オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

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021/出口

 

背に負った荷物からはがちゃり、と金属音。

幾つかが触れ、同時に立てる音。

一度背負い直し、肩の位置などを調整する。

 

(子供向けの背負袋なんてねーもんな……。)

 

大人向けの大きいモノを無理やり縮める為に縫い合わせた。

だいぶ不格好で、そしてバランスも悪い。

本来こういうのは自分を合わせるか、自分専用にするかだけど。

……もう少ししたら自分専用も作りたいもんだ。

 

「白、ちょっと待て。」

「ああ。」

 

更に幾つかの戦い。

玄室を更に超えたことで荷物はもう少し増え。

減った道具と釣り合うかやや重いくらいの量へと変わっていた。

ただ、見えている光景はあの劣勢の時のまま。

行動の結果が数値で映り。

動き方だけは普段の俺のまま。

……これでいい、と漠然と思ったままの戦いだった。

 

そして、目指していた曲がり角らしき先を目視で発見。

地図を書いていた紙の切れ端を確認。

 

ちゃんとした真白い紙や皮紙に類するものはそれだけ高くなる。

父上から分けて貰った、宝箱から出てきた物品を覆っていたらしい紙で十分。

書くのは筆だからかなり最初は手こずったけども。

 

「……ええと、此処から登ってきて……磁石も目の前が北だから、と。」

「どうじゃ?」

「合ってる。 其処を曲がれば出口方向だな。」

 

やっと出口まで辿り着いた。

ゲームでも一人称と俯瞰と、難易度次第で選べたりもしたが。

一人称が好きでやってた俺でも、負担や緊張感が全然違った。

やっぱり自分なのか写身なのかってはかなり大きかったな。

 

「敵は?」

「おらんな。 恐らくさっきの通路でやり過ごしたのが巡回だったのじゃろ。」

「ああ……。」

 

あの金属鎧音を立てていた妖な。

錆びたような音もしてたから、霊能力者の遺骸から剥ぎ取りでもしたのか。

何にしろ会いたくない相手だったから助かった。

 

「なら早く抜けるか。 ただ、お前も良く分かってると思うが……。」

「ああ、()()()のことだな。

 寧ろ、それは経験していないご主人が言われる側だろうに。」

「ぐっ……。」

 

確かに知識だけの俺よりも経験者が言うべき言葉だった。

 

……幽世の中と外で流れる時間が違うのと同じように。

濃密な瘴気の空間から薄い所に急に向かうと、体を蝕む症状が発生する。

それを避けるには幽世から出た直後、出口付近での休息。

そして最低で12刻(24時間)の間は幽世に踏み込まないことが必要になる。

 

設定によると、これは人でも妖でも同様に発生する現象らしい。

なので、()()()()()()()()()()()()()()が急に街を襲ったりしない要因の一つ。

そして、霊能力者達が付近に拠点を築くのも同じ要因から。

 

街側に出たところで、小さな集落が有るというのは聞いている。

内部で拾った武具を一つでも渡せば休ませて貰える筈だから今日はそこで一泊。

明日は街で仕入れて明後日に再度突入という予定。

 

「ところでだな、知っていたら教えて欲しいんじゃが。」

「ん? 俺に?」

()()()()はありそうじゃからなぁ。」

 

余計な一言付けるんじゃねえよ、と思う余裕。

後暫く進むだけ。

緊張しながらもリラックスしている。

精神状態としてはかなり理想な状態にあると思う。

 

「街で仕入れるのは塩や幾つかの物品というのは分かる。」

「集落や里じゃどうしようもないもんなー。」

 

海が近いとか岩塩が取れるとか。

そういったある種理想的な場所に住めるかどうかはやはり運。

瘴気に依って変動した土地で取れる素材がそう変わってくれればいいが。

里で確実に確保できるものと言えば果実や茸、後は野生動物の肉魚に水か。

最も大事な塩が取れないのが致命的過ぎる。

 

「では、塗り薬なども街で仕入れる理由があるのか?

 集落のほうが色々と便利じゃろ?」

「ああ……その根本的なとこか。」

 

人に関わってないと分からんよなぁ。

とは言っても、俺もこの世界で気付いてから白と父上しか会ってないが。

 

「幾つか理由はあるが、先ず大きいのは買う霊能力者の数の差だな。」

 

それに付け加えるように説明を続ける。

 

「言った通り、集落は出入り口付近に必ずある。

 大きさは場所次第だし、不定期に湧いたタイプだと別だけどな。

 ただ、あちこちに存在する幽世に行くならその中央にあったほうが便()()だろ?」

 

無論、街の住人たちからどう見られるかという不安は残る。

同類だけが集まった場所なら、そういった目線からは逃れられる。

その上で、何を優先するかというだけの話。

 

「それに素材の問題も有るからなぁ……。」

「素材?」

「当然だが、その場所だけじゃ手に入らない場合もあるんだよ。

 幾つかの幽世を探索して素材を集めるとかでも中央のほうが便利だ。」

 

以上、理由の説明完了。

なので俺達が行く仲介は街にあるし、道具を手に入れるのも街。

ただ、場所しか教えて貰ってないんだよな。

『ちゃんと見てこい』としか聞いてないからどんな店なのか。

 

「で、それを作るにしろ能力がいると。」

「必要なのは主に手先の器用さとか知識、後は霊力の扱い方か?

 だから『速』『霊』『呪』だな。」

 

通称錬金術師構築。

道具を使って相手を爆殺したりする金で殴る構築。

 

「…………毎度思うが。」

「なんだよ。」

「吾以外にそのような知識広めるでないぞ?」

 

当たり前だろ、という目で見れば。

どうだか、という目で見返された。

 

……言い返して、勝てるか怪しくて。

その場では、言葉を抑えてしまった。

 

「……ダメダメじゃなぁ。」

 

段々口悪くなってないか、白。


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