玄室を埋めるのは、吹き出した血潮。
ただそれらも霊力と混ざり、少しずつ消滅し。
互いの吐く息だけが室内を占め始めている。
「……なぁ、ご主人よ。」
「ああ。」
何とか生き残った俺達は、負傷と疲労を癒やすために休憩中。
持ち込んだ塗り薬は半分以上が消失し、霊力を賦活させる飲み薬も幾つかが消え。
その結果は、確かに一つ深度が上昇したという確信と目の前の
ただ、白が聞いているのはこれに関してではないのは俺も承知済み。
「先程のは何だ?」
明らかに途中から変わった動き方。
本来取得していた『狩る者の眼差し』で見えるものではない、動作の記録。
それも俺自身が捉えられていた流れだけでなく、白の行動や白への行動を含む。
戦闘全てを流し見したような、数値化した
「……何となく、こうじゃねーかな……っていうのは思い当たらなくもない。」
それらを見ることで、全てを読み切ったように動くことが出来た。
変な癖もなく、自然にやるべきことをやれたと確信できる。
そして指示出しまでもする余裕だってあった、あの状態。
「ただ、幽世に入ってからなんだ。 この奇妙なものを見るの。」
「奇妙な?」
「飛縁魔」と戦った時には見えなかった。
一年の大半を修練に費やしていた間も見なかった。
こうして幽世に入ってから初めて見ている。
「
……というよりは、何をしようとしてその結果どうなったか、だな。」
「……は?」
何に繋がっているのか。
何を見ているのか。
父上の言っていたことから察する、俺の考え。
「
多分、そう考えるのが一番納得できる。」
多分、あんな綺麗に動けたのは。
以前に誰かが入った時の理想の動きを
俺単独なら、もっと色々と戸惑って変な動きに為っていた筈だ。
自分自身が今出来る最高の形を、誰かが教えてくれたような動き方。
「待て待て待て待て待て! お主、何言ってるか分かっておるのか!?」
当然のように叫ぶ白。
「分かってる。 明らかに異常ってことくらいはな。」
そして、俺もこう返すしか無い。
幽世に繋がる人間――――つまり、
父上が言っていたこと。
堕ち人……人の血潮に酔い、妖側に堕ちる人間。
それをそのまま読み取るなら唯の怪物。
ただ、少しでも見方を変えてしまえば。
幽世の中で、霊力を求めて人を襲う怪物。
『月』に親しい一族。
妖に近い一族。
其処から繋がるのは、この回答。
だから、恐らく。
あの時に見た『俺』は。
瘴気に全身を繋げた何処かの『俺』だ。
終わってしまって、堕ち切った『俺』だ。
「とは言え、今は目にしか影響はない。
だから、強い影響を受けるようなことでもないと思う。」
「そうではない! そうではないだろう!?」
肩を捕まれ、揺さぶられる。
その目は妖と言うよりは人に近く。
強い感情を見せていた。
「お主は一人で何処に行く気なんじゃ!?」
その不安は、その未来は俺自身が見ていた。
――――だからこそ、白に言っておかなければならない。
「何処にも行かない、と言い切れれば良いんだけどな。
……多分だが、見るための条件は幽世に潜るだけじゃない。」
幽世は現世と違って区切られた場所。
だから見えている、といえば間違いはない。
ただ、それだけではない。
「……なら、何じゃ。
このまま見続けるつもりならお主監禁するからな?」
普通に怖いことを口にする、目の前の
その始まりの時点で見えていたことと見えていなかったこと。
其処から、ふと思考が広がる。
現世に漏れ出す妖。
大気中に漂う瘴気。
それらが指し示すように、
ゲームでもそうだった。
幽世が崩壊し、溢れ出して同化した時であったり。
現象自体は曖昧で、それを知る人が少なすぎると言うだけで。
存在する以上、そこで見えるかどうかは判断基準になる。
明確になっていないそれ。
恐らく。
それを導き出さなければ俺は堕ちる。
これは、確信だった。
「なぁ、白。」
「何じゃ。」
眼の前で、拗ねたような口調を続ける彼女に語りかける。
瘴気箱が未だに其処に残っていて、何だか少しおかしくなりつつ。
こんな場所でする会話ではない、と改めて気付かされながら。
「俺さ、霊能力者として当面の目標も何も考えてなかったんだわ。」
「そんなことはなかろう。
言ったではないか、『平穏に暮らす』という大言壮語を。」
最終的な形だけは思い描きながら。
その道中どうしたいのか、という形を。
平穏に暮らす上で、障害が一つ生まれてしまったというだけ。
なら、どうするか。
「だから、先ずは条件を確定したい。
その為に、必要な場所を巡ることにする。」
「それは……つまり、日ノ本中を旅すると?」
「そんなところかね。」
この世界でそれがどれだけ難しいか知りながら。
「勿論、成長して一人前になってからだけどな。」
「当たり前じゃ。
さっき言った言葉の返事聞いておらんぞ。」
さっきの……ああ、俺一人でってやつか。
「はっきり答えよ。
「約束しただろうが。」
「忘れるなよ? 忘れたらお主喰うからな?」
……それは、流石に冗談にならないなぁ。
「取り敢えず瘴気箱開けようぜ。
金銭的にマイナス割ってるからな、今回。」
「ごまかされんからな?」
……駄目かぁ。