オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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001/スタート

 

【幽世の夢の果てで】と名付けられた、一つのゲームが有った。

コンピュータ向けの一人用ゲーム、ジャンルは和風伝奇恋愛系ハック&スラッシュ。

(あやかし)と呼ばれる怪異達に立ち向かい、幽世と呼ばれるダンジョンを制覇。

やがてその王を倒すまでの物語。

 

ジャンルごった煮に加えてイベントフラグもランダムに多数。

幼少期から育成出来、推定攻略時間50~80時間の大作。

文字通りに”1000時間遊べる!”と謳われ。

大々的に売りに出されたゲームだったが、一つ大きな問題があった。

 

『大事なことが書かれてねえじゃねえか!!!!』

 

と、買った人間達が怒り狂ったその原因。

そう。

ヒロイン達の末路(バッドエンド)がひたすらに鬱だったのである。

 

原作に登場するヒロインの中で例を上げれば。

幼い頃からの婚約者として出てくる「可能性のある」一つ年上の少女。

彼女の末路はその家の人間全てが妖に喰われるまで敢えて生き長らえさせられ。

その身体を妖に貪り尽くされ、最後は主人公に意識を保ったままで討たれるエンド。

或いはその前に敗北し、彼女に囚われて彼女と全く同じ結末を味わうエンド。

 

更に例を上げるなら。

主人公の分家に属する妹分として出てくる「可能性のある」二つ程年下の少女。

彼女の末路は依頼として出向いた先で妖と契約した住民に騙され、監禁からの汎ゆる暴行。

最後は主人公の名前を呟きながらの衰弱死までをやけに細かく描写。

ついでとばかりにその死体も手元には戻らない。

 

……まあ、そんなクソみたいな展開が山積みだったのである。

しかもそのイベントを通過し、末路を知ると主人公が強化されるおまけ付き。

だからこそ、怒り狂ったプレイヤー達が『絶対救ってやる』とのめり込んだ。

……のだが。

その展開を避けるための条件が大分酷かった、というのも拍車を掛けた。

 

幼少期から育成が始められる、ということは序盤は本当にクソ雑魚。

ハック&スラッシュを謳う癖に序盤は”幽世(ダンジョン)”に行けば即死する。

特にイベントが発生していない、通常時なら平和な場所で訓練から積む必要がある。

幽世で手に入る武器や防具、成長した能力を駆使して更に次のダンジョンへ……と進む形にも関わらずだ。

勿論それで成長する数値は微量でしかない。

 

きちんと強くなりたいならいつかは幽世(ダンジョン)に潜る必要がある。

どう考えても相反している状態にも関わらず、条件が突き詰めてギリギリ何とか()()()()ライン。

つまり。

()()()()()()()()()()()()()()()()クリア推奨ラインに辿り着ける前提で構築されていた訳だ。

 

故に、評判に釣られた一般プレイヤーはクソゲーとして叫び即座に値崩れ。

一部のやり込み勢(ドM達)は逆に歓喜し、物凄い狭い範囲で情報交換を繰り返し。

ついには『犠牲無しで○○のハッピーエンド達成したぞ!!!』と。

『どうやったんだ!』『リプレイ寄越せリプレイ!』と報告が出たり出なかったり。

そんな妙な狭い界隈で賑わっていた場所があったわけだ。

 

……で、なんでそんな事を思い出しているのかと言えば。

 

「おい、(はじめ)。」

 

目の前に立つ大柄の人物に見覚えがあったから。

やや白髪が混じった黒髪に、片目の眼帯。

左手の小指を欠けさせながらに鋭い眼光を光らせた人物。

より正確に言うのなら、今立っているこの場面に強い既視感を抱いていたから。

 

「今日からお前を鍛え始める。 予めどの方向を目指すかだけは決めてあるな?」

 

周囲は茅葺きの家々。

見慣れた瓦が敷かれた家なんて全く無い。

目に入る範囲を見渡しても、木々や山々に取り囲まれた数少ない集落。

文字通りの意味で()()()()()()()()()始まりの場面。

 

「? どうした?」

 

そして、呼ばれたその名前にも違和感と納得感が同時にあった。

普段そのゲームを遊ぶ際に使っていた名前。

そして自分の名前だという二重に感じる違和感。

 

「……いえ。 なんでもありません、()()。」

 

舌足らずの、発するのに慣れない幼い声で返答をしながら。

目の前の男性――――自分の父。

そんな筈はないのに、そうだと強く思う感覚。

自分が二人いるような、一人に固まったような錯覚。

ただ、その時思ったのは。

 

(…………これ、かくゆめ*1のキャラ作成シーンだよな!?)

 

そんな、希望と絶望を同時に合わせた感情だった。

*1
【幽世の夢の果てで】ファンからの愛称


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