元々、多少の戦闘は予定していた。
一戦、二戦。
道中での遭遇戦であり、玄室内に潜んでいた妖であり。
どうしても進む上で――――地図を作る上で戦わなければ行けない敵は存在した。
その度に白と話し合い、どう戦うか。
或いは相手の情報からの推測を重ねたが。
やはり本来の思考担当……呪法師とは違いが出てくる。
戦う場所であり、疲労であり、人数不足であり。
原因を突き詰めれば、幾らでも答えが湧いて出てきそうな事。
――――キィ!
――――キィキィ!
「…………っち、失敗したな。」
例えばそう。
一度奇襲で上手く行った子鬼相手、但し複数との戦闘で。
残した相手が白の横を擦り抜け俺へと突撃。
受け切りはしたものの、腕を裂かれて負傷を受けた今のような失敗は起こってしまう。
「ご主人!」
「大丈夫だ!」
後ろを振り向こうとした白へ声を上げ。
同時に、時間がゆっくりと進むように見え始める。
……右目の奥。
異常な程に冷めた自分が、第三者のように
1行動目 | ||
---|---|---|
>>『白』の『血飛沫月光』。二回命中。子鬼Aは倒れた。 | ||
>>『朔』の『劣火の法』。干渉成功。『子鬼B~D』の攻撃力が減少。 | ||
>>子鬼Cの攻撃。攻撃が2回命中。『朔』の生命力が8減少。 | ||
>>子鬼Bの攻撃。攻撃が1回命中。防御成功。『朔』の生命力が2減少。 | ||
>>子鬼Dの攻撃。攻撃が0回命中。 | ||
>>行動待機中... |
『人間』:【朔】 | 『飛縁魔』:【白】 |
生命力:【■■■■■■■ 】 | 生命力:【■■■■■■■■ 】 |
霊 力:【■■■■■■ 】 | 霊 力:【■■■■■■■■■ 】 |
状態:【なし】 | 状態:【なし】 |
以前と違った数値画面。
この幽世に潜ってから見え始めた行動記録と。
そして、
本来の能力で見えるものとはまた違う。
戦闘を俯瞰する上で必要になる、誰かが策定したような数値的な整理。
あれを見ているのは俺自身だ、というのは強い確信。
ただ、悪さをするわけでもなく。
同時に干渉するわけでもなく。
ただ、
(…………まさか、な。)
一つだけ、思い当たる理由が浮かんでしまった。
父上が言っていたことと、今の脳内と。
それらを合わせて、結びついた答え。
……ただ、深く考えるのは後で良い。
不思議と痛みは薄く、それでいて寒気もしない。
死とは当分縁が無さそうで。
だからこそ、攻めに転じることだって出来る。
「白! どれでも良いから一体倒してくれ!」
「ご主人は!?」
「俺も殴る! 二~三回の攻防で全部潰すぞ!」
幸運があった可能性は否めないが。
白の攻撃……術技で子鬼を倒せるのは間違いない。
もし生き延びたとしても、俺の追撃が合わされば確実に数を減らせる。
問題はそれらが全て終わるまでに生命力が尽きないか、という問題だが。
(――――考えてる余裕はないな。)
何にしろ、相手は必ず此方を襲う。
折角の餌だ。
倒れれば骨まで喰われ、幽世の瘴気の元に溶け込むだろう。
だから、考えるだけ無駄だ。
生き残ってから全力で治療を施せば良い。
「…………っ! 自分を大事にせえよ!?」
今言うべきことじゃないだろ。
少しだけ、笑う余裕さえ出来てきた。
(……このタイミングで、不利に落ち入れてよかったかもな。)
例えば強敵。
例えば幽世の主。
そういったものに対して初めて攻撃を受ける、なんて機会じゃなくて良かった。
まだ周囲を見回す余裕がある。
まだ死ぬまでに余裕がある。
まだ、生きる為に全力を費やせる。
両手に杖を持ち、大きく踏み出す。
――――キィ!
互いに意思の疎通を図っているのか、武器を持たない指を俺へと向ける。
それに向かい飛び出した白が、首元目掛けて剣戟を二回。
右と左、それぞれから微かに吹き出た血液。
そして、一瞬だけ遅れて同じ場所から血潮が虹を描く。
――――右に踏み出す。
杖を押し付けるように、前で踏み出しながらに突く。
右脇を持ち上げ回避し、そのにちゃりと笑う顔と。
吐く腐臭が鼻にまで漂ってきそうな相対距離。
――――思い切り右上へ持ち上げる。
がつん、と手先に鈍い振動。
位置からして、避け方からして。
逃げるには後ろに抜けるしか無い状態だからこそ、全力で振り上げることで右腕を折る。
泣き叫ぶような声色を耳にし。
――――そのまま引っ掛けるようにして一回転。
遠心力と、めり込み続ける杖が胴体を潰す。
骨が内部に作られているのかどうなのか。
手に当たる感覚はそれに近いけれど、その全てを叩き折るように。
そのまま壁へと叩き付け。
「……良し。」
がつん、と手元に来る痛み。
眼の前から襲い掛かる、残った一体。
ただ、それを受けるだけの余裕が今はあった。
不思議なことに。
先程攻撃を受けた時と、殆ど同じような流れにも関わらず。
2行動目 | ||
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>>『白』の『血飛沫月光』。二回命中。子鬼Cは倒れた。 | ||
>>『朔』の『通常攻撃』。二回命中。子鬼Dの生命力が12減少。 | ||
>>子鬼Bの攻撃。攻撃が0回命中。 | ||
>>子鬼Dの攻撃。 | ||
>>行動待機中... |
……ぽかん、とする視線が一つ。
終わった後で話でもしないとな、と。
更に一歩踏み出しながらに、心の片隅にメモを残した。