オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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018/変化

 

元々、多少の戦闘は予定していた。

一戦、二戦。

道中での遭遇戦であり、玄室内に潜んでいた妖であり。

どうしても進む上で――――地図を作る上で戦わなければ行けない敵は存在した。

 

その度に白と話し合い、どう戦うか。

或いは相手の情報からの推測を重ねたが。

やはり本来の思考担当……呪法師とは違いが出てくる。

 

戦う場所であり、疲労であり、人数不足であり。

原因を突き詰めれば、幾らでも答えが湧いて出てきそうな事。

 

――――キィ!

――――キィキィ!

 

「…………っち、失敗したな。」

 

例えばそう。

一度奇襲で上手く行った子鬼相手、但し複数との戦闘で。

残した相手が白の横を擦り抜け俺へと突撃。

受け切りはしたものの、腕を裂かれて負傷を受けた今のような失敗は起こってしまう。

 

「ご主人!」

「大丈夫だ!」

 

後ろを振り向こうとした白へ声を上げ。

同時に、時間がゆっくりと進むように見え始める。

……右目の奥。

異常な程に冷めた自分が、第三者のように動作の記録(バトルログ)を眺めている錯覚を見る。

 

1行動目
>>『白』の『血飛沫月光』。二回命中。子鬼Aは倒れた。
>>『朔』の『劣火の法』。干渉成功。『子鬼B~D』の攻撃力が減少。
>>子鬼Cの攻撃。攻撃が2回命中。『朔』の生命力が8減少。
>>子鬼Bの攻撃。攻撃が1回命中。防御成功。『朔』の生命力が2減少。
>>子鬼Dの攻撃。攻撃が0回命中。
>>行動待機中...

 

『人間』:【朔】『飛縁魔』:【白】
生命力:【■■■■■■■   】生命力:【■■■■■■■■  】
霊 力:【■■■■■■    】霊 力:【■■■■■■■■■ 】
状態:【なし】状態:【なし】

 

以前と違った数値画面。

この幽世に潜ってから見え始めた行動記録と。

そして、()()()()()()()()()()()

本来の能力で見えるものとはまた違う。

戦闘を俯瞰する上で必要になる、誰かが策定したような数値的な整理。

 

あれを見ているのは俺自身だ、というのは強い確信。

ただ、悪さをするわけでもなく。

同時に干渉するわけでもなく。

ただ、()()()()()()()()()()とでも言いたそうな状況下。

 

(…………まさか、な。)

 

一つだけ、思い当たる理由が浮かんでしまった。

父上が言っていたことと、今の脳内と。

それらを合わせて、結びついた答え。

 

……ただ、深く考えるのは後で良い。

 

不思議と痛みは薄く、それでいて寒気もしない。

死とは当分縁が無さそうで。

()()()()()()()()()()()()()()()

だからこそ、攻めに転じることだって出来る。

 

「白! どれでも良いから一体倒してくれ!」

「ご主人は!?」

「俺も殴る! 二~三回の攻防で全部潰すぞ!」

 

幸運があった可能性は否めないが。

白の攻撃……術技で子鬼を倒せるのは間違いない。

もし生き延びたとしても、俺の追撃が合わされば確実に数を減らせる。

問題はそれらが全て終わるまでに生命力が尽きないか、という問題だが。

 

(――――考えてる余裕はないな。)

 

何にしろ、相手は必ず此方を襲う。

折角の餌だ。

倒れれば骨まで喰われ、幽世の瘴気の元に溶け込むだろう。

だから、考えるだけ無駄だ。

生き残ってから全力で治療を施せば良い。

 

「…………っ! 自分を大事にせえよ!?」

 

今言うべきことじゃないだろ。

少しだけ、笑う余裕さえ出来てきた。

 

(……このタイミングで、不利に落ち入れてよかったかもな。)

 

例えば強敵。

例えば幽世の主。

そういったものに対して初めて攻撃を受ける、なんて機会じゃなくて良かった。

 

まだ周囲を見回す余裕がある。

まだ死ぬまでに余裕がある。

まだ、生きる為に全力を費やせる。

 

両手に杖を持ち、大きく踏み出す。

 

――――キィ!

 

互いに意思の疎通を図っているのか、武器を持たない指を俺へと向ける。

それに向かい飛び出した白が、首元目掛けて剣戟を二回。

右と左、それぞれから微かに吹き出た血液。

そして、一瞬だけ遅れて同じ場所から血潮が虹を描く。

 

――――右に踏み出す。

 

杖を押し付けるように、前で踏み出しながらに突く。

右脇を持ち上げ回避し、そのにちゃりと笑う顔と。

吐く腐臭が鼻にまで漂ってきそうな相対距離。

 

――――思い切り右上へ持ち上げる。

 

がつん、と手先に鈍い振動。

位置からして、避け方からして。

逃げるには後ろに抜けるしか無い状態だからこそ、全力で振り上げることで右腕を折る。

泣き叫ぶような声色を耳にし。

 

――――そのまま引っ掛けるようにして一回転。

 

遠心力と、めり込み続ける杖が胴体を潰す。

骨が内部に作られているのかどうなのか。

手に当たる感覚はそれに近いけれど、その全てを叩き折るように。

そのまま壁へと叩き付け。

 

「……良し。」

 

がつん、と手元に来る痛み。

眼の前から襲い掛かる、残った一体。

ただ、それを受けるだけの余裕が今はあった。

 

不思議なことに。

先程攻撃を受けた時と、殆ど同じような流れにも関わらず。

 

2行動目
>>『白』の『血飛沫月光』。二回命中。子鬼Cは倒れた。
>>『朔』の『通常攻撃』。二回命中。子鬼Dの生命力が12減少。
>>子鬼Bの攻撃。攻撃が0回命中。
>>子鬼Dの攻撃。壁に叩き付けられている(こうどうふのう)
>>行動待機中...

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……ぽかん、とする視線が一つ。

 

終わった後で話でもしないとな、と。

更に一歩踏み出しながらに、心の片隅にメモを残した。


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