オカルト伝奇系恋愛鬱ゲーに放り込まれました。   作:氷桜

23 / 169
022/『集落』

 

ん、と突き出された腕。

もう片方の腕はなく、けれどその眼光は鳥類のように鋭い。

そして何より、漂う圧力。

少なくとも、俺達よりも遥かに上。

 

「……どうぞ。」

 

けれど、震えなどを見せればその時点で食い物にされる。

幽世の中で見つけた武具、そしてその中で余り価値の高く無さそうな一本の短剣を手渡す。

金銭の代わり。

何より分かりやすい代替基準。

()()()()()()()()()()()()()()()()()、という腕前の提示。

 

「……確かに。 右奥の仮設を使え。」

 

顎で示されたのは幾つか有るテントのような、皮で覆われたゲルのような一室。

詰めれば普通に数人以上で寝ることは出来るだろう。

一礼をし、その途中で此方まで脚を伸ばしていたらしい商人から食事を二人前購入。

また一本を失い、皿に注がれた米と何かのスープを受け取り足を伸ばす。

 

「……。」

 

その途中、白は一言も発しない。

幾つかの視線が向けられており、下手な動きをすれば狙われると分かっているからか。

……未だに、俺達はこの場所で最弱だから。

こうして密かに動くしか無い。

 

一室の中に入り、荷物を降ろし。

入り口を杭で打って止め、他から入られないように固定。

そうして漸く息を吐く。

 

「……あー、やっと休める……。」

 

外に出られてから歩いて四半刻(30分)程。

幽世よりは安全と気が緩んでいるところで浴びたあの圧力。

その差で余計に疲れた気がする。

 

……ざっと見た限りで数人の姿。

誰もが此処で生活しているわけではなく、ほぼ全員が稼ぎに来たような形だろう。

誰とも中で遭遇しなかったのは、運が良かったか。

或いは恐らく別の階層(レイヤー)だったからだと思う。

 

俺の記憶が正しければ、『巡る参道、参る神道』は全部で5階層。

始まりの幽世(ダンジョン)でありながら、後半にもう一度来る用事が生まれる場所。

一番表面の――――現世と繋がっている場所と。

一枚捲った二階層以降では難易度が最序盤と中盤以降と明らかな差が生まれる。

だからこそ、此処でずっと修行してるわけにも行かない……のが厄介なんだよな。

 

「ぁ~~~~。」

 

()()()、と荷物を投げ出し身を投げ出し。

恐らく休む為だろう、用意された筵と藁の上に身を投げだした白。

若干ではあるが震えが見えた。

それだけ緊張……いや、何方かと言うなら警戒か。

身を守るために気を張っていたのが開放され、普段とは違う態度になっている。

 

「……あのなぁ。 気持ちは分かるけどな。」

 

流石に嗜める。

外見だけは美少女なんだし。

それに折角の呉服が皺だらけになるぞ。

……いや、妖/式だから瘴気か霊力かを注ぎ込めば元には戻るけど。

一応女性らしく下の肌まである種族なのに。

 

「吾死ぬかと思ったぞ!? あの目線とかな!?」

「まあ分かるけどさぁ。」

 

その体勢で食って掛かるのはやめろ。

せめて起き上がって話してくれ。

 

「式として常に行使し続けるのが珍しいってのも分かるだろ?」

 

幾ら『月』の能力として存在しているとは言え、妖は霊能力者としての敵。

だからこそ、そもそもの話。

その場その場で使ったり、或いは使い捨てたりという「道具」として行使するなら兎も角。

俺のように純粋に相棒として使う人間が街中に降りていくのは極めて珍しい。

純粋に人として誤魔化せる……『変化』が可能とかでもないのなら。

羽根が隠せない彼女は、一見ただの幽世から抜け出した危険生物と思われる。

 

「色々言いたいことしか無いんじゃが……。」

「特にこういう場所だと気を張るだろうからな、あの管理者とかは。」

 

治癒が間に合わず、幽世に潜れず。

けれど街に溶け込むことさえ出来なくなった能力者が行き着いた果て。

以前よりも弱くなったそれでも、鎧袖一触出来る程の幽世周りの管理。

勿論錆びつかない程度に潜り、腕前は安定させているんだろう。

だからこそのあの圧力であり、目付き。

 

「まあとやかく言うつもりはあまり無い。」

(めっちゃ言ってただろ今……!)

 

ぐちぐちと呟くこと数分。

それを聞き流しつつ、周りに聞こえていないことを祈りつつ。

空腹なことに気付いたのか、目の前に置いていた食事に手を伸ばした。

……勝手に俺だけ食い始めていたら、また文句言ってただろうから黙っておく。

 

「それよりじゃ、ご主人。

 約束したんじゃから分かっとるよな?」

「食いながらする話じゃねーだろ……。 後じゃ駄目なのか腹ペコ。」

 

此方も手を合わせて、口に入れようとした瞬間にそんな言葉。

流石にタイミングが悪すぎたのもあり、()()()()()()

あ、やっべと思ったが間に合わない。

 

「ほぉう? ()()食事を終えた後に気不味い話を持ち出すのは良くないだろうと。

 ()()気を使ってやったのにか?」

 

まだ諸々の溜まった気持ちが発散しきれてない状態だったか。

迂闊だった。

 

笑顔で圧が増した。

手に持つ食器が少しだけミシミシと鳴っている。

……ミスったなぁ。

 

「吾は今話をすることにする。 疾く答えよ、ご主人。」

 

折角、飯を食った後寝る前にでもするもんだと思ってたのに。

どうせ寝床に潜り込んでくるんだから、そこでこっそり話が出来ると思ってたのに。

俺のミスで全部駄目……仕方ない。 俺が言ったことだもんな。

深く溜息を吐いて。

 

「多分不味い飯になるけど覚悟しろよ?」

「安心せよ。 今より不味い飯になることはない故にな。」

 

ニコニコとした笑顔を継続している。

一切崩さない。

……いや、本気で怒ってるじゃねーか。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。