オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

192 / 195
021/中天

 

妙に肌寒い感覚から、少しずつ離れた先。

目前の色合いと、本来ならば見えるはずもない何かに引き寄せられるように進んだ先。

背後に――と言うより前後から――視線を感じながら、進んだ奥の奥。

この《幽世》から離れるための、黒ずんだ到達点に漸く辿り着いた気がした。

 

(……引っ張られたのか、追い出されたのか。どっちかは分からんが)

 

その場に一本目印を立て抜け出た先。

身体にずしりと伸し掛かる重圧を感じながら。

見上げた先には、僅かな森と少しだけ広げられた空間が視界の全てを埋めていた。

 

「抜けられた」

 

そう、誰が最初に口にしたのかは分からない。

ただ、明確に分かることは一つ。

 

全員でふらふらと広場へと足を運び、腰を落とした。

未だに元気いっぱいな姿を示しているのは白だけ。

人間(或いは能力者、霊能力者)が踏み入ってはいけない領域から無事に抜け出せたことが、まず全身の力を奪っていた。

少なくとも俺は、しなければいけないことが一つ残っている、と分かっていても、だ。

 

はぁ。

ふぅ。

 

誰もが一つ二つ、三つ四つと息を零して。

荒れている筈もない筈の呼吸を落ち着かせるのに、時間を少々。

その間、誰もが水や軽食を取ろうとしなかったのは幸運だったと思う。

 

「ご主人」

「あー」

 

そんな風に落ち着くのを待っていたのかもしれない。

少なくとも当人でない以上、想像でしか無いのだけど。

立ち上がり、周囲の求めるものを探しに行くだけの猶予が生まれたと同じ頃に相棒からのそんな声。

返した言葉に力は殆ど無かった気もする。

 

「二つ……いや、三つ聞かせよ」

 

まあ、何にしろ。

その質問に答えないという選択肢は、その口調の強さからして存在しなかったのも事実ではある。

 

「何をだよ」

 

この場で聞く、と言うのは多分全員に聞かせるつもりでもあり。

ついでに言うなら逃がす気がないという意味でもあり。

幾つかのそんな感情が割合で混ざっている気はするが、多分一番大きいのは怒(・)り(・)と(・)疑(・)問(・)。

顔が見えるように振り向こうとする気力が返事で削がれて向けないまま、唯その口調に対して回答することに集中する。

 

『疲れ過ぎじゃないかな?』

(そう言えるのはお前の領域に近いからでもあるだろうに……)

 

ニヨニヨした色合いの言葉も聞こえる。

煩い、と返す意味合いも込めて溜息混じりに脳裏で言葉にすれば、小さく卑屈な笑い声が聞こえた気がした。

笑ってんじゃねえ、と思っても言葉は一切消えないまま。

外界、不機嫌さを顕にしたままの相棒の一つ目の質問が耳に届く。

 

「先程の……伽月の件よ」

「……なんでああしたか、って意味でいいんだな?」

 

返事はない。

ただ、じっとりとした視線が増えた気がする。

後は……何だろう、良く分からない色合いの目線が二つ。

 

「ああするしかない……って訳じゃないが、一番確実で一番手早く呼び戻せる可能性があったから、だな」

 

他の何かに乗っ取られた場合。

状態異常としての「憑依」状態になってしまった場合。

特にゲーム時代の話になるが、全(・)て(・)の(・)動(・)作(・)が乗っ取った相手の思うがままの操作に変更される。

これを現実世界に置き換えるなら、「自身の意識、精神と肉体の出力が完全に狂っている」状態と考えて良い。

 

そして、この状態を解除する手段は二つ。

乗っ取られている側の意識を強め、精神と肉体の関係性を強化するか。

或いは特定の能力を用いて強制的に除霊、解除するかの何方か。

 

「と、言うと」

「《幽世》の状態が普通の場所だったならともかく、あの場所は向こうの権(・)限(・)が明らかに強い場所だった。

 言い換えるなら、追い払ったとしても直ぐにまた同じ状態に成りかねない場所だったんだよ」

 

神の名前を宣告しなかったのも同じ理由。

そういうものだと言霊を与えて、力を強く持たせるのを嫌ったから。

曖昧な状態を保ち、強引に引き払うのと同時に精神を引き戻す。

それを同時に実行する手段が、あの場では他に思いつかなかったと言うだけの話だ。

 

「権限?」

「何だったかは言わんぞ」

 

身体に僅かにでも染み付いた、或いは残った残滓からまた近寄ってこない可能性は否定できない。

そもそも、「絶対に起こらない」なんてことは起こらないのは一番俺が身に沁みている。

この世界を未だに現実なのか、曖昧なところで漂わせている俺だけが感じている自分への危機感がそう訴えていた。

 

「吾等に対してもか?」

「危険性が分かるならともかく、名だけを知って良いことなんざ何もねえよ」

 

だからこそ、知識を得る手段が能力として定義されている。

そう何となく結び付ければ、実感として納得がいくものがある。

 

「……で、質問は後一個で良いのか?」

「……そうじゃなぁ。一つ……いや、やはり二つか」

 

少しだけ喉の渇きを覚えた。

反射的に水筒に手を伸ばしそうになったのを抑え、身体を起き上がらせて質問を返す。

真っ先に動いてもらうとすれば、やはりある程度元気を見せている此奴メインになるだろうし。

 

「それは?」

「単純なことではあるが――――この後何をすれば良いのか、という疑問が一つ」

 

それと。

指をもう一本立てた気がする。

 

「取得が済んでいない能力の選別をいつ、何処ですれば良いのか。

 本来ならば街でする筈だった筈じゃが、それを今埋めてしまって良いのか」

 

つまりは。

 

「……どの程度時間を使って良いのか、ってことか」

「追跡者がいる、ということを念頭に入れるとの」

 

……。

どの程度、あの領域で使ったのかが分からない。

それが、多分一番の痛手だったと思う。

いや、本当に。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。