オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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ヒロイン……ヒロインとは……?


019/瘴気箱

 

玄室を埋めるのは、吹き出した血潮。

ただそれらも霊力と混ざり、少しずつ消滅し。

互いの吐く息だけが室内を占め始めている。

 

「……なぁ、ご主人よ。」

「ああ。」

 

何とか生き残った俺達は、負傷と疲労を癒やすために休憩中。

持ち込んだ塗り薬は半分以上が消失し、霊力を賦活させる飲み薬も幾つかが消え。

その結果は、確かに一つ深度が上昇したという確信と目の前の暗(・)闇(・)に(・)包(・)ま(・)れ(・)た(・)箱(・)。

ただ、白が聞いているのはこれに関してではないのは俺も承知済み。

 

「先程のは何だ?」

 

明らかに途中から変わった動き方。

本来取得していた『狩る者の眼差し』で見えるものではない、動作の記録。

それも俺自身が捉えられていた流れだけでなく、白の行動や白への行動を含む。

戦闘全てを流し見したような、数値化した記録(ログ)。

 

「……何となく、こうじゃねーかな……っていうのは思い当たらなくもない。」

 

それらを見ることで、全てを読み切ったように動くことが出来た。

変な癖もなく、自然にやるべきことをやれたと確信できる。

そして指示出しまでもする余裕だってあった、あの状態。

 

「ただ、幽世に入ってからなんだ。 この奇妙なものを見るの。」

「奇妙な?」

 

「飛縁魔」と戦った時には見えなかった。

一年の大半を修練に費やしていた間も見なかった。

こうして幽世に入ってから初めて見ている。

 

「動(・)作(・)の(・)記(・)録(・)。

 ……というよりは、何をしようとしてその結果どうなったか、だな。」

「……は?」

 

何に繋がっているのか。

何を見ているのか。

父上の言っていたことから察する、俺の考え。

 

「幽(・)世(・)が(・)記(・)録(・)し(・)て(・)い(・)る(・)戦(・)闘(・)結(・)果(・)に繋がってると思ってる。

 多分、そう考えるのが一番納得できる。」

 

多分、あんな綺麗に動けたのは。

以前に誰かが入った時の理想の動きを模倣(トレース)している。

俺単独なら、もっと色々と戸惑って変な動きに為っていた筈だ。

自分自身が今出来る最高の形を、誰かが教えてくれたような動き方。

 

「待て待て待て待て待て! お主、何言ってるか分かっておるのか!?」

 

当然のように叫ぶ白。

 

「分かってる。 明らかに異常ってことくらいはな。」

 

そして、俺もこう返すしか無い。

幽世に繋がる人間――――つまり、最(・)も(・)瘴(・)気(・)の(・)影(・)響(・)を(・)受(・)け(・)る(・)人(・)。

 

父上が言っていたこと。

堕ち人……人の血潮に酔い、妖側に堕ちる人間。

それをそのまま読み取るなら唯の怪物。

ただ、少しでも見方を変えてしまえば。

幽世の中で、霊力を求めて人を襲う怪物。

 

『月』に親しい一族。

妖に近い一族。

其処から繋がるのは、この回答。

 

だから、恐らく。

あの時に見た『俺』は。

瘴気に全身を繋げた何処かの『俺』だ。

終わってしまって、堕ち切った『俺』だ。

 

「とは言え、今は目にしか影響はない。

 だから、強い影響を受けるようなことでもないと思う。」

「そうではない! そうではないだろう!?」

 

肩を捕まれ、揺さぶられる。

その目は妖と言うよりは人に近く。

強い感情を見せていた。

 

「お主は一人で何処に行く気なんじゃ!?」

 

こ(・)の(・)ま(・)ま(・)進(・)ん(・)で(・)し(・)ま(・)え(・)ば(・)。

その不安は、その未来は俺自身が見ていた。

――――だからこそ、白に言っておかなければならない。

 

「何処にも行かない、と言い切れれば良いんだけどな。

 ……多分だが、見るための条件は幽世に潜るだけじゃない。」

 

幽世は現世と違って区切られた場所。

だから見えている、といえば間違いはない。

ただ、それだけではない。

 

「……なら、何じゃ。

 このまま見続けるつもりならお主監禁するからな?」

 

普通に怖いことを口にする、目の前の妖(・)。

その始まりの時点で見えていたことと見えていなかったこと。

其処から、ふと思考が広がる。

 

現世に漏れ出す妖。

大気中に漂う瘴気。

それらが指し示すように、幽(・)世(・)並(・)み(・)に(・)瘴(・)気(・)が(・)濃(・)い(・)現(・)世(・)も存在する。

 

ゲームでもそうだった。

幽世が崩壊し、溢れ出して同化した時であったり。

物語上の強敵(シナリオボス)と戦う時であったり。

現象自体は曖昧で、それを知る人が少なすぎると言うだけで。

存在する以上、そこで見えるかどうかは判断基準になる。

 

明確になっていないそれ。

恐らく。

それを導き出さなければ俺は堕ちる。

これは、確信だった。

 

「なぁ、白。」

「何じゃ。」

 

眼の前で、拗ねたような口調を続ける彼女に語りかける。

瘴気箱が未だに其処に残っていて、何だか少しおかしくなりつつ。

こんな場所でする会話ではない、と改めて気付かされながら。

 

「俺さ、霊能力者として当面の目標も何も考えてなかったんだわ。」

「そんなことはなかろう。

 言ったではないか、『平穏に暮らす』という大言壮語を。」

 

最終的な形だけは思い描きながら。

その道中どうしたいのか、という形を。

平穏に暮らす上で、障害が一つ生まれてしまったというだけ。

なら、どうするか。

 

「だから、先ずは条件を確定したい。

 その為に、必要な場所を巡ることにする。」

「それは……つまり、日ノ本中を旅すると?」

「そんなところかね。」

 

この世界でそれがどれだけ難しいか知りながら。

 

「勿論、成長して一人前になってからだけどな。」

「当たり前じゃ。

 さっき言った言葉の返事聞いておらんぞ。」

 

さっきの……ああ、俺一人でってやつか。

 

「はっきり答えよ。

 お(・)主(・)一(・)人(・)で(・)何(・)処(・)か(・)に(・)行(・)く(・)つ(・)も(・)り(・)か?」

「約束しただろうが。」

「忘れるなよ? 忘れたらお主喰うからな?」

 

……それは、流石に冗談にならないなぁ。

 

「取り敢えず瘴気箱開けようぜ。

 金銭的にマイナス割ってるからな、今回。」

「ごまかされんからな?」

 

……駄目かぁ。

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