筈なのに。
気付けば、少しずつ少しずつ相手よりも一歩だけ踏み込んで斬撃を振るっている。
「…………ねえ、気付いて、る?」
御伽草子であれば明確な落丁を見落としたような。
嘗ての漫画であれば丸々一巻を飛ばしたことで起きた進化の見落としのような。
或いは――――そう云う存在だと知らなかったが故なのか。
戦闘中にも関わらず、僅かに一手遅れてしまう程の驚愕。
本来隊列を組んで戦闘する相手の筈なのに、リーフが俺の直ぐ傍に近付いていた事に気が付かなかったのも同様か。
それほどまでに、集中できていなかったからなのか。
「……何が?」
「…………伽月、ちゃんの、こと」
だからこそ少女に内容を確認するように問い掛け。
彼女も……普段見せる少しだけ眠たげな表情ではなく。
あの夜の日に見た、無機質な色合いを含んだ敵対者に向けるような顔色を持ったリーフ。
「
「…………
複数体の人型の歹。
けれどそのどれもを一人で薙ぎ払う少女は、今はこの世界の君臨者のようで。
本来併せて動くはずの白さえも、向ける視線は彼女への警戒を隠そうともしないモノ。
多分それは。
紫雨も、灯花も、怜花さんであっても多かれ少なかれ今の彼女に持ち合わせる感情の発露に近く。
そんな中でリーフだけが言語化出来ている、そんな事実を突き付けるかのような状況。
――――あの時と同じだな。
ずきり。
頭痛と共に感じるのは、
自分で理解できていないことを、身体其の物は理解できているような不可思議な錯覚。
(…………思兼)
ただ、それを他の仲間に話すべきではないとも感じた。
直感なのか、或いは自分が元々持つ怯えからなのかは分からない。
けれど、自分で感じたことを……唯一、ほぼ全てを識った
『何?』
(一つ……いや、二つ聞かせろ)
還る言葉は即座。
けれど、普段であれば面白おかしいというか
その言葉は厳かで、何処か『神』という存在を別種のモノだと定義するかのような圧を持っていた。
(一つ。目の前の……伽月のアレは、在り得ることなのか?)
振り払う。
切り砕く。
肉体の動作に虚偽を混ぜ合わせた戦闘方法では、あの死霊達には通用しない。
けれど、加速度的にそれに対応し始めている。
いや――――違う。
寧ろ、
『私……いや、ワタシの知る事実で応えよう。
存在してもおかしくはないが、存在すること自体がおかしい』
一歩。
刃が黒ずんだ肋骨を打ち砕く。
一歩。
剣閃が首を凪ぎ、散る。
一歩。
空を切った筈が、目の前の死霊はその場に崩れる。
吸って、吐く。
そんな呼吸音だけが妙に響いている、
(……つまり?)
『人の域を踏み越える境界線で、加速度的に何かを学んでいる……と呼ぶべきかな?』
その在り方を見つめている神の目は、どこか冷徹で……そして同時に懐かしいものを見ているような郷愁を混ぜ合わせている。
質問に対する答えとして成立していないのは理解していても、多分それに対して答える気がないのだろうことは容易に予想できた。
だから、もう一つを問う。
そんな瞳の色をしていたのだから、ほぼ間違いなく正しいのだろうと理解できてしまっている事実確認。
けれど、出来れば聞きたくもないこと。
(……二つ目の質問だ)
けれど、聞かなければいけないこと。
すぐ隣に立ってしまっている少女のことを考えれば、知らなければいけないこと。
(
アレは、自分一人で切り開いた結果ではない。
先導者、或いは何かを見覚えながら天才が学んでいく行程に近い。
遙か先のナニカに導かれて、自らの道程を作り上げていく守破離の守を学んでいる。
不思議と、そして同時に理解できてしまった
『……』
言葉を伏せたのは数瞬。
けれど、その瞬間毎に階段を昇るように進化させられているような彼女を見。
『建速須佐之男――――
耳に聞こえた最初の名前は、不思議と聞き取れず。
次に告げた言葉は、当然とばかりに阻害される前に耳に届く。
それこそが、知識神と契約した証左とでも言うように。
『根の国を治める証を持つ、天津神の一柱さ』
そんな言葉と共に、大地にまた一つ歹が落ちた。
地を白黒入り交じる骸が埋め。
ぱきり、と音を立てて踏み砕かれて。
「――――こう、か」
何かに納得するような、伽月の言葉だけを残して。